「すざく」衛星による X 線背景放射の観測を用いた keV 領域における暗黒

「すざく」衛星による X 線背景放射の観測を用いた
keV 領域における暗黒物質からの信号の探索
A Search for a keV Signature of Dark Matter
with Suzaku Observations of the X-ray Diffuse Background
東京大学大学院 理学系研究科 物理学専攻
宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
山崎研究室
関谷 典央
2015年3月10日
高エネルギー宇宙物理連絡会 第14回研究会 @ 広島大学
9
Simulations of Large-Scale Structure
暗黒物質の存在
(e.g., Cen & Ostriker 1992; Katz, Hernquist & Weinberg 1992), those resulting
simulated galaxies are far from realistic and there are still plenty of room for
improvement.
this is one of+the
most important, and
yet quite realistic,
弾丸銀河団Thus
(高温プラズマ
暗黒物質)
渦巻き銀河の回転曲線
goals for the simulations in the new millennium, or hopefully in this decade.
宇宙の構成要素
暗黒エネルギー
バリオン物質
71%
5%
暗黒物質
24%
Dark Matter
Expected from Luminous Disk
Gas
99
Simulations
Simulations of
of Large-Scale
Large-Scale Structure
Structure
(e.g.,
(e.g., Cen
Cen &
& Ostriker
Ostriker 1992;
1992; Katz,
Katz, Hernquist
Hernquist &
& Weinberg
Weinberg 1992),
1992), those
those resulting
resulting
simulated
simulated galaxies
galaxies are
are far
far from
from realistic
realistic and
and there
there are
are still
still plenty
plenty of
of room
room for
for
improvement.
improvement. Thus
Thus this
this isis one
one of
of the
the most
most important,
important, and
and yet
yet quite
quite realistic,
realistic,
(Hinshaw+13;
) new
(Markevich+04;
X線観測
0the
goals
goalsWMAP-9y+BAO+H
for
for the
the simulations
simulations in
in the
new millennium,
millennium,
or
or hopefully
hopefully
in
in this
this decade.
decade.
(Rubin+80; HI観測)
& Clowe+06; 弱レンズ観測)
宇宙の構造形成シミュレーション
(Yoshikawa+01)
暗黒物質
バリオン物質 (ガス)
バリオン物質 (星)
Figure 7.
Distribution of gas particles, dark matter particles, galaxies and dark halos in the volume of 75h−1 × 75h−1 × 30h−1 Mpc3 model
at z = 0. Upper-right: gas particles; Upper-left: dark matter particles;
Lower-right: galaxies; Lower-left: dark halos (Yoshikawa et al. 2001)
宇宙全体、銀河団、銀河等の観測やそれらの進化を説明するために
暗黒物質の存在が要求される
Let me show the result of Yoshikawa et al. (2001) for an example of such
暗黒物質の量や分布には明らかな制限が得られている
1/26
暗黒物質の候補と探索
暗黒物質候補 (一例) と検出可能性
WIMP
Sterile neutrino
Gravitino
Axion
直接探索
⃝
×
×
⃝
間接探索
⃝
⃝
×
△
加速器
⃝
×
⃝
×
DM: 暗黒物質 SM: 標準模型内の物質
DM
DM
?
SM
SM
DM
SM
?
SM
DM
DM
?
SM
直接探索
間接探索
例: 原子核との散乱の観測
例: 崩壊・消滅時の生成物の検出
SM
DM
加速器での生成物の検出
数多ある暗黒物質候補に対して探索方法も多岐にわたる
今のところどれも有意な検出には至っていない
暗黒物質の検出は宇宙物理学や素粒子物理学にまたがる重要な課題である
2/26
輝線放射をする暗黒物質の間接探索
DM: 暗黒物質 SM: 標準模型内の物質
光子
DM
重力源
天文衛星
?
