がんの放射線治療 長崎医療センター 放射線治療室 外科手術が中心だった日本のがん治療において,最近,放射線治 療が注目されています.技術革新により,正常な細胞を極力傷つ けずに治療できる装置や手技が開発されたからです.当院でも従 来どおりの照射はもちろん,高精度放射線照射と呼ばれる最新の 治療技術に対応したリニアック装置を新規導入いたしました(2011 年6月から稼働予定). 新放射線治療棟(外観) 新放射線治療棟(待合い) 新放射線治療棟(リニアック) 放射線治療スタッフ ☆放射線治療の特徴 ①臓器の形態や機能を保つことができる. ②がん治療の中では,比較的に副作用が少ない. ③根治治療から緩和治療まで幅広く使われる. ④がん治療のなかでは比較的に経済的である. ☆放射線治療の目的と効果 ①根治照射:放射線治療を軸にがんを根治する.進行期でも抗癌剤を 併用することにより有効性が増す.適応は頭頸部がん,肺がん,食道 がん,子宮頚がんなど. ②術前照射:病巣に照射し,手術の切除範囲を狭くする.適応は頭頚 部がんや直腸癌など. ③術後照射:手術の後に照射し,再発を予防する.悪性脳腫瘍,頭頸 部がん,乳がん,子宮頚がんなどほとんどのがんで行われる. ④緩和照射:骨転移に対しては,70~90%に鎮痛効果を得られる.脳 転移に対しては60~80%で症状改善が見られ,生存期間の延長も得 られる.この他にも癌性疼痛の緩和や気道,消化管の通過障害の改 善に有効. ⑤その他の照射:骨髄移植の前処置としての全身照射や一部の良性 疾患に対しても放射線治療が用いられる. 照射前 62Gy 26Gy 照射後 喉頭がんに対する根治照射:腫瘍は消失し,発声機能も温存できました. 腫瘍 治療前 治療後 子宮頚がんに対する根治照射:腫瘍は消失しました. ☆当院における放射線治療患者数の推移 近年,放射線治療患者は増加傾向です. ☆高精度放射線治療 新規リニアック装置にて,下記のような高精度放射線治療が可能とな り,従来より高い治療効果と副作用の低減が期待できます. ○脳あるいは体幹部への定位照射 いわゆる「ピンポイント照射」で,孤発性の小さな原発性腫瘍ある いは転移性腫瘍に対して多方向から集中して照射することにより, 従来より高い治療効果と副作用の低減が期待できます.例えば 3cm以下の限局性肺癌であれば局所制御率は80~90%程度で手 術と比較しても遜色ないとの報告もあり,比較的に低侵襲で,短期 間に治療を行うことができます. 肺癌に対する定位放射線照射 肺癌に対する定位放射線照射(線量分布) ☆当院に新規導入する放射線治療システムに は,以下の装置が装備されています. ○3D治療計画装置(Pinnacle3):CT画像を元にして,コンピュー ター上で3次元的に治療計画を作る装置です.線量分布を確認 しながら計画を作成できるため,以前のレントゲン写真を用い た2次元的な治療計画と比べ,より適したプランを作成できます (図1,2). ○マルチリーフコリメーター(MLC):リニアック装置に取り付けら れた5~10mm幅の金属スリットです.これを自由に動かすこと により,複雑な形状の腫瘍に対応した照射野を作成できます. 以前の長方形の角だけをカットした照射野と比べると,形状適 合性が向上しています(図3,4,5) . ○コーンビームCT,自動位置補正寝台:患者を治療時の体位 で寝かせた状態で透視撮影を行い,それを1回転させることに より,CT画像を取得します.これと治療計画時のCTとの誤差を 算出し,自動位置補正寝台にフィードバックすることにより,数 mm以下の誤差で毎回の照射を行うことができ,以下に記す高 精度放射線治療が可能となります(図6) . 図1:以前の治療計画 図2:3D治療計画 図3:以前の鉛ブロック 図4:MLCによるブロック コーンビームCT 回転 治療用X線 図5:MLC 自動位置補正寝台 図6:コーンビームCTと自動位置補正寝台 ☆これらの新しい放射線治療装置・治療法を導入することによ り,患者様や主治医の先生のニーズにできるだけ対応できるよ うにして,より低侵襲で治療効果の高い放射線治療を目指した いと思います.もちろん,従来どおりの根治照射や術後の予防 照射,緩和目的の対症的照射などにつきましても,これまで同 様に力を入れていきたいと思います.日々の診療における放射 線治療の適応や,新たに予定している高精度放射線治療の内 容などにつきまして,何かご質問やご不明な点などありましたら, お気軽に当院放射線治療部までご連絡ください.
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