CONTENTS §筑豊小児科医会のご案内・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 §小児科医会報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 §飯塚病院月間診療のまとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 §地域連携ささえあい小児診療・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 §今月の TOPICS ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 §異動のお知らせ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 §筑豊小児科医会のご案内 2015 年 1 月の筑豊小児科医会は中止とさせていただきます。 ■第 260 回 ●日 時:2015 年 2 月 10 日(火)(19:00~) ●場 所:のがみプレジデントホテル 久留米大学 小児科 主任教授 松石 豊次郎 先生の特別講演を予定しています。 ■第 261 回 ●日 時:2015 年 3 月 12 日(木)(19:00~) ●場 所:のがみプレジデントホテル 筑豊小児科医会総会が開催されます。 §小児科医会報告 ~第 260 回~ ■ 第 260 回(第 38 回筑豊周産期懇話会、2014 年 11 月 12 日開催) (みなおしてみよう、予防接種~ワクチンのこれからの展望と課題~ 田川市立病院 小児科 日高 智子 先生) ○はじめに 最近の日本では、新しいワクチンが次々と導入され、ワクチンを取り巻く環境は日々変化している。 新しく導入されたワクチンの概要とワクチン関連の最近の話題として先天性風疹症候群と百日咳の増加 の問題を取り上げた。 1.新しく導入されたワクチン ○Hib ワクチンと肺炎球菌ワクチン 2008 年 12 月に Hib ワクチンの任意接種が開始、2010 年 2 月に 7 価肺炎球菌ワクチン(PCV7)の任意 接種が開始、2010 年 11 月に両ワクチンの公費助成が開始(福岡県では 2011 年 3 月)、2013 年 4 月に両 ワクチンの定期接種化、そして 2013 年 11 月に 13 価の肺炎球菌ワクチン(PCV13)が導入された。この両 ワクチンの登場により、細菌性髄膜炎に代表される侵襲性のインフルエンザ菌、肺炎球菌感染症は激減 した。保育園に通園を開始するとわずか 3~4 ヶ月の間にインフルエンザ菌や肺炎球菌が定着(保菌)し てしまい、またきょうだい同胞がいるほど未就園児の保菌率は高いため、生後 2 ヶ月からのワクチンデ ビューとして両ワクチンの定期接種が推奨されている。肺炎球菌ワクチンに関しては小児に徹底するこ 1 とで、高齢者の感染予防にもつながる(間接効果)。さらにはワクチン接種をすることにより、未接種者 の発症も抑制される(集団免疫効果)ことも証明されている。肺炎球菌に関しては、PCV7 から PCV13 に 切り替わったものの、PCV13 にも含まれない血清型(非ワクチン型)が増加しており、非ワクチン型に よる細菌性髄膜炎罹患の報告もあげられている。 ○ポリオワクチン 経口ポリオ生ワクチン(OPV)から注射の単独不活化ポリオワクチン(IPV)に変更になったのが 2012 年 9 月、さらに IPV と DPT(3 種混合ワクチン)を組み合わせた 4 種混合ワクチン(DPT-IPV)が 2012 年 11 月に導入された。背景には、OPV は接種が簡便で腸管局所免疫が獲得できるという長所がある一方で、 ワクチン関連麻痺や生ワクチン由来株の伝播の問題があり、IPV への切り替えが進められた。 OPV は経口摂取後、弱毒化ウイルスが腸管で一定期間増殖することにより、腸管免疫および血中中和 抗体を効果的に誘導する。腸管免疫の誘導により、糞便中へのポリオウイルス排出効果を低下させ、集 団におけるウイルス伝播効率を抑制する。一方 IPV は数回の接種により血中中和抗体を誘導し、ポリオ 発症を抑制するが、腸管免疫は誘導しないため、ウイルス伝播効率は OPV よりも低い。このため、ポリ オ流行国におけるポリオコントロールには OPV が不可欠で、ポリオ根絶の最終段階および野生型ポリオ 根絶達成後には IPV の導入が必要。 ○ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン 日本における 20~30 代の女性の癌で近年急激に増加し、かつ最も罹患する頻度の高い癌が子宮頸がん である。この子宮頸がんを引き起こす原因が HPV 感染である。