DM
SM (光子, ニュートリノ, , )
崩壊や対消滅によって光子を放出する暗黒物質も考えうる
(例: WIMP, Sterile neutrino, , ,)
宇宙の巨大重力源中には大量の暗黒物質が存在するため、崩壊率が小
さくても崩壊による信号を検出できる可能性がある
X 線天文衛星の性能向上により、ここ約 10 年で銀河団や銀河等をター
ゲットにした keV 領域における非バリオン物質起源の輝線探索が活発
に行われるようになってきた
2014年、3.5 keV の輝線の検出報告があったが (例: Bulbul+14, Boyarsky+14)、
これに対する否定論文も出ており (例: Tamura+14)、議論の余地を残している
3/26
輝線放射をする暗黒物質候補の一例 “Sterile neutrino”
標準模型を超えた仮説上の弱い相互作用をしない右巻きニュートリノ
質量 ms ~ keV の Sterile neutrino は WDM の候補
CDM のみによる構造形成シミュレーションと観測事実の食い違い
(例: サブハロー問題、コアカスプ問題) を解消できる
極めて小さい混合角 θ で標準模型ニュートリノと混合する
極めて小さい崩壊率 Γ で光子 (エネルギー = ms / 2) と標準模型ニュート
リノに崩壊する → keV 領域で輝線放射をする可能性がある
ニュートリノ振動、宇宙のバリオン非対称、中性子星の反跳速度異常
等を説明できる
→ keV 領域で暗黒物質輝線を検出した時のインパクトは大きい
光子
Sterile neutrinos
SM neutrino
Sterile neutrino の崩壊 (フレーバー変化)
4/26
本研究の目的
暗黒物質の検出
宇宙物理学や素粒子物理学にまたがる重要な課題である
これまでに直接探索や間接探索等、様々な試みが行われている
今のところ有意な検出には至っていない
崩壊や対消滅によって (特に keV 領域において) 輝線放射をする暗黒物
質 (Sterile neutrino等) の間接探索
検出技術の向上によって近年発展が目覚ましい研究分野である
keV 領域で暗黒物質輝線を検出した時のインパクトは大きい
複数の輝線検出報告があるが、議論の余地がある
戦略や解析手法の追求によってさらに精度と確度の高い議論を行う
ことができる
現在到達しうる最高の感度で keV 領域における暗黒物質からの輝線
探索を行い、暗黒物質の検出、もしくは、崩壊率や質量等に対して
最も厳しい制限を与える
5/26
暗黒物質輝線探索の基本戦略
観測ターゲットについて
物質 (暗黒物質+バリオン物質) の質量分布が推定されている巨大重力源
(銀河団、銀河群、銀河) を観測ターゲットにする
これらには高温プラズマが付随しており、それによる X 線放射が暗黒
物質輝線放射に対するバックグラウンドになる
観測に用いる検出器について
広がった X 線放射源の観測からの弱い輝線放射を探索する場合、現在
最も感度が高いのは X 天文衛星搭載の X 線望遠鏡と CCD カメラの組
み合わせによる撮像分光観測となる
→ 現在軌道上で運用中の X 線天文衛星/検出器である「Chandra/ACIS」
「XMM-Newton/PN, MOS」「すざく/XIS」が候補となる
6/26
暗黒物質輝線探索の精度・確度向上のために
精度向上のために (統計的不定性を抑えるために)
1. 暗黒物質輝線放射の計数が大きくなるようにする
1-1. 輝線強度 (暗黒物質柱密度) が大きくなるようにする
1-2. 観測時間が長くなるようにする
2. 暗黒物質輝線放射に対するバックグラウンド放射の輝度が小さくなる
ようにする
確度向上のために (系統的不定性を抑えるために)
3. バックグラウンド放射の正確なモデル化を行う
4. 観測系 (X 線望遠鏡と CCD カメラ) の X 線信号に対するレスポンスの
再現性を高くする
7/26
観測ターゲットの検討
精度向上のために (統計的不定性を抑えるために)
1. 暗黒物質輝線放射の計数が大きくなるようにする
