長崎大学病院 行動の時vol.39

長崎大学病院
2013 年 3 月 vol.39
病院機能評価の結果を受けて
地域連携の取り組みが高く評価
本年度、長崎大学病院は医療の質の向上や安全の
ますか?
確保などを第三者的な立場から評価する公益財団法
安岡氏 評点5の最高点が 11 項目ありました。11
人「日本医療機能評価機構」の審査を5年ぶりに受
項目を挙げると、地域連携、医療安全、看護部の体
けました。患者サービスや安全管理などの項目を
制、薬剤部の持参薬などへの取り組み、臓器提供、
5段階評価しますが、本院に該当する審査項目 151
在宅医療などです。基本的にこれまで本院が取り組
のうち 87% が評点4以上と全国でもトップレベル
んできたチーム医療の充実などがちゃんと評価を受
で、特に地域の医療機関との連携の面は高く評価さ
けた結果だと思います。医師だけでなく、看護師や
れました。機能評価にかかわった3人の医師に取り
薬剤師などいろんな部門がそれぞれの役割を認識し
組みを振り返ってもらいました。
副病院長/医療質管理・外部評価担当 中尾 一彦氏
各部門がしっかり役割を担う
河野氏 本院は昨年 12 月 17 日から3日間、病院
機能評価バージョン6の審査を受けました。現在、
この病院評価を受けている全国の病院は約 2400 病
院で、全体の約3分の1弱です。県内でも 38 病院
が認定病院になっています。今回、本院はたいへん
高い評価を頂き、一発合格でした。まずは病院機能
評価とはどういうものか、簡単にお願いします。
安岡氏 病院が一定水準以上の患者サービスやマ
ニュアルを整えて標準的な診療を提供しているな
ど、第三者機関である日本医療機能評価機構の基準
をクリアしているかどうかを評価することです。指
摘を受けたところについては改善して、その到達点
なかお・かずひこ
1959 年生まれ。
専門は消化器内科学。
2011 年より現職
が評価される目的だと認識しています。
Nakao Kazuhiko
河野氏 具体的にはどんな項目が審査されるので
しょうか?
て、それぞれの機能を高めてきました。それがチー
廣瀬氏 例えば、医療安全や院内感染の予防、患者
ムとして病院全体が頑張っていると評価されたのだ
サービスなどの分野があります。またマニュアルの
と思います。本院にはさまざまな部門があってそれ
準備や法規を守っているか、院内で適切な医療を保
ぞれに面白いことや新たな取り組みが実現できるの
つために委員会などの組織を備えているか、なども
は魅力だと思います。
あります。書類上の主なものは、診療録(カルテ)
廣瀬氏 例えば、病院機能評価ではカンファランス
の適切な記載が挙げられます。
の議事を残すことが求められています。そこをしっ
河野氏 今回、本院は全国的にもトップクラスの評
かりと重点的な課題として電子カルテに反映するこ
価を頂きました。どんな点を評価されたと思ってい
とによって、ほかの職種の方が閲覧することができ
座談会
るようになり、さらにチーム医療の意識が高まった
安岡氏 あじさいネットのような地域の情報ネット
と思います。
ワークの構築が一つ挙げられます。ほかに本院の地
河野氏 本院はいつから認定を受けていますか?
域医療連携センターがしっかり役割を果たして、が
安岡氏 2003 年にバージョン3を受けたのが最初
ん拠点、被ばく医療、離島医療といった地域の特色
で、今年で3回目になります。
を生かした医療を中核病院として展開してきたこと
河野氏 前回の5年前に受審したバージョンを基に
が評価されたと思います。
それぞれの項目を単純に 100 点満点で換算したと
ころ、本院は平均 67.5 点と厳しい評価でしたが、
病 院 長
河野 茂氏
今回も同じように計算すると平均 78.9 点と高得点
でした。この計算方法は日経新聞の病院調査の1つ
の指標にもなっており、75 点以上をモデルとなる
ような病院として紹介しているようですね。
中尾氏 おそらく前回は新病院になる前でしたの
で、ハード面の整備について指摘が多かったようで
す。今回は病棟も外来棟も新しく変わり、ハード面
での指摘は少なかったと思います。
河野氏 中尾先生、機能評価を受けるにあたって、
本院の職員の意識はどんな感じでしたか?
