Document

監修:東京医科歯科大学名誉教授 西岡 清
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最近の話題
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実地診療マニュアル イラスト&ビジュアル 「足の皮膚疾患(フットケアを含めて)」
■
臨床所見による鑑別診断のポイント 「ざ瘡をどのように診るか」
■
皮膚疾患患者・家族のためのより良いコミュニケーションのために 「リハビリメイク 」
福岡大学医学部皮膚科学教室教授 今福 信一
1
滋賀医科大学皮膚科学講座特任准教授 中西 健史
医療法人明和病院皮膚科部長・にきびセンター長 黒川 一郎
17
3
7
Ⓡ
フェイシャルセラピスト かづき れいこ 9
2015.
3
秋号
表紙の花:コスモス
最
近
の
話
題
第 64 回
今福 信一 先生
福岡大学医学部皮膚科学教室教授
Profile
いまふく しんいち
1991年九州大学医学部卒業後,同大学医学部附属病院皮膚科
に入局。’92年〜’95年にかけて米国メリーランド大学ウイル
ス免疫学教室に留学。’95年新小倉病院皮膚科医長,’00年広
島赤十字・原爆病院皮膚科診療部長,’05年北九州市立医療
センター皮膚科主任部長を務める。’07年福岡大学医学部皮
膚科学教室講師,’09年同准教授を経て,’14年より現職。
専門は,乾癬,皮膚科領域のウイルス感染症
(ヘルペスウイル
ス,C型肝炎ウイルス)
。
乾癬は,①尋常性乾癬,②膿疱性乾癬,③滴状乾癬,④関節症性乾癬,⑤乾癬性紅皮症の5型に分類され
ている。しかし,疫学的にみると単純に5型に分類することは難しいと福岡大学医学部皮膚科学教室教授の
今福信一先生は話す。そこで現在,今福先生らが試みている乾癬における「臨床事実からのフェノタイプ分類
と治療の最適化」の最新の状況についてお話いただいた。
乾癬は角化細胞の異常増殖を伴う慢性炎症性疾
何が関節症性乾癬なのか?
患で,①尋常性乾癬,②膿疱性乾癬,③滴状乾
またわれわれは,1998年より福岡大学病院皮
癬,④関節症性乾癬,⑤乾癬性紅皮症の₅型に分
膚科を受診した乾癬患者を全例登録し,年齢,性
類されています。しかし,しばしば尋常性乾癬に
別,乾癬の発症部位と初発年齢,合併症,既往
関節症性乾癬を伴ったり,尋常性乾癬から膿疱性
歴,家族歴,悪化因子,炎症性関節症の有無,治
乾癬へと診断が変わったりすることがあり,患者
療歴などのデータを集計・解析してきました(「福
個人でみても,疾患個々にみても,単純に₅型に
岡大学乾癬レジストリ」)。2015年₆月現在,約
分類できない場合があります。したがって,私は
1,000名のデータが集まっており,重要な病態は
疫学的にみると乾癬をこの病型分類に当てはめる
積算され浮き彫りとなっています。たとえば,日
ことは難しいと考えていました。
本乾癬学会の疫学調査と同様に乾癬の男女比は
膿疱性乾癬は乾癬類似疾患である可能性
₂:₁で男性に多く,10歳代までは男女の発症率
実際,尋常性乾癬が先行せず,かつ伴わない汎
に差は認められないものの男性は20歳代以降に増
発性膿疱性乾癬の大半の病因は,IL36RN 遺伝子
加がみられることが示されました(図₁)。また,
変異によるIL-36受容体阻害因子の欠損であるこ
白人では20歳代までの発症が圧倒的に多く一峰性
₁)
であるのに対して,日本人では若年発症群と中高
乾癬が先行する,あるいは伴う汎発性膿疱性乾癬
年発症群にピークを認める二峰性で,若年発症群
にはそのような遺伝子変異,および欠損は認めら
では遺伝的素因が強く,中高年発症群では肥満,
れないことが確認され,両者は異なる疾患である
メタボリック症候群などの環境因子が大きく関係
ことが示唆されています。すなわち,後者はいわ
していました。さらに,女性では閉経後に乾癬発
症が増えることから,女性ホルモンが抑制的に関
て,前者は乾癬の₁病型に分類されているものの
係していることも明らかになりました。
Clinical Derma
とが明らかにされました 。
その一方で,尋常性
ゆる尋常性乾癬が膿疱化したものであるのに対し
乾癬ではなく,乾癬類似の膿疱症ではないかとい
ところが,尋常性乾癬における炎症性関節症,
うことです。今後,尋常性乾癬が先行せず,かつ
関節症性乾癬の特徴については,われわれのデー
伴わない汎発性膿疱性乾癬は,乾癬とは別のガイ
タをあらゆる観点から解析してみても,何₁つ捉
/
ドラインで語るようになるかもしれません。
えることができませんでした。たとえば,尋常性
1
乾癬の男女比,重症度,発症年齢と炎症性関節症
No.