1-1. 輝線強度 (暗黒物質柱密度) が大きくなるようにする
1-2. 観測時間が長くなるようにする
2. 暗黒物質輝線放射に対するバックグラウンド放射の輝度が小さくなる
ようにする
項目 1-1. と 項目 2. は相反する関係となっている
→ 暗黒物質柱密度とバックグラウンド放射の両方を評価して輝線探索に
最も有利な観測ターゲットを検討する
大(有利)
暗黒物質柱密度
小(不利)
銀河団, 銀河群, 楕円銀河, 渦巻銀河, 天の川銀河(中心部), 矮小銀河, 天の川銀河(中心以外)
大(不利)
高温プラズマ起源のバックグラウンド放射
※ 放射輝度はバリオン物質密度の2乗に比例
小(有利)
8/26
暗黒物質柱密度
10
10
3
ΛCDM N体シミュレーション
楕円銀河 銀河団
渦巻銀河 銀河群
矮小銀河
2
10
1
10
8
10
10
10
12
暗黒物質ハロー質量 M200 [M ]
]
4
2
10
銀河団、銀河群、銀河中心の暗黒物質柱密度
(Boyarsky+09)
10
14
10
天体
16
暗黒物質柱密度 S DM [M pc
暗黒物質柱密度 S DM [M pc
2
]
暗黒物質柱密度は回転曲線や弱いレンズ効果等による物質密度分布の測
定、 NFW 等のモデルによって求められる
10
10
10
4
地球から見た天の川銀河の暗黒物質柱密度
(中心以外)
回転曲線から導出 (Remmen+10)
NFWモデルから導出 (Sofue+12)
3
2
10
1
40
60
80
100
120
銀河中心からの離角
暗黒物質柱密度 M
銀河団中心 (例: ペルセウス銀河団)
500 − 1000
銀河中心 (例: アンドロメダ銀河)
500 − 1000
矮小銀河 (典型例)
50 − 100
天の川銀河 (中心)
500 − 1000
天の川銀河 (反中心)
50 − 100
pc
140
[degree]
160
180
2
9/26
暗黒物質柱密度
10
10
3
ΛCDM N体シミュレーション
楕円銀河 銀河団
渦巻銀河 銀河群
矮小銀河
2
10
1
10
8
10
10
10
12
暗黒物質ハロー質量 M200 [M ]
]
4
2
10
銀河団、銀河群、銀河中心の暗黒物質柱密度
(Boyarsky+09)
10
14
10
天体
16
暗黒物質柱密度 S DM [M pc
暗黒物質柱密度 S DM [M pc
2
]
暗黒物質柱密度は回転曲線や弱いレンズ効果等による物質密度分布の測
定、 NFW 等のモデルによって求められる
10
10
4
地球から見た天の川銀河の暗黒物質柱密度
(中心以外)
回転曲線から導出 (Remmen+10)
NFWモデルから導出 (Sofue+12)
3
2
10
50
10
1
40
60
80
100
120
銀河中心からの離角
暗黒物質柱密度 M
銀河団中心 (例: ペルセウス銀河団)
500 − 1000
銀河中心 (例: アンドロメダ銀河)
500 − 1000
矮小銀河 (典型例)
50 − 100
天の川銀河 (中心)
500 − 1000
天の川銀河 (反中心)
50 − 100
pc
140
[degree]
160
180
2
9/26
バックグラウンド放射と輝線検出限界強度
輝線の検出限界強度はバックグラウンドの輝度 Ibgd(E)と観測系の有効
面積 A、視野 Ω、観測時間 T、エネルギー分解能 ΔE によって決まる
3σ の有意度で検出とするのであれば、輝線の検出限界強度 Iline は以下
の式で表される
2
10
10
10
10
10
34 + 8 · 32 · Ibgd (E) · A · ⌦ · T ·
2·A·⌦·T
6
ペルセウス銀河団中心
5
4
3
アンドロメダ銀河中心
2
10
X線背景放射
1
10
-1
0.5
1
2
5
光子エネルギー [keV]
10
10
輝線検出限界強度(3 ) [LU]
輝度 [Counts cm 2 s 1 sr 1 keV 1]
Iline >
3 +
p
10
3
LU = Counts cm 2 s 1 sr
