宮崎演習林におけるニホンジカ個体群のモニタリング 九州大学農学部附属演習林 山内 康平 長 慶一郎 久保田勝義 宮島 裕子 鍜治 清弘 井上 幸子 壁村 勇二 南木 大祐 椎葉 康喜 内海 泰弘 榎木 勉 1.はじめに 近年,ニホンジカCervus Nippon(以下 シカ)の個体数増加に起因するとされる農作物や造林 木への食害が日本各地で農林業へ深刻な影響を与えるようになってきた(三浦,1999)。九州大学 宮崎演習林(以下 演習林)においてもシカによるスギ・ヒノキ造林地での食害(櫻木ほか,1999) や天然林においてもスズタケをはじめとする下層植生への食害が顕著になっており(猿木 ら,2004;村田ら,2009)、被害の防除および個体数調整が大きな課題となっている。各種の対策 を講じる上で、シカの生息数密度および生息数増減の動向を把握しておくことは重要であり、演 習林ではシカの生息密度を推定するための調査を実施している。本発表では2006年から2012年に かけて宮崎演習林三方岳団地で実施されたシカ個体群のモニタリング(ライトセンサス、糞粒調 査)の結果について報告する。 2.調査方法 ・ライトセンサス 夜間に林道を車両で低速走行しながら、車両の荷台から スポットライトを照射することで目撃されるシカの姿お よび目の反射により個体数を調べた。調査地は三方岳団地 内の大藪林道(6.2km)で、年 2 回、春(5 月)・秋(11 月)に それぞれ 3 日間の調査を行った(図-1)。スポットライトが 届く照査面積は 0.441km2 であった。2006 年 5 月~2012 年 11 月までの春・秋それぞれ 7 回の調査を行った。 ・糞粒調査 三方岳団地内の大藪林道周辺に 100m のラインセクトを 天然林と人工林に 10 本ずつ設定した(図-1)。各ラインに 10m おきに 10 個の 1m2 方形区を設置し、毎年 12 月に方形 区内の糞粒数を調べた。調査は 2006 年 12 月~2011 年 12 月までの計 6 回行った。 図-1 調査位置図 対象地域に生息するシカが排泄する糞の総数は、一頭のシカが排泄する糞粒数に生息数をかけ たものと推定される。排泄された糞は、その時間の経過とともに糞虫や微生物によって分解され て消失し、その消失速度は、温度や林相の影響を受ける。各方形区の糞粒数と各年の気温のデー タから生息数を算出するためのプログラム FUNRYU Pa(池田, 2005;池田ら, 2006)を用いて 1 km2 あたりの推定生息密度を算出した。 3.結果と考察 2006 年から 2012 年までに実施 されたライトセンサスによる平 均推定生息密度は、春が 43.8 頭/ km2、秋が 26.8 頭/ km2 であった。 ライトセンサスでの推定生息密 度は明瞭な年次変動は見られず、 比較的一定であった。春と秋の結 果を比較するといずれの年も春 の推定生息密度が高かった。2006 年から 2011 年までに実施された 糞粒調査による平均推定生息密 度は 15.8 頭/ km2 であった。2006 年の値は 31.6 頭/ km2 であり、2011 年度の値は 6.7 頭/ km2 であったこ とから、近年、若干減少している ように見える。2011 年には三方岳団地内で誘因狙撃によるシカの個体数管理を実施し、合計 11 頭を捕獲した。しかし、個体数管理の実施がシカ個体群のモニタリングに与える明瞭な変化は見 られなかった。これらの結果から、モニタリングの手法により推定生息数の値に違いがあり、ま た同じライトセンサスでもあっても調査時期によって推定生息数が異なることが明らかになっ た。シカの生息数の増減の傾向を把握するためにはモニタリングを継続することに加えて、詳細 なデータの解析が必要であると考える。 引用文献 池田浩一(2005):福岡県におけるニホンジカの保護管理に関する研究.福岡県森林林業技術セン ター研究報告6:1-93 池田浩一・遠藤 晃・岩本俊孝(2006):糞粒を用いたシカ生息密度の調べ方.森林防疫 55:9- 16 三浦慎悟(1999) :野生動物の生態と農林業被害. 共存の論理を求めて. 林業改良普及双書, 32, 社団法人全国林業改良普及協会, 東京, 174 村田育恵ら(2009) :九州大学宮崎演習林におけるニホンジカの生息密度と下層植生の変遷. 九 州大学農学部演習林報告. 90:13-24 櫻木まゆみ,丸谷知己,土肥昭夫(1999):樹木年代学的手法による山地流域のニホンジカ生息密 度・分布域の時間的変化の再現.日本林学会誌81:147-152 猿木重文・井上 晋・椎葉康喜・長澤久視・大崎 繁・久保田勝義(2004):九州大学宮崎演習林 においてキュウシュウジカの摂食被害を受けたスズタケ群落分布と生育状況 九州大学演習林報告85:47-57 2003年調査結果.
© Copyright 2024 ExpyDoc