中尾氏 本院は昨年当初、機能評価の前にすでに特
定共同指導を受けていました。今回の機能評価と内
容がオーバーラップするところもありまして、その
ときの体制や勢いが続いていたと思います。機能評
こうの・しげる
1950 年生まれ。
長崎大学医学部卒。
専門は呼吸器内科学。
2009 年4月より現職
価では資料が事前に提示されますので、院内ではプ
Kohno Shigeru
ロジェクトチームやワーキンググループをつくって、問
河野氏 あじさいネットは地域の先生方にどのよう
題点を早めに洗い出して対応できたと思います。
に役立っていますか?
廣瀬氏 特定共同指導の際、医療に関する法規や保
廣瀬氏 あじさいネットのシステムでは登録した開
険診療が適切かどうか指導をいただきました。そこ
業の先生方が患者さんを大学病院に紹介した際、そ
を継続して診療記録の質を保つ取り組みができてい
の診療記録を閲覧することができます。どのような
たと思います。
治療だったか、患者さんがどんな状況だったかなど
河野氏 何か苦労はありましたか?
診療所にいながら知ることができます。退院したと
中尾氏 まず各部署がピックアップした問題点に対
きも大学病院での治療内容を細かく把握できますの
して、どこが対応するのか、振り分けるのに手間が
で、患者さんに安心を与えていると思います。
かかりました。しかし安岡先生を中心にワーキング
河野氏 中尾先生、
ご専門の消化器内科の診療の際、
グループが立ち上がってからは役割分担が明確にな
あじさいネットの活用はいかがですか?
り、スムーズにいったと思います。
中尾氏 消化器内科では画像データが膨大です。紙
あじさいネットで情報を交換
媒体でやり取りをするよりも、あじさいネットでは
大学病院の画像をパソコンを通して直接閲覧できる
河野氏 地域で医療情報を共有するといった地域連
ので大きなメリットがあります。例えば、がんの微
携について高く評価されていますが、どのあたりが
細な血管異常を染色処理などをせずに、可視化する
評価されたのでしょうか?
特殊光内視鏡画像もすぐに閲覧できます。
長崎大学病院 行動の時
病院長特別補佐
安岡 彰氏
河野氏 病院機能評価を経験されて、カルテ管理の
立場から大学病院の医師がどうあるべきだと思いま
すか?
廣瀬氏 あじさいネットでは外部の先生方が大学病
院の記録を閲覧しますので、リアルタイムに記載し
て開業医の有効に活用してもらえるように、院内の
医師たちは書類をそろえておく必要があります。退
院サマリーは迅速に記載することが原則ですし、院
内の意識も上がってきています。これを継続するよ
う、働きかけをしていきたいと思います。
河野氏 カルテの質もいいものにしないといけない
やすおか・あきら
と思いますが、その対策はいかがですか?
1959 年生まれ。
長崎大学医学部卒。
廣瀬氏 そこも今回の要件に入っていたわけです
専門は感染制御、感染症。
が、
「peer review(ピア・レビュー)
」といいまし
国立国際医療センターなどを経て、
て医師同士がカルテの記載を互いに確認し、その質
2010 年より現職
Yasuoka Akira
河野氏 こういった先進的な医療機器はなかなか高
価ですし、最新機器の情報を得ることができるのは
魅力ですね。
を評価するように委員会で取り組んでいます。今後
も専門家として必要な記載がされているかチェック
して質を確保したいと思います。
高度な診療に特化する大学病院
中尾氏 ご紹介の患者さんが最新の検査を受けた際
河野氏 現在の大学病院の機能を強化しながら、さ
に、地域の先生方からは大変勉強になるという声も
らに連携を深める必要があります。取り組んでいる
聞こえてきます。
ところを紹介いただければと思いますが。
廣瀬氏 本院の医師たちからは、あじさいネットや
安岡氏 今回の評価で地域医療連携や在宅医療支援
地域連携医療センターを連携している先生方から頂
という項目がありますが、大学病院は地域医療連携
く情報の質が高く、患者さんが本院に入院する前か
センターを中心に積極的に一元的に取り組んでお
ら貴重な情報を得ることができていると聞いていま
り、平均在院日数も短くなっています。しかしなが
す。一方で長崎市内では在宅医療に取り組む開業医
ら大学病院での高度医療を必要とする患者数の増加
の先生が多く、退院後の患者さんの状況も詳しく教
には追いつかず、新規の患者さんの受け入れが難し
えていただいて、本院の医師たちの勉強にもなって
くなってきています。これまで以上に地域の急性期
