企業不祥事ケースファイル

企業不祥事ケースファイル
CASE1
大手英会話教室A社の事例と症候群判定
ある大手英会話教室A社では、以下のことを各教室において、本社が作成したマニュアルや本
社からの業務通達・指導に基づき消費者と一律の対応を行っていた。
書面記載不備(
書面記載不備(同法第42
同法第42条第
項及び第2項)
42条第1
条第1項及び
概要書面及び契約書面において、関連商品(次頁※参照)についてクーリング・オフできる旨の記載や中途解約事
項についての記載などに不備があった
誇大広告(
誇大広告(同法第43
同法第43条
43条)
年間を通じて恒常的に入学金全額免除を実施していたにもかかわらず、期間中に入学すれば入学金を全額免除
する旨のキャンペーンを行い、実際のものより著しく有利であると消費者に誤認させるような表示を行っていた等
不実告知(
不実告知(同法第44
同法第44条第
44条第1
条第1項)及び重要事項の
重要事項の不告知(
不告知(同法第44
同法第44条第
44条第2
条第2項)
実際には、時間帯等によってはレッスンの予約がとりにくい状況であったにもかかわらず、勧誘の際、「レッスンの予
約は好きなときに入れればいい」等と不実のことを告げていた等
役務提供契約の
役務提供契約の解除によって
解除によって生
によって生ずる債務
ずる債務の
債務の一部の
一部の履行拒否又は
履行拒否又は不当遅延(
不当遅延(同法第46
同法第46条第
46条第1
条第1号)
入学金は無料であると言われて契約した消費者が中途解約した場合、精算金額に入学金を含めて計算し、本来中
途解約によって消費者に返還すべき入学金相当額の一部の返還を拒否した等
関連商品販売契約の
関連商品販売契約の解除によって
解除によって生
によって生ずる債務
ずる債務の
債務の履行拒否(
履行拒否(同法第46
同法第46条第
46条第3
条第3号他)
号他)
契約時に、同社からレッスンを受けるに際して購入する必要があると告げられて消費者が購入したテレビ電話装置
について、中途解約時には、必ずしも購入する必要はなく関連商品には該当しないとして解除に応じない等
上記の事例を組織診断OMACの解析ロジックに基づいて検証すると、
企業内には、「目標喪失症候群」「感性鈍化症候群」「内部優先症候群」が見られます。
目標喪失症候群
個人や部門が果たすべき役割や機能を見失い、機械的に業務を遂行しようと終始するた
め、環境の変化に対応できなくなる症候群
主な症状例
組織の理念や使命が真剣に語られることがなく、短期の目標達成が強調されたマネジメン
トが続く(恒常的な入学金免除や虚偽説明を辞さない契約重視の体質)
組織構成員は自分の仕事と組織の社会的貢献との間に意味のある関係を見つけられず、
一人一人が組織の中で孤立してしまう(社会貢献意識や組織的な顧客志向の希薄)
仕事そのものに対する興味と関心が失われ、組織との強い絆が感じられなくなる
感性鈍化症候群
個人または組織が顧客や競合他社など外部の情報に無関心になり、顧客ニーズに応える
商品やサービスを提供できず、市場から置き去りにされてしまう症候群
主な症状例
過去の成功体験の強い影響を受けて組織の行動規範が形作られており、組織構成員は
それを遵守することを強く求められている(本社指導をまったく疑わない虚偽説明)
自分たちが行うことに間違いはないという錯覚に陥り、社内外から情報を収集しなければ
ならないという意識が極めて弱まっている(本社指導をまったく疑わない虚偽説明)
業務改善が適切に行われず、市場環境の変化にも迅速に対応することができなくなってい
る(予約が取れない状況を理解しながら新たな講師の採用等の改善を行わず)
内部優先症候群
主な症状例
個人や組織が内部の事情や立場を優先することに過敏になり、顧客や外部と軋轢が生じ
る症候群
組織の論理に従うことが成功につながるという考え方が強く、組織構成員は組織を守るこ
とが自分たちの重要な使命だと錯覚する(本社作成マニュアルに忠実)
外部からの情報は組織の論理に従って都合よく解釈されるか、あるいは無視される
(消費者センターからの改善要求や法律違反の可能性の指摘を真摯に受け止めず)
顧客ニーズに応えるよりも、組織の利害を優先するあまり、組織の動きと環境の動向に差
異が生じる(自社都合による解約時計算の一方的な押し付け)
CASE2
食肉加工業B社の事例と症候群判定
ある食肉加工業B社の事例を組織診断OMACの解析ロジックに基づいて検証すると、
企業内には、「目的偏重症候群」「制御系不全症候群」「信条至上症候群」が見られます。
目的偏重症候群
さまざまな経営指標の中で、ある特定のものが過度に重視されるあまり、組織の総合的
な目標の達成が困難となる症候群
OMACが定義する主な症状例
記事等から読み取れる組織の実態
品質・納期・コスト・安全・環境などの経営指標の
中で、特定の結果を重視するという価値観が過剰に
なる
利益最優先の社長方針のもと、徹底したコスト削減が
偽装へと暴走した
組織内のマネジメント・プロセスにおいて、バラン
スの良い管理や目配りがなされなくなる
