リーンスタートアップ法を適用したプロジェクト立案・計画方法

リーンスタートアップ法を適用したプロジェクト立案・計画方法
石田諭史* 湯浦克彦*
A method for Project Initiating and Planning Adapted the Lean Startup
Satoshi Ishida*
Katsuhiko Yuura*
情報システム開発者へのプロジェクト管理教育が重要な今日では,静岡大学情報学部でも演習型のプロジェクト管理教
育の講義を開講している.この講義における受講生のレポートより,学生はプロジェクト計画の具体化に困難に感じてい
るがわかった.
本研究では,この講義で立案されるプロジェクトの傾向から携帯アプリケーション等のビジネス計画に利用されるリー
ンスタートアップ法を用いて,第三者意見を取り入れたプロジェクトの背景・目的の分析手順および講義用に拡張したリ
ーンキャンバスを使用して,プロジェクト計画の充実化を図ることを目的とした.
本研究を静岡大学情報学部の講義に導入し,プロジェクトの立案および計画の充実度を学生の成果物からプロジェクト
の分類ごとに計測した.充実度を過去二年間の成果物と比較したところ,チャネルに関する充実度が向上し,リスクも製
品・市場・顧客もバランスよく議論されたことが分かった.
Project management is an important area in the information system education. In Shizuoka University, students are learning it. But it
is difficult for them to learn Project Initiating Process and Planning Process.
In this paper, a method for project initiating and planning process is proposed. The method has several steps to analyze background
and purpose, and to realize the requirements of the project planning, to introduce the Lean Startup method. Then the method is
applied to a class of Shizuoka University, increases of the elements, especially the elements channel and risk, are measured in the
artifacts of the students.
KeyWords&Phrases:プロジェクトマネジメント,リーンスタートアップ,リーンキャンバス,計画プロセス
Project Management, Lean Startup, Lean Canvas, Planning Process
1.はじめに
情報サービスを開発する者にとって,プロジェ
クト管理を学ぶ重要性は高い.システムの巨大化
および複雑化によって,規模が大きい案件が増え
ていることから,開発者に高度なマネジメント能
力が求められているからである.そのため現在で
は大学機関において,学生にプロジェクト管理教
育を施している場合がある.
静岡大学情報学部もそのひとつであり,情報学
部の学部生を対象に毎年「プロジェクトマネジメ
ント」という講義を開講し,演習形式の指導を行
っている.この講義では毎年学生に講義レポート
を記述させている.このレポートによると学生は
プロジェクトの具体化に困難を感じていることが
わかった.
本研究では,演習型プロジェクト管理教育に
*
静 岡 大 学 大 学 院 情 報 学 研 究 科 (Graduate
School of Informatics, Shizuoka University)
おいて,プロジェクト計画を充実化する方法論を
開発し評価を行うことを目的とする.
2.静岡大学におけるプロジェクト管理教育の課題
2.1 静岡大学のプロジェクト管理教育の現状
静岡大学情報学部の「プロジェクトマネジメン
ト」では,前半に教員がプロジェクトの立案に関
するプロセスの解説を行い,学生がグループ毎に
プロジェクトの【立案】を行う.それぞれ検討さ
れた立案内容は,発表会で他の受講生及び教員に
披露し,質疑応答や意見を得て修正を行う.
後半では,教員が計画プロセスとプロジェクト
計画の管理対象について解説を行う.この講義で
は,立案内容に基づいて【項目】,【タイム】,
【コ
スト】,
【体制】,
【品質】,
【リスク】の 6 つの管理
対象のプロジェクト計画書を作成する.最後に作
成した計画内容を教員と受講生に披露して,一部
修正を加えてから提出する[1].
2.2 プロジェクト管理教育の課題
この講義において,学生が抱いていた問題は,
計画プロセスにあることがわかった.本研究では
以下 3 つに絞った.
① 詳細な計画を練ることが困難であること
この理由は,従来の講義手順であるロジックツ
リーとプロジェクト計画書の作成する間の情報量
の差が大きいことだ.ロジックツリーは,プロジ
ェクト計画書を作成するために必要な情報が少な
い.そのため,計画策定時にロジックツリーを見
ながら 0 から作らなければならないため,学生に
は負担となっているのである
② リスクの特定が困難であること
この理由は,学生がプロジェクト管理やプロジ
ェクトに参加した経験がなく,何がリスクになる
のかシミュレートすることができないからだ.
