32. 強磁場超伝導材料研究センター センター長・教授 渡辺 和雄 【構成員】 センター長・教授:渡辺 和雄/准教授:淡路 智、木村 尚次郎/助教:高橋 弘紀、小黒 英俊 技術職員:佐々木 嘉信、伏見 和樹 技術補佐員[2 名]/事務補佐員[1 名]/大学院生[7 名]/学部生[2 名] --------------------------------------------教授(兼):野尻 浩之、佐々木 孝彦/准教授(兼):野島 勉/助教(兼):茂木 巖、中村慎太郎 【研究成果】 強磁場超伝導マグネットの開発研究として、20T 大口径超伝導マグネットには最内層コイルに Y123 テープ線材が用いられるが、無冷媒超伝導マグネットの使用環境において Y123 テープ線材を熱暴走さ せない設計指針を検討した。その結果、5K の低温領域では、Y123 テープ線材の臨界電流値をこえる クエンチ時のオーバー電流は熱暴走に至ることが分かった。運転電流と同程度の電流マージンが取れ る臨界電流値を確保することで、クエンチ時でも熱暴走を生じさせない Y123 コイル設計が可能である。 (Ref. 1) 強磁場センターで計画している強磁場超伝導マグネット開発における R&D として、REBa2Cu3Oy テ ープ高温超伝導線材(RE は希土類元素)を用いた試験コイルを作製し、高磁場・高電磁力での試験によ り、実用に近い多層巻パンケーキコイルが、13.5T でも 1300MPa を越える高い電磁力下で安定に動作 することを実証した。本研究は、高温超伝導マグネット開発に関するフランスグルノーブル強磁場セ ンターとの国際共同研究の一環でもある。この成果は、25T 無冷媒超伝導マグネット、30T 無冷媒超伝 導マグネット、50T ハイブリッドマグネット開発へと繋がって行く予定である。(Ref. 2) Nb3Sn の反応熱処理を経てから巻き線をする react-and-wind 法のマグネット用導体として、新たな製 法である Nb ロッド法高強度 CuNb/Nb3Sn 素線の開発に成功した。この Nb ロッド法製造方法では、こ れまでの In-situ 法高強度 CuNb/Nb3Sn 素線に比べて電気特性や機械特性に優れ、コストも約 1/2 で済む 製造方法であり、共同研究の相手方である古河電工と東北大学の共同で特許を出願した。学術会議マ スタープランで計画中の 50T ハイブリッドマグネット用の 20T 大口径超伝導マグネットの線材として 用いられる予定である。この線材は、従来の in-situ 法 CuNb 強化型 Nb3Sn 線材より、ヤング率、0.2% 耐力が向上し、230 MPa という高い引張り応力下でも臨界電流が劣化しないことが分かった。さらに、 CuNb 合金の残留抵抗比の増加によって超伝導線材の残留抵抗比も増加するため、大型マグネットのク エンチ保護の観点からもメリットがあることが分かった。(Ref. 3) また、物性基礎研究として、直線円偏光変換器を内蔵した強磁場 ESR 装置を立ち上げて、三角格子 反強磁性体 CuFeO2 の磁気共鳴信号の右・左円偏光に対する強度の依存性を調べ、電磁波の振動電場に よって生じるこの物質のエレクトロマグノンの信号が、通常の磁気共鳴にみられるはずの円二色性を 示さないことを明らかにした。この振る舞いは、CuFeO2 の特異なスピン波励起に伴って生成されるプ ロパーらせん構造のスピンテクスチャーと振動電場が結合してエレクトロマグノンが観測されたこと を示唆している。(Ref. 4) さらに、磁気科学研究として、反磁性磁化率の温度変化を測定する方法の1つとして磁気浮上を利 用した非接触での測定法を提案し、炭素数 22 前後のいくつかの n-alkane について磁化率の温度変化を 融点以上まで測定した。その結果、単分散試料ではいずれも融点までほとんど変化を示さないのに対 し、それらを2種あるいは3種混合した試料では溶融前に僅かに増加を示すことから、単相と混合系 では磁化率は温度に対し異なる振る舞いを示すことが分かった。(Ref. 5) センター共同利用に関しては、2012 年度に採択された 68 登録課題について 51 件の利用報告があっ た共同利用報告書を 2013 年 6 月に出版した。また、報告書のトピックスとして主要な共同利用研究成 果 6 件と震災で損傷したマグネット設備の修復後における性能試験結果 2 件の合計 8 件を選定した英 文(和文併記)パンフレットを 2013 年 8 月に出版し、報告書と共に国内外の主な研究機関に配布した。 