磁磁 光光 気記録用酸化物薄膜 の結 晶成長 と 気基礎物性 の研究 伊藤 彰 義 日本 大 学 理 工 学部 電子工学科 教 授 1.は じめに 近年 コ ンピュー タの性能向上 に伴 って 、外部記憶装置の分野 で はハ ー ドデ ィス ク、 フロ ッピー デ ィス クよ りも記憶密度が 1桁 以上高 い光磁気デ ィス クが 開発 された。 しか しなが ら、将来的な コ ンピュー タの処理 能力 の 向上 に伴 う外部記憶装置 の性能 向上 に加え、特 に画像情報 を取 り扱 う 分野で はさ らに高 い記憶密度 を有す ることが望 まれて い る。 本研究で は現 状 の 光磁気デ ィスクの 記憶密度を さ らに向上で きる次世代 の光磁気 デ ィス ク材料 と して 多結 晶磁性 ガ ー ネ ッ ト膜 の研究を行な った。磁性 ガ ー ネ ッ トは短波長で磁気光学特性が大 きいために高記録密度化が可能 な光磁気 デ ィス ク材料 と して期待 され る。 しか しなが らガラ ス基 板 を用 いた多結 晶の磁性 ガ ー ネ ッ ト膜 に関す る研究が少な い。本研究で はその結 晶成長機構 と光 磁気記録 特性 を中心 に、 ガラス基 板上 の多結 晶の磁性 ガ ーネ ッ ト膜 に関 して研究 を行 ない、 性能 向上 を実現 した③ 2.熱 分解 ガ ー ネ ッ ト膜 の微細構造 と結 晶成長機構 (2-1)微 細構造 ガ ーネ ッ ト膜 を熱分 解法 によ り作製 した。 ア 硝酸塩 を原料 と して 目標組成 BllDy2Fe4Al1012の ニ ー ル 処理を複数回に分 けて断続的 に実施 して結 晶化を行 ない、その 断続的 に実施 したアニ ール 処理 の 間 に微分干渉顕微鏡 を用 いて膜観察を行 な った結 果を図 1に 示す。 BllDy2Fe4Al1012ガ ネ ッ ト膜 の結 晶化初期 には大 きさがサブ マイ クロメー ターのオ ー ダーの粒が観察 され、結 晶化 の 進行 と共 にその大 きさが増大 し、やがて粒 は全面 に広が る。結 晶化が完了 した図 1(d)では粒 状 の 構造 は明確 に観測 で きな くな るが、 マイ クロメー ターのオ ー ダーの不均 一 が観測で きる。光磁気 記録で は再 生 信号 の ノイズ増加 につなが るので不均 一 が見 られな いほ うが望 ま しい。 上記 の よ うな不均 一 の原因を究明す るために、透過型電子顕微鏡 (TEM)に よ り膜 の観察を の結晶化途 中 (アニ ール 時間 ta=30min)の膜 と、結 晶化が 行 な った。熱分 解 BllDy2Fe4Al1012膜 完了 した (アニ ール時間 ta=120min)膜 について TEMに よる観察を行 ない図 2に 示す。結 晶化 途 中の膜 は結 晶化 した約 lμ m以 下 の 円形 の領域 が観察 された。 したが って 微分干渉顕微鏡 で観 察 されたサブ マ イ クロメー ターのオ ー ダーの粒 は円形 に成長 した結 晶相 で あ り、 この結 晶相 は、 結 晶相 の まわ りに残存す る結 晶化前 のアモルフ ァス相 との屈 折率 の違 いか ら光路差が生 じて微分 干渉顕微鏡で観測で きた ことが 明確 にな った。 また結晶化が完了 した膜 の結 晶粒 の 大 きさは lμ m前 後 で あることを明 らか に した。再生 に用 い る レーザ光 の スポ ッ ト径 は lμ m前 後 であ るので 、 ノイズ低減 の ために結 晶粒 を小 さ くす ることが重要であ る。 - 1 - 図 1 ill (tt)thi 2011〕 (b)ta:40111111 (c)ta:601nlll (d)ti:12011lin 微分干渉顕微鏡 による熱 分解 ガ ー ネ ッ ト膜観察結果 l=250° C、 tt=30min、 ( 目標組成 B l l D y 2 F e 4 A l 1 0 1 2T、 T a = 6 5 0 ℃ 、膜厚 1 2 0 n m ) lb)ta=120n■ 血 (a)ta=30Hlin O.5μ m ― 図 2 微 分解法 によるBilDy2Fe4Al1012膜 のTEMに よる観察 ― ワ ー ( 2 - 2 ) 結 晶成長機構 熱分解 ガ ー ネ ッ ト膜 の結 晶粒微細化 の指針を得 るために、結 晶成長機構 の検討を相変態速度論 の 立 場 か ら検 討 したc 相 変 態 率 X の ア ニ ー ル 時 間 t . 