平成27年度 生活・福祉委員会 行政視察報告書

平成27年度 生活・福祉委員会 行政視察報告書
視 察 日:平成27年7月29日(水)~8月1日(土)
視 察 地:秋田県由利本荘市・秋田市・湯沢市・藤里町
ちょうかいまち じ ね ご
視察項目:秋田県由利本荘市: 鳥 海 町笹子地区での小さな拠点づくりについて
秋田県秋田市:秋田市自殺総合対策事業について
秋田県湯沢市:地域包括ケアシステムについて
秋田県藤里町:生活困窮者自立支援 ひきこもり対策について
委 員 長:渡 辺
勉
副委員長:小 栗 義 朗
委
員:松 山 哲 男・成 田 昭 浩・辻
帯同職員:保健福祉部高齢・介護グループ総括主幹
弘
土
之・井
門 和
野
宏
正
臣
当委員会は、所管する課題に対する視察を実施するため、平成27年度生
活・福祉委員会活動計画書の調査・研究項目である「介護保険行政における
諸政策」や「幼児から高齢者までが交流できる居場所づくりの取り組み」、
「生
活困窮者自立支援法に係る施策」等で先駆的な取り組みを行っている秋田県
の4市町への行政視察を実施しましたので、報告します。
1
1.
ちょうかいまち じ ね ご
秋田県由利本荘市 鳥 海 町 笹子地区における小さな拠点づくり
について
(報告者:松
山 哲
男)
視察日:平成 27 年 7 月 29 日(水)14:00~16:00
説明員:由利本荘市鳥海総合支所産業課長
佐 藤 幸 樹 氏
由利本荘市鳥海総合支所主幹兼振興課長
新 田 芳 則 氏
1)視察目的
国土交通省国土政策局は、「過疎地域などの集落では、人口減少や高齢化が進む中、日常生
活に必要なサービスを受けることが困難になると共に、コミュニティ機能が低下し、今後の集
落での暮らしを続けていくことが危ぶまれ、これらの状況が全国各地で一層拡大していくこと
を懸念し」
、
「集落地域における『小さな拠点』形成推進に関する検討会」を設け、小さな拠点
づくりに取り組み、その参考となるガイドブックを発行しました。その中に一事例として紹介
されていたのが、由利本荘市鳥海町笹子地区の取り組みでした。
登別市においても、人口減少・少子
高齢・地域経済の衰退などの時代に直
面する中、どのような考え方で福祉政
策をはじめ、わがまちを活性化してい
くべきかを考えると、小地域づくりや
地域コミュニティづくりの取り組みに
ヒントがあると考え、成功している先
進地の取り組み状況を調査・研究する
ことを目的に、鳥海町笹子地区の取り
組みを視察してきました。
2)鳥海町笹子地区における「小さな拠点づくり」の概要
・旧鳥海町は、昭和30年に3村(川内村・直根村・笹子村)が合併し、笹子地区は、林業の
衰退や企業の海外移転、若者の流出による人口減少や高齢化により、地域活力が低下。
・旧鳥海町は、旧村ごとに日常生活を支えるサービス機能の集積を図る方針で、まちづくりを
進めてきた。
・高齢化に伴い、福祉ニーズが増大していたが、高齢者福祉施設は笹子地区からは、約15k
m離れた地にしかなく、笹子地区の社会福祉サービスの拡充が課題であった。
・旧鳥海町は、山間地区で豪雪地でもあり、交通網も不充分であったが、平成8年に、国道1
08号トンネルが完成し、仙台方面等からの通年通行が可能となり、交通量が増大するとの
期待が高まった。
2
・上記のことから、旧村の横断的プロジェクトチームを中心に、集客施設として、道の駅「清
水の里・鳥海郷」の建設に合わせて、地域の活性化を図るため農産物加工・販売施設を整備
し、高齢者福祉施設等の主要施設の集約整備を行う構想を策定。
・その構想は総合計画とし、平成16年に高齢者福祉施設を、平成16年~17年に道の駅「清
水の里・鳥海郷」を整備。平成18年に老朽化した笹子診療所を高齢者福祉施設のとなりに
移設、笹子公民館を旧診療所地に移設し、市役所笹子出張所を公民館内に移設した。
・農産物加工施設及び道の駅中央にある多目的広場は、農林水産省の中山間地域総合整備事業
により整備した。
・日常生活を支えるサービス機能は、半径200m以内に集積された拠点には、上記の道の駅
や農産物加工所、高齢者福祉施設などの他に、若い方の市営住宅があり、若者の流出防止に
役立っている。