(人)
150
64
■ 男性
■ 女性
n=971
100
患者数
50
∼
90
89
∼
80
79
∼
70
59
69
∼
60
50
∼
49
∼
40
39
∼
30
29
∼
20
19
∼
10
0∼
9
0
(歳)
年齢
図₁.乾癬の発症年齢別histogram
(福岡大学乾癬レジストリ)
の発症において関連性がみられなかったのです。
ます。つまり,どのようなフェノタイプに食事療
この理由として,尋常性乾癬には炎症性関節症が
法や運動療法が有効なのか,有効な食事療法や運
普遍的に合併しているか,関節症性乾癬の定義が
動療法とはどのようなものか,などについて明ら
曖昧かのいずれかが考えられます。ただし,これ
かにしたいと考えています。また,今後10年間,
までの
「関節症性乾癬についての皮膚科専門医と
生物学的製剤を使用した全症例を追跡し,その効
リウマチ専門医の研究結果が異なること(=異な
果を検証することによりフェノタイプ分類と治療
る集団を診ている可能性が高い)
」
,「若年発症尋
の最適化を図りたいと考えています。その他,外
常性乾癬の遺伝的背景とされるHLA-Cw6の集積
用療法についてはほとんどのフェノタイプに有効
と関節症性乾癬に関連がないこと」,「尋常性乾癬
であると考えていますが,それは患者さんが「き
の皮疹に効果を認めても,炎症性関節症には効
ちんと塗ってこそ」です。現在,われわれは治療
果のない薬剤があること」などの知見を考慮する
の最適化を図るという意味から,「どうすれば患
と,現時点では関節症性乾癬の病像に迫っておら
者さんがきちんと外用薬を使ってくれるか」とい
ず,今後,何が関節症性乾癬なのかを明確にする
う方法を模索しています。その₁つとして,ステ
ことが大切なのではないかと考えています。
ロイド外用薬単独で効果不十分な限局性尋常性乾
臨床事実からフェノタイプを分類し,
治療の最適化を図る
癬の患者さんにビタミンD3外用薬を追加すること
そこでわれわれは,「福岡大学乾癬レジストリ」
により,薬理学的作用に加えて新たな処方に対す
る医師の説明や患者の期待などから外用アドヒア
からみえてきた臨床事実をもとに背景の法則性・
ランスの向上がみられ,皮膚症状,治療満足度な
共通性に基づいてフェノタイプを分類するととも
どが改善することを確認しています。また,ビタ
に,フェノタイプに応じた治療を確立する(治療
ミンD3外用薬のプロアクティブ療法の有効性につ
の最適化)研究を続けています。ようやく一定の
いても確認しつつあり,外用アドヒアランスの向
傾向がみえてきたので,2015年から乾癬を₄つの
上につながると考えています。このように,これ
フェノタイプに分類し,治療介入などからその裏
からもわれわれは臨床事実をよく観察してきちん
付けを取り始めているところです。
と記載する手法で疫学的に仮説を検証し,乾癬に
将来,論文で発表する予定ですが,たとえば,前
ついての新たな知見を発信していきたいと思って
います。
述したように乾癬のなかには肥満やメタボリック
症候群が誘発因子となっている一群があり,その
文 献
群では薬物療法に頼らず食事療法や運動療法によ
₁) S ugiura K, et al:J Invest Dermatol 133:2514-
り減量することで乾癬を改善できる可能性があり
2521, 2013
Clinical Derma
なお,フェノタイプの分類などについては近い
/
2
実地診療マニュアル
イラスト&ビジュアル
64
足の皮膚疾患(フットケアを含めて)
滋賀医科大学皮膚科学講座特任准教授 中西 健史
病態
足に生ずる皮膚疾患は,きわめて多岐にわた
る。足は白癬や疣贅など非常にポピュラーな疾患
の好発部位であると同時に,悪性黒色腫のような