HPV は 100 以上の遺伝子型があり、感染 する部位により皮膚型と粘膜型がある。粘膜型 HPV はさらに HPV 関連がんから検出される high-risk HPV と尖圭コンジローマなどの良性乳頭腫から検出される low-risk HPV に分けられる。high-risk の血清型 の 16 型と 18 型の 2 価をカバーするワクチンがサーバリックスで 2009 年 10 月に発売開始、16 と 18 の ハイリスクに加え、6 型と 11 型の low-risk を加えた 4 価のワクチンがガーダシルで 2011 年 7 月に発売 された。ガーダシルは子宮頸がんだけでなく、HPV6/11 による尖圭コンジローマが適応となる。この両 ワクチンは、性交未経験者の接種が特に有効とされており、サーバリックスは 10 歳以上、ガーダシルは 9 歳以上の女性が対象とされている。 子宮頸がんはワクチンで予防できる癌であるものの、現在は副反応の調査のため、積極的な推奨はさ れておらず、接種率は向上していない。 ○B 型肝炎(HBV)ワクチン Selective vaccination として、日本では HBV キャリア母から生まれる児を対象とした感染防止プロ グラムで、完全に実施できれば 94~97%でキャリア化が防止できるとされている。導入により小児の HBV キャリア数は約 1/10 に激減した。それでも日本における小児の HBV 感染経路としては、母子感染が 70% で依然として高い割合である。残り 30%が母子感染以外の水平感染である。 母子感染予防スケジュールは 2013 年 10 月に改訂され、出生時すぐのワクチンと HBIG、生後 1、6 ヶ 月時のワクチン接種、生後 9~12 ヶ月時の HBs 抗原・抗体検査の実施となった。3 回接種後に抗体価 10IU /ml 未満の場合には、もう 1 クール接種する。抗体価は一生持続するわけではないが、家族内の水平感 染は接触が特に濃厚な就学前が主と考えられ、小学校入学時に陽性であれば、その後の抗体価の測定は 必要ないと考えられている。母子感染や乳児期の水平感染で HBV に感染した場合、90%以上は無症候性 キャリアとなるが、一部は慢性肝炎、肝硬変、肝がんに伸展する。一度でも B 型肝炎ウイルスに罹患す ると細胞核内に微量の DNA が残り、免疫低下時に再活性化するため、HBV には感染をさせないというこ とが重要。HBV は母子感染予防のみでは不十分にて、世界標準は Universal vaccination である。出生 2 時にすべての新生児にワクチンを接種することであり、キャリア化しやすい小児期の HBV 抵抗性を保持 する目的がある。 ○日本脳炎ワクチン 日本脳炎ワクチンは、1954 年マウス脳由来の不活化ワクチンが始まりである。2005 年 5 月、重症 ADEM 例が予防接種健康被害に認定され、積極的勧奨が差し控えになり、接種率が激減した。2009 年に従来の 主流であったマウス脳から細胞培養ワクチンに切り替えられ、2010 年 4 月から積極的勧奨を再開した。 2006 年から 2011 年までの 5 年間に、接種差し控えによる抗体保有率が低くなり、九州中四国を中心 に 31 例中 6 例の小児の発症が確認された。 ○ロタウイルスワクチン ロタウイルスワクチンは任意接種のワクチンであり、2011 年 11 月に1価のワクチンで 2 回接種のロ タリックスが、2012 年 7 月に 5 価のワクチンで 3 回接種が必要なロタテックが日本で導入になった。世 界では 5 歳未満児において年間 60 万人がロタ腸炎関連で死亡しており、その 98%は発展途上国である。 嘔吐下痢症のみならず、ロタウイルスは脳症を引き起こす原因ウイルスとして、インフルエンザ、HHV-6 に次ぐ第 3 のウイルスでもある。 2. ワクチン関連の最近の話題 ○先天性風疹症候群(CRS) TORCH 症候群の共通の特徴として、母体の妊娠中の感染症状が不明瞭であるが、出生後の児の症状は 概ね類似している。低出生体重、肝脾腫・黄疸、皮疹、水頭症や頭蓋内石灰化、精神遅滞、難聴などは 共通した症状である。 2013 年に日本で風疹の大流行があり、流行の中心は成人男性が主体で、うち 20~40 代男性が 8 割を 占めており、CRS の患者数は 2000 年以降最高の年間 30 例を超えた。CRS は妊娠 8 週までの器官形成期で ある胎芽期に母体が感染すると発症しやすい。CRS の異常出現率は難聴が 90%と最も高率で、先天性心 疾患が 60%、白内障/緑内障は 50%となっている。 ○百日咳 近年の百日咳の患者報告数の推移の特徴として、小児よりも 15 歳以上の成人の百日咳罹患数の方が高 いのが特徴である。