偽装について、疑義や不満を社長に進言した社員は解
雇されたという実例があり、誰も何も言わなくなった
業務運営のルールやしくみづくりにおいても、それ
ぞれの指標間における取り組みに大きな差が生じる
元社員は「偽装は社内では公然の秘密だった」と話して
いるように、偽装が当たり前のように行われていた
制御系不全症候群
担当者または担当部門の判断や決定がコントロールできないため、組織に損害を与え
る行動や倫理に反する行動を許してしまう症候群
OMACが定義する主な症状例
記事等から読み取れる組織の実態
組織として目指す方向性に特定の個人や集団の欲求
が強く反映され、それを満たすために組織構成員の
力が注がれる
偽装は社長自らの指示で7,8年前から日常的に行っ
ていた、会社ぐるみの犯罪である
組織活動が社会に対して逸脱した方向に進んだとき
に、自発的に軌道修正する力が損なわれる
偽装に対して、疑義を社長に訴えた社員を解雇するな
ど、不満分子を排除していった
自分たちの利益を追求することは意欲的だが、その
行動が必ずしもお客様や社会の利益にはなり得ない
牛ミンチと表示しながら豚や鳥を加える、色付けのため
に血を加える、量を増やすために水やパン粉を混ぜる
等、消費者を裏切る行為が数多く発覚している
信条至上症候群
自社の信条に固執するあまり、社会や市場のニーズと隔たった組織行動をとってしまう
症候群
OMACが定義する主な症状例
記事等から読み取れる組織の実態
自社の理念や規範などに対して、疑問を感じること
なく受け入れる
記者会見での席上、工場長が「社長は雲の上の人、不
満を言える立場にはない」と発言
組織本来の使命や目的を満たすことよりも、信条を
守ることが重視される
偽装した商品でトラブルとなった場合、従業員の過失で
欠陥品が出たように装い、保険金の支払いを受けるな
ど、偽装がばれないように徹底した
環境変化を察知する機能が働かず、社会や市場ニー
ズと隔たった組織行動を適切に是正できなくなる
偽装発覚後、「販売店も悪いし、半額セールで喜んで買
う消費者にも問題がある」「消費者も安いものばかり求
めるから」などと、消費者に責任の一端をなすりつけた
CASE3
「大手鉄道会社」と「生損保業界」の症候群に見る共通点
大手鉄道会社が起こした脱線事故に見るその会社の組織体質と、生損保業界で問題視されて
いる保険金未払い問題は、組織診断OMACの解析ロジックで検証すると、両者には共通点が
見られ、「内部迎合症候群」が生じているといえます。
内部迎合症候群
主な症状例
上司の言動を無条件に受け入れ、本来の業務遂行よりも自己の保身を優先する風潮が蔓
延する症候群
上司の指示や判断に対して、部下が異論や反論を述べることはない
組織内における自己の地位や立場に対して必要以上に関心が高くなる
本来果たすべき役割や使命を忘れ、組織内における自己の地位を確保したり立場を守る
ことに注力する
【 上司の指示や判断に対して、部下が異論や反論を述べることはない 】
大手鉄道会社の場合は、事故車両に乗っていたにもかかわらず上司命令だからといって
負傷者の救助等を怠り、事故現場を立ち去った社員がいた。
生損保業界の場合は、保険金支払い額に疑問を持った社員はいたが、上司に提言するこ
とはできずに指示・命令に従い、結果として未払い問題を放置していた。
【 組織内における自己の地位や立場に対して必要以上に関心が高くなる 】
両者ともに過度なマイナスの評価制度が社員の縛りとなっていた可能性が高い。
大手鉄道会社の場合は、特に運転手を対象とする評価制度だが、プラスに評価される項
目はなく、マイナス評価ばかりが目に付いた。オーバーランは何mでマイナス何点、運行
遅延は1分で何点減点といった具合。事故車両の運転手もその日、とある駅で60m近い
オーバーランをしており、その遅れを取り戻そうと無理をした可能性が指摘されている。
生損保業界の場合は、丁寧に契約条項にのっとって保険金を支払おうとすると、時間の
ロスや利益を圧迫すると理由から評価に影響した。正直者がバカを見るという体質である。
これらのことから、評価を通じて組織内の自己の立場に関心が高まったといえる。
【 本来果たすべき役割や使命を忘れ、
組織内における自己の地位を確保したり立場を守ることに注力する 】
大手鉄道会社の本来の使命は、『安全な輸送手段の提供』にあるはずだが、事故当時の
年度方針等には『安全』という文字はなく、売上や利益の追求、競合他社対応に終始して
いた。結果として、安全対策が後回しになっていた(新型ATSの未導入他)。このよう
な組織内にあって、運転手も安全よりも運行ダイヤの遅延を取り返そうと焦り、結果とし
て事故を起こしたと思われる。
生損保業界の本来の使命は、『不測の事態が発生した際の安心感の提供』にあるはずだ
が、競合を意識するあまりに商品が複雑化し、保険支払い時に見落としや抜けが多発した。
結果として、安心感どころか不安を煽ることとなった。このような組織にあって、契約に
忠実に保険金を支払おうとすると、『前例を覆すような余計なことをする』『時間がか
かって処理件数が減る』といった批判につながりかねないと、結果としてこれらを控える
ようになった。