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ロービジョン支援センター便り
クローバー
秋 田 県 立 盲 学 校
ロービジョン支援センター
平成27年5月29日発行
第 2 号
視覚障害と教育
「見えない見えにくい世界への共感を」
宮城教育大学
名誉教授
猪平眞理
この春、秋田市アトリオン音楽ホールで若手箏曲家として活躍する澤村祐司君
が 箏を 演 奏 し 、好評 を 得 たこ と を 幼い頃 の彼の 担任 とし て大変嬉 しく思 いました 。
全盲の彼は作曲でも力を発揮しており、私は以前、彼の「蛍」という作品に惹か
れたことを思い出しました。彼は夕闇に浮かぶ蛍の光の帯を見たことはないので
すが、この曲を聴いた人たちから、夏の夕べに蛍の乱舞する光が自然に思い描け
るようだと賛辞を集めたとのこと。私も同様の体験をし、彼の感性の豊かさに感
じ 入っ た も の でし た 。
視覚障害のある人への教育指導は、不足する視覚情報を聴覚や触覚などの他の
感覚を活用して行われます。ただ、どうしても視覚映像を持たない全盲の子ども
達にとっては、光や色の概念や、動きの過程、込み入った仕組みなどの具体的な
イメージは作りにくく、学習上にバリアをもつとも言われます。しかし、そのバ
リ アは 見 え る 人同 士 が共有 する イメ ー ジにと らわれ過 ぎた 考え 方か もし れませ ん。
見えない人は音声から物体や人の違い、ものの動きをキャッチし、音楽の世界で
心を揺さぶられ、言葉による繰り返しの説明・伝達を受け、触わる手指からは事
物の形態、質感、重量を知り、スキンシップで心の安定感と人の心の繋がりを感
じ、さらに嗅覚、味覚、圧覚などまで加えた情報で事物事象を捉えています。こ
の独自の内的世界は視力が極端に低い弱視の人達にも一部で通じる世界でもある
か と思 わ れ ま すが 、 見える 人と は異 な る質の 領域があ るわ けで す。
一方、視覚に依存しない情報収集には時間を要し、記憶を動員して断片的な経
験をつながねばならないなどの制約を受け、学習には積極的で旺盛な意欲が必要
となります。そのための大切な指導者の配慮は、子ども達自らの感覚を研ぎ澄ま
せて得た情報や知識を尊重し共感をして、その実感に自信をもたせ、知る喜びや
学 ぶ 意 欲 の 高 揚 に 繋 げ る こ と だ と 思 っ て い ます 。 あ る と き、「 沈 み ゆ く 赤 い夕 日 」
と聞いて「赤い夕日は重いのかな」とつぶやく子どもがいました。とても興味深
い考え方に授業が盛り上がりました。視覚障害教育は異なる感覚からの情報を活
用 する 多 様 な 指導 力 が磨か れる 場で も あるの でしょう 。
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4月23日に秋田大学で障がい理解授業が行われました。大学生を対象に講義や視覚障害疑似体験
を行いました。
「目を閉じてください」という指示で講義が始まり、目を閉じたままで指示に従って折り紙を折っ
たり、文字を書いたりする活動を行いました。学生の皆さんは、見えなくても意外とうまく紙が折れ
たり、文字が書けたりしたことに感動したり、指示通りに折ったはずの折り紙が、見本と違う折り方
になっていたことに少しびっくりしている様子がみられました。その後の講義で、見えなくても、こ
れまでの経験や手の感覚を生かすことで細かい作業も行えることや、視覚障害では、視覚から得られ
る情報が少ないため、何かを伝えるにはより細かい説明が必要だということを伝えました。
視覚障害疑似体験では、すれ違う車の音やちょっとした段差、スロープ、階段など、普段なにげな
く通り過ぎているものが、視覚を使わないとどうなるのか体験してもらいました。おっかなびっくり
歩いたり、何度も介助者に位置を確認したりする様子がみられました。これからインクルーシブ教育
について勉強していく学生の皆さんに、何か少しでも視覚障害について理解を深めてもらえれば幸い
です。
見えない・見えにくい方のための白杖歩行・生活サポート講習会
秋田県内の視覚に障害のある方とそのご家族を対象に白杖歩行体験や調理体験を中心とした
講習会を行います。
講習会を通して、歩行能力の向上や、日常生活でのひと工夫を紹介し、積極的に社会生活を
送っていけるよう支援することを目的としています。
日時 6月14日(日)10:30〜15:00
場所 秋田拠点センター アルヴェ
お問い合わせ
担当 河嶋 真
岸 久里子
TEL 018-889ー8571
書籍紹介
「楽しく生きる」
藤野高明:著 発行:クリエイツかもがわ
単行本 158ページ 定価:1,620円(税込)
7歳の時に拾った不発弾が爆発し、両手・両眼を失った著者が、
唇で点字を読む方法を習得し、全国初の両手・両眼のない教師
として盲学校の教壇に立ってきた自身の人生を辿り直し、積極
的に生きる日常を綴った連作エッセイ。