生命に直結する疾患も生じる。本稿では,生命に
関わらないとしても足そのものの存在が失われて
するか植皮により再建可能であるが,筋膜は再生
不可能なので,下肢切断となってしまうわけであ
る。
症状
PADは 初 期 で は 無 症 状 で あ る が, 間 歇 性 跛
いと思う。このような疾患群は,皮膚科の教科書
行,安静時痛,潰瘍形成または壊死と進行してい
にほとんど掲載されていないので,ぜひ日常診療
くので,皮膚科医が実際に扱うのは最重症段階と
の参考にしていただきたい。
いうことになる。PADの重症度分類にはFontaine
足を失う理由は,足を構成している細胞のいず
分類やRutherford分類が用いられるが,基本的に
れかが壊死を起こして,回復不可能となることに
この₂つに大きな違いはない。全身症状として
よる。壊死を起こす原因は,大きく₂つに分かれ
は,安静時痛に伴う不眠や食思不振などがみられ
る 。₁つは,足への血流が十分でないために栄
る以外に特異的なものはない。虚血性壊死の特徴
養不足で壊死を起こしてしまう,いわゆる虚血性
は,乾性壊疽を示すこと,末梢から病変が進行す
疾患によるものである。もう₁つは細菌感染症に
ることである。
よるもので,細菌の毒素や好中球などが放出する
壊死性筋膜炎では,猛烈な勢いで病変部が拡大
蛋白や活性酸素で細胞が傷害されるために壊死を
することが特徴である。通常,局所の発赤,熱
起こしてしまう。
感,浮腫,ときに悪臭を放ち,発熱や悪寒などの
虚 血 性 の 壊 死 は, 基 本 的 に 末 梢 動 脈 疾 患
(peripheral arterial disease ; PAD,図₁〜₃)に
よるが,ほかにコレステリン結晶塞栓症,稀に血
管炎,血栓症,全身性強皮症や動静脈瘻などでも
みられることがある。PADは,動脈硬化により
Clinical Derma
3
拡大する。皮膚は壊死を起こしても周囲から再生
しまう,下肢切断に至る全身性疾患を扱ってみた
1)
/
( 図₄)の状態になり,筋膜沿いに膝まで感染が
全身症状を伴う。血流が障害されていないので,
湿性壊疽となることが特徴である。
診断の進め方
血管内腔が狭小化,もしくはそれが進展して閉塞
PADに 関 し て は, 触 診 が 基 本 で あ る。 し か
してしまうことで起こる。動脈硬化を起こすリス
し,皮膚科医はこういったことに慣れていない
クファクターは,高血圧,脂質異常症,糖尿病,
ので,足関節上腕血圧比(ankle-brachial pressure
加齢,喫煙などが代表的であり,このような基礎
index ; ABI)を測定すると数値化されてわかりや
疾患をもっているかどうかの問診がきわめて重要
すい。ABIが0.9を下回ればPADの疑いがあると
である。
して,血管エコーや造影CTへと検査をすすめて
感染性の壊死は,通常表皮や真皮レベルの細菌
いくことになる。ABI,血管エコー,造影CTは
感染症,すなわち膿痂疹や蜂窩織炎では起こらな
大まかに足関節より中枢側に病変がある場合には
い。しかし,感染が筋膜まで及ぶと壊死性筋膜炎
有用な検査であるが,足関節から末梢は足趾上腕
実地診療マニュアル
イラスト&ビジュアル
64
図₁.PADによる壊疽
閉塞像
石灰化した動脈
閉塞像
側副血行路
閉塞像
図₂.PADにおける単純レントゲンでみられる動脈の石灰化
像と造影CTでみられる閉塞像
ステント内が閉塞
Clinical Derma
図₃.ステント内の閉塞像(造影CT)
/
4
図₄.壊死性筋膜炎
図₆.ガス壊疽における単純レントゲ
ンでみられるガス像
ここまで膿が貯留
図₅.ガス壊疽
図₇.ガス像に一致してみられる筋膜の壊死
血圧比(toe-brachial pressure index ; TBI)や皮膚
