~「看護師・介護職の退職を防止する管理者のマネジメント~

~「看護師・介護職の退職を防止する管理者のマネジメント~
1、 看護・介護スタッフが辞めたくなる理由
病院・施設であれ一般企業であれ、業種・職種に区別なく、優秀な人材の離職ほど、管理者にとって頭の痛い問
題はありません。勿論、管理者だけではなく、同じ職場で働く人達にとっても、わが身に降り懸かる大問題です。
その中でも、看護業務に携わる人達にとって、精神的にも肉体的にもハードな業務を、辞めた人の分までカバーし
なければならないのは、あまりにも大きな負担になります。
看護師・介護職が辞める理由は様々ですが、マネジメントの仕方次第で、「メンタル面からの理由による離職」はあ
る程度防止できます。
そこで、「スタッフが離職する理由」を理解し、少しでもフォローする事が、看護・介護部門の管理者に取って大変重
要なマネジメントとなるのです。
それでは看護師・介護職が離職する理由について、いくつかの考察をしたいと思います。
先ず第1点目は、「結婚」「出産」「子育て」「健康障害」が退職理由の場合、では復職数がどれくらいいるのかと言う
事です。もし帰って来たい職場なら、「早く復帰したい」とか「労働時間の制限があるから正職員は無理だが、非正規
でも…」と、復職率が高くなるはずです。復職しないのはその病院・施設に帰りたくない事を意味しているのかもしれ
ません。
休職期間であっても、その人材に復職して欲しいなら、休職期間中の訪問、仲間の声のお届け、ハガキやメールで
の病院・施設の最近の動き等の情報提供等を行えば、「自分は待たれている」と認識されるものと思います。
2 点目は「誰かが辞めれば、業務の負担が高まり、新たに辞める人が増える悪循環」です。
この悪循環を断ち切る為には、職員の負担増の間のメンタルケアを徹底して行い、その間に補充を急ぐ事です。
人は、「いつまでも続く過労」に対しては希望が持てず心が折れやすくなりますが、「期限」が見えるものについては
何とか頑張れる傾向にあります。補充が出来るまでは仕方ないと過重労働を放置していると、一気に離職者が増え
るリスクがあります。
先ずは「面談」を通して、メンタル面のケアを行う事です。その方法については、後述しますので参考にして下さい。
3 点目は「仕事の達成感や目標が見えない(いつの間にか仕事をこなす事で精一杯)」と言う事です。
ハツカネズミのようにただ走り続けるだけでは、疲弊感のみが残ります。今、自分がやっている仕事の意義の理解、
将来のスキルアップとキャリアプランの構築、また実践していることが何らかの形で少しでも報われる事が、達成感や
目標につながります。それを導き出すのも管理者の業務と言えます。
4 点目は「責任感がある人ほど、疲労し健康不安が生まれる」と言う事です。
何事も一所懸命する人は、常に緊張感があり、疲労度も高いことでしょう。おそらくそういうスタッフこそ、必要な人材
として管理者も重宝していると思います。ただ、人間の緊張感はそう長くは続きません。責任感のある人ほど、折れる
時は一気に来ますので、注意が必要です。
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5 点目は「上司も、利用者・家族も、介護スタッフも責任のなすりつけ合いで、理解者・協力者が少なく孤立していると
感じる」事です。人が一番辛く、そこから逃げ出したくなる最大の理由は「孤軍奮闘」です。「いったい何のために自
分は頑張っているのか?」が見えなくなる事です。「孤立」する事ほど怖いものはありません。真摯な姿勢で一緒に考
える姿勢や風土があれば、何とか改善の糸口が見えますが、皆が自己保身に終始したり、暖かい思いやりがなくな
れば、「孤立者」は益々増えるばかりです。
6 点目は「夜の連絡網が、疲れた職員に誤解を与え、離職を加速させる」と言う事です。
この理由による離職は枚挙に暇がないほどあります。仕事が終わって家に帰り、携帯電話で病院・施設の人事の話
や、他人のゴシップを吹聴する輩がいます。悪い情報ほど、一気に伝搬します。特に、疲弊している職員ほど、夜に
話される裏情報のような悪い情報を正しい情報と誤認し、病院・施設から心が離れていきます。こういう情報の伝染
経路を特定し、防止する事はなかなかできません。悪い情報・偽情報を誤認させないように、日頃からコミュニケーシ
ョンが必要でしょう。何故、人は誤認情報を信じるのかと言えば、それは正しい情報を言う人とのコミュニケーション量
が少ないからです。
【資料】 弊社調査による「結婚出産・健康障害以外で辞めたくなった組織風土の理由」15
①
経営陣も管理者も自分達の話を聞いてくれない
②
自分達の意見は聞かず、なんでも勝手に決めて、無理な事でも『仕事だから』と言う指示に嫌気がさした
③
人が辞めてしわ寄せが来ていても、ねぎらいの言葉ひとつない
④
上とコミュニケーションがなく、言いたい事もいえない雰囲気で息が詰まった
⑤