依存性を求 め、 これか らJ o h n s O n M e h l ― A v r a m i 式い ( ( 1 ) 式 ) の 反応次数 n を 求 め ることによ り相変態 の 次元数や機構を推定す ることが可 能であ る。 X : 相 変態率 ( 結晶化度) 、 k : 速 度定数、 t i 相 変態時間 ( アニ ー ル時間) 、 n i 反 応次数 熱分解ガ ー ネ ッ ト膜 の結 晶化度 X を アニ ール時間 t l に対 して求 めることによ り反応次数 n を 求 め 図 3 に 示す。 アニ ー ル温度 T I が 6 3 0 ∼ 6 7 0 ℃で反応次数 n は ほぼ一 定で約 3 で あ るc こ の結果 と核生成速度が 一 定であ ることか ら反応 モ デル と して 一 定厚 さの円板状粒子の拡散律速成長が 考 え られ る ! 2 ) 。 このモデルは前節 の T E M に よる微 細構造観察結果 と一 致す る。 Bll Dy2Fcそ Al10 12 卜 一- 8 。 .-8-一 0 3 6 0 2 6 。 46 h o:Transinittal■ cc ● :DlfrcrcI.tial lntcrrcrcllcc llllagc 650 660 1 C°i 012膜の反応 次敷 nのアニ ー ル温度依存性 図 3 熱 分解法 によるBllDy2Fe4Al〕 C、 t十 (TII=250° 1 =30min、膜厚 120nm) 3.熱 分解 ガ ー ネ ッ ト膜 の不純物添加効果 (31)微 細構造 熱分解 ガ ー ネ ッ ト膜 へ の 不純物 と して 低融点金属 であるし1,Na,Rb,Csの アルカ リ金 属 の添加 効果を検討 し、特 に微 細構造 へ の 影響 と結 晶成長機構 へ の寄 与を調 べ た。以 下添加致 (atOmic% t以 降at,%と 略す)は ガ ー ネ ッ ト組成 の原子数 に対す る添加金属原子数で表わす。 i 添加 の場合を除 き不純物 を添加 した膜 は均 一性が格段 に向 微分干渉顕微鏡で観察 した結果、1ン 上 した。 また結 晶化 に必 要 なアニ ール時間 は 不純物添加 によ り短 くな り、結 晶化機構が変化 した と考え られ る。 3 - / b)ta=30min (a)ta=10Hlin O.5μm 中 膜 E M による観察 図 4 熱 分解法 によるR b 添加 B l l D y 2 F e 4 A l 1 0 1 2のT R b を l a t . % 添加 したB l l D y 2 F c 4 A l 1 0 1 2について 膜 TEMに よる観察を行 ない、 図 4 に 示す。 ア ニ ー ル時間が 1 0 分間 の膜 は写真 の 中央 に大 きさが3 0 n m 前後 の 明暗 の構造 が見え る。 この 明暗 は回 折 に起 因す るので 結 品粒 の 大 きさは約 3 0 n m であ る。 したが ってR b 添加を行 な った熱分 解膜 は微細 な結 晶粒が ほぼ円形 に近 い形 に集 ま った状態で結品化す ることが明 らかにな った。 3 0 分間 アニ ー ルを行 な ったR b 添加模 の T E M に よる観察結 果 は膜 全体 に結 晶化領域が広 が って結 晶化が完 r し て い ることを示す。 無添加 の膜 の結 晶成長 が ラ ンダ ムに発生 した複数 の 円形 の単結 晶が単結晶の まま円板状 に成長 す るのに対 し、R b 添加 した膜 の結 晶成長 は多結 晶が集 ま った領域 と未結晶領域 との境界 で新 たな 結 晶粒 を生成 しなが ら結 晶成長が進行す る もの と考え られ、無添加膜 とR b 添加膜 で結 晶成長 の機 構が異 な ることを示 して いる。 