Change ! 座談会 vol.12 長崎大学病院 先進医療への道のり 長崎で実現する再生医療目指して 「iPS 細胞」「ES 細胞」など自己の細胞を使った再 生医療が注目されています。長崎大学病院でも、こ の先進医療の研究を進めています。 臓器移植に代わる医療技術を模索 細胞培養の CPC 備え広がる研究 河野氏 今春、長崎大学病院内に設置したセルプロ セシングセンター(CPC)とは、 どんな施設ですか? 秋田氏 CPC は人の体内から細胞を取り出して、 河野氏 大学病院に期待される医療の一つに先端医 それを培養する施設です。センターの環境は通常の 療があります。移植もその一つです。兼松教授は九 実験レベル以上の厳密な法的な基準が設けられ、管 州地区でも少なかった肝移植に長年取り組まれてい 理されなければなりません。 ますが。 兼松氏 本学は 1997 年から 2010 年 11 月末まで 病院長 に 137 例の肝移植を行っています。 河野 茂氏 こうの・しげる 河野氏 もう 13 年になるんですね。始められた当 1950 年生まれ。 初は病院を挙げて全科サポート体制で臨んだことを 長崎大学医学部卒。 覚えていますよ。最近ではルーチンの手術と同じに 専門は呼吸器内科 学。2009 年 4 月 よ なっているみたいですね。十数年前に最先端だった り長崎大学病院長 医療が今では日常的になり、医療技術もめまぐるし く変化しています。臓器移植の分野も、さらに一歩 進んで再生医療に着目しているようですが。 兼松氏 肝移植は、いろんな問題を抱えています。 Kohno Shigeru 一つはドナーの問題。脳死の臓器提供も限られてい 河野氏 秋田先生の形成外科では今後 CPC を使っ ますし、生体肝移植もドナーに健康な人を対象とし てどんな研究をされますか? ていますので、健康面や倫理面で問題が残ります。 秋田氏 皮膚の再生を研究していますが、上皮の培 臓器移植に代わる医療を模索したところ、肝臓の機 養は既に商業ベースであります。私たちが大学病院 能を補ってくれる細胞を使った医療があるのではな で臨床研究している皮膚は、例えば汗や脂の管など いかという結論に達しました。そこで肝臓の細胞を 皮膚に付属するもの、いわゆる複合型の皮膚です。 培養して一枚のシート化し、それを幾重に重ねて、 上皮だけなら広範囲のやけどに使った場合、(移植 機能を持った細胞群をつくって、臨床に応用するス した皮膚の)寿命は短くなります。しかし付属器を テップを考えました。 備えたものは再生能力も強く、機能も高いといえま 河野氏 再生医療の研究はそういう経緯で始められ す。今後こうした研究が広がると思います。 たわけですね。課題はありますか? 河野氏 今年、ロシアのサンクトペテルブルグの大 兼松氏 細胞源をどこに求めるかが最も難しい問題 学と再生医療や感染症、放射線医学で協力すること です。患者さん本人の細胞を用いるのが一番理想で が決まり、秋田先生はロシアに行かれましたね。 すが、そこにはクリアしないといけないさまざまな 秋田氏 私が関わったのは再生医療の分野で、広範 障壁があります。 囲熱傷や重症熱傷、重症外傷などの方の再建再生で Change ! 長崎大学病院 す。年数回、ロシアに行くことになりました。 スーパー特区で他大学と連携 兼松氏 長崎大学の中に再生医療を研究されている 先生方を中心として、診療科の枠を超え、それぞれ の研究成果を持ち寄って情報交換をし合う場とし 河野氏 兼松先生の研究は東京女子医大の岡野光夫 て、互いの相談や研究のサポートができるのではな 教授らが開発した「細胞シート」を使った再生医療 いかと考え、2ヵ月に1回、開催しています。 の「スーパー特区」に選ばれました。現在、口腔粘 河野氏 形成外科ではいろんな診療科とのコラボレ 膜の細胞を採取して細胞シートをつくり、角膜に用 ーションがあると思いますが。 いる技術などが開発されています。スーパー特区の 秋田氏 私が主にやっている治療は患者さん自身の メリットは何でしょうか? 脂肪を用いた幹細胞移植です。ほかの科との横断的 第二外科教授 兼松 隆之氏 か ね ま つ・ た か し 1945 年生まれ。 長崎大学医学部卒。 な協力では循環器のバージャー病や肛門などにろう 孔ができるなどの難しい病態のクローン病の治療に 取り組みました。 形成外科助教 秋田 定伯氏 専門は消化器外科。 1991 年から現職。 あきた・さだのり 1965 年生まれ。 長崎大学医学部卒。 専門は形成再建外 科、再生医療。アメ リ カ、 シ ー ダ ー ス サイナイ医療セン Kanematsu Takashi ター研究員などを 兼松氏 東京女子医大をはじめ、大阪大学、長崎大 学などが連携して「スーパー特区」として再生医療 経 て、2007 年 か ら 現職。 研究に取り組んでいます。これまでは細胞を作った Akita Sadanori 病院でしかその細胞を使えないという規制がありま 河野氏 脂肪由来の幹細胞をどうするのですか? した。しかし、スーパー特区のグループに入ってい 秋田氏 まず脂肪組織を下腹部や太ももなどの皮下 れば、例えば東京女子医大でつくった細胞を長崎大 組織から吸引します。それを分離、精製することに 学で使用可能になるわけです。 よって、 脂肪の中に含まれている幹細胞を取り出し、 河野氏 研究の進捗はどうですか? 治りにくいところに打ちます。過誤腫やハマルトー 兼松氏 細胞シートで進んでいる領域は角膜です。 マができにくく、入れた細胞は炎症があるところに 長崎大学でも眼科の先生方が研究を進めていますの 集積して再生する傾向がありますから、心筋梗塞や で、近い将来実現できるのではないかと思います。 クローン病などに有効です。 次に食道がんで食道粘膜を内視鏡的に切除した後 河野氏 再生医療にかける夢をお願いします。 に、細胞シートを貼って粘膜の再生が試みられてい 兼松氏 現在の臓器移植を教科書の中だけの、すな ます。残念ながら、私どもがやっている肝臓の再生 わち過去の医療にするということです。もちろん現 の臨床応用はまだ現実のものとはなっていません。 時点では臓器の移植は不可欠な手段ですが、肝細胞 早く追いつきたいと思っていますが。 を使った移植が実現すれば、現在の肝臓移植と置き 診療科を超えたコラボレーション 換えることができ、ドナーの負担も移植を受けられ る患者さんの負担も少なくなります。 河野氏 長崎障害者支援再生医療研究会という会を 河野氏 そうですね。 臨床研究が患者さんにとって、 立ち上げましたが、どのような目的がありますか? 一日も早く役に立つ日がきてほしいものです。
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