握雪音がする。壊死性筋膜炎では圧痛を訴えるの
灌流圧(skin perfusion pressure ; SPP)を用いて
で,その部分にまで感染が波及していることを示
評価する。案外忘れがちだが,下肢全体の単純レ
している。つまり,おおよその切断部位を決定
ントゲンはすぐに結果が出るので石灰化をみるス
する₁つの根拠となる。もちろん細菌検査は必
クリーニングには適しており,初診時に行ってお
須であるし,血液検査では白血球やC反応性蛋白
2)
くと便利な検査である 。そのほかにも検査方法
は種々あるが,誌面の都合上,割愛する。
壊死性筋膜炎(図₄)は,臨床症状である程度診
Clinical Derma
/
5
(C-reactive protein ; CRP)
,プロカルシトニン
が上昇し,白血球分画は左方移動を示す。アルド
ラーゼも筋膜の障害で上昇するので,結果が出る
断がつくが,ガス壊疽(図₅)と見分けがつきにく
まで日数はかかるがオーダーしてもよいだろう3)。
いことがある。両者の病態は類似しているが,起
単純レントゲンはガス壊疽の診断に不可欠である
炎菌が異なる。後者の場合,ガスを産生する嫌気
し(図₆, ₇),MRIで軟部組織の評価ができれば
性菌は酸素に触れさせないと死滅しない性質をも
よいが,時間がなければCTで代用することも可
っているので,早急な切開を要するケースもあ
能である。いずれにせよ,PADと異なり放置す
る。壊死性筋膜炎にせよガス壊疽にせよ,最も簡
れば菌血症にすぐ進展するので,一刻の猶予もな
単な診断法は触診である。発赤部に対して浮腫を
い疾患である。よって,できる限りその日のうち
診察するときの要領で圧迫すると,ガス壊疽では
に治療方針を決定することが肝要となる4)。
実地診療マニュアル
イラスト&ビジュアル
64
治療法
残念ながら,PADを基盤とした潰瘍や壊死に
対して,皮膚科医は何もできない5)。まずは,血
行再建が大前提である。血流不全の創部にいくら
外用薬を塗布しても,枯れかかった植物に肥料を
やっていることと同じだからである。まず,水を
与えてやらなければ植物が元気にならないよう
に,血流を回復してやらなければ創部の改善は見
込めない。軽症であれば薬物療法により改善は見
図₈.フットケアにおける足浴
込めるが,そもそもPADは患部に薬物が到達す
る経路に生じる疾患である以上,根本となる血管
文 献
の治療を行うに越したことはない。ところで,近
1)渥 美義仁 : 糖尿病患者が足潰瘍をおこす原因とそ
年PADの血管内治療が盛んに行われるようにな
の予防. 中西健史 責任編集 : Visual Dermatol 12 :
ったが,意外と再狭窄率が高いことがわかってき
1126-1130, 2013
た6 )。また,一部の循環器内科医は軽症例に運動
療法を勧めているくらいである。大血管に対する
効果は見込めないかもしれないが,運動という刺
激が血管新生を促すからである7)。
壊死性筋膜炎やガス壊疽に対しては,救命を念
頭に置く必要がある。患部が前足部に限局してい
れば何とか足を残すことは可能であるが,それを
越えてしまうとなかなか難しい。強力な抗菌薬の
投与と迅速なデブリードマンが予後を左右する。
デブリードマンが十分であれば基本的に血流は保
たれているので,陰圧閉鎖療法などで肉芽を増生
させて植皮に持ち込むことも皮膚科医であれば不
可能ではない。
とはいえ,これらの疾患を未然に防ぐために
は,日常から足を観察することが大切である。糖
尿病合併症管理料が診療報酬として認可された
2008年以降8),看護師が定期的にリスクの高い
患者に対してフットケアを行うようになったこ
9)
とは,実は薬よりも効果があるのかもしれない
2)中 西健史:糖尿病性潰瘍・壊疽の治療アルゴリズム.
