OSSシンポジウム結果を受けて政府への提言(PDF:1.69MB)

平成26年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤技術における
オープンソ-スソフトウェアの活用に関する提案
平成27年9月
日本 OSS 推進フォーラム
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1
はじめに
本書は、経済産業省の平成26年度調達「我が国経済社会の情報化・サービスかに係わる基盤技術」
(ク
ラウドコンピューティング時代におけるオープンソースソフトウェアの活用に関する調査事業)に協力し
た日本OSS推進フォーラムが、調査事業後に行った活動を含めて、この調査事業に補足する目的で執筆
したものである。
オープンソースソフトウェア(以降 OSS)は商用ソフト代替の時代から、新しい IT 産業を興す場合の
必須ソフトの時代に変わり、海外では競争力強化のために IT の核であるソフトウェア、そしてそのほと
んどを占めつつある OSS を利用したオープンイノベーション活動の重要性に気づき、積極的に OSS の利
活用を行っている。
一方、日本企業では「コスト改善のための IT」の殼から抜け出ている企業が少なく、
「オープンイノベ
ーションの重要性」を広く日本企業に知らしめたい。
また、企業の製品・サービス開発強化やビジネスモデル変革を早期に実現するために、外部の技術開発
成果を取り入れる活動が重要であり、OSS の普及促進活動を通してオープンイノベーションの重要性を
訴えてきた日本 OSS 推進フォーラムとして、過去の経験を踏まえて、今後のオープンイノベーションの
促進について提案する。
平成27年9月
日本 OSS 推進フォーラム
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2
目次
1
本提案の要約 .................................................................................................. 4
2
OSS の利活用 ................................................................................................. 5
2.1
OSS の本質 ................................................................................................. 5
2.2
OSS の利用形態の変化とオープンイノベーション ................................................ 7
3
他国での OSS 利用形態の変化と政策.................................................................... 9
3.1
米国の事情 .................................................................................................. 9
3.2
欧州の事情 ................................................................................................ 10
3.3
北東アジアの事情........................................................................................ 11
3.4
東南アジアの事情........................................................................................ 12
4
IT 激動期におけるオープンイノベーションの活用 ................................................. 14
4.1
IT 予算の主役変更 ...................................................................................... 14
4.2
日本版オープンイノベーション団体の必要性 ..................................................... 14
5
オープンイノベーション促進策 ......................................................................... 16
5.1
IT 基礎技術の強化 ...................................................................................... 16
5.2
これからの IT 推進者の育成 .......................................................................... 17
5.3
オープンイノベーティブな環境整備 ................................................................. 18
5.4
外部研究開発を支えるベンダの強化 ................................................................. 18
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3
1 本提案の要約
企業の競争力は、ビジネスにおける IT 利用方法に左右される時代となり、新たな事業領域で成功するためには、トライ
アンドエラーを低コストで効率的に実施することが重要となってきている。その為にはプロトタイプの早期開発が必須と
なり、コモディティ化された共通部分は、できる限り社外で開発・投資された機能を利活用し、企業独自の付加価値部分
のみをスピードを上げて開発することが求められている。また、新たな事業領域の市場創成のためのエコシステムとして、
仲間を作って技術開発を行うようなオープンイノベーティブな開発体制も求められている。
日本 OSS 推進フォーラムでは、このようなビジネス環境の変化にあたって、OSS で培った多くの経験が生かせると考
えており、そのために必要となる下記施策を 5 章で提言する。


IT 基盤の強化(5.1)

公共テストベッドの構築

ユーザ企業主導のエコシステム

OSS 化推進の評価認定

「攻めの IT 経営銘柄」プロモーションの継続

政府の広報活動での IT 利用(5.1.5)

政府の「攻めの IT」利用強化(5.1.6)

(5.1.2)
(5.1.3)
(5.1.4)
これからの IT 推進者の育成(5.2)


(5.1.1)
チーフエンジニアの育成
(5.2.1)
オープンイノベーティブな環境整備(5.3)

国内主導のグローバルコミュニティ

国内で訓練できる実践の場の創設
(5.3.1)
(5.3.2)
外部研究開発を支えるベンダの強化(5.4)