・由利本荘市中心部へは、路線バス(1路線7便)
、コミュニティバス(2路線3~6便)の
交通手段を確保し、住民の要望を踏まえ、ダイヤと経路の見直しをしている。また、民間の
商店が保冷車による巡回販売や、JA の宅配、社会福祉協議会による給食サービス(週1回
~2回の昼食弁当)が行われている。
・集約(小さな拠点づくり)の効果として、住民の利便性の向上、直売所の7割が市外者の購
入で地元産品の売り上げで経済効果もある。
・課題として、隣接地区の商店街との競合と、農林業の衰退と企業の移転による雇用の場の減
少がある。
3)所感
・視察目的に、
「小さな拠点づくりを
検討するための枠組み」や「合意形
成・プランづくりに向けた地域課題
の把握」も念頭に置いていましたが、
想像していた取り組みとは違ってい
ました。しかし、以下の通り、様々
な参考となる取り組みでした。
・旧村の横断的プロジェクトチーム
を中心にした構想策定とのことで、住民主体の取り組みと考えていましたが、行政主導の取
り組みでした。しかし、この地区の人口は、1.712 人で、市出張所が公民館内にあることか
ら、行政は、地区住民の抱える問題・課題を充分に把握し、その解決に向けた行政執行が行
われていると言えます。これらからは、それぞれの地域性を踏まえて取り組んでいることを
痛感しましたが、当市の地形や人口などを考えると、市内4地区と市内全体の問題・課題の
把握をどのような方法ですべきかを検討する必要があります。また、それらの問題・課題の
解決に向けて、住民主体とした地域コミュニティづくりの視点を持った取り組みの必要性と、
3
それに対する行政の役割も大切と考えました。
・地域の活性化を図る農産物加工・販売施設や高齢者福祉施設等の主要施設の集約整備の取り
組みからは、市内4地区のインフラ整備のあり方を考える上で、人の流れ、利便性、効率性
なども考慮した集約したインフラ整備の視点が必要と思います。また、説明して下さった職
員の母親は、農産物加工・販売施設で自分が作った農作物を加工しているお話を聞き、生き
がい対策にもなっていると感じ、多機
能性の視点も必要であると思いまし
た。
・農産物加工・販売所と多目的広場は農
林水産省、高齢者福祉施設「ケアセン
ター悠楽館」は厚生労働省の補助でそ
れぞれ整備したが、事前の整備計画と
国の補助制度などの情報収集体制の
構築が求められていると痛感しまし
た。
2.秋田県秋田市
秋田市自殺総合対策事業について
(報告者:成
田
昭
浩)
視察日:平成 27 年 7 月 30 日(木)9:30~11:30
説明員:秋田市保健所副参事
北 嶋 博 志 氏
秋田市保健所 健康管理課 自殺対策担当課長 佐々木
廣 次 氏
秋田県の実態としては、平成 25 年の自殺率(人口 10 万人対)は 26.5 人(全国平均 20.7 人)
と、平成 7 年から 19 年連続全国 1 位となっていたが、平成 26 年の自殺率は 26.0 人(全国平
均 19.5 人)と、全国ワースト 2 位となった。秋田市における自殺率も一貫して県よりも低い
数値で推移しているものの、全国平均を上回っている状況である。
秋田市の自殺対策における大きな動きは、平成 18 年の自殺対策に関する初めての法律であ
る「自殺対策基本法」に始まり、翌平成 19 年にその指針である自殺総合対策大綱が制定され、
自殺対策を総合的に推進する運びとなった。市長のリーダーシップにより、自殺予防対策庁内
連絡会議が設置された。その後、自殺予防トップセミナーの開催、自殺予防対策に係る補正予
算の提案、庁内相談窓口の連携強化、市議会議員による「自殺対策を考える議員の会」の結成
など自殺対策への取り組みは加速していくことになった。秋田市自殺予防対策ネットワーク会
議の設置や秋田市自殺未遂者フォローアップ検討会議の設置など、官民連携した取り組みも推
進された。平成 23 年には秋田市自殺総合対策が策定され、事業計画に沿った取り組みが推進
し、現在に至っている。
4
これらの実情を踏まえ、以下の質問項目を中心に視察を行った。
1、
秋田市の事業概要および自殺関連課題の現状について
2、
事業実施に伴う検証内容と今後の取り組みについて