③ 工数・コスト見積り正確性が不明であること
この理由も,プロジェクト経験がないことと,
実際に行われたプロジェクトの過去のデータがな
いことの 2 つの理由がある.この課題に関しては
とした.
図 1 に計画プロセスにおける問題の割合を示す.
事業を立ち上げるためのマネジメント手法の一つ
である.リーンスタートアップでは「構築-計測
-学習」のサイクルを行って製品・サービスを成
長させる.製品・サービスの MVP(Minimum Viable
Product:実用最小限の製品)を素早く構築し,顧客
の評価から計測データを得る.開発者は計測デー
タから学習し,学習内容を反映した MVP を再構
築する.この「構築-計測-学習」のサイクルを
繰り返すことで,MVP が洗練され,顧客が求める
成果にたどり着き,製品・サービスの成長を図る.
このように,顧客を中心に製品・サービスを開
発するモデルを「顧客主導型開発モデル」と呼ぶ.
図 3 にモデル図を示す.
アイ
ディア
学習
構築
データ
製品
計測
図 2 顧客主導型開発モデル[2]
詳細化が難しい
リスクの特定
見積もりの現実性が不明
発表内容が伝わらない
作業分担が難しい
成果物の解説を充実してほしい
整合性がとれない
利益の算出が難しい
その他
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
図 1 計画プロセスにおける問題の割合
3.
リーンスタートアップ法の導入と拡張版リーン
キャンバスの検討
この講義おいて,学生が立案するプロジェクト
は工数や規模が小さいスマートフォン向けアプリ
ケーションの開発プロジェクトが増えている傾向
があり,ユーザー主導の開発サイクルが適してい
る.そこで,ユーザー主導型の携帯向けアプリケ
ーションのビジネス企画手法であるリーンスター
トアップ手法を導入することを検討した.
3.1 リーンスタートアップ手法
リーンスタートアップ手法とは,2008 年にエリ
ック・リース氏らが考案した企業家が時間やコス
トのリソースのムダを省きながら会社または新規
3.2 リーンキャンバス
リーンキャンバスとは,アッシュ・マウリャ氏
が開発した速性,簡潔性,携帯性の性質をもった
ビジネスモデルの検証ツールである[3].これらの
3 つの性質を持っているため,MVP の製作時に素
早く記述および修正が可能となり,顧客や第三者
に説明する時にも,紙一枚にビジネスの全体像を
記入できることから,素早く伝えることができる.
従って,ビジネスモデルが随時更新される前提
で開発されるリーンスタートアップ手法には,高
速性,簡潔性,携帯性を兼ね備えたリーンキャン
バスを用いることが適している.図 4 にリーンキ
ャンバスと記述順序を示す.
課題
①
ソリューション
④
主要指標
⑧
コスト構造
⑦
製品
独自の価値提案
③
圧倒的な優位性 顧客セグメント
⑨
チャネル
②
⑤
収益の流れ
⑥
市場
図 3 リーンキャンバス記述する順序[4]
3.3 プ ロ ジ ェ ク ト マ ネ ジ メ ン ト の 管 理 対 象 と
リーンキャンバスの対応
リーンキャンバスの記述項目とプロジェクトマ
ネジメントの 7 つの管理対象にそれぞれ対応して
いる.管理対象の1つである「立案」は,
「顧客」,
「課題」
,
「価値提案」
,
「解決策」の 4 項目と対応
している.他の管理対象も同様に,リーンキャン
バスの記述項目に対応している.しかし「リスク」
は,リーンキャンバスとの対応が薄いため,すべ
ての管理対象に対応していない.図 4 に対応関係
を示す.
プロジェクトマネジメント
の管理対象
リーンキャンバス
立案
顧客・課題・価値
提案・解決策
作業項目
チャネル
タイム
コスト構造
コスト
体制
品質
リスク
収益の流れ
主要指標
圧倒的な優位性
図 4 プロジェクトマネジメントの管理対象と
リーンキャンバスの対応
3.4 リーンキャンバスの拡張
従来のリーンキャンバスでは,未開拓市場の新
規事業に対応していないため,リーンキャンバス
に拡張を施す必要がある.リーンキャンバスの項
目の一つである「圧倒的な優位性」は,同一市場
のライバルのサービス・事業があることを想定し
ているため,まだ開拓されていない市場への新規
事業を立案するときには不要な記述項目となる.
そこで,未開拓市場への新規事業にも対応するた
めにビジネスモデルキャンバスの
「顧客との関係」
追加した.
さらに,リスク・マネジメントにも対応するた
めにリスクの記述項目を追加して補った.