E
1
ペルセウス銀河団中心
2
10
アンドロメダ銀河中心
1
X線背景放射
10
-1
0.5
1
2
5
光子エネルギー [keV]
10
※ X線背景放射 : 天の川銀河内の高温プラズマからの放射と系外活動銀河核の放射 10/26
バックグラウンド放射と輝線検出限界強度
バックグラウンドの輝度のみで評価した場合
銀河団や銀河、天の川銀河中心の高温プラズマ放射輝度 (連続成分) は X 線背景
放射に比べて数桁も高く、さらに多くのプラズマ起源輝線が出現する → 不利
10
10
10
10
10
6
ペルセウス銀河団中心
5
4
3
アンドロメダ銀河中心
2
10
X線背景放射
1
10
-1
0.5
1
2
5
光子エネルギー [keV]
10
10
輝線検出限界強度(3 ) [LU]
輝度 [Counts cm 2 s 1 sr 1 keV 1]
天の川銀河の中心以外を観測ターゲットにした場合、バックグラウンドは X 線
背景放射※のみとなって輝度は最も低くなり、1.5 keV 以上には輝線が出現しな
い → 有利
10
3
LU = Counts cm 2 s 1 sr
1
ペルセウス銀河団中心
2
10
アンドロメダ銀河中心
1
X線背景放射
10
-1
0.5
1
2
5
光子エネルギー [keV]
10
※ X線背景放射 : 天の川銀河内の高温プラズマからの放射と系外活動銀河核の放射 10/26
暗黒物質輝線探索に最適な観測ターゲット
輝線強度 (暗黒物質柱密度) とバックグラウンド輝度の両方を加味し
て、暗黒物質輝線探索に最適な観測ターゲットを選定する
観測系の条件(有効面積、視野、観測時間、エネルギー分解能)を統一し、暗黒物
質柱密度で規格化した輝線の検出限界強度を比べた
→ X 線背景放射が有利
[LU / M pc ]
輝線検出限界強度(3 ) / 暗黒物質柱密度
X 線背景放射の場合、X 線天文衛星のデータアーカイブに数 10 Msec 分の観測
データがある (他は長くても Msec 未満) → さらに有利になる
1
10
10
すざく/XIS を用いて100 ksec 観測した場合
-1
ペルセウス銀河団中心
アンドロメダ銀河中心
-2
X線背景放射
-3
10 0.5
1
2
5
光子エネルギー [keV]
10
本研究では、X 線背景放射の観測から天の川銀河に付随する暗黒物質起
源の輝線を探索する
11/26
暗黒物質輝線探索に最適な X 線天文衛星 / 検出器
X 線背景放射観測による暗黒物質輝線探索に最適な X 線天文衛星 / 検
出器を選定する
観測時間を統一し (10 Msec)、X 線背景放射を観測したときに見込まれる輝線の
検出限界強度を比べる
非 X 線背景放射 (NXB) の寄与も加える
輝線検出限界強度(3σ) [LU]
→ すざく/XIS を用いる場合が最も感度が高くなる
10
LU = Counts cm−2 s−1 sr−1
1
10
10
10
-1
Chandra/ACIS-I
Chandra/ACIS-S
XMM-Newton/2MOS
XMM-Newton/PN
Suzaku/4XIS
-2
-3
0.5
1
2
光子エネルギー [keV]
5
10
本研究では、すざく/XIS による X 線背景放射の観測から天の川銀河に付
随する暗黒物質起源の輝線を探索する
12/26
暗黒物質輝線探索の精度・確度向上のために
精度向上のために (統計的不定性を抑えるために)
1. 暗黒物質輝線放射の計数が大きくなるようにする
1-1. 輝線強度 (暗黒物質柱密度) が大きくなるようにする
1-2. 観測時間が長くなるようにする
2. 暗黒物質輝線放射に対するバックグラウンド放射の輝度が小さくなる
ようにする
確度向上のために (系統的不定性を抑えるために)
3. バックグラウンド放射の正確なモデル化を行う
4. 観測系 (X 線望遠鏡と CCD カメラ) の X 線信号に対するレスポンスの
再現性を高くする
13/26
X 線背景放射の正確なモデル化
輝度 [Counts cm−2 s−1 keV−1]
