Nara Women's University Digital Information Repository Title 【博士論文本文の要約】両生類網膜再生過程の色素上皮細胞におけ る遺伝子発現の制御機構に関する研究 Author(s) 上田(池上), 陽子 Citation 奈良女子大学博士論文, 博士(理学), 博課 甲第579号, 平成27年3月 24日学位授与 Issue Date 2015-03-24 Description 本文はやむを得ない事由により非公開。【内容の要旨及び審査の結 果の要旨】http://hdl.handle.net/10935/4089 URL http://hdl.handle.net/10935/4015 Textversion none This document is downloaded at: 2016-03-26T09:25:04Z http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace Ⅰ.要旨 3 両生類のモデル動物であるアフリカツメガエルの網膜再生では、主に、色素上皮(網 膜の外側を覆う単層上皮)から、新たな網膜が再生される。このように、いったん分 化した細胞が、分化の運命を変える現象は分化転換と呼ばれる。成体において、網膜 を外科的に除去すると、色素上皮細胞は分化状態を保っていた細胞外環境(色素上皮 の基底膜)から離脱し、血管膜(網膜の基底膜)へと移動して、上皮シートを再形成し た後、ニューロンへ分化する。この分化転換の過程は組織培養下でも再現できるが、 その分子メカニズムは未だ明らかではない。 本論文では、まず第 1 章として、脊椎動物における網膜再生と本研究の背景につい て述べた。その中で、これまでに報告されている、鳥類や両生類の胚での色素上皮細 胞から網膜ニューロンへの分化転換に関わる環境要因や転写因子についてまとめた。 そして、環境要因として、分泌因子 FGF2 や、細胞間接着の重要性について指摘した。 また、網膜発生に必要な転写因子である Pax6 遺伝子や Rax 遺伝子の、網膜再生にお ける重要性について示した。さらに、奈良女子大学理学部生物科学科神経発生研究室 (荒木研究室)での研究から、両生類成体の網膜再生でも、これらの環境要因や、遺伝 子の発現が関係することが明らかになってきた。しかし、これらの環境要因と遺伝子 発現の関連性については明らかでなかった。そこで本論文では、これらの関連性につ いて解析を行った。この際、モデル動物としての利点である、分子生物学的な研究ツ ールの豊富さを活かし、成体両生類での網膜再生研究に初めてトランスジェニック体 を導入した。 第 2 章では、トランスジェニック体の作製による EF1α 遺伝子の発現解析~リアル タイムな遺伝子発現の可視化と網膜再生研究への応用~として、まず、全身の細胞で ユビキタスに発現する EF1α 遺伝子のプロモーターを用いたトランスジェニック体 を作製した。そして、成体アフリカツメガエルの網膜再生過程において、この遺伝子 の発現が、蛍光タンパク EGFP によって可視化できることを示した(Ueda et al., 2012)。これにより、再生過程における遺伝子の発現を、EGFP の観察によって、生 きた細胞でリアルタイムに可視化でき、その発現の制御要因の探索が容易になった。 この手法で、当研究室の鍋島らにより Rax 遺伝子の発現を開始する要因について解 析が行われた。その結果、色素上皮細胞は本来の基底膜から離れることによって、Rax 遺伝子の発現を開始することが示唆された (Nabeshima et al., 2013)。 一方、近縁種のネッタイツメガエルでは、再生網膜の起源は、網膜幹細胞・前駆細 胞であり、色素上皮細胞は網膜へ分化転換しないことが報告された(Miyake and Araki., 2014)。アフリカツメガエルの色素上皮細胞は、分化転換の過程で、細胞同士 の接着により再上皮化するが、ネッタイツメガエルではこの再上皮化が見られない。 4 このことから、これら近縁 2 種の分化転換能の違いは、細胞間の接着による細胞間相 互作用の違いによるのではないかと考えられた。そこで、第 3 章では、細胞間接着に よる Rax, Pax6 遺伝子の発現制御機構の解析を行った。その結果、アフリカツメガエ ルでは、基底膜から離れることで発現した Rax 遺伝子は、上皮シートで発現が持続し ており、その後、上皮形態の消失とともに発現は消失する。一方、上皮形態の消失と ともに Pax6 遺伝子の発現は強まることがわかった。そして、この上皮シートを形成 する細胞では、細胞間接着の一種ギャップ結合の構成タンパクであるコネキシン 43 が局在していた。一方、ネッタイツメガエルでは、再上皮化せず、Rax 遺伝子は一旦 発現したのちすぐに消失し、Pax6 遺伝子の発現は見られなかった。このことから、 分化転換には、上皮化による Rax 遺伝子の発現の持続、そして、それに続く Pax6 発 現が必要であると推察された。次に、本来網膜ニューロンへ分化転換するアフリカツ メガエルの色素上皮細胞を解離し、低密度で培養し、細胞同士の接着による上皮化を 妨げた。すると、Rax 遺伝子は一旦発現したのち消失し、ニューロン分化がみられな かった。これらの結果から、細胞間接着により、Rax 遺伝子の発現が持続し、そのこ とが、それに続く網膜ニューロンへの分化転換に必要であることが示唆された。 以上のように、本研究は第 2 章で、両生類成体の網膜再生研究に、初めてトランス ジェニック体を導入し、再生過程での遺伝子発現を可視化できることを示した。その 成果から、網膜再生過程における色素上皮細胞での Rax 遺伝子の発現開始、それに続 く Pax6 遺伝子の発現が、分化転換に重要であることが示唆された。そして第 3 章で は、これらの遺伝子発現は、細胞間接着分子の局在パターンと関連性があり、細胞間 接着に依存している可能性を示した。これらにより、網膜再生過程での、色素上皮か ら網膜への分化転換の分子メカニズムの一端を明らかにした。 5
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