外部研究開発を支える IT ベンダの認定

外部研究開発を支える IT エンジニアの流動性強化
※
(5.4.1)
(5.4.2)
()は記載された章番号
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4
2 OSS の利活用
2.1
OSS の本質
(1)
オープンにする意味
開発したソフトウェアなどを一般に公開するオープン化事例が増加しているが、この活動には以下の二つの
意味がある。

社会貢献としてオープン化する
⁃
ソフトウェア開発は個人または組織で行われ、他者にまねされないために、クローズドなソースとして内部
で管理して販売するビジネスが主流である。しかし、どこでも似たような機能をそれぞれがスクラッチで開
発するのは非効率的であり、アカデミックな世界と同様に、他者が残した成果を引き継いで新たな成果を積
み上げる方が、ソフトウェア発展のためには有効である。従って、オープンソースという形で技術を共有し、
人類の知的活動の成果を累積していく活動は社会に貢献できる。
⁃
企業がビジネスで競争していても、製品の中には他社と競争している領域だけでなく、同じ機能を開発して
いる非競争領域がある。この非競争領域は、競合している企業同士で協力できる領域であり、その分野の開
発を協調することにより、各企業が別々に開発した時のコストを省ける。この協調部分は社会の財産となり、
社会に貢献できる。

自社ビジネスのためにオープン化する、または、オープン機能を利用する
⁃
自社技術のデファクト化に向けて、仲間作りのために基礎機能をオープンにして、その上で各社がエコシス
テムを構築し、新しい市場を創設して、その市場における先行者メリットを得るためにオープン化する。
⁃
他の多くの企業がオープンな機能を採用している状況において、独自に開発した機能を採用した場合、その
独自機能は標準から外れていると見なされて、逆差別化される可能性がある。
⁃
オープンな機能が既にある状況において、その機能を利用せずに独自開発を進めた場合、その企業だけが無
駄な開発コストがかかり、競争力低下につながる。
(2)
オープンにする文化

自社技術囲い込みのリスク
⁃
ネットワークの高速化とソーシャルメディアの発達により、新製品の情報が世界に伝搬するスピードは高ま
るとともに、類似製品の追随も早まっており、先行開発企業の利益享受時期が短期化している。従って、企
業は常に新製品を出し続ける必要がある。
⁃
自社技術を熟成させるために長い期間を必要とする単独での技術獲得手法では、企業連合による技術開発に
追いつけなくなる事例も多く、各企業にて外部の研究開発成果を取り入れる事が重要になってきている。
⁃
企業外部の団体・コミュニティでは多くの技術者の経験・知識・技術を取り込めるため、単一企業の開発研
究投資から、外部への研究開発投資に移行する企業が増加している。この外部研究開発により成果を得る手
法として、自社技術をオープン化し、仲間作りするという新しい考え方が広まっている。

IT 環境の変化への対応
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5
⁃
ネットワークの高速化、スマートフォン・ウェアラブル端末等の発達、および、IoT 向けセンサーの普及に
より、それらと多くの機器と高速に通信が行えるようになり、IT システムの用途は拡大し、今までの情報シ
ステム中心の IT 環境が大きく変化している。
⁃
新しい IT 環境では、ユーザ企業の IT 投資拡大や、異業種企業の参入など、IT のプレイヤーが増加し、新
技術のシーズを探すためには、想定している企業連合のシーズ以外に、想定外となる技術シーズやアイデア
を探すことが重要になってきている。その検索手法として、オープンイノベーションが有効になっている。
⁃
オープンイノベーションは、企業内の研究開発だけでは達成できないイノベーションを、完成前のアイデ
ア・技術をオープンにすることにより、外部の個人・団体の意見・アイデアと融合させることができ、如何
に外部の研究開発を利用するかが重要なポイントとなる。
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6
2.2
OSS の利用形態の変化とオープンイノベーション