3、
自殺対策ネットワーク会議、各部会の取り組みと課題、今後の展開について
4、
秋田市民の心といのちを守る自殺対策条例の概要と制定経過について
所感
今回の視察では、自殺対策の先進的な取り組みをされ、効果を上げている秋田市の自殺総合
対策事業について、特に関係機関との連携や庁内部署間の横断的対応、また、議員提案による
自殺対策条例の制定などについて重点的に話を聞いた。「秋田市自殺総合対策事業計画」では
市の自殺者数、自殺率の推移、傾向、秋田県における自殺の実態など、現状把握がしっかりな
されている。また、それを数値化し国や県の統計資料との比較により自殺の実態把握への取り
組みが徹底されていると感じた。それにより問題や課題の抽出、関係機関、関係部署による対
応など、総合的な自殺対策へと繋がっていくものと感じた。
自殺予防においても「秋田モデル」として、民間、大学、行政による連携した取り組みがな
されている。中でも医療機関との連携は当市においても参考になるものと感じた。自殺未遂者
への対策については、市消防本部と救急病院が連携し自殺を図った搬送者が救急処置後に専門
医を受診できる仕組みを整えている。また、自殺未遂者への支援や対応について重点課題とし、
自殺未遂者対策検討部会を設置し医療機関を中心に様々な対応を検討している。「自損患者診
察状況シート」の活用は、自損行為により救急医療機関を受診した人が精神科医療に適切に繋
がることを目的として作ったシートである。救急隊員→救急医療スタッフ→精神科医スタッフ
と同一シートにより情報
共有を図り、迅速で的確な
対応を図ろうとするもの
である。このように参考に
なる部分は多々あった視
察であった。当市において
も自殺者数が全道でも上
位であり当市独特の傾向
がある中で、今後の課題、
問題を注視しながらこの
自殺対策に取り組んでい
く必要性を感じた視察で
あった。
5
3.秋田県湯沢市
地域包括ケアシステムについて
(報告者:井
野
正
臣)
視察日:7 月 30 日(木)14:00~16:00
説明員:湯沢市福祉保健部長兼福祉事務所長
湯沢市福祉保健部次長兼福祉課長
奥
山 耕 伸 氏
八
柳 長 門 氏
湯沢市福祉保健部長寿福祉課地域包括支援センター所長
織 田
正 氏
今回の生活・福祉委員会行
政視察地のなかで最も人口規
模が近い湯沢市において地域
包括ケアシステムについての
視察を行いました。
湯沢市は平成 17 年に湯沢
市・雄勝町・稲川町・皆瀬村
が合併し現在の湯沢市を構成
しています(平成 27 年7月末
日現在、住民基本台帳で人口
48,351人)
。
また、平成 26 年に建てられた新庁舎はとても明るく住民が利用できるスペースがあり、子
どもたちが役所内のスペースで夏休みの宿題をしている風景が見られました。
湯沢市の地域包括ケアシステムの特徴として市内4か所(合併前の1市2町1村に配置)の
在宅介護支援センターで地域ケア会議を実施し、湯沢市が直営する地域包括支援センターを配
置して高齢者の生活・介護支援、介護予防、認知症のサポーターの育成にあたっている点です。
特に注目すべき点として会議録の様式の統一が挙げられます。会議録の様式を統一することに
よりケア会議における課題や問題点の共有を図りやすい点です。また市が地域包括支援センタ
ーを直営で行っているので各地域の総合相談等から、市が現状を把握でき市政に反映しやすい
点です。
認知症施策において本人と家族を支援する事業として「ささえ愛」懇談会を実施しており、
現在20~30名の方々が参加して、家族の胸の内を語り合う場を設けて現在厚生労働省が推
進している認知症カフェのような当事者また家族がそれぞれの立場で語り合える場を形成し
ていくことは登別市においても重要と考えます。また地域における福祉・介護の担い手と地域
ネットワーク構築としてささえ愛地域づくりが存在し、生活・介護支援サポーター(47人)
、
介護予防サポーター(初級361人・中級78人)
、認知症サポーター3,415人(メイト
91人)
、市民後見人登録者(24人)と長期安定的人材の確保に努めています。登別市にお
ける絆計画においても反映させられる可能性があると考えます。
