特集2 揺れる気持ちに寄り添う! 看取り期の家族ケアと遺族ケア 看取り期と看取り後の 家族の心を支える コミュニケーション 家族の心を理解する 私は10年以上にわたり,看取りを控え た家族のカウンセリングおよびサポート 株式会社チャプター・ツー 代表取締役 三村麻子 「介護は突然 始まるわけではない。20年かけて行われる子 育ての逆バージョンである」をポリシーとして,高齢者には 「70歳になったら始める老い仕度の勧め」を,介護に悩む家 族に対しては家族関係の再構築を提案し,家族カウンセリン グ(交通整理)を通して,それぞれの家族にとってベストな 介護の体制をプランニング。 「疲れない介護 」「家族が幸せ になる看取り&葬送」を提案してきた。2006年,通夜振る 舞いの席で故人様を独りにさせず,一緒に最後の食事ができ る邸宅型のセレモニーホール「フェアウエルプレイス DEAR」 をプロデュース。2010年12月から民生委員としても活動中。 を通して,家族の抱える問題の解決に取 ペインやグリーフへの理解,利用者およ り組んできました。サポート範囲と期間 び家族の心理状態の把握が十分なされな は長く,介護初期から終末期・臨終期を いことが原因で不信感を抱かせてしまう 経て葬儀・納骨まで,最長で10年にわた ことが多いように思います。 り家族をサポートすることもあります。 言葉かけ,スキンシップ,アイコンタ 家族の抱える問題は多彩で多岐にわ クト,配慮など,コミュニケーション たっており,解決するためには,時には ツールはさまざまでありますが,言葉か 弁護士・税理士・行政書士などによる法 けは欠かすことができません。しかしな 律面でのアプローチが必要になります がら,相手を理解できていない状況で, が,どのようなケースにおいても,在宅 マニュアルのような言葉かけや対応をし 医・訪問看護・介護施設およびホスピス ても,相手の心に響くコミュニケーショ などの終末期ケアの施設との連携は不可 ンにはならないばかりか,むしろ傷付け 欠です。さまざまなケースの高齢者の看 てしまうことにもなりかねません。 取りをサポートすることで,医療機関・ このことから,家族の心理面の理解を 介護施設側の事情も理解してきました。 深めることが,看取り期および看取り後 看取り前後の興奮状態の家族から聞か の家族の心を支えるコミュニケーション される不安や不満は,同じ問題であって を考える第一歩となります。 も葬儀後から少しずつ変化していきま す。精神的にも落ち着いた状況になる納 家族関係の把握 骨後の遺族の言葉から,医療機関・介護 家族の心理面を理解するために必要不 施設での対応の問題点が浮き彫りになる 可欠なのが,家族関係の把握です。まず ことがあります。特に,スピリチュアル は,利用者を取り巻く家族関係を整理す 臨床老年看護 vol.22 no.5 45 ることから始めます。施設利用者の場合 家族の問題をサポートする上でも,必要 などは,入居時に家族関係について情報 だということが分かると思います。 を得ることができますが,入院時には通 常詳しい情報がありません。手探りで情 報をつかんでいく必要があります。 46 家族だから 愛情があるわけではない 子ども自身についてだけではなく,そ 子どものかかわり方も,立場や性別に の家族の生活状況や兄妹関係など,生活 よりさまざまです。同じ子どもという立 歴における親族のかかわり状況によっ 場であっても,親との関係=愛情には強 て,終末期における人間関係はさまざま 弱がありますので,各々の愛情の性質を に変化していきます。 見極める必要があります。 あるケースでは,両親のサポートを積 関係性の強弱を左右するのは,愛情と 極的に行ってきた長男一家が,長男の子 いうプラス感情だけではありません。親 どもの不登校をきっかけに,両親が暮ら から支配的な育て方をされた場合や, す入居施設への訪問が途絶えたことがあ きょうだい間で格差のある育て方をされ りました。問題の性質上,年老いた両親 ていたと感じている場合など,子ども世 にそのことを伝えることができず,状況 代の成育歴によっては,強迫観念や義務 の説明がなされないまま訪問できない 感,きょうだい間の軋轢やコンプレック 日々が続きました。週1回は訪問してい スなど,マイナス感情に影響を受けてい たのが訪れなくなったことから,お母様 るケースも見受けられます。 の精神状態が不安定になり,うつ状態か 子ども世代のきょうだい間の関係がシ ら食欲不振となり,体力が落ちていきま ンプルでない場合は,親子関係もまたシ した。孫の不登校をきっかけにして,安 ンプルでないと考えられます。むしろ, 定していた生活の歯車が少しずつ狂い, ストレートな愛情や感謝の思いを持っ 利用者の精神状態に大きな影響が出ると て,看取り期の親への対応ができる家族 は,想定外の事態でした。この状況を理 関係の方が少ないのではないでしょう 解していなかった施設側の対応が遅れた か。夫婦間においても同様で,夫婦だか のは仕方ないことですが,もし長男家族 ら愛情があるとは限りません。本人が愛 の生活状況をきちんと把握できていたな 情だと思っていても,相手は愛情と認識 ら,もう少し違った状況になったと思わ できない,本当の意味で愛情とは言えな れるケースでした。 いようなケースも多く見てきました。家 このことからも,主体となる人たちの 族だから,親子だから愛情があるのが当 生活状況は最低限把握しておくことが, たり前ではないことを知っておいてほし 利用者の安定した生活を守るためにも, いと思います。 臨床老年看護 vol.22 no.5 ➡続きは本誌をご覧ください
© Copyright 2024 ExpyDoc