前田 一樹

2012 年度 卒業論文要旨
エネルギーハーベスティング無線センサネットワークにおける
効率的情報収集のためのノードペア方式
学修番号 09175035
前田 一樹
指導教員
朝香 卓也
1 序論
近年,無線通信機能を有した小型センサノードの実
現に伴い, 環境情報などを収集する無線センサネッ
トワークの研究が盛んに行われている.中でも環境発
電装置を備えたセンサノードを使用したエネルギー
ハーベスティング無線センサネットワークが注目され
ている [1].従来の無線センサネットワークにおける
課題の一つである,センサノードのバッテリ切れとい
う問題を回避できるという利点があるものの,休止
状態での充電が頻繁に発生し,いつでも通信できる
ことを前提とした従来の通信プロトコルを利用する
図 1: 無線センサネットワークの概要
ことができず,データの取得率や,データ収集遅延時
間の問題が発生する.
これらの課題を解決するため,ノードペア方式を
提案する.提案方式では農業などの屋外利用を想定
した環境モニタリングにおいて,近距離に配置され
たセンサノードでペアを組み,類似したデータの必
要性をノード自身が判断することで無駄なパケット
を減らす.また,性能に限りがあり全体では同期がと
れない単純なセンサノードにおいて,ペアになった
ノード同士でのみ簡単な同期を行い,受信待機の時
ドには充電期間が必要となる.センサノードが充電,
受信待機,送信の3ステップを順次繰り返すことによ
り,マルチホップ通信することでデータをシンクノー
ドへと送信する.各センサノードは送信状態になった
時,送信範囲内に受信待機状態のセンサノードがあ
ればフラッディングを行い,なければふたたび充電へ
と戻る.送信範囲内にシンクノードが存在した場合,
シンクノードへの送信のみを行う.送信完了後,セン
サノードは送信したデータを消去する.
間をずらすことにより,同地点での受信待機時間を実
質的に増やし,さらに,近距離センサノード間での通
信を防ぐことでデータ収集の効率化を図る.これに
3 提案手法
より従来より素早くデータを収集し取得率を向上さ
提案方式では,近距離にある2つのセンサノード
せ,パケットの衝突などによる送信失敗の原因になり
がペアとなり協調する.ノードペアはセンサノード
やすい,ネットワーク全体の無駄なトラヒックを減ら
2つまでの組で発生し,3つ以上のセンサノードが
す.さらに,本論文では,ノードペア方式の有効性を
同一ペアになることはない.また,ペアを掛け持ち
示すため,計算機によるシミュレーションによる評価
することもできない.ペアになったセンサノードは,
を行った.
互いに不定期に自分の状態を報告する.ペアとなった
ノードは親機と子機に分かれる.親機のセンサノード
2 データ収集方法
エネルギーハーベスティング無線センサネットワー
クは,データを集めてエンドユーザへ送るシンクノー
ドと,データを収集し中継する多数のセンサノード
で構成される (図 1).センサノードは1次電池を持た
ず,環境発電でのみ給電を行う.環境から得られる電
力は連続稼働を行うには十分とは言えず,センサノー
が受信待機にあり,子機のセンサノードも受信待機に
なる場合には,子機のセンサノードはウエイト状態
となる.ウエイト状態のセンサノードは何もせず,親
機の受信待機が終わるのに合わせてふたたび受信待
機に戻る.これにより,他センサノードが送信時に,
実質的に同地点のノードの受信待機時間が長くなる
ため,データ送受信の成功確率が上昇する.
また,ペアになったセンサノード同士での送受信が
図 2: ウエイト状態による受信待機重複の回避例
行われなくなるため,シンクノードにたどり着くまで
の経路において近距離の通信が減り,比較的長距離の
データ通信が増える.これによりセンサノードからシ
ンクノードにデータが届くまでのホップ数を減らし,
シンクノードのデータ取得までの時間を短縮する.
図 3: ノード 1000 個における評価
加えて,子機のセンサノードは自身が取得したデー
タの送信を行わず,親機のセンサノードにデータを委
領域の一辺を 100m とし,ペアノード間の距離は
託する.近距離で取得した類似データを同一パケット
で送信することにより,無駄なトラヒックを削減し取
3m 以下とする.センサノードの送信可能距離は 20m
とする.充電レートは平均 10mW とし,分散 2 の一様
得速度向上に寄与する.この2つのデータは近距離で
分布に従う乱数で与える.送信電力,受信電力,セン
発生した類似データであるため,消費電力に影響を与
サノードのシステム消費電力より充電時間は約 64.16
えるデータ量の増加を伴わず,同一のデータとする.
∼96.25ms と計算できる.また,送信時間は約 3.2ms
ウエイト状態の動作例を図 2 に示す.図 2 はペア
となり,受信待機時間はその 2 倍の 6.4ms と設定する.
となっているセンサノード A とセンサノード B の状
図 3 より,提案手法を用いた場合の方が,取得率,
態遷移を時間軸に表わしたものである.センサノー
取得速度が向上していることを確認した.
ド A を親機,センサノード B を子機とし,2 つのセ
ンサノードは互いに動作状況を確認し合っている.図
2 のように,センサノードは充電,受信待機,送信の
3 ステップを繰り返しているが,ここで順当に経過し
た場合,t=n の点でペアの受信待機状態が重複する
ことが予期される.このような場合,子機であるセン
サノード B は受信待機の代わりにウエイト状態を行
う.ウエイト状態は既知である受信待機時間と送信時
間を合わせただけ行われ,その後にセンサノードB
は受信待機となる.このように,受信待機はノードペ
ア同士で被らないようウエイト状態をとる.
5 結論
本論文ではエネルギーハーベスティング無線セン
サネットワークにおいて,効率的情報収集のための
ノードペア方式の提案を行った.さらに,性能評価を
行い,その有効性を示した.評価結果として,提案
手法は本方式を使用しない場合に比べ,重複データ
数を減らしつつ,取得率を向上させられることが分
かった.
今後の課題としては,ノードペアの数を 3 つ以上
にした場合,ペアノード間の距離を変えた場合につ
4 シミュレーション評価
いても検証する必要がある.
四方にランダムにセンサノードを配置し,中央に
設置されたシンクノードのデータ取得率を評価する.
取得率とは,ある時刻における,シンクノードが取得
したデータのうち,被りのないデータ数の全センサ
ノード数における割合である.また,同時に重複デー
タ数も計測する.重複データ数とは,フラッディング
による送信によって,シンクノードに届く同一データ
の個数であると定義する.
参考文献
[1] ZA Eu, HP Tan, and WKG Seah, ”Routing and
relay node placement in wireless sensor networks
powered by ambient energy harvesting,” The IEEE
Wireless Communivations and Networking Conference WCNC, pp.5-8, 2009.