医療分野に関して湯沢市においては湯沢市雄勝郡医師会と中核病院である雄勝町中央病院
6
が緊密な関係にあり、夜間における緊急医療においては、勤務医の負担軽減のため医師会から
の応援が行われています。
また、在宅医療は病院2か所と一般診療所9か所で行っており、実施件数は病院7件、一般
診療所81件、訪問診療に関しては病院49件、一般診療所213件と高い数字を示していま
すが、医師会に所属する医師の高齢化、また開業医の減少で困難にあると聞きました。
地域における個人病院「かかりつけ医」という認識のずれが、医師と患者の双方にあり、医
師が思う「かかりつけ医」とは本人も含めた家族構成、既往歴等勘案した全体を把握した主治
医であるとの考えがあり、患者においては、単に病気をずっと見てもらっている医師が「かか
りつけ医」であるという認識が存在すると説明を受けました。登別市においては近隣都市であ
る室蘭市の総合病院に通う人も多く、この「かかりつけ医」の認識のずれを調査する必要性を
感じました。
4.秋田県藤里町 社会福祉協議会による生活困窮者自立支援、
ひきこもり対策について
(報告者:辻
弘 之)
視察日:7 月 31 日(金)14:00~16:00
説明員:藤里町社会福祉協議会事務局長
菊 地
孝 子 氏
藤里町社会福祉協議会
細 田
直 子 氏
●藤里町概要
人口約 3500 人。秋田県北部に位置する藤里町は、世界遺産「白神山地」のふもとに位置す
る豪雪地帯。町内に常駐する医師はおらず、基幹産業だった農林業は衰退。いわゆる「過疎地
域」として年々、人口減少が続いている。国道がなく、JRも私鉄も通っていない袋小路の町
である。隣接する能代市の通勤圏内であることもあり、町営住宅なども建設され、元々あった
集落とサラリーマンを中心とした新たな住民とが共住する。
全国で高齢化率の 1 番高いのが秋田県、
うち県内 2 位の高齢化率が藤里町。
コンビニはなく、
保育所・小中高は 1 校ずつ。市街地が山間部にあるため、半径 1~2 キロの間に銀行や学校、
スーパー、商店が集積されている。
●藤里町社会福祉協議会概要
社協職員は合計 52 名で、規模のわりには職員数は比較的多い。介護保険事業も行っており、
デイサービス、ヘルパー、介護支援事業所を開設。能代市からデイサービスが迎えに来ること
は困難な為、介護福祉サービスも自賄いで実施せざるを得ない。藤里町の主な社会福祉関連事
業は、実質的に同社協がほとんど担っている状況といえる。
同社協は社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士の資格取得者がとても多い。同社協では、
7
職員にスクーリングを推奨するなど、毎年資格取得者を育てていける体制を整備しているとの
こと。各セクションに部門長(社会福祉士)をおいているが、1 年程度で異動させ、事業全体
を把握できる視点を養えるようにしている。例えば、キッシュ製造の人が足りなければ、まっ
たく関係のない部署職員でも手伝いにいけるような体制になっている。つまりは、専任にその
仕事だけをしている人間はおらず、社協業務全体をチームで処理できるような体制づくりを行
うことで、包摂的な社会福祉サービスへの視点が養われている。
●「こみっと」
「くまげら」概要
「こみっと」は就労支援や機能訓
練および地域の人たちとの交流の場
となる福祉拠点施設として平成 22
年 4 月開設。宿泊室を備えた自立訓
練事業所「くまげら」は平成 23 年に
開設。秋田県の発電施設を町が購入
し、社協に無償で貸与。開設資金は
日本財団の助成金によって賄われた。
老人クラブや親の会・ボランティア
団体協議会・身体障害者協議会など
の 13~15 団体が使用できる共同事務所の他、サークル室(日中活動支援室)、お食事処(就労
支援)
、調理室(就労支援)、会議室(機能訓練室)、相談室、サークル室などが整備されてい
る。開館日は、平日の午前 8 時 30 分から 17 時までで、会議室やサークル室の利用は無料。
●こみっと登録生の主な活動
①最初はサークル活動(お楽しみ会、TV ゲーム)を提供しようとしたが、その他の活動に魅