米国では近年の成人の百日咳の増加により、小児が罹患し特に乳児百日咳の死亡例 が増加したことが報告されている。百日咳の自然感染による獲得抗体の存続期間は 15 年程とされており、 ワクチンの場合は概ね 6 年程度と言われており、抗体が長く維持されない。このため百日咳含有ワクチ ンは米国では 6 回、日本では 4 回となっている。英国では、2012 年 10 月に妊婦への百日咳ワクチン投 与プログラムが導入され、妊婦に百日咳ワクチンを投与することで、胎児への移行抗体を増加させ、母 体の百日咳罹患を減らすことにより、乳児百日咳を予防するのが目的である。この結果、3 ヶ月未満の 乳児の百日咳での入院を 68%減少させ、出産の 7 日前までに妊婦にワクチンを接種すれば 90%の予防効 果があることが報告された。 ○おわりに ワクチンにより VPD(vaccine preventable disease)の流行が減り、病原体との接触すなわち自然感 染が減っていることにより、Secondary vaccine failure による新たな問題が出現している。このため 成人への追加接種などの対応を検討する必要がある。 3 §飯塚病院月間診療のまとめ ●入院患者数 125人 《2014年11月》 ●外来患者数 ●新生児センター入院患者数 20人 1,670人 ●救命救急センター受診者数 ●分娩件数 943人 50件 ●主要疾患数(退院患者数;102 人) 痙攣及びてんかん 急性胃腸炎 新生児呼吸障害・心血管障害 15 7 3 肺炎・気管支炎 低出生体重児 新生児感染症 ●紹介件数 94件 11 7 2 喘息 急性上気道感染症 その他 9 3 45 (件) ① ささきこどもクリニック 社会保険田川病院 ③ あざかみこどもクリニック 5 5 4 こどもクリニックもりた 4 弥永内科小児科医院 4 やまのファミリークリニック 4 §地域連携ささえあい小児診療 地域連携ささえあい小児診療スケジュール ■2015 年 1 月 2 月 1月 2月 1月6日 火 宮田病院 甲斐丈士 2月3日 火 ひじい小児科・アレルギー科 クリニック 肘井孝之 1月8日 木 平野医院 平野義人 2月5日 木 津川診療所 津川 信 1 月 13 日 火 飯塚病院 漢方診療科 上田晃三 2 月 10 日 火 飯塚病院 漢方診療科 上田晃三 1 月 20 日 火 栗原小児科医内科クリニック 栗原 潔 2 月 12 日 木 飯塚市立病院 1 月 22 日 木 飯塚市立病院 2 月 17 日 火 ささきこどもクリニック 佐々木宏和 1 月 27 日 火 飯塚病院 漢方診療科 上田晃三 2 月 19 日 木 くわの内科小児科医院 1 月 29 日 木 あざかみこどもクリニック 阿座上才紀 2 月 24 日 火 細川小児科内科医院 細川 清 2 月 26 日 木 こどもクリニックもりた 森田 潤 牟田広実 牟田広実 桑野瑞恵 2015 年 1 月 8 日現在 §今月のTOPICS 飯塚病院は、2013 年 6 月に福岡県児童虐待防止ネットワーク事業により「児童虐待防止医療ネットワ ーク事業に係る拠点病院」に指定されました。さらに同年 12 月には筑豊では初めて、県の総合周産期母 子医療センターに指定されました。周産期部門には飛込み出産や若年妊娠、薬物中毒、精神疾患等の母 体からの特定妊婦の出産を多数経験しています。このような出産の背景には常に虐待の可能性のある予 備群が存在します。飯塚病院小児虐待防止委員会(AI-CAP:通称アイキャップ)では、 「児童虐待防止医 療ネットワーク事業に係る拠点病院」として、周産期からの虐待防止に本腰を挙げて取り組むことを課 題にあげました。そこでこの虐待予防に“トリプル P”という子育て支援のツールを利用することで早 期に介入し、親育ちを支援していく取り組みに着手することにしました。 今回は、トリプル P とは何か、12 月 21 日久留米大学で開催された「前向き子育てセミナー」の演者で 4 ある NPO トリプルジャパン理事の家本めぐみ氏の講演内容を紹介します。 ○トリプル P とは? オーストラリアのクイーンズランド大学臨床心理学教授のマット・サンダース氏が開発したもので、 Positive Parenting Program の頭文字を取ってトリプル P、日本語では「前向き子育てプログラム」と いう。実際には 0 歳~16 歳の子どもを持つ親のための親訓練プログラムで、心理学での認知行動療法が ベースのプログラムである。1996 年に開発され現在 25 か国以上で利用されている。 このトリプル P のゴールは、子どもがのびのびと育つための温かな家庭環境を作っていくことと家 庭・学校・地域社会における問題行動を予防していくことである。