この 2 つの拡張によって,既存の市場でも未開拓
な市場を想定したプロジェクトの立案に応用する
ことを可能とし,リスクの記述項目の追加によっ
て管理対象のすべてに対応した.図 5 に拡張した
リーンキャンバスを示す.
課題
ソリューション 独自の価値提案 顧客との関係 顧客セグメント
主要指標
チャネル
コスト構造
収益の流れ
内部リスク
外部リスク
図 5 拡張したリーンキャンバス
4.リーンスタートアップの講義への導入手順
4.1 講義手順
本研究は,静岡大学情報学部 2014 年度後期開講
講義「プロジェクトマネジメント」で実施し,受
講生 96 名を対象とした.講義に顧客主導開発モデ
ルを導入し,ロジックツリーとリーンキャンバス
の発表前レビューを設けた.このレビューで,受
講生の立案の評価を行って,学生は評価の内容か
ら学習および再構築を行う.このサイクル繰り返
して中間発表でもう一度学習する機会を得る.
ロジックツリーとは,静岡大学の講義で設けて
いるプロジェクトの立案を行うフレームワークで
ある.背景,目的,達成方針の 3 つのフレームを
記述することで,論理的な立案ができる.図 6 に
静岡大学で使用しているロジックツリーの一例と,
図 7 に導入範囲内の顧客主導開発モデルを適用し
た講義手順を示す.
背景
目的
達成方針
廃棄
大学が運
営するHP
の利用方
法がわか
らな
い!!
掲載方法
PDF
冊子
ファイル
サーバ
マニュア
ル作成
学生プロジェ
クトを立ち上
げる
管理者
技術部
学生係
学生
外部発注
HPの存在意義
掲載内容
操作
要点
画面・機能改
善
掲示
広報(宣伝)
メール連絡
図 6 静岡大学で用いているロジックツリー
発表前
レビュー
ロジック
ツリー
LC
計測
LC
構築
LC回収
ロジック
ツリー,
LC回収
LC:リーンキャンバス
学習
LC
構築
5.学生の成果物の充実度の評価方法
中間発表
LC
計測
ロジック
ツリー,
LC返却
学習
最終発表
計画
作成
プロジェクト
計画
LC
構築
ロジック
ツリー,LC,
プロジェクト
計画提出
図 7 顧客主導開発モデルを適用した講義手順
4.2 プロジェクトの分類方法
プロジェクトの特徴ごとに「チャネル型」,「主
要指標型」
,
「コスト型」
,
「収益型」
,
「顧客との関
係型」
,
「リスク型」の 6 つに分類して記述させた.
プロジェクトの特徴を捕え,特徴に関連する項目
に対して充実した議論をさせるためである.
プロジェクトの分類方法を表 1 に示す.
表 1 プロジェクトの分類方法
分類方法
分類型
プロジェクトの内容
顧客の集客や宣伝を課題としたプロジェクト
チャネル型
基準となる品質を顧客に提供するためのプロジェクト
主要指標型
直接の利益がなく,支出が大きいプロジェクト
コスト型
利益を出すことを目的にしたプロジェクト
収益型
顧客との関係型 顧客との関係を獲得・維持・拡大を目指したプロジェクト
リスク型
利便性の裏に潜む危険因子を考慮すべきプロジェクト
4.3 分類型ごとのリーンキャンバス記述法
① チャネル型は,チャネルの項目を重点的に立
案する.チャネルは認知,評価,購入,提供,ア
フターサービスに関する項目を記述する.
② 主要指標型では,主要指標型の項目を重点に
立案し主要指標には具体的な指標を記述する.
③ コスト型では,コスト構造の項目を重点的に
立案し,コスト構造には固定コスト,変動費,経
済の規模を記述する.
④ 収益型では収益の流れの項目を重点的に立案
し,収益型には販売権の売却,使用料,購読料,
ライセンス料などの収入源を記述する.
⑤ 顧客との関係型では,チャネルの項目を重点
的に立案し,顧客とプロジェクトで何を目的とす
るのかについて記述する.
⑥ リスク型では,内部リスクおよび外部リスク
の項目を重点的に立案し,独自の価値提案やソリ
ューションが顧客に悪影響を与えることをリスト
アップして記述する.
プロジェクト計画の充実度は,2014 年後期開講
講義「プロジェクトマネジメント」を受講した学
生のプロジェクト計画書 23 件と,過去 2 年間の成
果物 48 件を中間・最終成果物に分け,プロジェク
トの分類型ごとに充実度を測定し比較した.