X 線背景放射観測のエネルギースペクトルは以下の 4 (+1) 成分から成
る (例: Yoshino+08)
10−1
合計
(1)+(2)
(3)
(4)
10−3
10−5
0.5
1.5 keV以上は輝線の
ない単純なベキ関数
で表される
※ 検出器レスポンス
はかかっていない
1
5
2
光子エネルギー [keV]
10
(1) 太陽風と太陽圏中性物質との電荷交換反応による X 線放射
(2) 太陽系を取り巻く局所的な高温プラズマバブル (kT = 0.1 keV) からのX 線放射
(3) 銀河系を取り巻く高温プラズマハロー (kT = 0.2 keV) からの X 線放射
(4) 系外活動銀河核からの X 線放射
(Extra) 地球高層大気の中性酸素からの蛍光輝線 (Sekiya+14)
14/26
すざく/XIS の X 線信号に対するレスポンスの再現性
すざくでは年に数回観測系の較正が行われ、観測系の性能の経年変化
やオペレーションモードの切り替えや突発的な事象による性能変化が
レスポンスに反映されるようになっている
本研究ではレスポンスの数 % の誤再現によって輝線を誤検出する可能
性がある
1.5 − 3.5 keV の有効面積のエネルギー依存性は検出器構成物質の吸
収端によって複雑になり、実際にずれがあることが報告されている
すざく/XIS の較正項目(一例)とその精度
較正項目
較正精度
有効面積
~2%
エネルギーゲイン
5 − 15 eV
エネルギー分解能
~5%
2
Effective
Area [cm
有効面積
[cm2]]
→ 本研究ではこれを「かに星雲」の較正用観測データ (約 10 年分) を
集積して精密に評価し、補正する
400
Al K
Au MV Au MIV
Si K
Au MIII
Au MII
すざく/XIS の有効面積 (1.5 − 3.5 keV)
300
200
XIS0 XIS1 XIS2 XIS3
100
1.5
2
2.5
3
3.5
15/26
光子エネルギー [keV] Energy [keV]
レスポンスのずれの補正
「かに星雲」の較正用観測データ (8 年分) を集積してレスポンスの誤
再現を精密に評価し、補正する
すざく/XIS で最も統計のよい観測データ
放射モデルは単純なベキ関数 (シンクロトロン放射)
データとモデル × レスポンスの差はレスポンスの逸脱を表すと考えてよい
→ データとモデル × レスポンスの比をレスポンスの補正係数として使用する
レスポンス補正係数
103
Al K Si K Au M V Au M IV Au M III Au M II
1.08
102
レスポンス補正係数
データと
モデルの比
残差 [σ]
Counts s−1 keV−1
8 年分のかに星雲の合算データとモデル (× レスポンス)
20
0
−20
1.04
1
0.96
1
2
光子エネルギー [keV]
5
1.04
1
0.96
0.92
1
FI: XIS0+XIS2+XIS3, BI: XIS1
1.5
2
2.5
3
光子エネルギー [keV]
3.5
4
16/26
すざく/XIS の NXB と検出器構成物質による輝線放射
X 線背景放射は NXB や検出器構成物質起源の輝線放射に汚染される
すざく/XISの場合、0.5 - 7.0 keVの領域に Al Kα、 Si Kα、 Au Mα、 Mn Kα、 Mn
Kβ の 5 本の検出器起源輝線が出現する
確度の良い X 線背景放射の解析のためにこれらをきれいに減算する必
要がある
これらは夜地球の観測データから再現することができ、その精度は数
%である
本研究ではこれらの数 % の誤再現によって輝線を誤検出する可能性が
ある
→ 検出器起源輝線 5 本については夜地球データを用いて除去するのでは
なく、ガウシアンモデルを用いたスペクトルフィッティングによってそれ
らの寄与を割り出す
17/26
X 線背景放射のスペクトル解析と暗黒物質輝線探索
すざく/XIS アーカイブデータ (2005−2013)