親が子育てスキルを学ぶことで、ス キル(技術)が身に付き、視点が変り、前向きになる。応用力(問題解決能力)が身に付き、自信がつ くというものである。子どもにとっては社会性、情緒、ことば、知能、行動力を伸ばす。子育て環境に しても、安全で活動的、暴力や争いの少ない環境を創ることを目的にしている。 ○トリプル P の 5 段階プログラム レベル 1:マスメディア(テレビ・ラジオ・新聞コラム・地域サービスなど)を通じて、一般的な子ど もの問題行動発生の要因や対処法などを伝えていく。 レベル 2:乳児健診などの定期健診の場で、親が不安に感じている子どもの問題行動に対して専門家(保 健師・養護教諭・スクールカウンセラーなど)がトリプル P チップシートを渡し、簡単なアド バイスを与える。 レベル 3:特定の子どもの問題に対して、トリプル P 専門家が短いプログラム(15 分×4 回)をトリプ ル P チップシートやビデオを使用して実施する。 レベル 4:集中的に子育ての技術を学びたい親に 8~10 回(各 1~2 時間)のプログラムを実施する。 レベル 5:レベル 4 の後、さらに個人的に緊急の問題に対応するプログラム(夫婦の対話、サポート体 制、家庭環境整備、雰囲気作り、親のストレス管理など)のスキル訓練を行う。 プログラムを行う人はファシリテータ(推進者)と呼ばれ、トレーニングワークショップを受けた後、 認定試験に合格すると認定者としてプログラムを実施できる。 ○トリプル P(特にレベル 4)の 5 原則と親が身につける 17 の技法 上記のレベル 4 が、トリプル P の核心となるプログラムで、グループトリプル P である。 トリプル P の 5 原則は 1.安全に遊べる環境づくり 2.積極的に学べる環境作り 3.一貫した分かりやすいしつけ 4.適切な期待感をもつ 5.親として自分を大切にすること である。 親が身につける 17 技法として、子どもの発達を促す 10 の技術と子どもの問題行動に対応する 7 つの技 術がある。 子どもの発達を促す 10 の技術は、子どもとの建設的な関係を作る技術として、 1)子どもとの良質な時間を作る 2)子どもと話す 3)愛情を表現する 5)注目している気持ちを伝える 6)夢中になれる活動を与える 好ましい行動を育てることとして、 4)子どもを褒める 新しい技術や行動を教えることとして、 7)良い手本を示す 8)時をとらえて教える 9)アスク・セイ・ドゥ 10)行動チャート 子どもの問題行動に対応する 7 の技術としては、 11)わかりやすい基本ルールを作る 12)会話による指導 13)計画的な無視 14)はっきりした穏やかな指示 16)クワイエットタイム 15)問題に応じた結果で対処する 5 17)タイムアウト トリプル P では、上記の 17 の技法を駆使することによって、親には以下のような前向きな自己統制力 を身につけてもらうことが重要と考えている。自分にはスキルがあるという意識(自己充足感)、自分は できるという信条(自己効力感)、自分で目標をコントロールする(自己管理)しながら主体的に行動し、 子どもの問題に臨機応変に自分で対応できる能力(問題解決能力)である。 ○トリプル P によって子どもは何を獲得するか? 親がトリプル P を実践していくことで、子ども自身がどのように変わっていくか。他の人とうまくつ きあえるようになり、自分の感情をコントロールできるようになる。自律心を育み、子ども自身も自分 で問題を解決できるようになることを目的としている。 § 異動のお知らせ 「ご 挨 拶」 飯塚病院 小児科 廣瀬 彰子 12 月 16 日付で飯塚病院小児科、総合周産期母子医療センター新生児部門の一 員として赴任しました、平成 9 年久留米大学卒業の廣瀬彰子です。年末を前に久 留米大学からドタバタと異動してきましたが、岩元部長を始め、スタッフの皆様 に温かく迎えていただき有り難く思っています。 大学では周産期医療の中でも胎児心エコーを通して赤ちゃんとお母さん、家族 と関わる仕事をさせて頂いてきました。この点はまだまだ未熟ですが、これまで の経験を少しでも活かせたらと思います。 今のところ、短期間の出向とのことですが、大学人事のことですので分かりません。在任中は筑豊地 区の赤ちゃんと家族のためにお役に立てるように頑張りたいと思います。 どうぞよろしくお願い致します。 飯塚病院 〒820-8505 飯塚市芳雄町 3-83 TEL0948-22-3800(代) http://aih-net.com/ Vol.97 発行日/2015 年 1 月 10 日 発行/飯塚病院 小児科 6
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