講義概要、講師紹介 - 対人援助・スピリチュアルケア研究会

【 講義概要 、講師紹介 】
< 講 義 概 要 >
(1)対人援助特論(担当講師:村田)
本講義はさまざまな福祉・医療の実践の場で援助に従事する対人援助専門職を対象として、対人援助
の意味とその専門職性を明確にすることを目的とする。そのために、対人援助の意味と枠組みをキュア
と「ケア」に求め、キュア概念とケア概念それぞれによる対人援助職の専門職性をものの見方と考え方、
援助者の態度コミュニケーションスキル援助観において考察する。
さらに、現象学を方法論として対人援助の関係性、他者の理解、共感と受容、援助場面での管理と抑
圧等の関係の成立等を解析する。これらの対人援助専門職性の原理的考察にもとづき、福祉・医療の異
職種が協同するチームアプローチの理論的基礎が構築され、キュアとケアの特性を生かした対人援助専
門職教育と訓練プログラムを開発するパラダイムが明確にされる。また、対人援助の基礎となる「傾聴」
を単なるコミュニケーションスキルと考えるのではなく、関係存在である人間の関係性解明の入り口と
して学習し、そこから「共にいる」
「共感する」
「問いかける」という援助的コミュニケーションの基本
スキルについて演習とその後の事例検討を通して考察する。
事例の検討はすべて対人援助の関係性研究に焦点をあてて行う。その内容は、高齢者への精神的サポ
ート、終末期患者と家族へのスピリチュアルケア、児童虐待と危機状況への介入、不信と怒りへの対処、
遺族の体験する悲嘆と抑鬱のプロセス、知的障害者への対人援助関係性等々の研究の基礎となる。これ
らを基礎に「チームアプローチ」に必要な人間関係調整能力を養い、対人援助プロセスに従 い、アセ
スメント、プラニング、カンファレンスの持ち方を考察する。
(2)スピリチュアルケア特論(担当講師:村田)
前期の対人援助特論を基礎として、現象学的方法でスピリチュアルペインとそのケアを解明する。
スピリチュアルケアは、従来、欧米において宗教的ケアの一環として特に終末期医療において実践さ
れてきた援助であるが、近年、日本の医療においても宗教とは切り離して患者の「生きる意味を支える
援助」として重要視されてきている。
老い・病・障害・死といった人生の危機に遭遇したとき人間は生の無意味、アイデンティティ喪失、
生の無価値などの苦痛(スピリチュアルペイン)を持つが、そのことは医療分野にかぎらない。スピリ
チュアルペインは福祉臨床においても満ち溢れている。このスピリチュアルペインの構造を人間存在の
時間性・関係性・自律性の3次元から解明し、患者・クライエントの「生きる意味への援助」としてス
ピリチュアルケアの原理を明らかにする。
スピリチュアルケアの具体的な方法については、患者・クライエントのスピリチュアルコーピングス
トラテジー(対処方策)に従い、スピリチュアルペインの察知とアセスメントの方法、プラニング、評価、
カンファレンスの持ち方等を、事例を通して検討する。
事例の検討はすべて現象学的方法論に基づき、ケアの原理である対人援助の関係性に焦点をあてて行
うが、検討する内容は終末期がん患者とその家族へのスピリチュアルケア、大切な人を失った遺族の喪
失・悲嘆と抑鬱へのスピリチュアルケア、福祉施設入所者や認知症高齢者のスピリチュアルペインとそ
のケア等などである。
(3)研究設計と研究方法論(担当講師:浅川、村田)
本科目は,前半 3 回を浅川が担当し,後半 3 回を村田が担当する。
〔前半 3 回について〕
前半 3 回では,社会科学的研究の方法について学ぶ。社会科学的研究においては,定量的なデータの
みを扱うのではなく,定性的なデータをも扱う。これら量的な研究と質的な研究は,どこがどのように
異なっているのか。それぞれが何を目指しているのか。研究とはいかなる試みなのか。これらの点につ
いて,テキストに基づき概説するとともに,受講者がそれぞれの現場で抱えている悩みや苦しみを,具
体的にはどのように「研究」の俎上にあげていけばよいかについて議論する。そのため,各回の前半は
テキストに基づく概説となり,後半は受講者との議論となる。各回の議論に基づきレポートを執筆し提
出すること。
〔後半 3 回について〕
後半 3 回では,質的研究の具体的な方法を現象学的方法論で学ぶ。対人援助・スピリチュアルケア研
究においては量的な研究では扱いきれない患者・家族・援助者の体験世界を解明する研究が必要である
といわれるが,なぜ体験世界の解明が必要なのか,その場合の方法論に現象学的方法を採用する意味を
考察し,実際の臨床現場での語り,記録,報告を素材にして記述現象学の手法で研究の現象学的な方法
論を身につける。また,受講者が志向するテーマに現象学的アプローチでどのような研究設計が可能な
のかを探究する。
そのため,各回の前半は現象学と現象学的方法についての概説と受講者の小レポート発表,後半は記
述現象学による記述(語り,記録,報告)の分析と議論となる。各回の議論に基づきレポートを執筆し提
出すること。