OSS 利活用はコスト削減からオープンイノベーションへ

我が国の OSS 利用形態

IDC の調査によると、IaaS 上での OSS 利用(積極利用+適材適所利用)は 75%以上であり、IaaS で
の OSS 利用は当たり前になってきている。利用している OSS アプリケーションは、AP サーバ・DB
サーバ・運用管理などの基盤ミドルウェアが中心で、IT 環境の変化による新しい IT 利用形態は一部
のビッグデータ系のソフトに限られている。
承諾番号:
IDCJ-15-0805
Source: IDC Japan, Directions 2015 Tokyo「Software-Defined 化が進む IT インフラの新標準:OSS とセキュリティに刮目せよ」(2015 年 5 月)
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7

ユーザ企業に IT 技術者が多い米国等(中国、インドも日本より多い)では、ビジネスのための IT 利用
として、時間を掛けないアジャイル型の開発が増加し、その中心のソフトウェアは OSS である。

一方、日本では IT サービス企業に IT 技術者が集中しているため、顧客の IT 利用には開発リスクが
重要視され、アジャイル開発や OSS 利用という新しい開発スタイルに敢えて挑戦する風土が少ない。

日本の一部企業は、全く新しいイノベーションを生み出すという発想へ転換し始めているが、大部分
の企業では IT による現状の「改善」という発想に留まっている。
OSS を利用しているだけでは、必要に応じて追加した独自機能を、最新 OSS に絶えず移植する必要があり、
コスト高になる。そのため、OSS コミュニティ版に独自機能を入れること(貢献)が重要になる。そのためには、
コミュニティでの貢献度を上げて、コミュニティをリードする必要がある。
また、日本のユーザ企業は、IT エンジニアを採用し、積極的に「攻めの IT 経営」を実施すべきである。しか
し、IT エンジニアの必要数はユーザ企業の事業状況によって変化するため、米国の様に必要な時だけ IT エンジ
ニアを採用する事が日本の雇用事情(一度雇用した人員を安易に解雇できない)では厳しく、SIer にシステム構
築を依頼する傾向が強く、ユーザ企業と SIer が協力して「攻めの IT 経営」を実施することが必要である。
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8
3 他国での OSS 利用形態の変化と政策
3.1
米国の事情
日本OSS推進フォーラム主催の「OSS シンポジウム 2015」では、The Linux Foundation の Executive Director
である Jim Zemlin 氏の講演や、海外で活動している方々のパネルディスカッションから、以下の様な活動が報告さ
れている。

新規ビジネスでの OSS 利用の事例が報告され、Tesla 社の車のソフトウェア 80%は OSS を利用しており、ア
メリカで最も成長が速い家電メーカである「Go Pro Cameras」のソフトウェア 85%は OSS を利用している。
ソフトウェアの 80%が OSS という事は、80%の研究開発が外部で行われているという事を意味している。こ
の様に米国の先進企業では新規製品を早く開発するために、外部研究開発の代表である OSS を利用している。
また、外部研究開発活動を利用するだけでなく、貢献しながらリードしている外部研究開発技術者を提供して
いる。Intel 社では 100 人が外部研究開発で働いている。
日本 OSS 推進フォーラム主催「OSS シンポジウム 2015」
の The Linux Foundation の Jim Zemlin 氏講演資
料より引用
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9
3.2
欧州の事情
欧州委員会は 2000 年に OSS の利用に関する戦略を制定しており、その後 2003 年・2007 年 2011 年・2014 年
と定期的に戦略を見直している。2014 年に制定された戦略では、OSS の領域を次図のようにインフラから貢献まで
分けて、貢献の領域に到達したと表明している。
Open Source Strategy in the European
Commission より引用
http://ec.europa.eu/dgs/informatics/os
s_tech/index_en.htm
また、OSS の利用領域も以下の 5 分野に定義している
How Open Source Software is used at the Commission より引用
http://ec.europa.eu/dgs/informatics/oss_tech/opensource/ossinec_en.htm
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10
3.3
北東アジアの事情
日本OSS推進フォーラムが参加している、日中韓の北東アジア OSS 推進フォーラムでの情報から、以下の様な
活動が報告されている。Linux の国別貢献において、米国に次いで中国が 2 位、韓国は 5 位であり、日本は番外にな
っている。また、OpenStack(Kilo 版)の企業貢献でも Huawei 社が 9 位となっており、日本企業より上位に位置し
ている。この様に北東アジアにおいては、中国・韓国の活動が日本より活発化してきている。
(1)
中国
中国の先進企業では、各社で OSS を開発、公開しており、そのためのセンターを持っている。以下に一部を
紹介する。