R b 添加 した膜で多結 晶が集 ま った領域 と未結晶領域 との境 界 で 新 たな結 晶粒を生成 しなが ら結 晶成長が進行す ることは、境界で新 たな結 晶核を生成 しなが ら結 晶 一 一 成長が進行す ることを意味 し、結 晶粒界 での核 生 成 ( 不均 核 生成の 種) が 起 こって いると推 定で きる。 ( 3 2 ) R b 添 加膜 の結 晶成長機構 ) を 用 いて結 晶成長機構 の検討を行 な った。 アニ ー ル温度 に J O h n S O n M e h i A v r a m l式 の ((1)式 対す る反応次数 n を 求 め、図 5 に 示す。反応次数 n は T a = 6 2 0 ∼6 5 0 ℃の範囲 で3 . 5 ∼4 で あ り、 無添加膜 の場合 の n 二 8 よ りも増加 して い る。結品粒が微細化 され、反応次教 n が 増大 した こと か ら、不均 = 核生成が起 こることによ り核生成速度 の 時間 に対す る次数が増加 し、その結果 と し て反応次数が増大 した と考え られ る。 アルカ リ金属を添加 したガ ー ネ ッ ト膜 について結 晶成長機構 が 変 わ った理 由につ いて以下 に考 察す る。T h e r m o g r a v i m e t r y ( T G ) 測定で求 めた不純物添加元素 の硝酸塩 であ るR b 、C s 硝酸塩の C 以 L で あるので アニ ー ル時 において分解 しな いで 、溶解 した硝酸塩 と して残 分解温度 は約6 0 0 ° って いる可能性 があ る。結 晶成長時 に結晶粒界 に格子欠陥 が発生す ると結 晶粒界 で新 たな核を生 一 成 しやす くな るた めに不均 一 核 生成を起 こ しやす くな り、また溶媒が粒界 に偏析 して も不均 生 - 1 │ z atO/o Rb dopcd BllDy21「 C4Al10 12 Z=lat O/o 会 会 会 . O o o 目 Z=Oat% ● ▲ :DIM in■ agc o△ 620 I Absolptlon 640 Cl Ta t° の 反応次教nのアニ ー ル温度依存性 図 5 熱 分解法 によるRb添加 BllDy2Fe4Al1012膜 成 を起 こ しやす くなる.し たが って、Rb硝酸塩 を添加 した膜 は添加 したRbが成長 しつつ あ るガ ー ネ ッ ト結 品 に取 り込 まれて格子欠陥を発生 した り、分解温度が高 いRb硝酸塩が ガ ー ネ ッ ト結 晶の 粒 界 に偏析 したために不均 一 核生成が起 こ り、不純物添加 によ り熱分解 ガ ー ネ ッ ト膜 の結 晶成長 機構 が 変わ った と考えて いるc (3-3)Rb添 加膜 の光磁気記録特性 Rbを l at.%添加 した熱分解BllDy2「 e4Al1012膜の光磁気記録特性 を調 べ た。熱分 解無添加 Bil の C/Nは Dy2Fe4Al1012膜 膜 で は C/Nが 最高45dBが得 られ るが、Rbを l at.%添加 した熱分 解 BllDy2Fe4Al1012 47dBに向上 し、 C/Nの 2 dB改善が実現 で きた。 この 2 dBの向上 は、Rb添加 によ り膜 の結 晶粒 の大 きさが 30nmに低減 で きたので、磁壁が結 晶粒界 に ピンニ ングされ ることによる 記録磁区形状 の乱れが少 な くな ることや均 一性 の 向上 による もの と考え られ る。 4.硝 酸塩 の分解 と熱分 解 ガ ー ネ ッ ト膜 の ドライ条件 (4-1)硝 酸塩基 の分析 薄膜 の状態 で 赤外分光法 でN03 の特徴的 な吸収 (波長7.5μ m)3)を 測定 し、硝酸塩 の分解 を 評価 した。 一 各種 の 硝酸塩 を別 々に コー トし、ド ライ時間30分 定 の もとで ドライ温度を変化 してN03 の濃 度 を測定 し、図 6に 示す。 Bl,Fe,Alの 硝酸塩で は、N03の 濃度 は200℃前後で急激 に減少す る が、Dy硝酸塩 は300℃付近 か らN03 の濃度 の低下 が始 ま り、 Dy硝酸塩 の分解す る温度が高 い。 