>> 愛媛大学 - Ehime University Title Author(s) Citation Issue Date URL ラット内喉頭筋における脱神経後の筋萎縮関連転写因子 の発現に関する研究( 審査結果の要旨 ) 勢井, 洋史 . vol., no., p.- 2015-03-24 http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/4490 Rights Note 受理:2014-11-27,審査終了:2015-02-27 This document is downloaded at: 2016-03-26 18:02:04 IYOKAN - Institutional Repository : the EHIME area http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/ (第7号様式) 学位論文審査結果の要旨 氏 審 論 文 名 査 名 委 員 勢井 洋史 主査 三浦 裕正 副査 鳥居 本美 副査 藤野 貴広 副査 永井 将弘 副査 日野 聡史 ラット内喉頭筋における脱神経後の筋萎縮関連転写因子の発現に関する研究 審査結果の要旨 背景:内喉頭筋は甲状披裂筋(以下、内筋),後輪状披裂筋(以下、後筋) を含む 5 つの筋で構成 され、輪状喉頭筋以外は反回神経によって支配されている。一側の反回神経が切断されると、内 喉頭筋は萎縮し気息性嗄声や誤嚥をきたす。また両側の神経が切断されると、声帯は傍正中位で 固定し、気道が狭窄するので呼吸困難や喘鳴が生じる。 近年、筋萎縮に関する研究が進み、脱神経後の筋タンパク質の分解経路や筋萎縮に関連した転 写因子の存在が明らかとなってきた。Adam によると、筋タンパク質の分解にはユビキチンープ ロテアソーム経路が重要な役割を果たし、80%以上の筋タンパク質はこの経路で分解され、残り はカテプシン、カルペイン、カスパーゼで分解される。ユビキチンープロテアソーム経路には F OXO3a やリン酸化 FOXO3a (以下、P-FOXO3a)、PGC-1α といった転写因子が関与し、なかでも F OXO3a が特異的にユビキチンリガーゼの転写を促進し筋萎縮を促進する。一方、PGC-1α はミト コンドリア新生や糖代謝に関与するが、筋萎縮を抑制する機能も持つ。このような知見は主に四 肢筋を対象とした研究から得られた成果であり、内喉頭筋における転写因子の役割については分 かっていない。そこで本研究では脱神経後の内喉頭筋の萎縮と転写因子の関係を探索した。 方法: 1)実験動物 実験には 10 週齢のウィスター系雌ラット 51 匹を使用した.全身麻酔後、頸部で左反回神経を 鋭的に切断し、その後、動物飼育室に戻し飼育した。 2) 筋委縮の評価 左反回神経切断後(処置後)1, 4, 7, 14, 28、56, 84 日目のラットを安楽死させた後,直ち に両側の内筋と後筋を摘出し筋湿重量を測定した。その後、凍結切片を作製して HE 染色を行い、 内筋と後筋の平均筋線維断面積と 1 ㎜ 2 あたりの筋線維数を計測した。筋萎縮の程度は 3 つの指 標(筋湿重量、筋線維断面積、筋線維数)における非処置側に対する処置側の比(treated side/ untreated side, T/U 比)で評価した。 3)転写因子の発現 筋湿重量測定後、各筋から抽出した 20 µg のタンパク質を 7.5% SDS-PAGE により分離し、電 気泳動後、0.1% TBST で一晩、ブロッキングした。ついでメンブレンを TBST で洗浄し、一次抗 体と 4℃で一晩、反応させた。さらに二次抗体である HRP 標識抗 rabbit IgG 抗体と1時間、室 温で反応させた。その後、画像解析ソフトを用いて両筋に発現した転写因子の量を求め、T/U 比 を計算した。 結果:内筋や後筋の筋萎縮は、脱神経後 4 日目までは緩徐に、7 日目から 28 日目の間は急速に、 その後は再び緩徐に進行し、56 日目以降は萎縮の進行は停止した。筋萎縮のスピードは内筋の 方が後筋よりも早く、脱神経後 7 日目と 14 日目では両者の間に有意差が見られた。 一方、FOXO3a の発現は内筋、後筋ともに 7 日目が最大で、特に内筋の発現は後筋よりも有意 に多かった。これに対し P-FOXO3a の発現は脱神経後、両筋とも緩徐に減少したが、その程度に 有意差はなかった。PGC-1α の発現は両筋とも 7 日目までは徐々に増加し、その後、徐々に減 少した。 考察および結論:今回の実験の結果、反回神経切断による内喉頭筋の萎縮は筋ごとに異なり、内 筋の萎縮は後筋よりも早いことが分かった。これは筋線維組成が内筋と後筋で異なるためと考え られる。内筋が fast-twitch fibers と呼ばれる type II 型の筋線維のみで構成されているのに対し、 後筋は fast-twitch fibers と slow-twitch fibers が混在した筋である。fast-twitch fibers は slow-twitc h fibers と比べ脱神経などの障害に対して脆弱であり、これが萎縮スピードの差に反映されたの であろう。近年、脱神経後の筋肉タンパク質の分解は主にユビキチンープロテアソーム経路を介 して行われ、その過程は FOXO3 などの転写因子でコントロールされていることが明らかとなっ てきた。今回の実験で内喉頭筋の筋萎縮に先行して脱神経後 7 日目に FOXO3a が増加しているこ とが判明した。とりわけ内筋では FOXO3a の増加が顕著であり、これが内筋の筋萎縮スピードが 後筋よりも早かったことに繋がったのであろう。一方、P-FOXO3a の発現量は脱神経後、両筋と も緩徐に減少した。これに対し PGC-1α の発現量は両筋とも 7 日目までは徐々に増加し、その 後、減少した。このように転写因子の動向は内喉頭筋の萎縮過程とよく相関していた。 本研究に関する公開審査会は平成 27 年 1 月 23 日に行われた。主な質疑は、1)内喉頭筋と 他の骨格筋との性質の違い、2)微量の筋採取における具体的方法、3)FOXO3a の半定量に関 する具体的方法、4)PGC-1αの作用機序、5)脱神経以外の筋萎縮の機序、6)FOXO1 の関与、 7)プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブの他疾患への臨床応用についての可能性、8)筋 萎縮における不可逆性変化、9)本研究の臨床へのフィードバックなどについて広範囲な質疑が なされ、申請者は問題点や今後の展望を含め、的確に回答した。審査会は一致して本研究が博士 (医学)の学位論文に値するものと結論した。
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