Derma. 226 : 63-69, 2015
3)中 西 健 史: 糖 尿 病 性 皮 膚 潰 瘍
(糖尿病性足病変)
.
今日の臨床サポート
(h t t p s : / / c l i n i c a l s u p . j p /
contentlist/1460.html)
4)宮地良樹 編:「ガイドラインを読む」シリーズ 皮膚疾
患ガイドライン編. 東京, メディカルレビュー社,
78-86, 2015
5)中西健史 編集企画 : フットケアを必要とする疾患と
皮膚科医の役割. Derma. 207 : 1-9, 2013
6)白記達也, 飯田 修, 上松正朗 : 重症下肢虚血に対す
る血管内治療の役割・限界. Angiol Front 13 : 212219, 2014
7)L yu X, Li S, Peng S, et al : Intensive walking
exercise for lower extremity peripheral arterial
disease ; a systematic review and meta-analysis. J
Diabetes. 2015
(Epub ahead of print)
8)中西健史 監, 瀬戸奈津子 編:糖尿病フットケア完全
マスター. 大阪, メディカ出版 , 124-131, 2009
9)中西健史:はじめてのフットケア. 大阪, メディカ出
版, 57,2012
(図₈)
。
Clinical Derma
/
6
臨 床 所 見 に よ る 鑑 別 診 断 の ポ イ ン ト ― 第
64 回
ざ瘡をどのように診るか
医療法人明和病院皮膚科部長・にきびセンター長 黒川 一郎
■ざ瘡をどのように診るか?
ざ瘡とは,思春期男女の顔,胸,背中に好発する面皰を初発疹とする毛包・皮脂腺の慢性炎症性疾患であ
る。面皰は,閉鎖面皰(白にきび),開放面皰(黒にきび)の₂種類がある(図1)。白にきびは炎症を起こしや
すく,赤色丘疹(赤にきび),小膿疱(黄にきび)へ移行しやすい(図₂)。ざ瘡により毛包が拡張すると囊腫が
形成され,毛包壁が破れると異物反応が起こり,瘢痕を形成する。鑑別診断と治療の進め方を図₃に示す。
A
B
A
B
図1. 尋常性ざ瘡
図₂. 尋常性ざ瘡
閉鎖面皰(白にきび)(A),開放面皰(黒にきび)(B)の2種類がある。
赤色丘疹(赤にきび)(A),小膿疱
(黄にきび)
(B)がみられる。
顔面,前胸部,背部に皮疹
面皰
+
瘢痕形成
−
ステロイド全身投与
−
+
強い
弱い
マラセチア胞子
+
尋常性ざ瘡
集簇性ざ瘡
ステロイドざ瘡
面皰
Clinical Derma
/
7
主な皮疹
丘疹,膿疱
囊腫,結節
マラセチア毛包炎
アダパレン,BPO
−
酒
(顔面に毛細血管拡張)
BPO,CLDM/BPO,アダパレン,抗菌薬内服,外用
ステロイド局注
図₃. 尋常性ざ瘡をどのように診るか
BPO:過酸化ベンゾイル,CLDM:クリンダマイシン
(筆者作成)
臨床症状から鑑別すべき疾患
₁. 集簇性ざ瘡
前胸部,背部に好発する難治性のざ瘡関連疾患である。皮下結節,囊腫,肥厚性瘢痕,ケロイドを形成する傾向が強く,
隣接する肥厚性瘢痕が融合するとBridgingを形成する。二重面皰が存在することがある。ときに,皮下瘻孔を形成する。
₂. ステロイドざ瘡
ステロイド内服,点滴の全身投与の既往がある場合にみられる。皮疹は均一な毛包一致性の赤色丘疹,小膿疱が前胸部,
背部に存在する。面皰は,一般に認めない。