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散歩が好きで休日にはよく1時間以上歩いている。
車の少なそうな道路や川沿いの遊歩道、そして心臓破りの坂道の往復、二往復、
わずかな疲れがとても心地よく感じられる。危険のない限りどこでも自由に歩きた
いといつも思っている。
陽気の良くなった春の日に、こんなことがあった。比較的、
広めの歩道だったが、自転車に乗った人が対向して来るのを確
認した。
突然「どこに向かって歩いているんだ」と怒鳴られた。
反射的に私は、「すみません」と二回頭を下げていた。
なんとなく、歩道の右側から左側に斜めに歩いているかなぁと
いう認識はあったのだが・・・・。通り過ぎて少し時間が経ってから、事前に自分
の存在を知らせる意味で優しく「チリンチリン」をしてくれれば、良かったのにと
思った。そして、さらに自分のことを棚に上げて「歩道で歩行者を見かけたら自転
車から降りるもんじゃい」とつぶやいていた。もちろん心の中だけで。
日常的にも通勤の途中でいろいろな場面に遭遇する。
例えば、誘導ブロックの上で立ち話をしていたり、旅行用のキャリーバックを置
いていたりすることがある。会話に夢中になっていたりすると、白杖で音のサイン
を出しても一向に気づいてもらえずこちらでなんとか回避したり、よけきれずにぶ
つかったり、公共の場なので、こちらの優先を主張するものではないが、白杖や点
字ブロックに関心を持ってもらいたいし、理解もしてもらいたい。こちらも理解し
てもらえるように努めなければならないし、臨機応変の対応ができるよう努力をし
なければならないと考えている。
斜視ってなに?
斜視というのは、左右の目の向いている方向が違っていることを
言います。目の前のりんごを見ている時、斜視がなければ、両目とも
りんごの方に向いています。しかし、斜視があると、どちらか片方の
目がりんごとは違う方向にずれているのです。外にずれていたら外斜
視、内にずれていたら内斜視、上にずれていたら上斜視…と言います。いずれも、
『見ている目』に対し
て『もう一方の目がどちらにずれているか』で表します。図では、りんごを見ているなら左目が外斜視、
花瓶を見ているなら右目が外斜視ということになります。
斜視は、
「発症はいつからか?」
「常にか?時々か?」
「いつも同じ目が斜視か?左右交代するか?」
「内
斜視か?外斜視か?」
「年齢は?」
「視力は?」等により様々な解釈があり、様子を見てよい場合と、急
いで治療が必要な場合があります。子どもの斜視は視力の発達にも大きく影響するので、早めに眼科を
受診しましょう。
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猪平眞理先生
経歴
学歴 昭和45年 3月 お茶の水女子大学
職歴 昭和45年~平成 3年
卒
筑波大学附属盲学校
教諭
講師
平成
3年~平成 4年
筑波大学学校教育部
平成
4年~平成25年
宮城教育大学教育学部
平成25年 4月
現在
宮城教育大学 名誉教授
宮城教育大学特別支援教育総合研究センター
東北福祉大学
助教授・教授
協力研究員
兼任講師
福島大学、仙台大学、国立身体障害者リハビリテーション学院等
全国視覚障害早期教育研究会
著書 等
会長
非常勤講師
等
「四訂版 視覚障害教育に携わる方のために」(共著)慶応義塾大学出版会2010
「特別支援教育支援員ハンドブック」(分担)日本文化科学社2010
「小・中学校における 視力の弱い子どもの学習支援」(分担)教育出版2009
他
今年度のクローバーでは、視覚障害教育、医療、リハビリテーション、福祉、労働等の各分野
で活躍されている専門家の方々に「視覚障害」をテーマにした執筆の依頼をしております。
第1回目は、視覚障害児教育、早期教育の専門家であり、また、ロービジョン支援センターの
スーパーバイザーでもある猪平眞理先生でした。
猪平先生の「大切な指導者の配慮は、子ども達自らの感覚を研ぎ澄ませて得た情報や知識を尊
重し共感して、その実感に自信をもたせ、知る喜びや学ぶ意欲の高揚に繋げることだ」の言葉が
ありました。この文章を抜き出させていただき、改めて読み返すと、全盲児や弱視児だけに向け
た言葉ではなく、全ての子どもたちに通じる言葉であると感じました。
様々な見地からの多様な考察は、視覚障害教育に携わる私たち教職員にとって、たいへん学ぶ
ところの多いものであり、教育相談・地域支援の指針となります。
次号は、福祉分野の専門家からお話ししていただきます。
ご相談のお問い合わせは
秋田県立盲学校ロービジョン支援センターへお気軽に
ご連絡下さい。
相談支援担当
中村素子、長崎雪子、落合久貴子、菊地雄平
〒010-1407
TEL
秋田県秋田市上北手百崎字諏訪ノ沢3-127
018-889-8571
FAX
E-Mail [email protected]
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018-889-8575