請求人あて通知.

雫監第2707005号
平成27年 7 月30日
(請求人)
様
雫石町監査委員 枇 杷
同
惠
田 中 栄 一
岩手県岩手郡雫石町職員措置請求について(通知)
平成27年6月17日付けで地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。
)
第242条第1項の規定に基づく監査請求のあった岩手県岩手郡雫石町職員措置請求(以下
「本件請求」という。
)について、同法同条第4項の規定による監査を行ったので、その結果
を次のとおり通知します。
記
第1 請求の受理について
本件請求は、所要の法定要件を具備していると認め、平成27年7月1日に受理した。
第2 監査の実施について
1 監査対象課
雫石町観光商工課を対象に実施した。
2 監査の期間
平成27年7月2日から平成27年7月23日まで実施した。
3 請求人の証拠の提出及び陳述
(1)法第242条第6項の規定に基づく請求人の証拠の提出及び陳述の機会について
は、平成27年7月4日付けで書面により請求人から必要としない旨の申し出が
あったため付与しないものとした。
4 監査対象課調査
平成27年7月17日付けで雫石町長に本件請求に係る監査の実施について通
知し、次の調査を行った。
1
(1)書面による調査
平成27年7月8日で依頼し、監査資料として徴取した書面のほか、監査対象課
職員から事情聴取の際に徴取した書面により行った。
(2)事情聴取
平成27年7月23日に監査対象課の職員から事情聴取を行った。なお、監査対
象とされている平成26年度の当該事務担当であった職員の出席も求め、事情聴取
を行った。
5 監査対象事項
措置請求書、事実証明書から、本件請求の趣旨を次のように解し、監査対象事項
とした。
(1)請求の趣旨
① 網張温泉源泉設備更新工事(源泉工事という、H26 年実施)のうち、噴気井
(網張新湯4号井)掘削工事は本来雫石町(町)の事業なのに、町は自ら請負
契約を締結して発注をせず、他機関(休暇村岩手網張温泉=休暇村)に委譲し
たのは、地方自治法第234条に違反する。
②
町は自らの事業を源泉工事の中に抱き込ませて休暇村が行う事業にしたため、
本来補助金の対象にはなり得ないにも拘わらず補助事業にし、補助金 4,320 万
円を支出したのは法第232条の2に違反する。
①及び②により、町は自らの事業を直接請負契約せずに休暇村に委譲し、無理に
補助事業にした。補助金 4,320 万円の公金支出は違法・不当であるから、町長に
対し、返還を求めるべきである。
(2) 具体的な請求理由(原文より)
① 町は自らの事業として請負契約する義務を怠った
町と休暇村とで締結した契約書(H10.11.1 付)には、町と休暇村の役割分担、
費用負担などの原則が決められている。噴気井の掘削・整備は町の事業、その他の
造湯・引湯設備とその維持管理は休暇村の事業とした。設備の所有権も事業者に帰
属させた。
平成26年の源泉工事では、噴気井の掘削工事は町の事業だから、町が直接請
負契約を締結して行わねばならなかった(法第234条違反)。しかし、その行使
を怠って休暇村の事業に委譲した。
② 町の事業も抱き込ませた事業は補助事業の対象にならない
町は自らの事業である噴気井掘削工事を、特例を設けて休暇村の事業である
造湯設備等の工事に抱き込ませて休暇村に委譲してしまった。休暇村が行う源
泉工事であっても、その中に町の事業も含んでいるから、町が補助する事業の対
2
象にはなり得ず無効である。
町が噴気井の所有権を得るためには、町が直接工事業者と請負契約を締結す
る必要がある。休暇村と委託契約もせず委譲して補助事業にすることは法 234 条
および 232 条の2に反する。
③ 反対給付を伴ったため補助事業は違法
本来、町と休暇村両者の独自の事業を、理屈をこねて一つの源泉工事として
町の補助事業に認定し、補助金 4,320 万円を支出した。しかも源泉工事終了後
町は休暇村から噴気井の所有権を得た上、ありね山荘への源泉分配を受けてい
る。しかし法 232 条の2に定める「補助」とは、
「相当の反対給付を受けることな
く、その事業主体に金銭を交付すること」とされており、本件源泉工事は本来、
補助の対象にはなり得ない。
噴気井の権利について、町は「温泉掘削の申請した時点で(自動的に)権利者
になっている」と回答(H27.4.20 付)
。歪曲した法解釈である。休暇村の造湯量
は、ありね山荘での必要量を含めてはいるが、供給義務については特に定められ
ていない。
④ 休暇村への補助事業にするため偽装
契約書では「造湯・引湯施設の維持管理は休暇村が行う」とある。しかし源泉