Alibaba :100 以上の OSS を開発

Huawei :OSS 専用のセンターを設立

Tencent :200 以上の OSS プロジェクトを発足

Xiaomi
:GitHub に自社 OSS を公開(13prj) (*)
(*)OSS を利用しているだけでは、独自機能を最新 OSS に絶えず移植する必要があり、コスト高にな
るため、OSS コミュニティ版に組入れること(貢献)が重要になる。そのためには、貢献度を上げて、
コミュニティをリードする必要がある。 (2014.11 北東アジア OSS 推進フォーラム武漢大会にて
Xiaomi 技術者が講演)
中国政府、関連する国家政策や開発計画は、以下のように OSS 支援を強化

情報消費促進、工業化/情報化融合促進、および、
「ブロードバンド中国」戦略の実装

OSS 推進機関の構築と国内 OSS 公共サービスプラットフォームの構築

OSS トレーニングや OSS の優秀な人材の紹介
(2)
韓国
韓国政府は、下記認識のもと、各種施策を取っている。
オープンプラットフォームの経験から技術的な革新を行い、コミュニティでの OSS コミッタの作法をト
レーニングして、ソフトウェアの開発コスト削減と経済効果を確認しながら、グローバル企業ソフトウェア
への依存を克服していき、OSS をソフトウェア産業変革のコアバリューとする。
[韓国政府の OSS 関連施策]

IoT デバイスに Linux アプリケーションを展開

デスクトップ Linux のためのインフラ拡大

政府支援のソフトウェア研究開発は、原則的に OSS に転換

OSS コミュニティと OSS 開発者を支援(世界クラスの優秀な OSS 人材を育成)

大学カリキュラムを OSS 中心に再編
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11
3.4
東南アジアの事情
日本OSS推進フォーラムが協力している「2013 年度一般財団法人国際開発センター 公益目的支出計画自主研究
事業”アセアン共同体時代における日系IT企業の進出可能性に関する課題の考察(OSS 関連企業の視点から)”」の
中から、各国の政策を紹介する。
(1)
マレーシア
首相府の下でOSSの主導を委託されたMalaysian Administrative Modernisation and Management
Planning Unit(MAMPU)により、2004年より取組が開始された。マレーシアのOSSマスタープランは、ビジ
ネスコミュニティ、OSSコミュニティおよび公共部門といったすべての利害関係者により共同で策定されたも
のである。
MAMPUは、先駆的プロジェクトとしてOSSへの取り組みを主導し、結果として、OSSはマレーシアの国造り
プログラムをサポートする国家ICTアジェンダに貢献する事が出来た。
またMAMPUは、このOSS マスタープランの一貫として、Open Source Competency Centre (OSCC)を立
ち上げ、OSSの教育を実施している。
現在も継続的に運営され、2013年3月までに、2025名がOSCCのトレーニングプログラムを受講している。
(2)
タイ
タイ政府は国内のソフトウェア産業振興のために National
Science and Technology Development
Agency (NSTDA)のもとに software park という政府機関を設置した。この機関では、IT 技術の促進やプ
ロモーションのほかに、ソフトウェアの支援を行っている。タイにおいて実際に OSS に政府の支援が行われて
いる事例としては以下のものがある。
Thai Linux Working Group

⁃
TLWG (Thai Linux Working Group) は 、 NECTEC ( National Electronics and Computer
Technology Center は NSTDA によって組織された団体。政府の情報技術に関する調査・開発・計
画立案などを実施)が開発した Linux-SIS( School Internet Server )をメンテナンスしており、
Linux の導入をサポートしている。
⁃
ここでは、OSS の開発モデルを適用し、政府のコントロールではなくボランティアベースで開発を
進めている。しかしながら、資金的には NECTEC の支援を受けている。
⁃
また、TLWG は、Linux-TLE(Thai Linux Extension) といったディスクトップベースの Linux の
開発も進めており、タイの OSS の中心的役割を演じるコミュニティである。
Thai Open Source

