学 位 記 番 号

Akita University
氏 名
・(本籍)
白澤
弘光(秋田県)
専攻分野の名称
博士(医学)
学 位 記 番 号
医博甲第 884 号
学位授与の日付
平成 27 年 3 月 22 日
学位授与の要件
学位規則第 4 条第 1 項該当
研 究 科 ・ 専 攻
医学系研究科医学専攻
学 位 論 文 題 名
Retrieval and in vitro maturation of human oocytes from ovaries
removed during surgery for endometrial carcinoma: a novel trategy for
human oocyte research
(子宮体癌手術時の摘出卵巣を用いたヒト卵子回収及び体外成熟培養: ヒト卵子
研究における新たな手法)
論 文 審 査 委 員
(主査) 教授 南谷 佳弘
(副査) 教授 大森 泰文
教授
妹尾 春樹
Akita University
研 究 成 績
学 位 論 文 内 容 要 旨 論 文 題 目 Retrieval and in vitro maturation of human oocytes from ovaries removed during surgery for endometrial carcinoma: a novel strategy for human oocyte research (論文題目の和訳)子宮体癌手術時の摘出卵巣を用いたヒト卵子回収及び体外成
熟 培 養 : ヒ ト 卵 子 研 究 に お け る 新 た な 手 法 申 請 者 氏 名 白 澤 弘 光 研 究 目 的 8 症 例 か ら 計 87 個 の 未 成 熟 卵 子 を 回 収 し た 。 1 患 者 あ た り 平 均 10.9 個 の 卵 子 を 回 収 し た 。
内 訳 と し て は 30 代 患 者 3 名 か ら 65 個 、 40 代 患 者 5 名 か ら 22 個 で あ っ た 。 患 者 あ た り の 平
均 卵 子 回 収 個 数 は 30 代 患 者 21.7 個 、40 代 患 者 4.4 個 で あ り 、30 代 患 者 で 有 意 に 回 収 個 数 が
多 い 結 果 と な っ た 。 体 外 成 熟 培 養 の 結 果 は 、微 小 管 、染 色 体 に 対 し て 蛍 光 免 疫 染 色 を 施 行 し 確 認 し た 。87 個 に
対 し 体 外 成 熟 培 養 を 施 行 し 、 germinal vesicle (GV), germinal vesicle breakdown (GVBD)
が 23 個 、 metaphase I (MI)が 17 個 、 metaphase II (MII)が 11 個 、 分 類 不 能 が 31 個 で あ っ
た 。MII の 卵 子 は 全 て 30 代 の 2 症 例 か ら 回 収 し た 卵 子 で あ っ た 。今 回 の 体 外 成 熟 培 養 に お け
る MII 到 達 率 は 12.6%で あ っ た 。 ヒ ト 個 体 加 齢 に よ り 妊 娠 率 が 低 下 す る こ と は 広 く 知 ら れ て い る 。 こ れ に は 卵 子 の 質 の 低 体 外 成 熟 培 養 後 に お け る 、 蛍 光 免 疫 染 色 に よ る 紡 錘 体 の 形 態 観 察 結 果 と し て は 、 正 常 な 紡
下 が 想 定 さ れ て い る 。 し か し 、 な ぜ 加 齢 に よ り 卵 子 の 質 が 低 下 す る か と い う こ と に お い て 、 錘 体 形 態 を 取 る 卵 子 の ほ か 、 様 々 な 配 列 異 常 を 認 め る 紡 錘 体 が 認 め ら れ た 。 ヒ ト で は そ の 詳 細 が 未 だ 明 ら か に な っ て い な い 。 研 究 目 的 に ヒ ト 卵 子 を 得 る こ と は 各 国 の 指 針 で 異 な る が 、 多 く の 場 合 に お い て 倫 理 的 な 面 か ら 研 究 目 的 に 各 年 齢 層 の ヒ ト 卵 子 を 十 分 に 得 る こ と は 難 し い の が 実 情 で あ る 。 