Step 1. データ選択
全天 187 方向の X 線背景放射データ
Step 2. データスクリーニング
2-1. X 線点源除去
2-2. 太陽風と地球高層大気との電荷交換反応による X 線放射が大きくなる時間帯の排除
2-3. 宇宙線 (荷電粒子) による NXB が大きくなる時間帯の排除
合計観測時間: 31.5 Msec
これまでで最も深い X 線背景放射の解析
Step 3. 187 データそれぞれのスペクトルフィッティング
最多領域の X 線背景放射の系統的解析
先行研究の X 線背景放射モデルと矛盾がないかどうかの確認
Step 4. 各観測年、各検出器毎にデータを合算
25 合算データセット(各観測時間: 数 Msec)
Step 5. 25 合算データのスペクトルフィッティング
バックグラウンドとしての X 線背景放射モデルを決定
暗黒物質輝線探索
18/26
すざく/XIS アーカイブデータ (2005−2013)
Step 1. データ選択
全天 187 方向の X 線背景放射データ
90.000
60.000
30.000
0.000
315.000
270.000
225.000
180.000
135.000
90.000
45.000
銀河中心
反銀河中心
銀河中心
-30.000
-60.000
-90.000
0
100
199
300
400
500
600
700
800
900
1000
銀河系座標、マップ中心は反銀河中心
18/26
すざく/XIS アーカイブデータ (2005−2013)
Step 1. データ選択
全天 187 方向の X 線背景放射データ
Step 2. データスクリーニング
2-1. X 線点源除去
2-2. 太陽風と地球高層大気との電荷交換反応による X 線放射が大きくなる時間帯の排除
2-3. 宇宙線 (荷電粒子) による NXB が大きくなる時間帯の排除
合計観測時間: 31.5 Msec
これまでで最も深い X 線背景放射の解析
Step 3. 187 データそれぞれのスペクトルフィッティング
最多領域の X 線背景放射の系統的解析
先行研究の X 線背景放射モデルと矛盾がないかどうかの確認
Step 4. 各観測年、各検出器毎にデータを合算
25 合算データセット(各観測時間: 数 Msec)
Step 5. 25 合算データのスペクトルフィッティング
バックグラウンドとしての X 線背景放射モデルを決定
暗黒物質輝線探索
18/26
X 線背景放射のスペクトルフィッティング
2005_2013 XDB data and model
8 年分のX線背景放射の合算データとモデル (× レスポンス)
残差
χ [σ]
−1
−1−1
−1
Counts
keV
Counts ss
keV
100.1−1
χ2/dof = 1.24 (dof = 3693)
観測データ
モデル(合計)
太陽風電荷交換反応
+高温バブル
+銀河系高温プラズマハロー
+高温プラズマ (kT > 0.4 keV)
系外活動銀河核
0.01−2
10
−3
10−3
10
44
2
00
−2
−4
−4
0.5
0.5
2
11
2
Energy (keV)
光子エネルギー [keV]
55
19/26
X 線背景放射のスペクトルフィッティング
1.5−3.5 keV、6 keV 付近に大きな残差がある
2005_2013 XDB data and model
8 年分のX線背景放射の合算データとモデル (× レスポンス)
残差
χ [σ]
−1
−1−1
−1
Counts
keV
Counts ss
keV
100.1−1
χ2/dof = 1.24 (dof = 3693)
0.01−2
10
−3
10−3
10
レスポンスのずれ + 検出器輝線の除去過不足 ?
観測データ
モデル(合計)
太陽風電荷交換反応
+高温バブル
+銀河系高温プラズマハロー
+高温プラズマ (kT > 0.4 keV)
系外活動銀河核
44
2
00
−2
−4
−4
0.5
0.5
検出器輝線の除去過不足 ?