この職場では、前向きな提案がいつも却下され嫌になった
⑥
上司は指示するだけで協力してくれず、自分ばかり孤軍奮闘させられ、あほらしくなった
⑦
人間関係が難しい。問題の師長がいて、看護部長も知っているのに何も手を打たない
⑧
評価制度を導入したが、不公平がまかり通り、経営陣はダメ管理者の声だけで判断し 現状を見ていない
⑨
うちの病院・施設は何を提案してもダメ。新たな挑戦・独自の動きを絶対しないから、その内ジリ貧になる
⑩
病院・施設収支が悪く 給与も賞与も下がったが、『業績が悪いから仕方ない』と一方的に言うだけで、経営陣や管理者からのお詫び
の言葉もない
⑪
病院・施設で起こっている事や、今後の方針を何も知らされず、ただ「働け」というばかりの経営者に不信感がある
⑫
同族組織だから仕方ないけれど、仕事をあまりしていなくても身内は厚遇されて、他人従業員には冷たい
⑬
責任と義務ばかり要求されて、何も権限が与えられていない
⑭
経営陣がとにかく仲が悪く、コミュニケーションが取りづらい
⑮
部門長同士の仲が悪く、必要な横の連携を自ら取らず、何でも職員に伝達させる
2、 退職意思が固まるまでの心理過程
最近の傾向として(これは全業種に言える事です)退職意思を固めるまでに、上司や管理者には相談しないケース
が圧倒的に多いようです。おそらく、気の置けない友達には相談しているのでしょうが。
そして、いきなり「退職願」を思ってくるのです。いや「退職願」ならまだ常識の範囲ですが、まだ退職の相談も何も受
けていないのに、藪から棒に「退職届」を持ってくる職員も少なくありません。挙句の果てに「●日までに辞めます」と
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勝手に退職日時を決めて、こちらが取り付く島もない態度の人もいます。
「辞める」と意思決定した場合、自分が辞めた場合の影響を考えて、組織や利用者の状況を考慮するのが当たり
前の職員でしょう。しかし、自己中心の職員にはそういう他人の状況より、自分都合が優先です。「自分は辞めるのだ
から、後は師長や病院・施設がいろいろ考えてください」と、さっさと有給消化を行い、職場放棄にも近い態度をとる
職員が結構います。
正直、悔しい所ですが、そういう態度を取って辞める職員にモラルの問題を論じても、問題の解決にはなりません。
そこで、「退職の意志が固まるまでの心理過程や行動の変化」を察知し、事前に手を打つ事で、「離職」を少しでも防
止する事が重要になります。
職員の「退職につながる心と行動の変化」は、どういう事に現れるかを注意深く、日頃から意識しておくべきです。
次のような変化が出れば要注意と言う事になります。
① 今まで出勤時間に余裕があったのに、最近ギリギリになっている
② 提出書類がどんどん遅くなっている
③ 今まで黙っていても書類提出期限を順守していたのに、催促しないと提出しないようになった
④ 小さなミスが連発している
⑤ 朝の挨拶に元気がない
⑥ ミーティングやカンファでも意見を言わないようになった
⑦ 最近、反体制的な職員と、仲良くなったようだ
⑧ 勤務変更や要望が最近増えてきた
⑨ 看護レベルの高い業務を何かと言い訳して、しないようになった
⑩ 個人面談をしても、言われるがままで、自分の意見を言わなくなった
⑪ 職場の中で、孤立しているような感じである
⑫ 家庭か職場かに問題があるようで、寝不足気味のような感じである
⑬ 院内施設内のイベントやプライベートでの誘いも、いつも断るようになった
⑭ 会話をすれば済むことでも、メールやメモを使い、コミュニケーションから逃げているようだ
⑮ 今まで従順だった職員が、明らかに反抗的な態度を取るようになった
などなど、「職場から心が離れている時」には、普段の態度にこそ何かのシグナルが隠されています。
要は、「精神的に孤立させない」事が最優先課題と言えます。職場の雰囲気や上司との人間関係に起因している
退職意思は、管理者側の努力で幾分かは防止できるはずです。
3、 離職意思を未然に防ぐマネジメント
離職意思の問題は病気と同じで、「固まってしまってからでは遅い」ので、日頃の予防が肝要になります。
管理者や師長の日頃のマネジメントで必要なのは、「ガス抜き」をさせる事です。結局、色々と溜まったモノを自己処
理できず、「逃避」と言う形を取るのが「退職」です。いっぱいいっぱいになる前に、定期的に「ガスを抜く」マネジメン
トを入れるべきです。
(1) 面談が本当のカウンセリングになっているか?単なる教導的面談は逆効果
たとえば、人事考課後の面談や、目標管理を導入している場合は目標面談等、個別の面談をするケースがあ
ると思います。その時に「どんな面談をしているのか」と言う事です。
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教導的面談とは、いわゆる説教型面談の事です。管理者は教育のつもりでしょうが、面談と言いつつ、管理者ば