そ の た め 、 卵 子 研 究 に お い て は マ ウ ス な ど 非 ヒ ト 卵 子 を 用 い た も の が 多 い 。 し か し 、 ヒ ト 卵 子 と 非 ヒ ト 卵 子 で は 微 小 管 、 中 心 体 な ど の 細 胞 骨 格 に 違 い が あ る た め 、 非 ヒ ト 卵 子 の 知 見 を そ の ま ま ヒ ト 卵 子 に 置 き 換 え る こ と は で き な い 。 そ の た め ヒ ト 卵 子 を 用 い た 研 究 が 不 可 欠 で あ り 、 ヒ ト 卵 子 の 確 保 が 課 題 と な っ て い る 。 結 論 2004 年 に Revel ら は 子 宮 体 癌 患 者 の 摘 出 卵 巣 か ら 未 成 熟 卵 子 を 回 収 し 、体 外 成 熟 培 養 を 行
手法に着目した。今回の我々の報告は、ホルモン非刺激下に施行した子宮体癌手術時の摘出
ヒ ト 卵 子 研 究 に お い て 、研 究 マ テ リ ア ル と し て ヒ ト 卵 子 を 得 る 際 の ハ ー ド ル は 高 い 。そ の
卵 巣 か ら 、30 代 , 4 0 代 の 複 数 の 患 者 に お い て 、子 宮 体 癌 手 術 時 の 摘 出 卵 巣 か ら ヒ ト 卵 子 の 回
中 で 、ヒ ト 卵 子 の 加 齢 性 変 化 に お い て 、減 数 分 裂 過 程 は 重 要 な 影 響 を 与 え る た め GV か ら MII
収 及 び 体 外 成 熟 培 養 を 施 行 し た 、 初 め て の 報 告 で あ る 。 ま で の 様 々 な ス テ ー ジ の 卵 子 を 得 る こ と が 求 め ら れ て い る 。 今 回 の 我 々 の 手 法 に よ っ て 、 30
代 か ら 40 代 の 各 年 齢 層 に お い て GV か ら MII の 卵 子 が 回 収 可 能 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
った症例報告を報告した。われわれは研究目的に各年齢層のヒト卵子を得る手法としてこの
今後この手法を用いることで、卵子の加齢性変化、異数性発生機序に重要なコヒーシン蛋白
研 究 方 法 な ど の 蛋 白 に 対 し 、 各 年 齢 層 に お け る 発 現 量 変 化 な ど の 検 討 が 可 能 に な る 。 ま た 、 ホ ル モ ン 非 刺 激 下 に 施 行 し た 、 子 宮 体 癌 手 術 時 に お け る 摘 出 卵 巣 か ら の 卵 子 回 収 個
対 象 患 者 は 35 歳 か ら 44 歳 ま で の 子 宮 体 癌 IA 期 の 患 者 8 人 で あ り 、 文 書 に よ る 同 意 、 数において、患者の年齢に依存して卵子回収個数が異なることを初めて明らかにした。今後
大 学 病 院 に お け る 倫 理 委 員 会 の 承 認 を 得 て 研 究 を 施 行 し た 。 ホ ル モ ン 投 与 に よ る 卵 巣 刺 激 の 悪 性 腫 瘍 患 者 に お け る 妊 孕 性 温 存 方 法 の 選 択 を 考 慮 す る 上 で 、 重 要 な 知 見 が 得 ら れ た 。 は 行 わ ず 、 月 経 周 期 を 考 慮 せ ず に 手 術 日 程 を 決 定 し て い る 。 開 腹 後 に 速 や か に 両 側 卵 巣 を 摘 出 し 、 研 究 室 に 卵 巣 を 移 送 後 、 ラ ン ダ ム に 片 側 卵 巣 あ た り 約 15 カ 所 穿 刺 し て 卵 胞 液 を 回 収 し た 。 顕 微 鏡 下 に 卵 子 を 回 収 し 、 体 外 成 熟 培 養 を 施 行 し た 。 血 清 、 卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン を 添 加 し た M199 メ デ ィ ウ ム を 用 い て 24〜 48 時 間 体 外 成 熟 培 養 を 施 行 し た 。 