従 って 従来 の ドライ条件で はDy硝酸塩だけが膜 内 に硝酸塩 と して残留 して い ると考え られ る。 ▲ 0 670℃ □ 650℃ ▲ 630℃ ○ □ 。 〇 一 四 0 :Dy(NQ〕 □ 中o 卜 ■ の目 O n ■ \ 。 吊︻ o ︲ む ヽ︻︶ Ho自 X 宮0コ ヽコやoF口 ●0ど召o目E OZ 思 ︶h O Z コ H ” 五 一 ︵ 岩 td=30 1nin 日 0 100 200 300 400 500 Drying tettperature Td(° C) 図 6 N03 密 度 の ドライ温度依存性 0 . 5 1 1 . 5 Drying ti】ne td th) 2 2 5 3 図 7 未 記録時の ノイズの ドライ時間 依存性 ( R b 添加 B l l D y 2 F e 4 A l 1 0 1 2)膜 0 5 口ヽ︶ZヽO ︵ ● ● ● 45 Drying Tェ Ineth) 図 8 熱 分解 Rb添加物 BllDy2Fe4Al1012 膜 のC/Nの ドライ時間依存性 (4-2)ド ライ時間 と光磁気記録 特性 Rb l at.%添加 BllDy2Fe4Al1012膜 の 未記録時 の ノイズの ドライ時間依存性 を減1定し、図 7に 示 す。ド ライ温 度 Td=250℃ において ドライ時間 の増加 に伴 いTa=650,670℃ で アニ ール した膜共 に ノイズの低減が見 られ る。ド ライ時間を増加す ることによ りDy硝酸塩 の 分解が ドライ処理 中 に進 行 し、その結 果結 晶化時 の 偏析が少 な くな り均 一性が向上 した ことが推定で きる。 また、未記録 時 の ノイズ低減 に伴 って、記録 時 の C/Nが 図 8に 示す よ うに向上す る。ド ライ時間を tt=3h に して充分 な硝酸塩 の分解を行 な うことによ りC/N52dBが 実現 され、5 dBの向上がで きた。 さ らに、 この 低 ノイズ化を実現 したガ ーネ ッ ト膜を下地膜 と して、磁 気特性 と磁気光学特性 を 改善す る 2層 構成 の ガ ー ネ ッ ト膜を設計 し、 C/N55dBを 実現 した。 5.ま とめ 本研究で は、酸 化物 磁性 材料 である磁性 ガ ーネ ッ トを多結 晶薄膜 と して熱分解法でガラ ス基板 上 に作製 し、結 晶成長機構 を解明 し、結 晶粒微細化 と膜 の均 一 性向上 を実現 した。 また コ ンピュ - 6 - 3 5 ― 夕で 使われ るデ ィ ジタル情報や デ ィ ジタル化 した画像情報 を保存す る光磁 気 デ ィス クで必要 な C/N値 は本研究で用 いた評価条件 に換算す ると5 3 ∼5 5 d B であ り、 この C / N 値 をガラス基板 を 用 いた多結 晶磁性 ガ ー ネ ッ ト膜 で 実現す ることを 日標 と して、多結 晶磁性 ガ ー ネ ッ ト薄膜を光磁 気記録材料 と して実用可能 な記 録媒体 であ ることを示 したを 本研究 の遂 行 に多大 な御支援を い ただいた R l l 高 柳記念電 子科学技術振興財団お よび財団 の 関係者 の皆様 に深 く感謝申 しあげます。 参考文献 【 .BurkeiThe Kinetics of Phase Transformations in Metals(Pergamon Press,Oxford,1965) 〔1 , 〕 p.193. 〔2〕 J.W.Chri s ti all:Transformation in Mctal and Alloys,(Pergamon Press,Oxford,1975)2nd ed.,Partl,p.512. 〔3〕 R.M.Silverstein,G.C.Bassler and T.C.MorrilliSpectrometric ldentification of Organic Compounds (John Willey & Sons, Inc.,1981), │
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