力を感じる登録生が多く、現在はサークル活動への参加者はいない。
②開設当初から始めた活動は「手打ちそば」を製造し、「こみっと」食事処での提供。最近は
「さぬきうどん」の提供も始めた。
③また、地域での販売商品として「まいたけキッシュ」を開発。まいたけは藤里町の特産品で
あり、
それを活用したお土産づくりをコンセプトに考案された。
1 年目は約 450 万円の売上、
2 年目は約 500 万円の売上、3 年目はさらにスカイツリーでの販売や、生協からの受注が始
まっており、その販売売上は年々増加が見込まれている。
④シルバーバンク(65 歳以上の登録活動)を模した、若年層人材派遣「こみっとバンク」を
実施。冬に雪が積もった際の「雪よせ」についても、シルバーバンクでは追いつかず、「こ
みっとバンク」の需要があった。また、屋根の雪おろしも行っている。他、特養の清掃作業
に 365 日派遣を行っている。特養の清掃について当初、こみっと登録生は休んだ場合のこと
を考えて不安がっていたが、バンクで他メンバーがサポートすると話すと安心してくれた。
8
この安心感があってか、実際の休みはほとんどない。
●生活困窮者自立支援法との関連
平成 27 年度より生活困窮者自立支援法が施行されたが、市と異なり町は福祉事務所の設置
が任意のため、法制上の必置事業者は県となっている。現状は県から町に下りてくることはな
く、相談支援は県で実施しており、法律施行に伴い藤里町の活動が変化したことはない。ただ
し、
「ひきこもり支援」が同法の目的と類似・合致していることから、同法施行により全国的
な関心が高まったものと理解している。
「ひきこもり支援」の主なメニューは「こみっと」
「くまげら」の設備を活用した相談支援・
就労支援・家計相談(通帳を社協の金庫に預かり、週ごと月ごとに支出したりしている)であ
り、障害者認定の有無にかかわ
らず登録生へのサービス提供
を行っている。相談支援だけで
終結させてしまうような「ひき
こもり支援」に意味はなく、過
疎的地域だからこそ、自らサー
ビスを開発して具体的支援ま
でトータルサポートを行って
いきたいとの想いが強い。その
他、「こみっと通信」を登録生
が中心になって定期的に作成しているが、それらを現在把握されている、ひきこもりの方々に
定期的に訪問配布している。就労情報と併せてこみっと通信を配ることで、定期的な訪問を行
うツールとしても活用されている。
●行政や民間・企業との協力内容や今後の展開について
「こみっと」は社協だけで取り組みを始めたわけではなく、町職員の保健師も相談支援に加
わっている。開始当初はひきこもり者を遠巻きに見る町民も多かったが、食堂に出てくる登録
生をみたり、キッシュが売れたりするに従い、町民の理解や、「ひきこもり」ではなく、その
方自身をみて評価してくれる人が増えてきた。
●主な質疑
Q.金銭管理事業の利用者はどのような方が多い傾向か。
A.当初は認知症高齢者への支援がきっかけで、家族から預かって日常の買い物支援に利用して
いた。現在は生活保護の人が預けるケースが増えてきている。お金の管理ができなくて、一
気に使ってしまったり、パチンコ等に浪費する方がいる。これらの方の生活相談にのりなが
ら、金銭管理を行うようにしている。件数が多くなってきており、金銭を預かる行為自体が、
9
法的契約行為に基づかない不適切性を指摘する声もある。今後、生活困窮者支援メニューに
家計相談事業が位置付けられれば、体制を整備しやすい。
Q.ひきこもり者の概要的な傾向は。
A.当初は恐ろしい人とイメージしていたが、決して暗い人たちではなく、話が嫌いな人という
わけでもない。家から出る機会がなかった、家族以外と会う機会がないという点では共通し
ているだけ。傾向的には男性が多い。女性は自宅にいても、家事などの役割がある場合が多
く、仕事もアルバイトやパートを受け入れやすいが、男性は「働く」ことへのハードルが高
いからではないかと考察している。高校卒業後、そのままひきこもりの方や、就職先でのト
ラブルが続き、頻繁に仕事を変える方もいる。ひきこもり=能力がないわけではないことに
注意が必要。
Q.登録生が一般就労した後のサポート体制は?
