審査要員比較

宇田環境経営研究所 代表
宇田 吉明
はじめに
今回は、審査要員を認証する機関では、審
査を行う人の質をどのように担保しているの
か、また、その質を維持向上するためにどの
ような管理をしているのかを、ISO 14001とエ
コアクション21(EA21)
についてご紹介します。
環境マネジメントシステムは継続的改善を行
うためのツールであり、審査においては、そ
の継続的改善を引き出すのが審査員(人)の
役割といわれています。従って、受審組織は、
審査を通じて、改善への糸口を握む心構えで
審査に望んでほしいと思います。
審査要員(人)認証機関
ISO 14001の審査員(以降EMS審査員とい
う)の評価登録は、社団法人産業環境管理協
会の中にある環境マネジメントシステム審査員
評価登録センター
(CEAR)
が行っています。
一方、EA21の審査人(以降EA21審査人と
いう)の評価登録は、財団法人地球環境戦略
研究機関 持続性センター
(エコアクション21
中央事務局)
が行っています。
現在、登録されているEMS審査員は9,960
名ですが、単独で審査ができる主任審査員は
1,577名で、一人当たりの適合組織件数は約
12組織になります。EA21の審査人は721名で、
一人当たりの認証登録件数は約4組織とな
ります。
審査員(人)
に関する規定
EMS審査員は国際標準ISO 17024(要員認
証機関の認定に関する要求事項)及びCEAR
の
「環境審査員倫理行動規範 及び 順守事項」
で、EA21審査人はエコアクション21審査人倫
理規程で規定されています。
EMS審査員については、所属している認
証機関が別途内規を定めているところが一
般的です。
審査員(人)
になるための要件
審査員(人)
になるためには、一定の要件を
満たす必要があります。
EMS審査員はCEARが承認した研修機関
が提供するフォーマル“訓練”コースを修了合
格することが、CEARが実施するEMS審査員
に関する力量試験の筆記試験を受けるときの
条件となります。
一方、EA21審査人は、中央事務局が実施
する一次から三次までの試験に合格する必
要があります。
審査員(人)の要件
EMS審査員には以下のような力量が求め
られます。
・監査(審査)の原則、手順及び技法
・マネジメントシステム及び基準文書
・組織の状況
・当該分野に適用される法律、規制及びそ
の他の要求事項
・環境マネジメントの方法及び手法
・環境科学及び環境技術
・運用の技術的側面及び環境側面
・監査の計画を策定し、監査中に資源を効果
的に活用する
・監査依頼者及び被監査者との連絡では監
査チームを代表する
・監査チームメンバーを取りまとめ、指揮する
・訓練中の監査員を指揮及び指導する
・監査チームを統率して、監査結論を導き出す
・種々の衝突を防ぎ、解決する
・監査報告書を作成し、完成する
EA21審査人には以下のような力量が求め
られます。
・環境問題や環境対策に関する基本的な知
識を有していること
(環境問題についての
基礎的知識、基本的な環境法等について
の知識)
・事業者の環境対策に関する豊富な知見と
経験を有していること
(受審事業者が、どの
ような環境への取組を行うべきかを判断
し、適切な審査を実施できること)
・環境経営システム
(環境マネジメントシステム)
に関する豊富な知見と経験を有しているこ
と
(受審事業者が、どのような環境経営シス
テムを構築し、運用すべきかを判断し、適
切な審査を実施できること)
・受審事業者との間で適切なコミュニケーシ
ョンを図ることができ、上記の知識と経験
を活用して、エコアクション21の審査及び必
要な指導・助言を行うことができる資質、
能力及び意欲を有していること
審査員(人)の力量向上
経済社会を取り巻く環境の変化は著しいも
のがあり、この変化に対応した様々な規制の
強化も目が離せません。従って、審査員(人)
は力量を常に研鑽してゆかねば、適正な審査
をすることはできないといっても過言ではあ
りません。そのため、EMS審査員向けでは