⁃
Software Industry Promotion Agency(SIPA)が支援するオープンソースサイトである。タイでは、
オープンソース・コミュニティ支援は政府によりかなり積極的に行われている。全体の IT 化戦略
の過程で構築されたソフトウェアを OSS のモデルで開発・管理する取組が行われている。
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(3)
インドネシア
政府は 2004 年に Indonesia Goes Open Source(IGOS)を発表した。政府の方針として eGov(電子政府).
領域に限らずオープンシステム、OSS 活用ポリシーの啓蒙などを実施してきた。
特に Ministry of Research & Technologies が中心となって OSS コミュニティ、大学への開発支援、ワーク
ショップ、キャンペーン、展示会の開催あるいは海賊版使用を減じるための Govt.Office の利用促進など、OSS
の普及・促進活動を展開した。
2014 年現在、政府の OSS の普及・促進のための予算が減額されているが、IGOS 政策は今も継続して実施
されており、例えば、Ubuntu ベースのインドネシア版デスクトップ Linux プロジェクトは現在も活動を継続し
ている。
また、インドネシア Linux ユーザグループという非営利組織は、政府からの資金を利用して主要都市(地方
自治体)で OSS 利活用の推進活動を展開している。支援方法は、直接資金を援助するのではなく、地方都市の
大学、中小企業に対して、Ubuntu PC の配布、スキルアップトレーニング、エンジニアの育成などの OSS 活用
支援プログラムを展開している。
(4)
ベトナム
2004年、「OSSマスタープラン」を首相が承認し署名している。このOSSマスタープランは、同国のITマス
タープランと連結し、eGov(電子政府)プロジェクトの一翼を担うものである。
2007年2月のアジアOSSシンポジウムにて「このプランに65の省庁機関が参加しており、77%の機関がオ
ープンソースを使用しているか、使用する計画を立てている。最も大きい例では270クライアント、50サーバ
ーで使用しているという。RedHatもしくはFedoraCoreは23機関、OpenOfficeが23部署、Firefoxが22部署で
使用されている。」との状況が報告されている。ベトナムの省庁機関においては、OSSの活用が推進されてい
る。
(5)
カンボジア
2005 年、JICA の支援を受けながら「Year of Free/Open Source Software (Year of the Penguin)」とし
て FOSS(Free and Open Source Software)マスタープランが策定された。また、National Information
and Communication Technology Development Authority(NiDA)に FOSS リサーチ&サポート・セ
ンターが設立され、コールセンターが設けられた。そこでは、オープンソースに関する相談を電話などで受け
付け、オンライン・サポートを行っている。
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4 IT 激動期におけるオープンイノベーションの活用
IT 予算の主役変更
4.1
今後の IT 予算の主役は次図のように IT 部門から事業部門に変わり、IT 関連予算の 61%は事業プロジェクトへ移
動している。
⁃ マーケ部門は、顧客行動を判断するために IT 利用
⁃ サポート部門は、顧客タイプを診断するために IT 利用
⁃ 事業部門は、事業を強化するために IT 利用
企業の幹部に対する調査では IT 部
プロジェクトに占める事業部予算割合は
承諾番号:
IDCJ-15-0805
出典:IDC Japan, Directions 2014 Tokyo「バイヤーズジャーニーの掌握: 購買プロセスを流行に終わらせないための 3 つの秘訣」(2014 年 5 月)
事業部門では、IT を利活用した製品やサービス開発強化や、ビジネスモデルの変革をしていく必要があるが、そ
のためにはイノベーションを起こす必要がある。米国では多くのベンチャ企業が設立され、彼らが試行したもので、
良いものを大企業が買収する手法にて新ビジネスは創出され、市場が拡大していく。
しかし、日本ではベンチャ企業設立は長年の課題であり、米国の手法をそのまま取入れるのは困難と考える。そこ
で、既存の複数の中小企業に研究開発を試行してもらい、一番良いものを採用するなど、日本に適したイノベーショ
ンを考える事が必要である。
4.2
日本版オープンイノベーション団体の必要性
IoT 推進団体である IIC(Industrial Internet Consortium)を、5社のファウンダー(GE、Intel、Cisco、AT&T、
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14
IBM)が、標準団体としてではなく、仕様策定の場でもなく、エコシステムを作る団体として発足させている。
これらは、オープンイノベーションを利用してエコシステムを構築し、新規市場を創生しようという試みである。
既存市場の製品改善を重ねて競合力を強化させるという、我が国産業界の得意な開発手法が、新しい IT 環境では効
果が発揮しづらくなっており、その結果、世界のなかでの日本の GDP シェアは減少し続けている。
IIC のようなエコシステム構築を推進する団体を、日本企業のイニシアティブで発足させて、オープンイノベーシ
ョンを推進していくことが必要である。
世界と日本の GDP 推移
世界(除日本)
4.2 倍
世界(除日本)
100.8 兆ドル
24.0 兆ドル
1.2 倍
日本
日本
6.2 兆ドル
5.3 兆ドル
1995 年
日本シェア 18%
2010 年
世界 63.1 兆ドル
日本 5.5 兆ドル(9%)
2030 年
日本シェア 6%
内閣府「世界経済の潮流」等より経済産業省作成
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15
5 オープンイノベーション促進策
今まで述べてきた通り、我が国の新しい IT 技術への取組みの遅れを取り戻すための施策を以下に提案する。
5.1
IT 基礎技術の強化
5.1.1
公共テストベッド
新しい事業領域においてエコシステムを構築できる日本企業を増加させるためには、これらのエコシステム
構築のスキルを身につける必要がある。これらの新しい IT スキルを向上させる目的で、課題解決型で高い技術
力が必要な領域のテストベッドを構築するプロジェクトを政府が主導的に立ち上げ、日本企業、特に技術力が
高いが、エコシステム開発が苦手な中小企業が自由に参加できる仕組みを提供する。