(4)研究指導(1 回 1.5 時間,年 10 回程度)
研究生になると研究指導講師から直接研究と論文作成の指導を受けられる。 対人援助研究所の研究
と教育の基本は、現場の援助者自身が‘援助’をキーワードとして自己の行為を意味づけ、言語化するこ
とにある。したがって研究指導もこの基本方針に則り,現場の援助者の行為を意味づけ言語化し,研究
成果を論文化するように指導する。それに加えて,その研究成果をどのように現場に還元していくかに
ついても議論し,検証を行う。
(5)集中講義(年 2 回程度)
先の研究者を育む3科目とは別に集中講義が開催される。
我々は,自分の知っていること以外を“知らないまま”に生活を営んでいる。したがって,自分の 知っ
ていることがどこまでであり,知らないことがどこに広がっているかを知ることが肝要である。そのた
めに,研究所以外の場に身を置きながら,そこで営まれている行為の意味を講師とともに考え,言語化
していく,Fieldwork が必要となる。それを実践するのが集中講義の場である。
(6)教室
MQ 研究所(最寄りの公共交通機関地下鉄鞍馬口)などで開催する
(7)受講生の数
議論を中心とした講義形式から受講生の上限を 12 名とする。科目等履修生の上限は 6 名とする。
(8)開講基準
研究所の講義は原則的に研究生になっていく方を育むことを目的としていることから、開講基準は科
目等履修生が 1 名以上で開講する。また科目等履修生なしで聴講生のみ数名でも運営委員会の判断で開
講可能とする。
(9)受講費・研究生費
「対人援助特論」
、
「スピリチュアルケア特論」、「研究設計・研究方法論」の3科目共通
・科目等履修生:1科目ごとに 10 万円
・聴講生:1科目ごとに 5 万円 ・集中講義は別に設定する
・研究生費:年間 15 万円
<講師紹介>
村田久行(むらた ひさゆき)
京都府生まれ
1985 年
神戸大学大学院文化学研究科博士課程単位取得退学
東海大学健康科学部、京都ノートルダム女子大学教授を経て
現
在
NPO 法人対人援助・スピリチュアルケア研究会 理事長、対人援助研究所講師
傾聴ボランティア団体「日本傾聴塾」代表
専
攻
著
書
対人援助論、スピリチュアルケア研究、福祉原理、哲学
『改訂増補 ケアの思想と対人援助』川島書店
『援助者の援助』川島書店
『現象学看護せん妄』日本評論社(編著)
論
文
「終末期がん患者のスピリチュアルペインとそのケア」:緩和医療学
「臨床に活かすスピリチュアルケアの実際17」
:ターミナルケア
「終末期がん患者へのスピリチュアルケア援助プロセスの研究」
:臨床看護
「痛みとスピリチュアルケア」
:ペインクリニック
「ソーシャルワークの人間観実存の視点」:ソーシャルワーク研究
Spiritual pain and its care in patients with terminal cancer: Construction of a
conceptual framework by philosophical approach. Palliative Support Care 2003; 1(1):
15-21.
Conceptualization of psycho-existential suffering by the Japanese Task Force: the first
step of a nationwide project. Palliative Support Care. 2006 Sep;4(3):279-85.
Meaninglessness in terminally ill cancer patients: a randomized controlled study.
Morita T, Murata H, et.al. ; Japanese Spiritual Care Task Force. J Pain Symptom
Manage. 2009 Apr;37(4):649-58.
他 多数
浅川達人(あさかわ たつと)
長野県生まれ
1996 年
東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学
東海大学健康科学部助教授、放送大学助教授を経て
現
在
明治学院大学社会学部教授,NPO 法人対人援助・スピリチュアルケア研究会理事、対人
援助研究所講師
専
攻
著
書
都市社会学、社会調査、
『新編東京圏の社会地図 1975-90』東京大学出版会(編著)
『ひとりで学べる社会統計学』ミネルヴァ書房
『21 世紀社会とは何か:
「現代社会学」入門』恒星社厚生閣(共著)
論
文
「東京圏の構造変容—変化の方向とその論理—」
:日本都市社会学会年報
「社会地区分析再考:KS 法クラスター分析による二大都市圏の構造比較」
:社会学評論
「生きる意味を回復するために−対人援助を社会学的に読み解く−」
:明治学院大学社会学・
社会福祉学研究
「特集 フードデザート(食の砂漠)問題:大都市部での調査事例」:エストレーラ
他 多数