CEARや認証機関が、EA21審査人向けには
中央事務局や地域事務局が様々な教育・訓
練を実施しています。
審査員(人)の課題
ISO 14001およびEA21のいずれの審査で
も、受審組織にとって、適切、妥当、有効な
審査を行わなければなりません。有効という
ことは、その組織の継続的改善に資すること
です。
環境マネジメントシステムは環境負荷低減
(あるいはプラスの環境影響の向上)活動と環
境リスクの低減・回避を主な目的としていま
す。このためには、審査する組織の特性をよ
く知っていなければ有効な審査はできませ
ん。また、いくら知っていても、組織のニーズ
はその組織を取り巻く状況によっても異なり
ます。審査員(人)は、トップインタビューや環
境管理責任者、部門長へのヒアリング、あるい
は現場観察などにより、どのような改善が望
ましいかを適切に判断し、マネジメントシステ
ムの改善を通じて、パフォーマンスの改善に
繋がるように指摘や推奨することがポイントと
思います。
EMS審査では、規格の要求事項以上のこ
とは求めないことになっていますが、EA21で
は、パフォーマンスに有効な助言を積極的に
行うことの できる審 査 人 が 求 められ ます。
EA21の審査人の専門分野や経歴などは、中
央事務局のホームページに公開され、受審組
織が審査人を選ぶことができるため、自己研
鑽しない審査人は自然にふるい落されること
になります。▼
宇田環境経営研究所
代表
宇田 吉明
明治製菓(株)大阪工場
で 工 務 環 境 室 長・環 境
管理責任者・事務局とし
てISO 14001を構築・運
用。摂南大学非常勤講師(地球環境資源論)
を経
て、2000年よりEMSの構築支援活動を展開。2つ
の審査登録機関で審査実績多数。エコアクション
21地域事務局大阪元判定委員長
(現普及委員長)
。
著書に『業種別ISOの構築が分かる本』
(日刊工業
新聞社)、
『新 よく分かるエコアクション21』
(第一法
規)
など多数。環境カウンセラー、中小企業診断士、
公害防止管理者、エネルギー管理士など。
図表 ISO 14001審査員とEA21審査人の比較
ISO 14001審査員
EA21審査人
登録日、身分証有効期限、更新(3年毎)期限
審査要員
認証機関
ISO14001の審査員(以降EMS審査員という)の評価登録は、社団法
人産業環境管理協会の中にある環境マネジメントシステム審査員評価
登録センター
(CEAR)
が行っています。CEARは、世界の環境マネジ
メントシステム審査登録制度の中で、IAF(International Accreditation
Forum, Inc. 国際認定機関フォーラム)
に加盟するJAB(認定機関)
に
より認定された国際標準ISO17024(要員認証機関の認定に関する要
求事項)へ対応したEMS審査員登録機関です。
エコアクション21の審査人(以降EA21審査人という)の評価登録は、財
団法人地球環境戦略研究機関 持続性センター
(エコアクション21中
央事務局)
が行っています。エコアクション21中央事務局は環境省によ
り認定されたEA21審査人登録機関です。
審査要員
受験資格
・ 学校教育法に定める高等学校卒業以上の学歴を有すること。
・ 技術的、管理的又は専門的立場での業務経験を5年以上有するこ
と。この業務経験は、判断を下し、問題を解決し、他の管理者又
は専門家、同僚、顧客及び/又はその他の利害関係者と意思の疎
通を図るといった内容のものであること。
・ 前項の業務経験のうち、2年以上は環境マネジメント分野の知識及
び技能に係わる業務経験であること。
・ 業務上の関係が1年以上ある所属組織の責任者等から、企業等組
織のJIS Q 14001(ISO14001)への適合性監査を行う環境審査員
に要求される個人的特質を有する者として推薦されること。
・ CEARが承認したフォーマルトレーニングコースを申請日前5年以内
に合格修了していること。
□環境保全に関する力量
環境カウンセラー
(事業者部門)
であること。または、技術士(環境、衛