₃. 酒皶
顔面に毛細血管拡張が存在する。紅斑,刺激感がある。面皰はみられない。温熱,寒冷,紫外線,飲酒,香辛料摂取など
で誘発される。
₄. マラセチア毛包炎
前胸部,背部に夏に好発する。毛包一致性の赤色丘疹,小膿疱がみられる。面皰は認めない。メチレンブルー染色液によ
る鏡検で,青く染まったマラセチアの胞子を検出する。
病理組織学的所見
尋常性ざ瘡は毛包漏斗部の顕著な貯留性角化を認め,毛包内に角化物質,細菌などがみられる
(図₄)
。毛包周囲にはリン
パ球,好中球の稠密な細胞浸潤がみられ,皮脂腺は萎縮性である。毛包壁が破れると,角化物質の周囲に異物反応が起こる
(図₅)。
図₄. 尋常性ざ瘡の病理組織学的所見
毛包漏斗部の顕著な貯留性角化,毛包周囲の炎症
細胞の稠密な細胞浸潤,皮脂腺の萎縮がみられる。
図₅. 尋常性ざ瘡の病理組織学的
所見
毛包壁が破れ,角化物質の周囲に異物反応が
認められる。
病理組織学的所見から考えられる鑑別すべき疾患
₁. 集簇性ざ瘡
囊腫,瘢痕形成,線維化が顕著である。ときに,皮下瘻孔がみられる。
₂. ステロイドざ瘡
毛包の限局性の壊死がみられ,毛包周囲に好中球の稠密な浸潤が認められる。
表皮はやや萎縮し,毛細血管拡張,軽度の浮腫を認め,毛包,皮脂腺の周囲にリンパ球の浸潤がみられる。
₄. マラセチア毛包炎
毛包漏斗部の拡張,毛包内にマラセチアの胞子が検出される。膿瘍が形成され,毛包壁が破壊されると異物肉芽腫を生
じる。
Clinical Derma
₃. 酒皶
/
8
皮膚疾患患者・家族のためのより良い
コミュニケーションのために
第 64 回
®
リハビリメイク
フェイシャルセラピスト リハビリメイクⓇとは
「リハビリメイクⓇ」とは,皮膚疾患や外傷,あざな
ど外観上の悩みをもつ人の社会復帰を支援するための
メイクアップです。メイクと同時に精神面のケアも行
うことで自身の外観を受け入れることが容易となり,
外観上の悩みを解決する手段の1つとして,1995年
に提唱しました。
「隠す」ことを目的とはせず,自
リハビリメイクⓇは
身の外観を受け入れ,社会復帰を促すことを目的とし
ています。従来の「カモフラージュメイク」は患部のみ
を隠すことを主目的としており,患者さんは「隠して
いる」ことで患部に対してマイナスな心理状態に陥る
可能性があります。
リハビリメイクⓇは,簡単で一般と同じ化粧品を使
用し短時間で施術を行うため精神的負担が少なく日常
生活に取り入れやすく,その適応範囲は皮膚科,形成
外科,精神科,歯科など多岐にわたります(表₁)。ま
た,疾患をもたない方でも自身の外観の受容が難しく
社会生活に支障をきたしている場合は,その適応とな
ります。
外来時における基本的な流れ
リハビリメイクⓇでは,患者さんにメイクの技術・
かづき れいこ
技法を提供するだけでなくヒアリングに力を入れてお
り,現病歴や既往歴,生活環境などを聞きながら,客
観的な美ではなく患者さんが満足する顔が施術できる
よう把握します。また,他者にはわからない精神的な
悩みが存在する可能性があるので,反応をみながら明
らかにしていきます。メイクの基本的な手法は,スキ
ンケア・血流マッサージ→極薄粘着テープ→化粧下
地・ファンデーション→フェイスパウダー→ポイント
メイクで,約15分で行います。
皮膚科領域におけるリハビリメイクⓇの実際
皮膚疾患を抱える患者さんにおいて,治療による疾
患の改善が第一です。しかし,治療によって疾患が改
善されても,気分が落ち込み外出できないなど,日常
