Bosonization補足

Bosonization とは
2015 年 7 月 3 日
1 はじめに
GSW の 3.2.4 節に突如としてボソン化 (Bosonization) の話題が入っていたので,そも
そもボソン化とは何か?という事を調べてみた.すると,ボソン化は物性理論,素粒子理
論それぞれで用いられているらしいことが分かった.おおよそまとめてみると*1 ,
• ボソン化とは,fermion の理論を boson の理論へ移す数学的な手続きの事.
• 2 次元に特有な理論である (物性では (1+1) 次元,例えば一次元伝導体など).
• boson へ移る事による統計性の変化は,場の異常次元から生じる.
しかし,どうにも話題が物性の方に多く (朝永-Luttinger 液体など),素粒子方面は情報が
少なかった.そこで,たまたま文献 [1] を見つけたので,そこから一番簡単なボソン化の
例を抜き出してきた.これをもとに, ボソン化の考え方を実際に追ってみたい.
2 Abel 的な Fermi 理論のボソン化
題材として,2 次元時空における自由 Fermi 粒子のボソン化を扱うことにする.経路積
分形式で考えると,生成汎関数は,
∫
Z(ξ, Vµ ) =
[ ∫
]
2
µ
DψDψ exp i d x ψiγ (∂µ − i∂µ ξ(x)γ5 − iVµ )ψ
(2.1)
ここで,ξ(x) は軸性ベクトル場,Vµ はゲージ場を表す.この式で,カイラルな変数変換
′
ψ(x) = exp[iξ(x)γ5 ]ψ ′ (x),
*1 Wiki
ψ(x) = ψ (x) exp[−iξ(x)γ5 ]
より
1
(2.2)
を行うと,Z の作用部分から ξ(x) が消えて
[ ∫
]
2
µ
DψDψ exp i d x ψiγ (∂µ − iVµ )ψ
∫
Z(ξ, Vµ ) = exp[iΓ(Vµ , ξ)]
(2.3)
となる (最後に表記を ψ ′ → ψ とした).ここで,積分の前に付いている exp 部分は,カイ
ラルな変数変換により出てくるヤコビアン
i
iΓ(Vµ , ξ) =
π
∫
[
]
1 µ
µν
d x − ∂ ξ(x)∂µ ξ(x) + Vµ ϵ ∂ν ξ(x)
2
2
(2.4)
であり,通常はアノマリー (量子異常) と見なされる.
上式のヤコビアンは計算し終えた形であるが,元々は (Abel ゲージ理論では)
i
ln J(α) =
π
∫
[
1
d xα(x) (∂ Aµ ) + ϵµν Fµν
2
2
]
µ
(2.5)
という形で与えられる.2 次元ではない一般の理論では,このようなアノマリーの
(∂ µ Aµ ) は,作用に質量項 Aµ Aµ を (適当な係数を掛けて) 加えれば相殺できる.一方,
2 次元の理論ではこのような係数は発散を与えず,後に現れるボソン場の運動項として
振る舞う.このように,通常物理的な意味を与えないアノマリーが,2 次元では物理的
な役割を果たす.
次に,ゲージ場に着目する.2 次元のゲージ場は 2 つの独立な成分を持つために,次の
ように分解できる.
Vµ = ∂µ α(x) + ϵµν ∂ ν β(x)
(2.6)
ここで,α(x) と β(x) は任意関数である.2 次元 Minkowski 空間で成り立つ関係式
γ µ ϵµν = γν γ5 と,ベクトル的な変数変換
ψ(x) = exp[iα(x)]ψ ′ (x)
の下で Z の積分測度が不変 (ヤコビアンが 1) であることから,
∫
Z(ξ, Vµ ) =
[ ∫
]
2
µ
DψDψ exp i d xψiγ (∂µ − i∂µ (ξ(x) + β(x))γ5 )ψ
として α(x) を消すことができる.
