プロティビティフラッシュレポート

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インドの新しい内部統制法規
2015年11月9日
世界的な会計不正の余波で、多くの国が財務報告の統制に
理内部統制」を確立し運用している旨の宣言があります。こ
ついての法令を制定し、取締役会、上級経営者、監査人等が、
の規定は、財務報告の信頼性確保のための包括的統制環境
コーポレートガバナンスの仕組みを確立させるという目的に基
整備が取締役の責任であることを示しています。
づいて、財務報告に係る内部統制について評価し報告するこ
とを義務付けています。インドでは、2013 年会社法の施行が
会計士協会の「ガイダンスノート」では、公開会社、非公開会
大きな一歩となりました 。2015年9月に、
インド勅許会計士協会
社の外部監査人に対し、
「財務報告に係る内部統制」という
(ICAI)が「財務報告に係る内部統制監査に関するガイダン
用語を使っています。「財務報告に係る内部統制」は、
「一般
スノート」
(「ガイダンスノート」)を発表し、会社法対応における
に公正妥当と認められた会計原則(GAAP)に従った財務諸
外部監査人の関与について定めています 。
表を開示するプロセスと作成手続」と定義されています。「財
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務報告に係る内部統制」には以下が含まれます。
このフラッシュレポートでは、インドで事業を展開する全ての企
• 取引と資産処分を合理的に詳細なレベルで正確かつ適正
業に適用される要求事項について概説します。これらの要求
に示す会計記録の管理についての方針と手続
事項については、公開会社、非公開会社を問わず、全ての会
• 取引が GAAPに従って記録されていること、会社の全ての
社に適用されます。
入金と支払が経営者と取締役会の定める権限に基づいて
内部統制の定義
いることに対する合理的な保証を与える方針と手続
インド会社法は、
「経理内部統制」
(internal financing controls,
• 財務諸表に重大な影響を与える可能性のある会社資産の
IFC)
という用語を導入し、以下のように定めています。「会社
不正な取得、使用及び処分の防止または適時の発見に対
方針の遵守、資産の保全、不正または誤謬の防止と発見、会
する合理的な保証を与える方針と手続
計記録の網羅性と正確性、信頼性のある財務情報の適時の
作成等の、規律的かつ有効な事業執行を強化するために、会
US-SOX対応経験のある方は、
上記の定義がSECやPCAOB
社が取る方針と手続」。インド会社法により、インド証券取引
のそれと類似していることに気付かれるでしょう。
「経理内部統
所上場企業(上場公開会社)
の取締役会は「取締役報告書」
制」は公開会社の取締役報告書の記載事項ですが、2014 年
(Directors' Responsibility Statement)の報告を義務付け
会社
(会計)
規則第 8 条 では、非公開会社も
「経理内部統制」
られており、その必須記載項目の一つに、適切かつ有効な「経
については報告すべきと定めています。
「財務報告に係る内部
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統制」では、法定監査人による内部統制監査の対象範囲を定
1 www.mca.gov.in/Ministry/pdf/CompaniesAct2013.pdfをご覧ください。
2 ICAIスタンダ ード は http://www.moneycontrol.com/news_html_files/news_
attachment/2015/Internal%20Financial%20Controls%20-%20ICAI%20
Guidance%20Note%20-%20September%202015.pdfをご覧ください。
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3 www.mca.gov.in/Ministry/pdf/NCARules_Chapter9.pdfをご覧ください。英語版
は30ページから始まります。
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めています。米国と同様、
「財務報告に係る内部統制」の整備
月31日以降に終了する会計年度から必要となっていますので、
状況と運用状況の有効性の両方について、
監査意見を表明す
報告制度は既に発効しています。一方、監査人による「財務
ることになっています。
「経理内部統制」
と
「財務報告に係る内
報告に係る内部統制」の有効性に関する意見表明は、2016