生活に支障をきたす患者さんもいらっしゃいます。ま
た,治療に難渋したり,完治そのものが難しかったり
する皮膚疾患も少なからずあります。こうした患者さ
んは皮膚疾患とともに生きていかなければならず,多
くが健康的な外観を望まれています。
たとえば,膠原病は完治が難しく,治療に用いられ
る副腎皮質ステロイドの副作用としてときに生じる
ムーンフェイスや色素斑,紅斑などを気にされ,治療
を積極的に受けられない患者さんもいらっしゃいま
す。また,アトピー性皮膚炎や尋常性ざ瘡の患者さん
表1.リハビリメイクⓇ適応症例
専門領域
Clinical Derma
/
9
疾患名
精神科
双極性障害,神経症,更年期障害,摂食障害,身体醜形障害,自傷行為,ドメスティックバイオレンス,手術後ス
トレス障害(Post-Surgical Stress Disorder;PSSD)
形成外科
瘢痕(熱傷後瘢痕,外傷後瘢痕,術後瘢痕など),血管腫・母斑(単純性血管腫,太田母斑など),母斑症(プリングル病,
レックリングハウゼン病など),口唇裂,口蓋裂,陳旧性顔面神経麻痺,眼瞼下垂
歯科・口腔外科・
頭頸部外科
口唇裂,口蓋裂,口腔癌,咬合異常,審美歯科,下顎前突,顔の変形,頭頸部手術後瘢痕
美容外科
痤瘡・痤瘡痕,色素性病変,アンチエイジング全般(たるみ,しわ,しみ,毛穴の開き),下顎角の張り,美容治療
後のダウンタイム軽減(ケミカルピーリング,レーザー)
皮膚科
アトピー性皮膚炎,痤瘡,膠原病による皮膚症状,母斑,白斑,色素性病変,魚鱗癬
内科
膠原病,腎不全(透析)によるさまざまな皮膚症状,ステロイド治療による副作用
婦人科
更年期障害,がん治療に伴う副作用(脱毛,くすみ)
眼科
眼瞼下垂,眼瞼けいれん,眼瞼内反
は,健常者と同様にメイクへの願望を抱いているもの
の,メイクを行うと症状が悪化するのではないかと化
粧品の選び方やメイクの方法について悩んでいること
も少なくありません。
このような場合に,医師の判断のもと行えるリハビ
リメイクⓇは,治療中の精神ケアの1つの手段になり
うると思われます。リハビリメイクⓇで患者さんの満
足度が得られた後に自身で能動的にメイクができるよ
うになると,いつでもメイクができるという安心感や
自信から満足度は維持され,自身の外観の受容につな
がると考えられます(写真₁)
。
リハビリメイクⓇの役割と医療連携
リハビリメイクⓇにより外観の満足度が上昇すると
患者さんの気持ちは非常に前向きになり,治療への積
極性にもつながると考えます。なぜなら,メイクに
よって外観に対する満足度,QOLを高めることで患
者さん自身がもつ回復力・免疫力に働きかけ,そこで
治療を行うことにより治療効果がアップするという,
メイクと治療の相乗効果が期待されるからです。ま
た,治療中や治療前後にリハビリメイクⓇを導入する
ことにより,たとえば手術が必要であると診断された
方も手術の優先順位が決定できたり,もしくは回数を
減らすことができる場合もあります。メイクは,嫌で
あれば何度でもやり直すことができること,副作用が
ないということも大きな利点です。
さらに,患者さんだけでなく,そのご家族のケアも
大切にしています。ご両親がお子さまの傷跡を気にさ
れ,ときに自分自身を責めることがあります。リハビ
リメイクⓇ中はご両親の様子も気にかけ,必要と思われ
るときは臨床心理士にもフォローをお願いしています。
今後の展望
難治性,あるいは今のところ根治療法のない皮膚疾
患を抱える患者さんのなかには,長期にわたる治療に
疲弊し,