5.1 中間成果物の充実度評価方法
2014 年度の中間成果物の充実度は,リーンキャ
ンバスの項目ごとの要素数を計測し,立案したプ
ロジェクトの議論した範囲と各項目をいくつ議論
できたかを評価した.中間成果物は,学生が作成
したロジックツリーとリーンキャンバスの 2 つが
あり,そのうちのリーンキャンバスを計測する.
記述されたリーンキャンバスから範囲と各項目の
個数を抽出し,平均を算出する.計測方法の例と
して,図 8 のリーンキャンバスの要素を計測する
と,「独自の価値提案」が 3,「チャネル」
は 2,
「顧
客セグメント」
は 1,
「顧客との関係」
は 0 となる.
独自の価値提案 顧客との関係 顧客セグメント
1入口の増設と出
1A大学の学
口の移設
生食堂利用
2待機場所整理
者
チャネル
3おひとり様向け
1掲示
座席の新設
2テープ誘導
図 8 計測するリーンキャンバス
2012 年度および 2013 年度の中間成果物の充実
度は,ロジックツリーの要素数をリーンキャンバ
スの記述項目ごとに抽出し計測した.
ロジックツリーでは背景,目的,達成方針ごと
に,リーンキャンバスの記述項目にあたるノード
を抽出する.ロジックツリーにおける「背景」の
ノードから,顧客セグメントおよび課題を抽出し,
「目的」では,独自の価値提案およびソリューシ
ョンを抽出する.そして,
「達成方針」では,主要
指標,チャネル,顧客との関係,コスト構造,収
益の流れ,リスクのノードを抽出する.ただし,
すべてのノードが対象ではなく,計画で発表した
プロジェクトのノードのみを対象とした.例に,
図 9 のロジックツリーの要素を計測すると「課題」
が 1,「ソリューション」が 1.「チャネル」が 2,
主要指標が 1 となる.
3.50
背景
目的
達成方針
廃棄
大学が運
営するHP
の利用方
法が不明
マニュア
ル作成
掲載方
法
学生プロ
ジェクトを
立ち上げ
る
外部発
注
画面・機能
改善
管理者
2014
2.50
ファイル
サーバ
2.00
技術部
学生係
1.50
1.67 1.64 1.62
1.62
1.28
1.00
1.81
1.24
1.15
1.11
1.001.00
HPの存在
意義
掲載内
容
操作
要点
掲示
メール連絡
独自の価値提案, 主要指標,チャネル,
ソリューション
顧客との関係,コスト構造,
収益の流れ,リスク
図 9 計測するロジックツリーの例
5.2 最終成果物の充実度評価方法
最終成果物の充実度は,分類型別にプロジェク
ト計画の重要項目の要素を計測した.分類された
各プロジェクトには重要項目がある.
4.3 節で示し
た,プロジェクトマネジメントの管理対象に対応
する成果物から要素を抽出することで計測するこ
とができる.
2012-2013
1.71
1.17
0.90
0.86
0.69
学生
広報
顧客セグメント,
課題
PDF
冊子
3.10
3.00
0.50
0.00
0.00
0.00
0.00
図 10 中間成果物における充実度の評価
さらに,中間成果物をプロジェクトの分類型ご
とに重要項目の要素数の分析を行った.全分類型
において過去成果物より要素数は高い結果となっ
た.特に,チャネル型プロジェクトの「チャネル」
項目は,1.38 個増加し,過去 2 年間の 2 倍以上の
要素を議論することができた図 11 にプロジェク
トの分類型別の充実度の比較を示す.
7.00
6.00
6.00
2014
5.00
6.成果物の充実度の計測結果
2012-2013
4.00
2.71
3.00
最終成果物の充実度は,分類型別にそれぞれの
着目するプロジェクト計画の成果物の要素で計測
した.5 章で示したように,分類された各プロジ
ェクトには重要項目がある.これらの重要項目を
4.2 節の表 1 においてプロジェクトマネジメント
の管理対象に対応する成果物から要素を抽出する
ことで計測することができる.
2014 年度この講義 23 件と 2012 年度および 2013
年度のこの講義の成果物 38 件の平均値を比較し
た.
6.1 中間成果物の充実度計測結果
プロジェクト立案フェーズの背景および目的の
分析の充実度を 6.1 節の方法を用いて,1 つのソリ
ューションの提案に対して,2014 年度中間成果物
ではチャネル,コスト構造,収益の流れ,リスク
の項目の要素が充実していた.チャネル要素は過
去成果物より 0.64 個増え,コスト,収益,リスク
はまったく考えられていなかったことに対してコ
スト 3.10 個,コスト 1.71 個,収益 0.86 個増え,
プロジェクトの立案が充実した.