5.1.2
IoT におけるテストベッド検討プロジェクトの設立
ユーザ企業主導のエコシステム
自社技術のデファクト化に向けて、自社開発技術をオープン化してエコシステムを確立し、市場優位性の確
保を目指すことが重要である。そのためには、エコシステムを構築している企業を政府が主導的に評価し、企
業主導のエコシステム構築の普及や日本企業の競争力向上を図る。

5.1.3
エコシステム構築に積極的な企業公開専用サイトの構築
OSS 化推進の評価認定
OSS の利活用は、既存 OSS の利活用による企業コストを削減させ、コモディティ化した部分への IT 投資を
新規領域へ振り向けることにより企業損益を向上させる活動である。また、OSS を利用した非競争領域のコス
ト削減だけでなく、既存 OSS のエコシステムなどが業界標準になっている領域においては、利活用しないこと
による逆差別化を防止する活動でもあり、その活動者を評価することにより、日本の生産力向上に必要である
ことを広く知らしめる。

5.1.4
OSS 化推進認定エバンジェリストの認定制度
「攻めの IT 経営銘柄」プロモーションの継続
業務効率化やコスト削減を中心にした IT 利用から、製品・サービス強化やビジネスモデル変革のための IT
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利活用に変革する必要があり、その必要性を知らしめる政府活動である「攻めの IT 経営銘柄」選定は、本提案
の重要な指針であり、その活動成果の広報を継続的に強化する。

5.1.5
受賞企業によるベストプラクティスセミナーの継続開催
政府の広報活動での IT 利用
企業の評価や活動者の評価には、政府から民間企業へのアンケートなどが必要であるが、企業へのアンケー
トが封書配布などになると、企業の作業負荷が高く、情報が幅広く集まる可能性が低くなる。また、入力は行
ったが、その結果を見たことはないという企業担当者は非常に多い。そこで、アンケート収集には、容易な入
力とフィードバック機能、統計情報の一元ビュー、省庁間共通プラットフォームなど、企業に役立つシステム
を、OSS をベースとしたスケール型先進 IT にて開発・導入する。