A.登録は本人の希望がない限りは継続。一般就労した後も休みの日には来てくれたりもする。
定期的に相談に来る人もいる。一般就労後に馴染めずに離職しても、また戻ってくる場があ
ることに価値が見いだせている。
●まとめ
町の社会福祉課題を調査し、その課題解決にとりくむべく始まった「ひきこもり支援」は、
登別市において未だ具体的事業展開のない生活困窮者自立支援法関連の事業に活用できる可
能性があると考え視察を行った。
藤里町はその地域特性から、町内の社会福祉関連事業をほぼすべて同一法人で行っている。
このことが、障害者総合支援法・介護保険法など法律の垣根をこえた包摂的な社会福祉サービ
スの提供を可能にしている。登別市では
障がい・介護・地域福祉などがそれぞれ
独立的に活動を行っており、それぞれの
専門性は高いものの、どうしても包摂的
な社会福祉サービス事業の展開は難しい
のが現状である。
本事例は、具体的な地域課題を把握し
た行動力・企画力と共に、地域特性に合
わせた社会福祉事業の展開が功を奏した
事例を言える。当然ながら、登別市で同
様の取組みが可能といえるわけではない
が、
「地域課題を把握する」
「マチの地域特性を活かす」二点が、社会福祉政策の基本であるこ
とを本事例は示している。
10
登別市は社会福祉内の各分野の専門性が高い点に特徴があるが、その分、独立性が高く、各
分野間における専門職員同士の交流や、事業アイデアの共有が乏しいと感じている。このこと
が、結果的に社会福祉ネットからこぼれ落ちてしまう市民を生じさせていることも事実であり、
今後、行政によるマネジメント能力の向上を図る必要がある。そのためには、昨今整備された
社会福祉士などの専門行政職員に対して、民間企業や職員側からも積極的に交流を図り、藤里
町のような具体的で包摂的な政策立案を目指さなければならず、今後、行政・民間双方に提言
を行っていきたい。
5.まとめ
(報告者:小
栗
義 朗)
1.由利本荘市「鳥海町笹子地区での小さな拠点づくり」
由利本荘市鳥海町笹子地区は面積の約85%が森林であり、過疎化が進む中山間地域に集落
が点在している。
このため、国道108号線と県道
が交差する交通の要所である笹子地
区に、道の駅を中心に診療所、高齢
者福祉施設、JA(金融)、市役所出張
所、公民館といった日常生活を支え
るサービス機能を集積し、また、道
の駅を起点に周辺集落を結ぶ「住民
の足」としてのコミュニティバスが
毎日運行されている。
中心となる道の駅にはレストランや直売所、情報提供コーナーのほか農産物加工所が併設さ
れているが、地域内外から集いやすく交流しやすい拠点として十分な機能が発揮されていない
といった課題もあるようである。
由利本荘市と本市とでは地理的条件や交通ネットワークなどが異なっているものの高齢化
や人口減少は同一の課題である。
本市においても、例え人口が減少しても必要な生活サービスが保てるよう、行政・商業・住
居といった都市機能を集中させるなど、効率化を図っていくことも検討していく必要があると
考えられるが、本市は既に住居が中心の区域や都市機能が充実している区域、商業施設や福祉
施設が比較的に整備されている区域、観光や地域内外の交流が盛んな区域というように、ある
程度集約されているとも考えられるので、今後のまちづくりに当たっては、更に地域別・世代
別の人口動向や住民アンケートなどを踏まえながら将来にわたって安心して暮らせるような
取り組みが必要となってくるものと思われる。
11
2.秋田市「自殺総合対策事業について」
秋田県の人口10万人当たりの自殺率は平成7年から19年連続で全国一となっていたが、
平成26年に1位の座を返上した。しかしながら依然として高い自殺率となっている。
また、秋田市も秋田県より低い率で推移しているが、全国平均を上回っている。
秋田市の自殺対策の取り組みとしては、平成19年に秋田市自殺予防対策庁内連絡会議の設
置、秋田市議会による「自殺対策を考える議員の会」結成、平成20年に秋田市自殺予防対策
ネットワーク会議の設置、平成21年に秋田市自殺未遂者フォローアップ検討会議の設置、平
成26年に秋田市民の心といのちを守る自殺対策条例が施行されている。また、その間、秋田
