柔軟性と弾力性を備えた放射線遮へい材

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研究・技術情報
150005
技術分野
材料・加工プロセス
タイトル
柔軟性と弾力性を備えた放射線遮へい材注)
− 室温、大気圧で任意の形状に成形可能な素材を開発 −
キーワード
放射線遮へい材、室温・常圧での任意形状成形、柔軟性・弾力性・形状復元性、
加工性
【要旨】
柔軟性を備えた放射線遮へい材には、鉛を含むゴム製品やビニール製品などがあるが、これらは
ガンマ線遮へい率が鉛板の 30%台で、高熱をかけないと成形し難いなどの難点がある。そこで、室
温・常圧で成形でき、固化前はパテのように扱え、固化しても柔軟性と弾力性を併せもち、遮へい
率も 50%台と従来品より高い素材を開発した。
【技術の概要】
(1)技術の内容
通常、シリコーンと紛体はまじりにくいが、これに酢酸ビニールを含むポリマーを加えると、室
温・常圧の条件下で簡単にかつ均質に混合できるようになる。この方法により、乾燥・固化するま
では粘性と可視性をもつので任意の形状に成形でき、固化しても弾力性と柔軟性がある素材を開発
した。(図1)
紛体として鉛を使用するとガンマ線などの放射線遮へいの素材となり、従来品よりも高い遮へい
率を得ることができた。また、紛体としてホウ素化合物を使用した素材では、3mm 厚で熱中性子線
の遮へい率は約 90%と、中性子線の遮へいにも効果があることを確認した。この特徴により、現場
での任意形状の物体に対する遮へい作業が容易になり、電子機器類の被ばく防止や濃集物の暫定的
な遮へい、壁や床の遮へいがこれまでよりも効率的になると考えられる(図2)
。
成分の混合比を変えることにより、柔軟性や遮へい率を調節することができる。また、紛体の種
類や混合比を変えたものを組み合わせることも可能なので、幅広い場所や施設などで、用途に応じ
て使い分けることもできる。この技術が、放射線作業時における被ばく低減や防止などさまざまな
場面に役立ち、活用されることを期待する。
図1
素材は柔軟性・弾力性をもつので、指で折り曲げても元の形状に戻り、
また、柔らかいので簡単にハサミやナイフで加工できる。
図2
固化した素材を防護物に加工したり、固化前の素材を現場で
任意形状の物体に塗布するなどの利用が想定される。
(2)適用分野
①作業員の被ばく低減化
粉塵等の飛散・付着による被ばく防護用のタイベックススーツでは、除染活動の作業性は良いもの
の外部被ばく防止効果が低いが、本遮へい材を活用してスーツに適用して外部被ばくの影響を低減
することで、積算線量の低減による作業時間の確保が期待される。
②除染対象物や濃集物の暫定遮へい
壁・床・屋根などの高濃度の汚染表面の遮蔽や、フレコンバックの表面を覆うことによる除染廃棄
物の暫定遮蔽のための用途が期待される。
③電子機器の防御
電子機器をシート状もしくはその形状に合わせて被覆して線量の低減化をはかり、電子機器の着実
な機能発揮が期待される。
【用語の説明】
◆ガンマ線
放射性元素から出る電磁波であり、物質を透過する力がα線やβ線に比べて強い。原子力発電所で
は厚いコンクリートで原子炉を囲い、γ線が外へ出ない対策がなされる。
◆中性子線
中性子は原子核を構成する素粒子の一つで、電荷を持たず、質量が水素の原子核(陽子)の質量と
ほぼ等しい。中性子線は、水やパラフィン、厚いコンクリートで止めることができる。 中性子線は、
ガンマ線のように透過力が強いので、人体の外部から中性子線を受けるとガンマ線の場合と同様に
組織や臓器に影響を与える。吸収された線量が同じである場合、ガンマ線よりも中性子線の方が人
体に与える影響は大きい。
◆熱中性子
中性子が物質中で原子核と衝突を繰り返して減速され、その運動エネルギーが常温での熱運動のエ
ネルギー0.025 エレクトロンボルト程度になったもの。また一般に、エネルギーの小さな中性子を
さす。熱中性子は制御しやすく原子炉で用いられる。
【参考文献】
(1)「柔軟性と弾力性を備えた放射線遮へい材 − 室温、大気圧で任意の形状に成形可能な素材を開
発 − 」、産総研 TODAY、Vol.15-03、19(2015)
(2)「ホウ素化合物及び/又は鉛を含む放射線遮蔽材」国際公開番号 WO2014/119743(国際公開日:
2014.8.7)
(3) 岡崎智鶴子、三田直樹、金井豊、坂本靖英、
「震災復興への寄与を期待する新規放射線遮蔽素材
の開発」、Isotope News、2013 年 2 月号、No.706、17-19(2013)
注):本技術シーズは、産総研 TODAY 2015-03(19 頁)に掲載の「柔軟性と弾力性を備えた放射線遮
へい材 − 室温、大気圧で任意の形状に成形可能な素材を開発 − 」と関連文献に基づき、TCI
が加工し、本文については、研究者の追加説明とチェックを得、図表及び写真については当
該研究所の転載認可を得て、紹介するものである。
研究者所属
国立研究開発法人産業技術総合研究所
地球化学研究グループ
氏
上級主任研究員 金井 豊、客員研究員 三田直樹
名
地質情報研究部門
TSNET コメント
近年、原子力発電等に関連して放射線の遮へい技術に対する関心は非常に高い。中でも、被遮へ
い物の複雑な外形形状に容易になじんでカバーできる柔軟な遮へい材へのニーズが高まっている。
今回は、それに関する極めて有効な遮へい材の作製技術を紹介した。
従来の柔軟性を有する遮へい材は、鉛を含むゴム製品やビニール製品が殆どである。これは形状
になじませるためには、かなりの高熱を与える必要があった。また、γ線に対する遮へい率は鉛板
の 30%台で必ずしも高くはない。
それに対して、紹介技術による遮へい材は、室温かつ大気圧中でパテのように任意の形状に容易
になじませることが出来るとともに、放射線遮へい率は 50%台と従来品より高い点に大きな特徴が
ある。
本遮へい材は、遮へい性能実現のための基本材料である「紛体」とペースト用の「シリコーン」、
および界面活性剤の役割を担う「ポリマー」の 3 種類の素材で構成される。紛体の種類や、各素材
の配合比率を変えるだけで、柔軟性や遮へい率等の異なる種々の遮へい材を容易に作製することが
出来る。
今後の研究開発の方向として、担当研究者は次のような展望、希望を持っている。
①紛体成分の選択や各素材の配合比率等の検討により、種々の放射線に対して現状より高い遮へい
効果を有する遮へい材の製造方法を確立したい。
②種々の遮へい材について、放射線量や温度条件等の異なる実際の環境下での実用実験を行い、経
年による遮へい特性や形状保持性能等の変化を把握したい。
特に後者については企業との連携が不可欠である。それを含め全体に対して何らかの希望や構想
をお持ちの企業、あるいは本件について少しでも興味を持たれた企業におかれましては、是非、積
極的なご提案やご質問を頂ければ、誠に幸甚です。
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