2
(2.7)
この Z を ξ で汎関数積分し,積分測度 Dξ が並進変換 ξ → ξ − β の下で不変であるこ
とから,
∫
[ ∫
]
2
µ
DξDψDψ exp i d x ψiγ (∂µ − i∂µ ξ(x)γ5 )ψ
∫
DξZ(ξ, Vµ ) =
∫
DξZ(ξ, 0),
=
(2.8)
つまり,Z を ξ で積分したものは Vµ に依存しない事が分かった.上式の両辺をそれぞれ
書き下すと,
[ ∫
]
2
µ
Dξ exp[iΓ(Vµ , ξ)] DψDψ exp i d x ψiγ (∂µ − iVµ )ψ
{z
}
|
∫
∫
(左辺) =
{
∫
Dξ exp
=
i
π
eiW (Vµ )
[
∫
1
d x − ∂ µ ξ(x)∂µ ξ(x) + Vµ ϵµν ∂ν ξ(x)
2
]}
2
eiW (Vµ )
(2.9)
(eiW (Vµ ) はすぐ後で定義する.)
{ ∫
[ ∫
]
[
]} ∫
∫
i
1 µ
2
µ
2
(右辺) = Dξ exp
d x − ∂ ξ(x)∂µ ξ(x)
DψDψ exp i d x ψiγ ∂µ ψ
π
2
(∵ (2.3) 式で Vµ = 0 とした)
=(ξ のみの積分) × (ψ ,ψ のみの積分)
=(定数).
(2.10)
従って,Vµ をソースとした時の Fermi 粒子の理論での連結 Green 関数の生成汎関数
W (Vµ ) の定義式
[ ∫
]
2
µ
DψDψ exp i d x ψiγ (∂µ − iVµ )ψ
∫
e
iW (Vµ )
=
(2.11)
を用いると,(2.9) と (2.10) から,(適切な規格化の下で)
e
−iW (Vµ )
{
∫
=
Dξ exp
−i
π
∫
[
1
d x ∂ µ ξ(x)∂µ ξ(x) − Vµ ϵµν ∂ν ξ(x)
2
]}
2
(2.12)
が得られる.これのエルミート共役を取ると,
{
∫
e
iW (Vµ )
=
Dξ exp
i
π
∫
[
1
d x ∂ µ ξ(x)∂µ ξ(x) − Vµ ϵµν ∂ν ξ(x)
2
2
3
]}
.
(2.13)
このようにして,自由 Fermi 粒子 ψ の理論 (2.11) と,自由 Bose 粒子 ξ の理論 (2.13)
が同じ連結 Green 関数の生成汎関数 W (Vµ ) を与えることが分かった (ボソン化).それ
ぞれの W (Vµ ) を 2 階汎関数微分することで 2 点相関関数が得られ,
( )2
1
⟨ψ(x)γ ψ(x)ψ(y)γ ψ(y)⟩ =
⟨ϵµα ∂α ξ(x)ϵνβ ∂β ξ(y)⟩
π
µ
ν
(2.14)
のように,Fermi 粒子を用いた相関関数と Bose 粒子を用いた相関関数の同値性も確認で
きる.
文献紹介
[1] 藤川和男,『経路積分と対称性の量子的破れ』(新物理学選書)p214-216,岩波書店,
2001 年.
この文献の第 10 章のタイトルが“2 次元の場の理論とボソン化”となっており,他に
も弦理論方面の話題などが扱われている (非 Abel 的な Fermi 粒子の理論のボソン化,
Kac-Moody 代数と Virasoro 代数,弦の量子論と Liouville の作用,ゴースト数の量子的
破れと Riemann–Roch の定理).気になる人は参照のこと.他にも,アノマリー関連の話
題が中心となった本なので,“アノマリスト”を目指す人にとっては非常に参考になると
思われる.[1] の洋書版もある.
[2] K.Fujikawa and H.Suzuki, “Path Integrals and Quantum Anomalies”, Oxford
University Press, 2004.
他にも,文献 [1] を知るきっかけとなった
[3] 大 川 泰 志 ,藤 川 和 男「 2 次 元 場 の 理 論 に お け る カ イ ラ ル ア ノ マ リ ー と ボ ソ ン
化」(平成 21 年度 日本大学理工学部 学術講演会予稿集)<http://www.cst.nihon-
u.ac.jp/research/gakujutu/53/pdf/O-5.pdf>(参照 2015-06-25 )
や,先週後輩が紹介してくれた
[4] 川 上 則 雄「 共 形 場 の 理 論 と 朝 永・Luttinger 液 体 」(第 46 回 物 性 若 手
夏 の 学 校 (2001 年 度)(そ の 2), 講 義 ノ ー ト)< http://repository.kulib.kyoto-
u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/97195/1/KJ00004711680.pdf >(参照 2015-06-25)
がある.[4] は物性方面での話題である.
4