いるという声が現場から挙がっているようです。あ
病院と連携し、大学病院はより高度な部分に特化し
じさいネットが地域の先生方といい関係を築く手段
ていかなければならないと考えています。
になっていると感じています。
河野氏 臨床研修医のあたりもしっかりしていきた
中尾氏 離島、へき地を抱えた地域だからこそ、情
いと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
報ネットワーク、IT を活用した医療情報を交換す
中尾氏 本院は医療教育開発センターを備えて、臨
るシステムが育ちやすい環境といえるかもしれませ
床教育プログラムの充実はもちろん、専門の教員た
ん。それぞれの医療情報や感染制御などいろんな分
ちも配置しています。臨床研修医制度が始まった当
野のパイプを太くしていくと、離島や僻地などの距
初に比べれば、研修内容は格段に向上しています。
離感を感じさせない医療体制ができるのではないか
地域の関連施設の先生方も初期研修に関わっていた
と思います。
だいて、地域ぐるみでの研修教育が少しずつ活発に
座談会
なっていると感じています。
全、院内感染の防止が非常に重要な項目だと思います。
安岡氏 県内には大学病院は一カ所ですので、地域
ほかにも医療訴訟という法的なリスク、あるいは患
の病院との関係も非常にシンプルにできています。医
者さんの個人情報の保護についても備えが必要に
師会の先生方も大学と関係のある先生方が多く、あ
なってきます。先進的な医療の提供や医療教育の充
るいは外から来られた先生も大学との連携を重視して
実は財政的な負担も大きいので、病院の経営面での
くださいますし、いい地域連携のモデルだと思います。
安定は欠かせません。このあたりもいろんなデータ
の活用や医療機関同士の連携の中でバランスを見な
医療情報部 診療情報管理室長
がら安定化させることが重要だと認識しています。
努力目標も明確に
廣瀬 弥幸氏
河野氏 5年後ぐらいに進化したバージョンで受審
すると思いますが、今回の経験を踏まえて改善が必
要な点はありますか?
中尾氏 今回基準を満たしているものの、なかなか
結果に結びついていない項目もありました。例えば
職員の禁煙ですが、年1回講習会を開いた程度にと
ひろせ・みさき
どまっています。そういう活動がもっと有効なもの
1976 年生まれ。
になるよう取り組みが必要だと思っています。
長崎大学医学部卒。
廣瀬氏 非喫煙率アップを目指して次の審査まで
専門は腎臓内科および透析。
2011 年より現職
Hirose Misaki
医療安全と迅速な危機への対応
フォローしていかなければならないと思います。も
う1つは外来の待ち時間が長いというところです。
これはすでに課題だと認識していますので、対策を
示していかなければなりません。
安岡氏 個人的な意見ですが、待ち時間の改善など
取り組んでいかないといけない部分はたくさんある
河野氏 高度な医療を追求すると、リスクが生じる
のですが、病院機能評価が求めるものと大学病院の
ことは否めません。今回、リスク管理はどのように
役割として備えるべきものの間に多少ずれがあると
評価されていますか?
感じています。今回頂いた評価を参考に、本院に適
安岡氏 安全管理部門に医師が関わってシステムと
した形にしていかなければならないと思います。
して機能している点だと思います。また病院の方針
中尾氏 病院機能評価は病院のあるべき姿のお手本
として医療安全や危機管理については包み隠さず対
のようなもので、評点3の評価は改善の余地がある
応していく姿勢があります。これからの病院運営に
努力目標です。指摘事項を吟味して本院にとって重
はとても大事な部分です。
何かあったときの透明性、
要なものから取り組んでいくことが、病院全体のク
地域に公表するという点を進めてきましたので、そ
オリティーの上昇につながると思います。すでにい
こが卓越していると評価をいただきました。
い評価を受けた項目は継続的に取り組んで、ほかの
河野氏 大学病院は診療と教育と研究の 3 本柱を
医療機関にも発信して長崎大学病院方式として地域
担っています。病院の管理という面で、将来的にリ
全体に広げていければいいですね。
スク管理と病院としての経営管理について、2つが
河野氏 そうですね。本院の取り組みを地域の病院
重要になってきますが、どのように考えますか?
や先生方の参考にしてもらえれば嬉しいですね。本
廣瀬氏 リスクマネージメントという点では医療安
日はありがとうございました。