かりが話しているようでは、説教型になります。
しかしそこで、カウンセリングの意識を持った面談を行えば、徐々に心が開き、職員の考えも聞けるようになります。
従って、面談を「管理者の言いたい事を話す場ではなく、職員の気持ちを聞く場」にすることこそ、職員のガス抜
きにつながるのです。
面談後の職員の表情を見ると分かると思います。
良い面談(カウンセリング型)の場合は安堵感や明るい表情になって職場に戻ります。しかし、悪い面談(説教型)
の場合は、暗く重苦しい表情になっているはずです。
もしかしたら面談を受ける職員は、「日頃から大変なのに、個人面談で管理者の言いたい事だけを聞かされ、余
計ガスがたまった」と思っているのではないでしょうか。
(2) 達成感は「1つに絞った具体的な利用者満足度と感謝の言葉」があればよい
職員にとって「自分が認めてもらいたい項目は1つか2つ位」です。他人が認めてくれなくても、結構気にしてい
るテーマ(目標・努力)に対して、具体的な援助をする事です。1 年間同じテーマでは、長く飽きる可能性があるの
で、3 カ月に 1 テーマに絞ります。そして個人毎に「3 カ月後に結果が見えるような目標」を具体的に決めさせます。
3 か月後にその目標を達成していると管理者が判断できれば、どこかの会議やカンファ時に、チームの面前で褒
めてあげるのです。その場合、師長や主任は各個人の重点テーマを把握しておくため、ステーションに「見えるよ
うに掲示」することも必要かもしれません。
(3) 改善活動で、「職場を楽にする工夫」と「褒められる職場づくり」
改善活動は「やらされる活動」ではなく、「前向きな手抜きや負担軽減の為に自主的に行う活動」です。「ある書
類作成時間が 30%削減できる改善」や「ヒヤリハットがスムーズに改善できた対策」「2 度手間を 1 回でできるよう
にした改善」等、そういう改善を実施し、提案した職員をチームの面前で褒めて、実際に活用します。皆が喜んで
負担軽減の提案や改善を実施するように持って行くのが「改善活動」のマネジメントです。単なる「提案制度」で
は継続しません。ノルマ感のない「改善活動」をマネジメントの根幹に置き、「前向きな手抜き」の件数を増やすよ
うにする事が肝要です。
4、 離職防止マネジメントチェック(管理者自身のマネジメントチェック)
下記に「離職防止 20 のマネジメントチェック」を掲載しました。実施率が高ければある程度の離職防止対策は行
っていると言えます。但し、これは管理者個人の思い込みであってはいけません。管理者同士が意見交換しあ
い、具体的な対策を取って頂きたいと思います。
(1)最近、コミュニケーションが減ったスタッフに、重点的に気遣い・面談をしているか
(2)相互信頼を高める「報告連絡相談」と「指示命令」の徹底を、まずは管理者自ら実行しているか
(3)歯の浮くような言葉は必要ない。スタッフを、褒めるのではなく「認めているか」
(4)部下からの提案は、どんな小さな事でも真摯に検討しているか。そっけない態度をとっていないか
(5)負担軽減になる改善活動に、積極的に取り組んでいるか
(6)スタッフ個々の目標設定や方法論について、親身に相談に乗っているか
(7)どういうキャリアを積んでいくべきか、具体的に書かせてアドバイスをしているか
(8)感覚的な人事評価ではなく、事実をしっかりつかんだ公平な評価をしているか
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(9)看護・介護部門やチームが少しでも良くなっている事実を公開し、検証しているか
(10) 失敗やミスがあれば、個人の責任ばかりを追及せず、チームとしての再発防止システムを優先しているか
(11) 各スタッフの不満や思いを聴く場があるか(指示的面談ではできない)
(12) 陰で「人材潰し」をしているスタッフを把握し、適正な指導や厳しい処罰をしているか
(13) 管理者自ら多忙な時、ついつい感情的な言葉を使って指示をしたり、叱りつけていないか
(14) まとまった時間が取れない現場でも、1・2 分でも「暖かい言葉かけ」を意識しているか
(15) 看護の質の優先は必要だが、自ら現場に立ちすぎて、部下の指導が疎かになっていないか
(16) 部下が辞めるのが怖くて、ケジメをつけさせなければならない部下にも妥協していないか
(17) ドクターや他の医療技術スタッフとの軋轢や誤解曲解が起こったら、部下の為に具体的に奔走しているか
(18) 管理者の補佐役となるNO2クラスと、価値観の共有や役割分担の為に、十分なコミュニケーションを
とっているか
(19) 若手看護師・介護職が、知識や技術面で分からない事を遠慮なく聞ける雰囲気にしているか
(20) 皆が応援してくれる相互扶助の分かりやすい仕組みを作っているか(応援されると辞めにくい)
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