部統制」
とは、
相当部分が重複していることに留意してください。
年 3月31日以降に終了する会計年度から必要となっています。
上場公開会社以外の会社については、取締役報告書と監査
要件の適用
報告書の両方について、2016 年 3月31日以降に終了する会
計年度からの適用となっています。
「経理内部統制」と「財務報告に係る内部統制」の報告制度
は、本社登記本国に関わりなく、2013 年会社法によりインドに
登記された多国籍企業のインド国内子会社、関連会社、合弁
従って、多国籍企業のインド子会社、関係会社、合弁会社が、
会社(単体ベース)全てに適用されます。この要件は、インド
まだ有効な内部統制の構築を決定していない場合、直ちにそ
会社法独自のものであり、
例えば米国上場企業が行うSOX 対
の決定に向けた検討を開始することが喫緊の課題となります。
応など企業がそれぞれの国の制度に基づいて行っている報
US-SOXとの類似
告とは別に対応すべきものとなります。
米国サーベンス・オクスレー法は、全上場会社は毎年内部統
2014 年会社(会計)規則第 8 条(4)
によれば、公開会社につい
制報告書を発行し、一定の条件を満たす会社は外部監査人
ては、前年度末の払込資本金が 250 百万ルピー(約 460 百万
による内部統制監査を受けなければならないと定めています。
円)以上の会社が、
この報告義務の対象となります。ここで払
従って、経営者は、財務報告に係る枠組みを構築し、枠組みに
込資本金は、
「払込済として計上された累計額。発行済株式
含まれた内部統制をテストし維持更新し、以て「財務報告に係
に対し支払われた金額に相当し、会社資本金に組み入れた金
る内部統制」が、
その整備状況・運用状況共に有効であるとい
額を含み、
株式関係のその他株主拠出額を含まない」
と定義さ
う言明の裏付けとしなければなりません。
れています。弁護士は各社の状況を勘案して当規定を適用
することを勧めるかもしれませんが、
この金額条件は比較的低
「財務報告書に対する企業責任」として経営者確認書を定め
く、ほとんどの企業が対象となるでしょう。意外にも、非公開会
たSOX 法第 302 条の報告制度は、
インド法における取締役会
社についてはこの金額条件が示されていません。
による「経理内部統制」報告制度とよく似ています。この経営
者確認書では、開示に対するコントロールと手続について報告
インド会社法第 134 条(3)
(c)
と同条(5)
(e)により、全てのイン
しなければなりません。SOX 法第 404 条の「経営者による内
ド上場会社の取締役は取締役報告書を発行し、
「経理内部
部統制評価」は、経営者による内部統制の年次報告と、法定
統制」の妥当性と有効性について言及しなければなりません。
監査人による「財務報告に係る内部統制」の有効性の証明を
定めていますが、これはインド法における「財務報告に係る内
「財務報告に係る内部統制」については、同法第 143 条 (3)(i)
部統制」の報告制度と類似しています。
により、法定監査人は、連結財務諸表を含む全ての会社の監
査報告書の中で、
「財務報告に係る内部統制」の妥当性と有
報告日付
効な運用についての意見を表明しなければなりません。2014
年会社(会計)規則第 8 条(5)
(viii)
と会計士協会「ガイダンス
会計士協会「ガイダンスノート」では、監査人は決算日時点に
ノート」により、上記以外の全ての会社(資本金が上記限度以
おける内部統制システムの妥当性を報告することと定めてお
下の公開会社や、非公開会社など)の取締役と法定監査人
り、これは米国の基準時点評価に類似しています。また、イン
は、それぞれ、取締役報告書と監査報告書の中で、
「経理内
ド証券取引委員会(SEBI)は、全ての上場会社に対し、CEO
部統制」と「財務報告に係る内部統制」の妥当性と報告の有
とCFO が、
「財務報告に係る内部統制」を確立し、維持し、そ
効性について報告しなければなりません。
の有効性を評価している旨の四半期報告書の提出を求めて
います。一方、インド会社法第 134 条 (5)(e)は、報告時点や報
発効日
告間隔については、
何も述べていません。従って、
内部統制は、
期間・年度を通じて、
有効に実行され監査されるべきです。
公開会社については、取締役報告書における「経理内部統
制」の妥当性と有効性に関する取締役会の言明は、2015 年 3
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行うことが必要です。整備状況評価の目的は、統制の仕組み
実施のプロセス
に関する経営者の言明の裏付けを得ることにあります。比較
「ガイダンスノート」には、
「財務報告に係る内部統制」の監査
分析によってギャップが発見された場合、現状コントロールをあ