「病院に行って治療しても,症状は良くなら
ない」などの思いから,通院や治療のコンプライアン
メイク前
メイク後
写真1.リハビリメイク®施術前後の臨床写真
(33歳女性,
アトピー性皮膚炎)
(写真は患者本人の許可を得て掲載)
ス,アドヒアランスが低下している方もいらっしゃい
ます。しかし,前述したように私たちはリハビリメイ
クⓇがきっかけとなり,通院や治療に前向きになられ
る患者さんを少なからず経験しています。現在も大
学病院などの外来でリハビリメイクⓇを行っています
が,今後も患者さんが前向きになれるように,またリ
ハビリメイクⓇを学問にするためにもますます多くの
領域との連携を深め広げながら,論文発表や研究を重
ねていきたいと考えています。また,日本全国でリハ
ビリメイクⓇを必要としてくれる方たちの需要に応え
るため,多角的な面からの講座を設け人材の育成にも
力を入れています。
これからも,患者さんの社会復帰やQOLの向上,
また自分を元気にするための1つの手段として「メイ
ク」を提供できるよう,科の垣根を越えて医師と連携
しながらリハビリメイクⓇが発展できるようさらに邁
進していきます。
かづき れいこ 先生
フェイシャルセラピスト,歯学博士
公益社団法人 顔と心と体研究会 理事長
REIKO KAZKI 主宰 (http://www.kazki.co.jp/)
Profile
Clinical Derma
生まれつき心臓に穴が開いていたため冬になると“顔が真っ赤”になる
悩みをもっていたが,30歳のとき手術をし完治。それを機にメイクを
学び,活動を開始。’95年からリハビリメイクⓇの研究を本格的にスター
トさせる。
外観に関する悩みを研究し,学会発表・研究調査を行い,メイクアップ
の価値向上に尽力する。また,テレビや雑誌,講演会などでも広く活躍し
ながら,老人ホームなどへのメイクボランティアにも力を注いでいる。
現在,日本医科大学形成外科学教室非常勤講師,東京女子医科大学非
常勤講師,順天堂大学大学院医学研究科協力研究員ほか,5大学にて非
常勤講師を務める。
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尋常性乾癬治療剤
劇薬、処方せん医薬品
注)
(一般名:カルシポトリオール)
〈薬価基準収載〉
注)注意−医師等の処方せんにより使用すること
※効能又は効果、用法及び用量、禁忌を含む使用上の注意等については、製品添付文書をご参照ください。
販売元
製造販売元
資料請求先
鳥居薬品株式会社 お客様相談室
提携
TEL 0120-316-834
FAX 0120-797-335
2014年5月作成
外用副腎皮質ホルモン剤
劇薬
製造販売元
(一般名:ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)
スクワラン含有(軟膏・クリーム基剤)
〈薬価基準収載〉
効能又は効果、用法及び用量、禁 忌を含む使 用上の注意等については、製品添付文書を
ご参照ください。
資料請求先
鳥居薬品株式会社 お客様相談室
TEL 0120-316-834
FAX 0120-797-335
2014年5月作成
鳥居薬品の外用薬についての情報は▶ http://www.torii.co.jp/hifu/
Vo
l.17 No.3(通巻第64号)
2015年9月 日発行
発行/鳥居薬品株式会社
編集・制作/株 式 会 社メディカルレビュー社
2015年8月作成
MR9.8-1508P
ANT PF 051A