冠 動 脈 疾 患 治 験 促 進 の取り組み ○和田友里子、末正洋一、東野順彦、大辻悟、滝内伸、浅野克明、生島雅士、長谷川勝之、安田徳基 所属:株式会社プログレス、東宝塚さとう病院 循環器内科 目 的 結果・考察 東宝塚さとう病院は、年間に冠動脈インターベンションが950件以上実施している急 性期の循環器専門病院である。ここ2年間で3件の冠動脈疾患患者を対象とした治験を 実施してきた。急性冠症候群、亜急性冠症候群、陳旧性冠症候群など病態のStageに よって取り組みが異なる。急性冠症候群の場合は急性期であり、難易度の高い試験であ る。医師や看護師や臨床検査技師と密に連携を取り、ツールなどを活用し、円滑な組入 れと運用を行うことが重要である。一方陳旧性冠症候群の場合は、病診連携の観点から 近医への配慮が必要である。本報では、これらの取り組みについて、東宝塚さとう病院 での結果を分析する。 以下に各試験の組入れ状況を示した。当院は循環器の専門病院であるが、救急外来患者 のうち緊急PCI該当の患者は10人に1人の頻度であった。急性冠症候群対象の試験の組 み入れを平日の9∼18時としたが、緊急PCI患者全体の約50%カバーでき、その約 60%の患者をエントリーすることができた。5ヵ月で24例のエントリーを達成した。 亜急性冠症候群治験の場合は患者が多くの治験医師に分散するため、カンファレンスで 個別に治験医師の意識に働きかける取り組みを行い、4ヵ月で17例のエントリーを達 成した。 陳旧性心筋梗塞対象治験は、PCI施行患者のうち通院中の患者は一部であるため、慢性 疾患等同様に陳旧性心筋梗塞で通院中の患者全てに対して組入れを試みた。その結果、 12ヵ月で34例のエントリーを達成し、現在も組入れを行っている。 方 法 ●治験別の組入れ症例数 対象疾患 契約例数(初回) 実施例数 組入期間 急性冠症候群 16例 24例 6ヵ月 亜急性期冠症候群 16例 16例 5ヵ月 陳旧性心筋梗塞 20例 34例 12ヵ月 ■施設の紹介 開 設 平成13年年6月11日 住 所 兵庫県宝塚市長尾町2−1 病 床 数 199床 診療科目 循環器科、心臓血管外科、内科、外科、形成外科、麻酔科、 リハビリテーション科 特 徴 1. 急性期医療の提供 循環器疾患を中心とした24時間体制の急性期医療を実施しできる体 制を整えている。当院受診患者数は年々増加し、10年間で心臓カ テーテル検査総数13,000件(カテーテル治療:6,000件) 、心臓血管 外科手術総数3,300件(心臓手術:880件)を実施しました。10年間の 診療およびその実績から、東宝塚さとう病院は「心臓疾患専門の急性 期病院」とひろく評価を頂くまでになりました。 2. 研修教育病院 3. 地域医療へ貢献している病院 地域医療機関との連携を促進し医療従事者の研修、施設・機器の共同 利用を行い、医療の協働化をはかる。また公開講座、交流会などを通 じて地域住民との交流をはかる。 冠動脈疾患の各病態ステージにより組入れ方法が異なるため、下表のとおり試験によっ て組入れ医師に特徴が出ていた。急性冠症候群治験は、救急の対応が多い医師に症例が 多く、外来診療から組入れとなる亜急性冠症候群治験と陳旧性心筋梗塞治験は、PCIか ら外来診療をフォローアップされている医師に多かった。 ●主治医別の組入れ症例数 医師名 急性冠症候群 亜急性冠症候群 陳旧性心筋梗塞 A 0 0 2 B 0 0 0 C 1 6 1 D 4 2 6 E 3 6 10 F 7 2 7 G 4 0 4 H 8 0 2 I 3 1 0 合 計 30 17 32 ■急性冠症候群治験 当院では緊急PCIを年間200件余り実施している。組入れまでの流れを以下に示した。 組入れに関しては、該当患者の大半が救急外来経由のため、救急外来との連携、エント リー後の夜間対応を試みた。救急外来 (以下ER室と略す) 室で候補患者を逃さないように 何度も啓蒙し、ERの部屋に患者さんが運ばれたら、以下のエントリーチェックリストに より判定してもらい、可能性があれば医師から治験コーディネーター (以下CRCと略す) へ連絡が入る流れを作った。治験手技に関しては、院内のクリニカルパスをベースに治 験のクリニカルパスを運用した。