生工学、上下水道、経営工学、化学、建設及び総合技術監理部門のい
ずれか)
、公害防止主任管理者(公害防止管理者大気一種及び水質一
種の資格をともに有する者を含む)
、公害防止管理者大気三種及び水
質三種の資格をともに有する者、環境計量士(濃度及び騒音・振動の
資格をともに有する者)
、エネルギー管理士のいずれかの資格を有する
こと。または、企業等の環境対策及び公害防止に関する部門に所属し
た経歴、若しくは事業者に対する環境保全のための具体的な取組、計
画づくり等に対する指導、助言を行った実績が概ね5年以上であること。
□環境マネジメントシステムに関する力量
環境マネジメントシステム審査員(審査員補を除く)
であること。または、
地域版EMSの主任審査員、環境プランナーのいずれかの資格を有し、
かつ10件以上の審査経験を有すること。または、企業等の環境管理に
関する部門に所属した経歴、もしくは事業者に対する環境経営システ
ム
(環境マネジメントシステム)の構築、運用等に対する指導、助言を行
った実績が概ね5年以上であること。
審査要員
力量確認試験
単独で審査
ができる条件
CEARが実施する環境マネジメントシステム審査員力量試験の筆記試
験に合格すること。
□ 主任審査員
・ 審査員に登録後、JIS Q 14001(ISO14001)への適合性監査の全
過程に、CEAR登録主任審査員の指揮及び指導のもとに監査チー
ムリーダーの役割を担当して、登録申請日以前2年間に3回以上延
べ15日以上参加していること。
・ 指揮指導したCEAR登録主任審査員から、審査員としての力量に
加え主任審査員としての力量に基づき、監査チームリーダーとして
監査を統括できる者として推薦されること。
中央事務局が実施する下記試験に合格すること。
書面試験(一次試験)
、筆記試験(二次試験)
、面接試験(三次試験)
・ 試験に合格したものは、EA21に関する所定の講習(EA21審査人講
習)
を、試験合格後、1年以内に受講し、修了しなければなない。
・ 5回以上のオブザーバー参加が必要(面接試験の力量確認時に免除
される場合もある)
審査可能な
専門分野に
ついて
各認定機関が、業務経験や審査経験などにより、次のような専門的力
量を認定し、審査可能な分野を定めている。
・ 活動、サービスのプロセスを理解し、インプット、アウトプット及び
環境影響について理解している。
・ 環境影響の鍵となる特性、発生原因及びその対策について理解し
ている。
・ 関連する法令等について、具体的規制内容を理解している。
・ 緊急事態の発生の可能性を分析・把握でき、有害な環境影響を予
防または緩和する処置の妥当性を判断できている。
・ 組織の活動、製品及びサービスに伴う環境影響の鍵となる特性を
理解している。
受審事業者が、
「特定工場における公害防止組織の整備に関する法律」
の『特定工場』である場合は、審査人は原則として「公害防止主任管理
者(公害防止管理者大気一種及び水質一種の資格をともに有する者を
含む)
」
、
「公害防止管理者大気三種及び水質三種の資格をともに有す
る者」
、
「環境計量士(濃度及び騒音・振動の資格をともに有す者)
」の、
いずれかの資格を有していなければならない。
・ 次の業種の審査については、所定の講習を受講し、これを修了し、
かつ、中央事務局より当該業種の審査を担当できる力量の認定を受
けていなければならない。
① 産業廃棄物処理業者、一般廃棄物処理業者、再生資源の収集・処
理・リサイクル及び解体等を行う事業者
② 行政機関(都道府県庁、市区町村役所・場等)
、教育機関(大学、高
等学校、中学校、小学校、専門学校等)
③ 食品関連事業者建設事業者
また、従業員501人以上、又は審査対象サイトが10ヵ所以上である
場合は、審査人は、中央事務局より当該事業者の審査を担当できる
力量の認定を受けていなければならない。
④ 新たに業種別マニュアル(試行版を含む)等が制定された場合は、
当該業種の審査の担当に当たって、中央事務局が定める関連する内
規を遵守しなければならい。