について作業フローモデルが示されています。以下にこのフ
るべき姿に強化するか、
またはギャップより発生するリスクに対応
ローチャートを示しました。このフローは、
計画・整備状況評価・
する新たなコントロールの導入が必要です。設計評価の一環と
運用状況テスト
・報告の4段階に分かれています。このプロセ
して、財務報告プロセスとコントロールの詳細なウォークスルーを
スフローについても、
米国のものと類似しています。
行い、
コントロールに対する理解を確認することも必要です。
また、
緊要なプロセスについては、
その全てに、
業務記述・
フローチャー
ト
・
リスクコントロールマトリックスを作成しなければなりません。
計画段階は特に重要です。評価手順の計画検討だけではな
く、取締役会・監査委員会・然るべき経営者との内部統制の重
要性についての協議が必須です。この段階では、全社的な統
運用状況テストでは、テスト計画の設定と実施、改善が必要な
制、IT 全般統制、主要産業にとって適切なプロセスレベルコン
コントロールの把握、改善後のコントロールに対する再テストを
トロール、重要な財務報告要素に対する内部統制手順等を含
行います。テストの目的は、統制不備の影響を評価し、統制の
む内部統制の適切なフレームワークの確立に対処しなければ
有効性について結論付けることにあります。
なりません。ここでは、
COSOの内部統制フレームワークが有効
でしょう。プロセスオーナーやその他関係スタッフに対し、内部
取締役会が「取締役報告書」を作成するため、
また、監査人が
統制の重要性とそのプロセスを理解させる研修が必要でしょう。
費用対効果のある意見を述べるためにも、
経営者自身がこの評
価プロセスを行うことが必要でしょう。評価プロセスを通じて、取
整備状況評価では、
全社的な統制やIT全般統制だけではなく、
締役会、監査委員会、上級経営者に対して、実施結果が報告
重要な事業プロセス内の重要コントロールについて、
まず現在ど
されることになります。さらに、
取締役会や経営者が、
法対応をき
うなっているのかを把握し、それをあるべき姿と比較する分析を
ちんと行うためにはアウトソースが必要と判断する場合もあるか
リスク評価とリスク管理 監査業務
計画
開始
主要な
勘定残高、
開示項目を
識別する
主要な
取引フローを
識別し
理解する
重大な
虚偽記載の
リスクに対する
統制手段を
識別する
重大な
虚偽記載の
リスクを
識別する
IT全般統制
と関連した
アプリケーション
を識別する
整備状況評価
不備の影響評価、改善手順の検討
統制設計評価
統制導入評価
適正性の結論
運用状況テスト計画
運用状況テスト
テスト内容、
時期、
範囲
の決定
結果の検討、
有効性の結論
テスト実施
報告
財務諸表
に対する
意見形成
監査意見の
影響評価
終了
内部統制監査報告書、監査報告書の作成
監査品質の継続的監視
出典:
「財務報告に係る内部統制の監査に関するガイダンスノート」
29ページ
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経理内部統制
に対する
意見形成
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も知れません。特に対応初年度では、
フルアウトソースまたは内
会社法と「ガイダンスノート」では、
「経理内部統制」の整備状
部監査チームとの協力の形でのコソースが必要となる場合が
況と運用状況の有効性について、監査人が監査報告書に記
あるかも知れません。
述する必要があります。適切な計画と、
経験豊富なノウハウが
なければ、この監査には多くの時間と費用が費やされるでしょ
要約
う。会社法規制の対象となる可能性があると考えるインド企業
米国の経験では、内部統制評価には、特に外部監査人が関
またはインドで事業を行っている多国籍企業は、自社に対する
与している場合には、時間がかかる可能性があります。インド
法的要件を法律専門家と確認し、
その対応に着手すべきです。
プロティビティについて
プロティビティ
(Protiviti)は、
リスクコンサルティングサービスと内部監査サービスを提供するグローバルコンサルティング
ファームです。北米、
日本を含むアジア太平洋、
ヨーロッパ、
中南米、
中近東、
アフリカにおいて、
ガバナンス・
リスク
・コントロール・
モニタリング、オペレーション、テクノロジ、経理・財務におけるクライアントの皆様の課題解決を支援します。プロティビティ
のプロフェッショナルは、経験に裏付けられた高いコンピテンシーを有し、企業が抱えるさまざまな経営課題に対して、独自
のアプローチとソリューションを提供します。
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