2
11
2
Energy (keV)
光子エネルギー [keV]
55
19/26
X 線背景放射のベストフィットモデル
レスポンス (1.5−3.0 keV) のずれを補正した
検出器起源輝線の寄与をスペクトルフィッティングにより決定した
2005_2013 XDB data and model
8 年分のX線背景放射の合算データとモデル (× レスポンス)
残差
χ [σ]
−1
−1−1
−1
Counts
keV
Counts ss
keV
100.1−1
χ2/dof = 1.05 (dof = 3693)
上側累積確率(p-value) = 2.5%
観測データ
モデル(合計)
太陽風電荷交換反応
+高温バブル
+銀河系高温プラズマハロー
+高温プラズマ (kT > 0.4 keV)
系外活動銀河核
検出器起源輝線
0.01−2
10
−3
10−3
10
44
2
00
−2
−4
−4
0.5
0.5
2
11
2
Energy (keV)
光子エネルギー [keV]
55
20/26
暗黒物質輝線探索の手法
X 線背景放射のベストフィットモデルに輝線放射モデル (元の幅 0
eV、検出器レスポンスによってガウシアン的に広がると仮定) を加
えてスペクトルフィッティングを行う
輝線のエネルギーを 0.5 keV から 7.0 keV まで 25 eV 間隔で掃引し
て、輝線強度とその統計誤差を決定する
X 線背景放射モデルは可変にする
→ 輝線の存在有意度や輝線強度の上限値を得る
2005_2013 XDB data and model
−1
Counts
s−1
−1
Counts s−1
keVkeV
100.1−1
輝線放射モデルの掃引
−2
0.01
10
?? ± ?? LU
?? ± ?? LU
?? ± ?? LU
−3
10−3
10
0.5
1
2
光子エネルギー [keV]
5
21/26
輝線様兆候と存在有意度
輝線様の兆候が 5 つ見られた
幅 0 eV の輝線が存在するときとコンシステントな兆候の現れ方
これらの兆候は今回の探索条件では統計的揺らぎで説明がつく程度
なので、輝線の検出とは見なさない
LU = Counts cm−2 s−1 sr−1
青: 輝線強度とその 1σ 誤差
輝線存在
有意度 [σ]
輝線強度 [LU]
0.04
緑: 幅 0 eV の輝線を仮定した場合の
シミュレーション
0.02
輝線様兆候 (5つ) のまとめ
0
0.02
0.04
3
①
②
③
④⑤
2
1
0.5
1
2
エネルギー
存在有意度
0.600 keV
2.8σ
0.900 keV
2.2σ
1.275 keV
2.4σ
4.925 keV
2.8σ
5.475 keV
2.4σ
5
光子エネルギー [keV]
22/26
輝線様兆候と存在有意度
輝線様の兆候が 5 つ見られた
幅 0 eV の輝線が存在するときとコンシステントな兆候の現れ方
これらの兆候は今回の探索条件では統計的揺らぎで説明がつく程度
なので、輝線の検出とは見なさない
LU = Counts cm−2 s−1 sr−1
青: 輝線強度とその 1σ 誤差
輝線存在
有意度 [σ]
輝線強度 [LU]
0.04
緑: 幅 0 eV の輝線を仮定した場合の
シミュレーション
0.02
輝線様兆候 (5つ) のまとめ
0
0.02
0.04
3
①
②
③
④⑤
2
1
0.5
1
2
エネルギー
存在有意度
0.600 keV
2.8σ → < 1σ
0.900 keV
2.2σ → < 1σ
1.275 keV
2.4σ → < 1σ
4.925 keV
2.8σ → < 1σ
5.475 keV
2.4σ → < 1σ
5
光子エネルギー [keV]
22/26
輝線強度上限値の先行研究との比較
本研究で与えた暗黒物質輝線強度の上限値を先行研究と比較する
異なる観測ターゲット間での比較ができるように、暗黒物質柱密度
SDM で規格化した輝線強度上限値 Iline (暗黒物質崩壊率 Γ と質量 mDM
の比に相当) で比較する
Iline
1
=
E = mDM /2 の放射崩壊の場合
SDM
4⇡ mDM
[LU / M pc ]
10
10
10
10
: Boyarsky+12 3σ上限
: 本研究 3σ上限
-2
-3
-4
Clusters(Bulbul+14)
M31(Boyarsky+14)
-5
0.5
1
2
光子エネルギー [keV]
5
10
27
10
28
10
29
10
30
暗黒物質崩壊率 / 質量 [s−1 / keV]
輝線検出限界強度(3 ) / 暗黒物質柱密度
現在のところ最も厳しい暗黒物質起源の輝線強度上限を与えた