体 外 成 熟 培 養 を 施 行 後 に 24 時 間 、 48 時 間 の 時 点 で 極 体 の 放 出 有 無 を 観 察 し た 。 極 体 放 出 時 、 も し く は 48 時 間 の 体 外 成 熟 培 養 後 に 卵 子 の 固 定 を 施 行 し た 。 卵 子 固 定 後 は 微 小 管 お よ び 染 色 体 に 対 し て 蛍 光 免 疫 染 色 を 施 行 し 、 卵 子 の 成 熟 ス テ ー ジ の 確 認 及 び 紡 錘 体 の 形 態 観 察 を 行 っ た 。 回 収 卵 子 個 数 、 紡 錘 体 の 形 態 に 関 し て 30 代 患 者 、 40 代 患 者 に お け る 比 較 を 行 っ た 。
Akita University
学位(博士―甲)論文審査結果の要旨
に 43 歳の子宮体癌患者の摘出卵巣から卵子を回収したという、海外の症例報告
に着目した。本研究の斬新性は、35 歳から 44 歳までの各年齢層の複数の患者
において、卵子回収個数、体外成熟培養結果、蛍光免疫染色結果の検討を行い、
主 査: 南谷 佳弘
申請者: 白澤 弘光
年齢層によってこれらの結果に差を認めることを初めて見出したことにある。
2) 重要性
近年の晩婚化に伴い、国内外を通して挙児希望の年齢が上昇している。今後
「卵子老化」など、卵子の質に関わる研究をヒト卵子で進めていくことが重要
である。著者らは各年齢層の子宮体癌患者の摘出卵巣から、1〜26 個の卵子回
論文題名:Retrieval and in vitro maturation of human oocytes from ovaries
removed during surgery for endometrial carcinoma: a novel strategy for
human oocyte research (子宮体癌手術時の摘出卵巣を用いたヒト卵子回収及
び体外成熟培養: ヒト卵子研究における新たな手法)
要旨
収が可能であり、また第 2 減数分裂まで各ステージの卵子まで成熟させること
が可能であることを示している。倫理的な問題をクリアした上で、安定した卵
子確保につながる知見を示しており、今後のヒト卵子研究を行う上で、この意
義は大きい。
3) 研究方法の正確性
ヒト卵子の回収および体外成熟培養の方法は、国外で過去に報告された方法
著者の研究は、論文内容要旨に示すように、ヒト卵子の研究を行う際のマテ
を用いている。また、卵子の固定方法、微小管、染色体の蛍光免疫染色方法は、
リアル確保を目的に、子宮体癌 IA 期患者の手術時の摘出卵巣から卵子を回収す
すでに著者らのグループが報告した方法を用いている。また、卵子の体外成熟
る手法を検討したものである。35 歳から 44 歳の患者 8 症例に対して、手術時
培養の結果については、蛍光免疫染色を行い、紡錘体の形態からステージを決
に摘出した卵巣から速やかに 15〜20 ヶ所穿刺を行い、卵胞液を採取後に未成
定しており、客観的な評価方法で、正確性があると考えられる。
熟卵子を回収している。回収した卵子は体外成熟培養を 24〜48 時間施行し、
4) 表現の明瞭さ
その後に卵子の固定および微小管、染色体に対し蛍光免疫染色を行い、卵子の
これまでヒト卵子を研究目的に確保する際の問題点の解決法、つまり各年齢
成熟ステージの確認と、紡錘体の形態評価を、患者の年齢層を考慮して検討し
層から卵子を倫理的な問題をクリアした上で確保する手法として、研究目的、
ている。
方法、実験結果、考察を簡潔、明瞭に記載していると考える。
本論文の斬新さ、重要性、実験方法の正確性、表現の明瞭さは以下の通りで
ある。
1) 斬新さ
卵子の老化など、卵子の質について評価する際には、研究目的にヒト卵子を
得ることが不可欠である。しかし、ヒト卵子の確保は国内外を通して困難であ
り、ヒト卵子を用いた研究が進んでいないのが実情である。著者らは 2004 年
以上述べたように、本論文は学位を授与するに十分値する研究と判定された。