2013 年度主要論文 Ref.1 K. Watanabe, S. Awaji, Y. Hou, H. Oguro, T. Kiyoshi, H. Kumakura, S. Hanai, H. Tsubouchi, M. Sugimoto and I. Inoue, Upgrade Design to a Cryogen-Free 20-T Superconducting Outsert for a 47-T Hybrid Magnet, IEEE Trans. Appl. Supercond. 23 (2013) 4300304 (4pp). Ref.2 S. Awaji, H. Oguro, T. Suwa, T. Suzuki, K. Watanabe, G. Nishijima, S. Hanai, K. Marukawa, M. Daibo, T. Saito, H. Sakamoto, I. Inoue, Y. Miyoshi, X. Chaud, F. Debray, and P. Tixador, Superconducting and Mechanical Properties of Impregnated REBCO Pancake Coils under Large Hoop Stress, IEEE Trans Appl. Supercond. 23 (2013) 4600305 (4pp). Ref.3 H. Oguro, S. Awaji, K. Watanabe, M. Sugimoto and H. Tsubouchi, Mechanical and Superconducting Properties of Nb3Sn Wires with Nb-rod-Processed CuNb Reinforcement, Supercond. Sci. Technol., 26 (2013) 094002 (4pp). Ref.4 S. Kimura, T. Fujita, M. Hagiwara, H. Yamaguchi, T. Kashiwagi, N. Terada, Y. Sawada and K. Watanabe, Electromagnon by Chiral Spin Dynamics in the Triangular Lattice Antiferromaget, Submitted to Phys. Rev. B. Ref.5 K. Takahashi and K. Watanabe, Diamagnetic Susceptibility Measurements by a Magnetic Levitation Technique, Chemical Industry 64 (2013) 213-218. (in Japanese) 【研究計画】 強磁場科学が求めるより高い磁場を目指して、世界の強磁場施設は、20MW~32MW の電力により水冷 銅マグネット 34T を組み合わせた 40T~45T までの定常強磁場発生技術の開発を行なっている。特に、 アメリカ・国立強磁場施設は水冷銅マグネットの電力を 56MW に増強して、60T までの更なる強磁場化 を計画している。今後も強磁場化を目指す研究・開発が求められるため、我が国では、環境・エネル ギーを強く意識した研究戦略を実行する必要がある。そこで、強磁場を利用した材料科学を中心とし て、具体的には、1)将来のエネルギー源として期待される実用 25T クラス核融合炉用超伝導マグネ ットの強磁場超伝導材料を研究開発するため、我が国独自の 30T 無冷媒超伝導マグネットの開発を目 指す。2)強磁場科学として、金研強磁場センターで開発している強磁場 X 線装置及び強磁場中熱分 析装置と、これらを用いて培った先端実験技術・知識は、強磁場を用いた機能性材料研究の発展に大 きく貢献してきた。今後、金研強磁場センターは国内共同研究を超えて、フランス・グルノーブル強磁 場センターやアメリカ・国立強磁場施設との国際共同研究を積極的に進め、金研強磁場センターが強 磁場磁気科学と強磁場材料開発分野をリードして行くことを狙う。超伝導材料開発に基づいた強磁場 発生技術、基礎物性と磁気科学の研究を精力的に行って、将来的には強磁場と材料科学の融合による 国際的な磁気科学研究拠点を目指す。
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