微生物代謝活性発色法を利用した真菌の増殖アッセイ及び 薬剤感受性

福岡県工業技術センター
研究報告 No.25 (2015)
微生物代謝活性発色法を利用した真菌の増殖アッセイ及び
薬剤感受性試験の迅速マイクロプレート法
塚谷 忠之 *1
末永 光 *1
志賀 匡宣 *2
松本 清 *3
A rapid microplate method for the proliferation assay of fungi and the antifungal
susceptibility testing using the colorimetric microbial viability assay
Tadayuki Tsukatani, Hikaru Suenaga, Masanobu Shiga and Kiyoshi Matsumoto
アスペルギルス症やカンジダ症など真菌による感染症は高い頻度で発生しており,その薬剤耐性化を防ぐ上で薬
剤感受性試験は重要である。そこで,真菌の増殖を経時的に測定することを目的として,水溶性テトラゾリウム塩
WST-8 を用いた微生物検出法(本法)の適用を試みた。また,本法を薬剤感受性試験へ適用し,水溶性テトラゾリ
ウム塩 XTT を用いた既存の検出法(XTT 法)との比較を行うことで本法の有用性を検証した。本法を用いた増殖ア
ッセイ試験では初期細胞密度,培養時間,吸光度変化に良好な比例関係が認められ,定量的な測定が可能であった。
一方,XTT 法では定量的な測定ができなった。さらに,本法を薬剤感受性試験へ適用したところ,本法により得ら
れた最小発育阻止濃度 MIC 値は CLSI 基準法(目視判定法,48~96 時間)により得られた MIC 値と良好に一致した。
2-2 増殖アッセイ
1 はじめに
薬剤感受性試験は抗生物質に対する微生物の感受性
96ウェルマイクロプレートにMOPS緩衝性RPMI-1640
を調べる試験であり,その結果は感染症治療で有効な
培地により調製した10倍希釈系列密度の胞子あるいは
抗 生 物 質 を 選 択 する た め の 指 標 と な る 。 現 在 ,CLSI
酵母細胞懸濁溶液190 μLを分注し,これに検出試薬
(米国臨床検査標準委員会)で規定されている真菌の
10 μLを添加して30℃で460あるいは470 nmにおける
薬剤感受性試験では24~72時間以内の培養で真菌の発
吸光度を経時的に測定した。
育の有無が目視判定される。しかし,菌種によっては
2-3 薬剤感受性試験(MIC測定)
培養時間が不十分なためにその耐性度が過小評価され
96ウェルマイクロプレートにMOPS緩衝性RPMI-1640
る場合がある。そこで,本研究では,水溶性テトラゾ
培地により調製した2倍希釈系列濃度の抗生剤溶液95
リウム塩WST-8を用いた微生物検出法(本法)を微量
μLを分注し,これに胞子あるいは酵母細胞懸濁溶液
液体希釈法へ適用することで正確かつ迅速な最小発育
95 μLを加え,さらに検出試薬10 μLを添加して30℃
阻止濃度(MIC)測定法の確立を試みた。
で24~48時間インキュベーションした。インキュベー
ション後,吸光度測定に供し,ブランクと比較した吸
2 実験方法
光度変化が0.1以上のウェルを生育,以下を阻止と判
2-1 微生物検出試薬
定し,MIC値を測定した。
2-4 従来法による薬剤感受性試験(MIC測定)
水 溶 性 テ ト ラ ゾ リ ウ ム 塩 と 電 子 メ デ ィ エ ー タ 2-
2-3 と同様に 96 ウェルマイクロプレートで抗生物
methyl-1,4-naphthoquinone(NQ)を10%DMSO水溶液に溶
解し,検出試薬とした。
質と真菌を 30℃で一定時間培養し, 培養後,発育が
(1)WST-8法(本法):
認められないウェルを目視判定し,MIC 値を測定した。
WST-8(10 mM)及び2-methyl-1,4-NQ(0.1 mM)
3 結果と考察
(2)XTT法(既存検出法):
3-1 増殖アッセイへの適用と既存検出法との比較
XTT(10 mM)及び2-methyl-1,4-NQ(0.5 mM)
図 1 は 代 表 的 な 糸 状 菌 で あ る Asperugillus
fumigatus の増殖アッセイの結果である。本法を用い
*1 生物食品研究所、 *2 ㈱同仁化学研究所
た増殖アッセイ試験では初期胞子密度,培養時間,吸
*3 崇城大学
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福岡県工業技術センター
研究報告 No.25 (2015)
(A) Aspergillus fumigatus / WST-8
光度変化に良好な比例関係が認められ,定量的な測定
4.0
が可能であった(図 1(A))。一方,既存検出法である
Absorbance (460nm)
XTT 法では菌糸の伸長が抑制され,定量的な測定がで
きなった.特に低密度の胞子においては吸光度の増加
が著しく阻害された(図 1(B))。その他の糸状菌や酵
母様真菌においても同様な傾向がみられた。
3-2 薬剤感受性試験への適用
本法と XTT 法を糸状菌の薬剤感受性試験(MIC 測
3.0
2.0
1.0
0.0
0
定)へ適用したところ,本法ではほとんどの真菌にお
6
12
18
24
30
36
42
48
30
36
42
48
Time (h)
いて 24 時間で MIC 値が測定可能であったが,XTT 法
では増殖阻害により培養時間を 24 時間以上に延長し
(B) Aspergillus fumigatus / XTT
ても測定が不可能であった。
4.0
Absorbance (470nm)
さらに,本法(24 時間, S. schenckii のみ 48 時
間)により得られた糸状菌の MIC 値は CLSI 基準法
(目視判定法,48~96 時間)により得られた MIC 値
と良好に一致した(表 1)。また,酵母様真菌の MIC
測定に関しても,本法と CLSI 基準法の間には良好な
3.0
2.0
1.0
一致がみられた。
0.0
0
6
12
18
4 まとめ
24
Time (h)
本法を用いることで真菌の増殖アッセイ試験や薬剤
図1
感受性試験の迅速化が可能になった。
Asperugillus fumigatus の増殖アッセイ
初期胞子密度 (CFU/mL): 2.20 × 10n. 10n = 105, ; 104,
; 103, ; 102,  ; 101, ; 100, ; blank, ×.
5 掲載文献
Letters in Applied Microbiology, Vol.59, pp.184192 (2014).
表1
本法とCLSI基準法により測定した糸状菌MIC値の比較
Mold
Antibiotics
Aspergillus flavus
AMPH
Aspergillus fumigatus
Aspergillus niger
Aspergillus terreus
Pseudallescheria boydii
Rhizopus oryzae
Sporothrix schenckii
Present method
CLSI method (Broth microdilution method)
24h
48h
24h
48h
72h
96h
4
4
2
4
4
4
ITZ
2
2
0.125
0.5
0.5
1
AMPH
1
2
nd*
0.5-1
1-2
1-2
ITZ
4
4
nd
2
2
4
AMPH
2
2
0.5
1
2
2
ITZ
2
4
0.125
1
2
2
AMPH
8
8
nd
4
8
8
ITZ
2
2
nd
0.5
1
2
AMPH
>32
>32
nd
nd
16
>32
ITZ
4
4
nd
0.5
2
4
AMPH
1
1
0.5
1
1
1
ITZ
4
4
2
2-4
4
4
AMPH
nd
2
nd
nd
1
2
ITZ
nd
1
nd
nd
0.031
1
*nd, not detectable; AMPH, amphotericin B; ITZ, itraconazole
(g/ml)
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