23/26
Sterile neutrino の質量と混合角への制限
暗黒物質として Sterile neutrino を仮定し、輝線強度上限値からその
質量と混合角への制限を与え、先行研究と比較する
→ 現在のところ最も厳しい制限を与えた
混合角 sin2 2
I = 1.3 ⇥ 10
10
10
10
10
10
-5
2
◆
(LU: Line Unit = photons cm−2 s−1 sr−1)
上限)
-6
10−9
3.5 keV 輝線
Prokhonov+10 (輝線検出)
Bulbul+14
(輝線検出)
Boyarsky+14a (輝線検出)
-7
-8
-9
10−10
-10
10
-11
10
10
5
⇣ m ⌘4 ✓ sin2 2✓ ◆ ✓
SDM
s
[LU]
1 keV
10 10
102 M pc
-12
-13
10 1
: 本研究 3σ上限
: 本研究 2σ上限
2
5
10
質量 [keV]
10−11
6
7
8
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Sterile neutrino の質量と混合角への制限
暗黒物質として Sterile neutrino を仮定し、輝線強度上限値からその
質量と混合角への制限を与え、先行研究と比較する
→ 現在のところ最も厳しい制限を与えた
混合角 sin2 2
I = 1.3 ⇥ 10
10
10
10
10
10
-5
2
◆
(LU: Line Unit = photons cm−2 s−1 sr−1)
上限)
-6
10−9
3.5 keV 輝線
Prokhonov+10 (輝線検出)
Bulbul+14
(輝線検出)
Boyarsky+14a (輝線検出)
-7
-8
-9
10−10
-10
10
-11
10
10
5
⇣ m ⌘4 ✓ sin2 2✓ ◆ ✓
SDM
s
[LU]
1 keV
10 10
102 M pc
-12
-13
10 1
: 本研究 LEE 補正後 3σ上限 (系統的不定性込)
2
5
10
質量 [keV]
10−11
6
7
8
24/26
将来衛星計画と暗黒物質輝線探索
Suzaku/XIS
Suzaku (ISAS)
ASTRO-H/SXS
SRG/eROSITA-PNCCD
Chandra (CXC)3000
XMM-Newton (E
3.05 × 3.05
エネルギーバンド [keV]
0.2 − 12
0.3 − 12
0.2 − 10
エネルギー分解能 [eV]
50 − 200
5
50 − 200
有効面積 @ 1 keV [cm2]
660 (3FI), 320 (BI)
230
1400
NXB 輝度 [cm-2 s−1 sr−2 keV−1]
1 − 10 (安定)
< 10 (安定)
< 10 (安定)
打ち上げ予定
済・運用中
2015 年度予定
2016 年予定
[LU / M pc ]
17.8 × 17.8 × (3FI + 1BI)
輝線検出限界強度(3 ) / 暗黒物質柱密度
視野 [amin2]
10
10
10
-1
ペルセウス銀河団中心 with SXS
ペルセウス銀河団中心 with XIS
-2
アンドロメダ銀河中心 with SXS
アンドロメダ銀河中心 with XIS
X 線背景放射 with SXS
X 線背景放射 with XIS
-3
0.5
1
2
5
光子エネルギー [keV]
10
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本研究のまとめ
本研究では現在のところ最も感度が高い (精度と確度が高い) 暗黒物
質輝線探索の手法を検討し、実践した
→すざく/XIS による X 線背景放射の観測データを用いて、天の川銀河
に付随する暗黒物質輝線探索を行った
本研究では 0.5 − 7.0 keV の領域において暗黒物質輝線の有意な検出
はなかった
→ これまで報告のあった 3.5 keV の輝線も検出されなかった
本研究で与えた暗黒物質輝線強度の上限値は先行研究よりも小さく
なり、天の川銀河に付随する暗黒物質起源の輝線強度上限としては
現在のところ最も厳しいものとなった
→ 現在到達しうる最高の感度を達成し、先行研究よりもより系統的不
確定性を排除・考慮している
暗黒物質の正体として Sterile neutrino を仮定すると、本研究で得ら
れた輝線強度上限値からその質量と混合角に制限をつけることがで
き、それはこれまでで最も厳しいものとなった
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