工事は、噴気井掘削から造湯のための設備工事(集水槽新築および集排水井掘削)
まで全てが新規・更新工事であり、維持管理のための工事には明らかに該当しな
いにも拘らず、覚書(H26.6.20 付)を両者で交わして「噴気井掘削は既存井(破
損で修理不能)の代替井として整備する」と紛らわしい言い替えをし、源泉工事
全体を無理に「維持管理に係る工事」だと偽装した。
従って、全設備が新設工事でありながら維持管理工事だと偽装して休暇村の
事業にしてしまった。本来なら両者独自の事業のはずなのに一括して休暇村の事
業にした上、巧妙に補助事業に認定した。
⑤ 休暇村への事業委譲は違法な業務放棄
町の事業を休暇村に委譲した最大の理由として、町は工事の効率性と工事全体
の経費節減の2つを挙げた。工事の性格如何で特例があれば、町の事業をそっく
り民間機関(休暇村)へ委譲するのは違法であり、町の業務放棄に等しい。
しかし町はこれらの理由の具体的根拠を問うても回答しなかった 。岩手県も
「町の事業なら法に則って工事請負契約を締結し入札の上、工事すべき」と進言
したが、町は事業委譲→補助の方針を変えなかった。
⑥ 工事業者を始めから特定した談合疑惑
町は「温泉掘削許可申請書」を提出(H25.12.2)した際は、自ら工事発注
の意思を示しており、収入証紙12万円を公金支出した。その中で町は特定業
者が作成した工事設計書を添付し、
「既存井は損傷が著しく修復困難、現場周辺は
危険で作業も困難、新たな工法で傾斜井を掘削する」と記してある。そして、新
湯4号井の掘削工事の申請者は町、掘削業者はあらかじめ特定されている。
しかし源泉工事直前(H26.6.3)になって、町は④と⑤に記した理由により、
3
急転直下、町の事業は休暇村に委譲された。この経緯は始めから町は契約による
入札によって特定業者が工事業者から外れるのを避けたい意向であった疑惑
が濃厚だ。結果的に特定業者が工事業者に選定されたことから、町はこの業者が
確実に選定されるように談合した疑惑が濃厚である。
第3 監査の結果について
請求人からの請求による内容を監査していくうえで、まず、一般財団法人休暇村協
会(当時は財団法人休暇村協会)と雫石町との関係、また現在の源泉の状況などにつ
いて確認する必要があると判断した。
一般財団法人休暇村協会と雫石町は、雫石町所有にかかる網張元湯に関し、網張元
湯の噴気井の蒸気を温泉として使用することに関し、昭和43年11月1日付で契約
書を取り交わしている。
その後、平成10年11月1日に同様の内容で契約を更新し、現在に至っている。
なお、町に対しての補助金申請等については、一般財団法人休暇村協会理事長から、
休暇村岩手網張温泉総支配人へ権限を委任する委任状が提出されている。
源泉の状況についてであるが、平成24年7月に休暇村岩手網張温泉から、網張温
泉源泉において、源泉からの蒸気漏れと思われる現象が見られ、源泉周辺から蒸気が
噴出しており、このまま放置した場合、源泉蒸気の採取が不能となる恐れがあること、
また、源泉からの蒸気噴出が激しくなり、天候によっては水蒸気爆発を誘発しかねな
い状況にあり、源泉井戸元や、源泉周辺の状況を把握するために、現地調査・測量・
現状の図面作成のための調査を行う目的で、網張温泉源泉整備事業費補助金の申請が
あり、町が交付決定したものである。
これにより、平成24年9月~10月にかけ、網張温泉源泉の調査が行われ、深度
約4mにてケーシングから蒸気が漏れ地上に噴出しているという調査結果と共に、集
水井、温水造成槽整備の必要性についても指摘された。
この調査結果を受け、休暇村岩手網張温泉は、補修方法を検討した上で、町に対し
網張温泉源泉整備事業費補助金交付のお願いの文書を同年11月に提出した。その内
容は、経年劣化した現在の井戸の補修は難しく、ここ数年の間に代替井を掘削する必
要があり、また、冬期間の水不足を補うため、併せて集水井を整備することで、より
安定した温泉の供給ができるというものであった。
網張温泉源泉は、「網張元湯」、その代替井である「網張新湯1号井」「網張新湯2
号井」「網張新湯3号井」の4箇所に井戸があるが、その中で「網張新湯1号井」は
休止状態にあるものの、残りの井戸からは蒸気が噴出しており、平成25年11月ま
では「網張新湯2号井」を使用し温泉造湯してきたが、温泉掘削から30年が経過し、
蒸気を噴出している源泉井戸の配管の経年劣化が激しく、土中の配管が腐食し蒸気が
4
漏れ、地上に吹き上がっている状態であったことから、平成25年8月には、網張温
泉元湯源泉の緊急修理が必要な状態となり、休暇村岩手網張温泉から補助金の交付依
頼があり、町は緊急性を認め、休暇村岩手網張温泉が実施した工事に対し、補助金を
