分担研究報告書

平成18年度厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業〉分担研究報告書
分担研究課題:新しい新生児マス・スクリーニング体制に関する研究
ムコ多糖症に対する治療効果判定のためのバイオマーカーについて
研究要旨
現在、ムコ多糖症の治療法には造血幹細胞移植と酵素治療とがある。治療のバイオマ
ーカーとして、尿中のムコ多糖(グリコサミノグリカン)が用いられているが、目差変
動の大きい物質であることから、大まかな評価しかできない。
我々は、ムコ多糖症1、II、m型患者にっいて血清中ヘパラン硫酸をELISA法にて
測定した。血清中ヘパラン硫酸は、ムコ多糖症患者において正常の10∼100倍の値を示
し、II>1>IIIの順に高値であった。治療後この値は正常値近くまで減少したが、骨
髄移植患者のほうが酵素治療患者より低値を示した。血清中ヘパラン硫酸は、診断に有
用であるだけでなく、治療効果のバイオマーカーとしても有用であった。
研究協力者
血幹細胞移植)。正常コントロール血清小児(15
田中あけみ(大阪市立大学大学院医学研究科・
歳以下、代謝異常症チェック依頼検体)24検体、
助教授)、坂口(梶田)知子(大阪市立大学大
成人(20∼21歳、ボランティア)6検体。
学院医学研究科・技術職員)、藤本昭栄(大阪
血清中ヘパラン硫酸およびケラタン硫酸の
市立大学大学院医学研究科・技術職員)、澤田智
測定:ヘパラン硫酸ELSAキット(生化学工業
(大阪市立大学大学院医学研究科・大学院生)
280564)およびケラタン硫酸ELSAキット(生
化学工業280565)を用いて手引書に従い各々測
A.研究目的
定した。
ムコ多糖症の治療法には造血幹細胞移植と酵
素補充とがある。種々の臨床上の効果が報告さ
C.研究結果
れているが、生化学的な効果評価のバイオマー
血清中ヘパラン硫酸:無治療または治療前に
カーとしては、欧米では尿中グリコサミノグリ
おいて、2例の1型患者でそれぞれ16.6、28.1
カン、日本では尿中総ウロン酸量が用いられて
μg/m1、H型の8例で68.5±28.5μg/m1、III
いる。しかし、これらは正常人にもある程度の
型の3例で8.17、17.2、44.8μg/磁1、1V型の2
量が測定される上、日差・・日内変動がある。よ
例でL60、2.14μg/m1であった。正常小児(15
りよいバイオマーカーとして、血中のヘパラン
歳未満)では2.37±1.31μg/ml(n=24)、正常
硫酸およびケラタン硫酸について検討した。
成人では3.07±L10μg/ml(n=6)であった。
造血幹細胞移植後および酵素治療中の1例の1
B. 研究対象と方法
型患者では6.63μg/m1、4例の11型患者では
対象:ムコ多糖症1型患者3例(酵素治療後
4.48±2.46μg/mlであった。さらに、酵素治療
1例、治療前2例)、II型患者12例(無治療8
よりも造血幹細胞移植を受けた症例のほうが
例、造血幹細胞移植3例、酵素治療1例)。III
低値の傾向であった。
型患者3例(全例無治療)、1V型患者3例(無
血清中ケラタン硫酸:無治療または治療前の
治療2例、造血幹細胞移植1例)、VI型1例(造
全症例(n=14)で33.6±5.04ng/ml、造血幹細
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胞移植後および酵素治療中の全症例(n=6)で
3L7±4.93ng/m1であった。また、正常小児(15
歳未満)では24.3±:4.57ng/m1(n=24)、正常成
人では29.0±7.04ng緬1(n=6)であった。
D.考察
血清中ヘパラン硫酸は、1、II、m型のムコ
多糖症患者において、正常に比し1桁以上の高
値を示した。またその値は、II>1>II1の順に
高かった。他方、IV型では正常値を示した。こ
れは、臓器症状を反映しているのではないかと
思われた。造血幹細胞移植、酵素治療を受けた
症例においては有意に低かったが、正常値より
はやや高かった。
血清中ケラタン硫酸は、ムコ多糖症患者は、
平均値では正常者より高値を示したが、有意差
は無かった。また、ムコ多糖症患者で無治療症
例と治療症例と比べても、平均値では治療症例
が低値であったが有意差は無かった。正常人で
は、小児は成人より平均値では低値であったが、
これも有意差は無かった。
血清中ヘパラン硫酸は、ムコ多糖症患者にお
いて1桁以上の高値を示し、また、治療によっ
てほぼ正常値まで減少して治療効果をよく反
映していたが、血清中ケラタン硫酸は、どの群
においても有意差が無く、ムコ多糖症のバイオ
マーカーとしては不適当と思われた。
E.参考文献
1) Tomatsu S. et al. Heparan sulfate level s
in搬ucopolysacchari(loses and mucolipi(loses.
J 王nherit Metab Dis 28: 743−757, 2005.
2) To憩atsu S. et al. Keratan sulfate level s
in搬ucopolysaccharidoses and mucolipidoses.
J Inherit Metab Dis 28: 187−202, 2005.
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