市自殺予防総合対策の策定や自殺予防啓発パンフレットの作成・全戸配布などが行われている。
現状における課題として、自殺に至る原因や動機については「不詳」が多く、把握できてい
ない状況であり、特に若年層の場合は原因や動機が複雑に絡み合って限定することが難しいと
のこと。
今後の対策としては、自殺に対する特効薬や、対応にも特効性がないため地道に息の長い活
動が主体となる。また、今後の取り組みとしては高齢者対策と自殺未遂対策に力を入れていく
としており、特に高齢者については孤立を防ぐために民生委員用の手引書の作成を考えている
とのことであった。
秋田市役所の各部署で自殺対策
関連事業を実施しているが、中で
も人事課では市職員のメンタルヘ
ルスのために、心身の不調につい
て相談を希望する職員を対象に産
業医によるメンタルヘルス相談を
実施し、また、課長補佐級職員を
対象に自殺予防に関する職員研修
を実施している。
本市の職員数は約430人で、
嘱託・臨時を含めると多くの職員が働いている。しかし、年々職員数は減少し、仕事量は増え
つつあることから個々の負担が増大している傾向にある。
「うつ」は誰でもなる可能性がある。
職員のメンタルヘルスに関する取り組みがますます必要になると考える。
3.湯沢市「地域包括ケアシステムについて」
地域包括ケアシステムは、様々な団体や事業者が連携して高齢者等を支える仕組みである。
湯沢市では、地域包括支援センターのほか障がい者関係機関などの多分野の機関で構成する
「湯沢雄勝地域包括支援ネットワーク協議会」を構築している。
地域包括ケアに取り組むに当たっては、訪問診療等の医療(在宅医療)が不可欠であるが、
医療機関との連携については、雄勝地域振興局が中心となって医療関係者と介護・福祉関係者
12
との懇談会を開催し、今後、医師会や歯科医師会との連携・協働について、具体的な部分の調
整に入るとのことである。また、雄勝地区郡医師会と中核病院である雄勝中央病院との間で高
度医療機器の共同利用が行われている一方で、夜間における救急医療において勤務医の負担軽
減のため医師会が応援するといった相互間での連携が図られている。課題としては、医師の高
齢化と開業医の減少により在宅医療が困難になりつつある。
本市を取り巻く医療環境は他の自治体に比べて充実しており、また地域包括支援センターも
医療機関が関わっているなど恵まれた状況にあることから、今後も医師会との連携を図りなが
ら地域医療との連携を密にしていくことが重要であると考えている。
4.藤里町「生活困窮者自立支援
引きこもり対策について」
藤里町社会福祉協議会では、引きこもり対策として、引きこもり者や長期不就労者の実態把
握を行い、その後、地域で孤立する人たちのニーズを把握するため、社会福祉協議会の職員や
保健師等のアウトリーチによる家庭訪問調査を実施した。
また、引きこもり者等の交流の拠点として、社会福祉協議会の近くにある県の発電施設跡地
の建物を活用して、共同事務所やサークル室、お食事処、調理室、会議室、相談室などを備え
た「こみっと」を開設したほか、同じ敷地内に自立訓練・宿泊訓練ができる宿泊棟「くまげら
館」も併設している。
さらに、社会復帰訓練事業によって地域ぐるみの支援も行われている。これは、引きこもり
者や生活困難者の社会復帰のきっかけと
して、地元で頑張っている個人事業主や法
人等を講師として迎え、様々なカリキュラ
ムを設けて実習等を行うものである。地域
の人たちを講師として迎え入れることで、
これまで持っていた引きこもり者等に対
する偏見もなくなり、かえって助言や提言
のほか具体的な支援までしてくれるなど、
町全体がよき理解者となっていただいて
いるとのことである。
藤里町は人口およそ3,600人の小さな町なので、行政で仕分けされる場合もあるが、町
も「福祉関係は任せた」といった形で応援してくれており、色々な情報は共有し、棲み分けし
ながら進めているとも語っていた。
藤里町社会福祉協議会での成功例は、行政規模が小さいことで可能となった部分もあろうか
と思うが、地域ぐるみの手法は本市としても大いに参考にさせていただきたいと考えており、
大変有意義な視察となった。
13