「 今 日の 天 気 は、 金 沢 ら しいと も 言 えるのですが……」 。穏やかにそう話 す建築家の吉村寿博さん。取材のた め訪れた金沢は、生憎の雨。とはい え、待ち合わせした「金沢 世紀美 術館」では、周囲の緑を潤すように 金沢 世紀美術館は、吉 村 さ ん に とって慣れ親しんだ場所だ 。 自 身 の 雨が降り、ガラス越しに美しく映る。 21 事務所を設立する前に、東 京 の 妹 島 和世建築設計事務所/SA N A A で 働き、この美術館の建設に プ ロ ジ ェ クトリーダーとして6年程 携 わ っ た 。 期間の前半は東京と金沢を 行 き 来 し 、 クライアントの市役所や、 学 芸 員 ら と密に打合せ。現場で本格 的 に 作 業 が始まると、会社が金沢に 借 り た ア パートに住み、現場監理な ど を す る ように。この頃から金沢の 町 歩 き を 楽しむようになる。 城 公 園、 金 沢 世 紀 美 術 館 が あ り、 「 浅 野 川 と犀 川の間に 兼 六 園や 金 沢 町がこぢんまりとしていて歩きやす ら美術館までの間には、迷路のよう いんです。当時住んでいた池田町か な小道がいっぱいあって面白い。昔 ながらの町並みも残っています。僕 は鳥取出身で大学時代は横浜に暮ら 術館のプロジェクトで初めて金沢に し、その後に東京に移ったので、美 魅力がどんどん分かってきたんです」 来ました。暮らし始めてから、町の 美術館の工事が終わる半 年 く ら い 前、独立を考えていた吉村 さ ん は 金 沢への移住を検討し始める 。 もありました。でも、金沢 は 町 と と 「東京に自分の事務所を作る選択肢 もに、他業種の人とつなが り を 持 て る魅力もあって。伝統工芸 が 発 達 し 一流の作家と距離が近く、 建 築 以 外 の知り合いも増えます。仕 事 を 始 め るのにいい場所ではないか と 思 う よ う に な り ま し た 」。 そ し て、 金 沢 世紀美術館が開館した20 0 4 年 月に、建築設計事務所を立 ち 上 げ た 。 ト と 建 築 の イ ベ ン ト を 町 家 で 展 開。 2007年には友人らと グ ル ー プ 「CAAK(カーク)」を作り、アー 最近では、多彩な職種の人 が 集 ま っ て、新しい都市文化を金沢 か ら 発 信 する「金沢まち・ひと会議 」 の メ ン バーとしても活動している 。 わる人から、何かしらの影 響 を 受 け 「仕事をする上でアートや工芸に関 ています。例えば、まち・ ひ と 会 議 のメンバーと喋っている時 に 、 要 望 を満たすことばかりに気を 取 ら れ て 設計しようとしていた自分 に 、 気 付 かされることがあります。 依 頼 主 の 要望を聞いて形にするのが 僕 の 仕 事 ですが、その方の想像を超 え た 新 し い世界観を提案するもので な い と い けません。そうするには、 建 築 だ け を考えていてはダメなんで す 」 昨年、金沢 世紀美術館 も 吉 村 さ んの事務所も 周年を迎え た 。 美 術 館には無料で入れる交流ゾ ー ン も 多 く来館者で賑わう。吉村さ ん は そ こ にある空の表情を楽しめる 作 品 を 見 たり、そこで人と待ち合せ し た り す る。時には美術館近くから 鈴 木 大 拙 館に続く「緑の小径」をふ ら り と 歩 くことも。愛する町に暮ら し 、 地 域 の人、文化とつながること が 建 築 の 原動力の一つになっている 。 取材/福島恵美 撮影/武田憲久 学 非常勤講師 21 12 13 金沢に魅力を感じ、 11年前に東京から移住。 つながった人たちとの会話は、 家づくりのヒントにもなる。 金沢美術工芸大学・金沢工業大学・金沢大 10 21 吉村寿博建築設計事務所 吉村寿博さん[46歳] 1969 年鳥取県生まれ/ 1995 年横浜国立大 学大学院修了後、妹島和世建築設計事務所 / SANAA に勤務/ 2004 年吉村寿博建築設計 事 務 所 設 立 / 2007 年 CAAK(Center for Art & Architecture, Kanazawa)共同設立 ❶建設のプロジェクトリーダーとして関わった「金沢 21 世紀美術館」内でインタビュー。美術館 の建物は、ガラス張りで円形になっている。東西南北に入口があり、明るく開放的。かつては金 沢大学附属小・中学校が建っていた。❷展示作品のジェームズ・タレル James Turrell《ブルー・ プラネット・スカイ》2004。通称「タレルの部屋」。吉村さんの好きな場所の一つで、「刻々と空 の表情が変わる夕方に見るのがおススメ」という。❸仏教哲学者・鈴木大拙の考えに触れられる「鈴 木大拙館」。「水鏡の庭」の側に「思索空間」がある。設計は建築家・谷口吉生さん。❹「緑の小径」 は町中にあるとは思えないほど緑が多く、静か。 取材協力:金沢 21 世紀美術館 撮影協力:鈴木大拙館 吉村寿博(石川県金沢市) 105 回 第 21 10 21 ❶ ❷ ❹ 建築家の Off Time 金沢の町、人、文化が 面白い。 ❸
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