1 - 国際印刷大学

世界の印刷博物館の調査研究(第3報)
―本木昌造140回忌(2015年9月3日大光寺)法要での講話から―
国際印刷大学校学長・九州産業大学名誉教授
工博
木下堯博
日本の印刷産業の発展の基礎を創られた本木昌造の140回忌に向けて、Print Zoom 誌
2015 年7月号に、1995年の120回忌から世界の印刷博物館に関する20年間(うち、
欧米11回,中韓11回渡航、国内5回)の調査活動の概要をまとめた。
2015年9月3日法要の当日は長崎駅にほど近い長崎県歴史文化博物館を訪問、本木
昌造関連の文献164件を精査した。その後、長崎県立図書館にも行き、同様の文献調査を
行った。ここでは174件が検索され、比較的新しい文献が多くみられた。
ホテルニユー長崎で長崎県歴史文化博物館の大堀哲館長ともお会いし、本木昌造を中心
とした展示内容などについて討論が出来た。
本木昌造140回忌の法要(写真1)は菩提寺の長崎市、大光寺(写真2)の本堂で行わ
れ、多数の参列者があった。
法要後、著者は本木昌造に関する博物館建設について世界の印刷博物館の調査概要の講話
を行った。また、140回忌、長崎県印刷工業組合60周年を記念し、長崎市立図書館と共
催で「本木昌造と活版印刷~活版伝習所復活~」の市民講座が開催された。
(活版伝習所の
写真3)
更に、長崎市を中心として本木昌造・関連マップ(写真4)も作成され、著者の論文「本
木昌造140回忌に寄せて」Print Zoom 2015 年 7 月号とともに参加者全員に配布された。
次に、当日9月3日の講話内容に資料を補足追加して第3報としてまとめたものである。
今から20年前の1995年9月2日の120回忌では、東亜閣で座談会が開催され、
本木昌造に関する博物館設立の提案をした。詳細は1998年10月発行の長崎印刷組合
史に座談会の討論内容と世界の印刷博物館の調査研究(第1報)がまとめられ、又、長崎新
聞(1995年8月26日号)にもその概要を発表した。
本木昌造を中心とした博物館建設の提案のきっかけになった動機は1377年に「直指
身体要説」が金属活字印刷されたと言われる場所に1991年に清州古印刷博物館が建設
され、
「直指」を中心とした展示がされている。清州市の周辺大学や世界の印刷史研究者と
協力して、
「直指」の再現などの研究を積み上げ、その成果として、2000年に UNESCO
の Memory of the World の認証を得るまでに研究が進展した。
1995年は5月に drupa95 がジュセルドルフ開催され、グーテンベルグ博物館、ライデ
ン大学、アーヘンの新聞博物館、プランタン・モレトゥス博物館、ダルムシュタット工科大
学、釜山工業大学などを訪問したが、国際的印刷展 drupa, IPEX, print, IGAS などで日程
を調整し、博物館などの視察を行った。
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その後、主な視察・調査内容は表1にまとめ、それぞれ論文で報告している。
表1が入る。
2014年、㈱サンエムカラーがインタンシップの導入をし、その成果は2014年
11月、日本印刷学会秋季研究発表会で発表、その詳細は page2015 で報告(内容は印刷情
報 2015 年 3 月号)したが、上洛するたびに、明治3年、京都で初めて印刷所(點林堂)を
開設した本木昌造の弟子の古川種次郎氏について調査した。
2014年6月には大串誠寿氏が筑紫新聞に本木活字で明治10年に印刷されたことを科
学的に立証し、九州大学から博士号を取得され、今後、若手研究者の登場が期待される。
(論文は国際印刷大学校研究報告第 15 巻参照)
その他、島屋政一の本木昌造伝の出版をしている朗文堂の大石薫氏が日本女子大学の生
涯学習センターで「活字印刷に関わる仕事」について2014年12月に講演され、HP に
内容が公開されている。また、板倉雅宣氏が活版印刷の発達史の出版でタイポグラフーイ
学会から本木昌造賞を2009年に受賞した。
1995年に提案した本木昌造に関する博物館建設は当面、難しいと考えられるので、
このように各地に点在している資料を収集し、データベース化し、Web 対応で交流し、
印刷文化の発展と学術研究に役立てることが当面必要かと思われる。
2015年9月17日に開館された長崎市内の「軍艦島デジタルミュージアム」
(年中無
休)は本木昌造博物館建設のモデル的存在であり、デジタルアーカイブを駆使し、4K の
映像表現は一見する価値があろう。
(写真6)また、長崎歴史文化博物館で日独修好150
年の歴史「長崎からみたドイツ展」が9月19日から開催されていて、長崎市とブルツブル
グ市(シーボルトの出身地)との市民友好都市提携を中心とした見学の機会を得た。また、
長崎港には14万トン,全長311メートル、乗客及び乗組員合わせて4,300名の豪華
客船(Mariner of the Seas)が済州島から入港していて、長崎を9月3日に続き再訪問し
た9月21日15時に天津港へ向け出港した。長崎県立図書館では各国の新聞が置かれて
いて、オランダ通詞であった本木昌造以後も脈々と国際化が続いている。
最近の著書で広瀬 隆;文明開花は長崎から(上)(下)、集英社(2014 年 11 月 30 日)
は写真・印刷の発明に関し丁寧にまとめている。
いろいろとお世話になった長崎駅前の飛龍園の故阿津坂実氏宅に弔問にお伺いしまし
た。氏は本木昌造に関する研究者で長崎県印刷工業組合の専務理事を勤めておられ、印刷
教育振興にも努力された。
なお、富士精版印刷㈱社内報「富士」168号(2015 年 7 月)には「新しい印刷メデ
ィア系専門職業大学の創設へ―文部科学省の職業教育を行う高等教育機関の制度化―
(第1報)
」を掲載して頂き、感謝申し上げます。第2、3報は印刷界 2015 年⒍,7 月号
及び印刷教育研究会会報に掲載しています。
以上
www.media-igu.com
(印刷ジャーナル、2015年9月28日記)
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写真1 本木昌造140回忌(長崎・大光寺、2015年9月3日)
写真2
長崎・大光寺の入口
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写真3
活版伝習所(記念碑は長崎市立図書館前)
写真4
本木昌造関連マップ
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写真5
グーテンベルグ博物館での展示(本木昌造の紹介)
写真6
軍艦島水墨画(絹谷香菜子氏と映像コラボ)
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