クリニカルパスは、ICUの部屋に被験者が移送された ときに、CRCがカテ記録等を参考にその後のスケジュール管理するためのものである。 ●フロー図① 救急車 ER室 院内検査 Drが 選択基準チェック 適格なら CRCへ連絡 Drが同意取得 (ピンク:5例以上登録の医師) 急性冠症候群治験では、9時から18時までに組入れができる患者さんに絞っており、 夜間休日は症例の組入れは行わなかった。夜間や休日の緊急PCIは全体の約半数あり、 組入れ対応を行っていたら症例が2倍になった可能性が考えられた。平日の昼間のみの 対応であったが、ER室に治験が浸透していることもあり、対応していた時間帯の緊急 カテの約60%の患者さんが組入れに至った。 ●急性冠症候群治験の組入れ症例数と緊急PCI件数(2ヵ月間のみ) 見逃し カテ室 LD投与 PCI 組入れ症例数 (昼間のみ) CRCが クリニカルパス作成 ICU 症例組み入れまでの流れ 病棟 治験のクリニカルパス 関連部署への案内 夜間採血の申し送り ■亜急性期冠症候群治験 組入れまでの流れを以下に示した。当院でPCI対応を行った患者 さんのうち、外来診療で定期的に継続的に治療をしている患者 さんとフォローCAGで狭窄している患者さんのうち、PCIへ移 行する患者さんを取りこぼしなく組入れる必要がある。そのた め、啓蒙ツール活用と月2回のカンファレンスで約10名の治験 分担医師へ毎回周知した。 外来診療 CT検査 狭窄あり CRCへ 連絡 狭窄なし CAG検査 狭窄あり 同意取得 狭窄なし 同意取得 休日PCI件数 PCI件数 総 計 2月 5 6 5 11 7 18 3月 5 10 3 13 4 17 亜急性冠症候群治験においては、組入れの前 提として、CTとCAGのどちらかによって狭窄 を確認する必要があった。CTで確認して組入 れに至った症例が多いのは、CAGに比べPCI まで操作が連続しておらず、同意説明する余 裕が生まれやすいことが考えられた。 ●亜急性冠症候群治験の狭窄確認の方法 陳旧性心筋梗塞治験に組み入れられている患 者背景を見ると、65歳以上、多枝病変の患者 が多く認められた。 ●陳旧性心筋梗塞治験の患者背景 狭窄確認の方法 組入れ症例数 CT 12 CAG 5 延症例数 背景因子 65歳以上 23 2型糖尿病 9 2 多枝病変 23 慢性腎不全 CAG検査 PCI 見逃し CRCへ 連絡 平日PCI件数 昼夜合計 2度目の心筋梗塞 ●フロー図② PCI 平日昼間PCI件数 平日夜間PCI件数 PCI 見逃し ■陳旧性心筋梗塞治験 組入れまでの流れを以下に示した。PCIの件数は年間950例と大変多いが、相当数の患 者が近医に返されフォローアップされている。慢性期疾患同様のスクリーニング調査と 治験医師からの紹介の両面の対応を行った。 また陳旧性心筋梗塞治験組入れ患者の背景を SPSSによって多変量解析(等質性分析)を 行った。その結果、少数であった2度のAMI の有無の背景を除き、被験者の背景は、 「65 歳未満、多枝病変あり、2型糖尿病あり、腎 不全なし」と「65歳以上、多枝病変なし、2型 糖尿病なし」の2つのグループに分類され た。前者は、糖尿病からくる動脈硬化の進ん だ患者層であり、後者は高齢ではあるが非糖 尿病で多枝病変がない動脈硬化が進展してい ない患者層であることが考えられた。 9 ●数量化 165才未満 2型AMI 2型DM 多枝病変あり なし なし 0 腎不全なし 2型DMあり 次 元 2 腎不全あり 65才以上 多枝病変なし −1 腎不全 多枝病変 2度AMI 2型DM 年齢 −2 −3 −4 −1.0 2型AMIあり −0.5 0 0.5 1.0 1.5 次元1 ■結論 ●フロー図③ カルテスクリーニング Drへ打診依頼 同意取得 エントリー 冠動脈疾患の治験のうち急性冠症候群治験は、エントリーに際し患者の処置の流れを抑 えることが重要であり、亜急性冠症候群治験や陳旧性心筋梗塞治験は治験医師への、意 識の浸透と迅速な情報共有が有効であった。
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