5.1.6
既存アンケート入封書配布に代わる電子アンケート・応募サイトの開発
政府の「攻めの IT」利用強化
北東アジアや ASEAN の諸国では、OSS の開発スタイルで OSS プラットフォームを開発している。多くの開
発者が必要機能を少しずつ開発し、全体を最適化しながら、最終的にターゲットとする機能を作り上げるアジ
ャイル開発の方法である。特に、理想的な最終形態が予測しづらい先進的な領域においては、ウォーターフォ
ール型の開発ではなく、アジャイル型の開発スタイルにすべきである。

5.2
アジャイル型で開発する政府プロジェクトの推進
これからの IT 推進者の育成
5.2.1
チーフエンジニアの育成
戦後の経済成長を支えてきた「ニーズに基づく製品開発」は、生活レベル向上やバブル崩壊で減少し、リス
クの少ないコスト重視の「シーズに基づく製品開発」が増加して久しいが、日本を再度成長させるためには、
「ニ
ーズに基づく製品開発」による技術力向上が必要であり、そのニーズを的確に捉え、目指すべき製品・サービ
スを定義して開発を主導できる人材が必要である。製品・サービス開発には、IT、特にソフトウェアが重要に
なっている中で、ソフトウェア等の IT 技術が分かり、かつ、ビジネスを推進できるリーダであるチーフエンジ
ニア(新車開発のチーフエンジニア相当)の育成が必要である。
IT 利活用方法が、ハードウェア・基本ソフトウェアのコモディティ化により、外部研究開発で開発された共
通部分の上に独自機能を追加する様に変化しており、
「共通部分+独自機能」を組合せた製品・サービス開発手
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法を導く人材が必要である。

5.3
これからのIT人材像として、IT の分かるチーフエンジニアを追加
オープンイノベーティブな環境整備
5.3.1
国内主導のグローバルコミュニティ
日本の競争力強化のためには、グローバルでのエコシステム開発が必須となり、最終的には日本発のグロー
バルコミュニティの創設が必要である。国内コミュニティでの育成とグローバルでの国際試合を通じて育成さ
れた、グローバルコミュニティを創設できる人材を育成し、国内主導のグローバルコミュニティを立ち上げる
ための土台作りとして、グローバル版のオープンイノベーション環境を設立する。

5.3.2
非 IT 企業と連携するオープンイノベーション団体の設立(グローバル部会)
国内で訓練できる実践の場の創設
日本では、オープンイノベーションをグローバルに推進できる企業だけでなく、企業規模・言語・文化の問
題などから躊躇している企業も多く、長期的にはグローバルなオープンイノベーション環境に移るとしても、
この様な手法を身につける実践の場が必要である。これらの企業を後押し、グローバル環境に飛び立つ前の練
習台としての国内版のオープンイノベーション環境を設立する。

5.4
非 IT 企業と連携するオープンイノベーション団体の設立(国内部会)
外部研究開発を支えるベンダの強化
5.4.1
外部研究開発を支える IT ベンダの認定
ハードウェア・基本ソフトウェアのコモディティ化により、外部研究開発で開発された共通部分を組み合わ
せて、付加価値部分を追求する開発手法を取る企業が増加すると期待している。この外部研究開発部分の技術
者を各企業で育成・維持するのは非効率であり、如何に共通部分をアウトソースするかが課題である。そのた
めには共通部分である外部研究開発を支える IT ベンダが必要であり、各企業が安心して付加価値部分を追求で
きるために、これらの IT ベンダを認定する。
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
5.4.2
攻めの IT 銘柄の対象に、攻めの IT 支援ベンダー銘柄を追加
外部研究開発を支える IT エンジニアの流動性強化
製品・サービス開発には、IT、特にソフトウェアが重要になっている中で、基本ソフトウェアのコモディテ
ィ化により共通部品となった機能を支える IT エンジニアが各社で育つとともに、それらのエンジニアのスキル
を活かせる企業の枠組みの変化が起きると考える。その変化に対応できる IT エンジニアの労働環境整備が必要
である。
また、就職斡旋に繋がるハッカソンの開催などにより、このような IT エンジニアを発掘する場を設立し、発
掘した IT エンジニアの流動性を確保する。

新世代 IT エンジニアの発掘事業

新世代 IT エンジニアのスキルマップの作成
以上
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