図 10 に中間成果物の充実度評価を示す.
2.00
1.00
0.00
1.60
1.00
3.00
1.50
1.33 1.25
0.70
0.00
0.00
0.00
図 11 中間成果物におけるプロジェクトの分類
ごとの充実度の比較
6.2 最終成果物の充実度計測結果
2014 年度この講義および 2012 年度から 2013 年
度の最終成果物の充実度評価した.チャネル型プ
ロジェクトでは要素数が平均 1.67 個増加し,収益
型プロジェクトのコスト表の要素数が平均 1.5 個
が増加した.
しかし,主要指標型プロジェクトの品質計画の
要素は 2 年間の同型プロジェクトの品質計画の要
素と比べ,1.54 個減少した. また,リスク型プロ
ジェクトもわずかながら 0.33 個減少した.比較結
果を図 12 に示す.
7.おわりに
6.50 6.33
7.00
6.00
5.57
5.00
3.90 4.14
4.00
5.00
4.67
2012-2013
4.50
3.00
2.60
3.00
2014
1.50
1.30
2.00
1.00
0.00
図 12最終成果物の分類型ごとの要素数の比較
そこで,リスク型プロジェクトにおいて特定さ
れたリスクについてさらに分析した.特定された
リスクを製品リスク,市場リスク,顧客リスクの
3 つに分類しそれぞれ計測した.
製品リスクとは,正しい製品を作るためのプロ
ジェクト内部リスクおよび製品の品質に関するリ
スクである.市場リスクは外部リスクのうち,自
然災害や実現可能性に関するリスクである.そし
て顧客リスクとは,外部リスクのうち顧客へのチ
ャネルに関するリスクのことである.
それぞれのリスクを分類し計測すると,過去 2
年間の成果物では,
「製品リスク」は 3.33 個で,
「市場リスク」は 3.00 個,
「顧客リスク」は 0 個
だった.しかし,2014 年講義では,顧客リスクは
3.00 個,市場リスクおよび顧客リスクは 1.50 個計
測され,3 分類のリスクをすべて特定することが
できていた.
図 13 にリスク分類の要素を比較した
結果を示す.
3.50
3.00
3.00
3.33
3.00
2014
2012-2013
2.50
2.00
1.50
1.50
1.50
1.00
0.50
0.00
0.00
製品リスク
市場リスク
顧客リスク
図 13リスクタイプ別の要素の比較
2014 年度「プロジェクトマネジメント」の受講
者を対象に,リーンスタートアップ法を導入とプ
ロジェクト立案と計画の充実化を図った.その結
果,プロジェクト計画のチャネル型プロジェクト
と収益型プロジェクトの重要項目の要素数が増加
し,リスク型プロジェクトでは 3 種類のリスクを
すべて特定することができた.これら 3 つのタイ
プについては充実化させることができた.
しかし,主要指標型,コスト型,顧客との関係
型の充実度には効果が薄かった.計画プロセスに
おけるレビューをさらに重ねて実施することで充
実度を向上させることができるかもしれない.
学生にとって上記 3 つの計画は,プロジェクト経
験が少ないためイメージがしにくい項目である.
そのため,プロジェクト計画の作成の時にもヒア
リングを行って,受講生が教員やプロジェクト経
験者などの第三者の知見を得て品質計画,コスト
見積もり,リスク特定の議論する手順を設けて充
実化を図ることが必要ではないかと考える.
演習を通して,学生が細部まで考えたプロジェ
クト立案および計画の成果を出し,プロジェクト
管理をより深く理解することを期待する.
参考文献
[1] 佐川香織,湯浦克彦,中村厚之:情報システム
開発向けプロジェクト管理計画とその学習方法,
プロジェクトマネジメント学会研究発表大会予稿
集 2012(春季), 182-187
[2]エリック・リース:リーンスタートアップムダの
ない起業プロセスでイノベーションを生み出す,
日経 BP 社,(2012)
[3] 六鹿槙美,湯浦克彦:コミュニケーション・マ
ネジメントを重視した IT サービス開発方法,プロ
ジェクトマネジメント学会研究発表大会予稿集
2014(春季)
[4] アッシュ・マウリャ:RunningLean 実践リーン
スタートアップ,オイラリージャパン,(2012)