交付したものの、完全に補修することができず、引き続き危険な状態となっていたと
ころである。
同工事によって、平成25年11月以降は蒸気漏れが激しい網張新湯2号井から3
号井に使用井を変更している。
町は、このような状況を受け、さらなる損傷等により温泉の供給ができなくなると
いう、最悪の事態を回避するべく、現在提供している温泉の代替井として、温泉井を
掘削するため、平成25年12月2日付で岩手県に掘削許可申請を行い、平成26年
2月28日付で許可を得たものである。
見積書によると、掘削工事、集水井工事、集排水工事の工事に要する費用のほか、
資機材等のヘリコプター輸送に多額な費用を要する事が判明した。
よって町、休暇村岩手網張温泉それぞれで工事を発注するより、同箇所での工事と
なることから、同一施工することにより、それぞれの負担が軽減されるという双方に
とって有益であるという結論に達し、一括工事として、実施することとなった。
この工事は、代替井掘削、集水井工事、集排水工事による、現施設の維持管理とい
う位置づけで、休暇村岩手網張温泉が実施主体となることとした。
工事全体費用は、8,640 万円となり、町は網張温泉源泉整備事業費補助金交付要綱
に基づき、費用の2分の1を補助金として交付決定した。
なお、町においては、平成26年に岩手県に対し法令・行政実例判例に係る質問を
行い、「補助事業として実施することも可能」との回答を得て、実施したものと思料
される。
工事の進捗状況であるが、資材の運搬方法にモノレールを追加するなど当初計画か
ら変更が生じたことから、当初予定していた9月下旬の工事着手から1か月ほど遅れ、
10月30日の着手となったが、その後の工事は順調に進み、11月21日に掘削工
事を完了している。代替井掘削工事と合わせて実施した集水井の工事についてもほぼ
予定通り実施されたが、集水槽への蓋の取り付けや工事資材・運搬設備の撤去などの
一部工事について、例年より早い降雪と悪天候により、工事期間内での完了が困難と
なったため、平成27年度に繰り越す形で工期を延長している。
以上が、平成26年度に実施された網張温泉源泉整備事業実施にあたっての経緯で
ある。
本来であれば、掘削工事については地方自治法第234条により、源泉の所有者で
ある雫石町が温泉掘削申請者、工事施工主体になるべきであり、町が業者と直接請負
契約をするのが、通常の手続きであったと考えられる。
当然、町は、工事実施にあたっては、自らが主体となって実施することを念頭に事
5
務を執り行うこととなるが、同箇所においてそれぞれ工事発注を行うより、一括工事
として実施することにより、双方の経費が縮減し、工期の短縮にもつながり、有益で
あると判断したところである。
また、それぞれ工事を実施することとなった場合、町は自らが施工する代替井掘削
工事における費用だけでなく、休暇村岩手網張温泉に対し、「網張温泉源泉整備事業
費補助金交付要綱」に基づき、整備事業に要した費用の2分の1の額を補助金として
支出することとなることも想定された。
地方自治法第232条の2の規定では、普通地方公共団体は、その公益上必要があ
る場合においては、寄附又は補助をすることができると定められている。
今回の補助金交付にあたって、「公益上の必要性」があったかどうかということで
あるが、網張温泉源泉は、町所有地の重要な自然資源であり、休暇村岩手網張温泉は、
昭和37年から39年にかけて盛岡市や岩手県等と連携し、誘致活動を展開して実現
した国民休暇村制度における施設であるほか、昭和43年開業来、年間約14万人の
観光客等が訪れる町の重要な観光資源であり、当町の観光事業の振興に貢献している
と解される。また、他の温泉に対しても、温泉整備に係る補助金交付事業を行ってお
り、特定の者へ補助金を交付している実態もなく、いずれも当町の重要な観光資源で
あるという理由から公益上補助の必要があるという判断のもと、補助金交付がなされ
ているところである。
温泉掘削工事と取水施設の整備を同一の事業主体が行うことが町の行政目的を達成
するために効果的であると町が判断し、かつ、金銭の交付を受けた相手方にとっても、
利益を受けるような場合には、補助事業として実施することも可能であると考えられ
る。
さらに、住民監査請求はその制度の目的から、たとえ違法・不当な行為又は怠る事
実があるとしても町に損害をもたらさない行為等は住民監査請求の対象にならない
との最高裁判決も示されていることなども、総合的に勘案した。
第4 結
論
以上、第3の「監査の結果について」で述べたとおり、地方自治法第242条第1項
の規定による違法若しくは不当な公金の支出があったとする請求人の主張には理由が
ないので、これを棄却する。
6