ISSN 2186-9138 ビタミン C について 1/4 JFRL ニ ュ ー ス Vol.5 No.16 Dec. 2015 ビタミンCについて はじめに 「ビタミン」と聞くとビタミン C を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?そん な メ ジ ャ ー な 栄 養 素 で あ る ビ タ ミ ン C は ア ス コ ル ビ ン 酸( L-ascorbic acid)の 常 用 名 で 知 られる水溶性の物質で,強い抗酸化作用を持つことから食品,飼料,医薬品など幅広い分 野 で 利 用 さ れ て い ま す 。 ま た ,生 体 内 に お い て 様 々 な 役 割 を 担 っ て い る こ と が 知 ら れ て い ま す が ,ヒ ト を は じ め と す る 霊 長 類 な ど は 生 合 成 に 必 要 な L-グ ロ ノ ラ ク ト ン 酸 化 酵 素 が 欠 損しているため,他の動物と異なり体内でビタミン C を合成することができません。 今回は私たちの必須栄養素であるビタミン C についてご紹介します。 構造・性状 アスコルビン酸はエンジオール基を含む平面的なラクトン環構造を持っています。エン ジオール基は容易に酸化され,デヒドロアスコルビン酸(酸化型)に変わり,還元作用に よって可逆的にアスコルビン酸(還元型)に戻ります。デヒドロアスコルビン酸は加水分 解 さ れ る と ラ ク ト ン 環 の 開 裂 が 起 こ り , 2,3-ジ ケ ト グ ロ ン 酸 に 変 化 し ま す が , そ こ か ら は 再 び デ ヒ ド ロ ア ス コ ル ビ ン 酸 に 戻 る こ と は あ り ま せ ん( 図 - 1)。 中 性 ,ア ル カ リ 性 条 件 下 ではこの加水分解が容易に起こるため,アスコルビン酸は分解されやすい不安定な物質と 言われています。しかし,ヒトの体内では酵素によってデヒドロアスコルビン酸がアスコ ル ビ ン 酸 に 還 元 さ れ る た め ,細 胞 や 血 液 中 の ア ス コ ル ビ ン 酸 は 95% 以 上 が 還 元 型 で 存 在 し て お り , 体 内 で の 半 減 期 は 16 日 と 長 い こ と が 知 ら れ て い ま す 1) 。 常温における性状は白色の結晶または結晶性の粉末で,においはなく酸味を呈します。 図-1 ア ス コ ル ビ ン 酸 か ら デ ヒ ド ロ ア ス コ ル ビ ン 酸 , 2,3-ジ ケ ト グ ロ ン 酸 の 生 成 生理作用 ア ス コ ル ビ ン 酸 と い う 常 用 名 は 抗 壊 血 病 効 果 を 有 す る 酸 ( anti scorbutic acid) が 由 来 と な っ て い る よ う に ,元 来 18 世 紀 か ら 始 ま っ た 壊 血 病 研 究 に お い て 発 見 さ れ た 抗 壊 血 病 因 子 で し た 。 そ の 後 20 世 紀 に 急 速 に 研 究 が 進 み , 現 在 で は 多 く の 知 見 が 得 ら れ て い ま す 。 Copyright (c) 2015 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved. JFRL ニュース編集委員会 東京都渋谷区元代々木町 52-1 ビタミン C について 2/4 ア ス コ ル ビ ン 酸 の 生 理 作 用 は ,補 酵 素 と し て の 作 用 と 抗 酸 化 作 用 の 2 つ が 挙 げ ら れ ま す 。 具体的にはコラーゲンの生成・保持,骨の分化,ホルモン代謝,発ガン物質であるニトロ ソアミンの生成抑制,血中コレステロール濃度低下,生体異物の解毒,鉄の腸管吸収の促 進,心臓血管疾患や糖尿病の予防などがあります。また,近年では抗疲労効果があるとい う報告もあります 2)。 こ れ ら の 多 様 な 作 用 に よ り 生 活 習 慣 病 や 風 邪 , そ の 他 の 疾 病 の 予 防 が期待されています。 供給源 アスコルビン酸を多く含む食品として新鮮な緑黄野菜や果実が挙げられ,特にピーマン, ほうれん草,ブロッコリー,レモン,みかん,アセロラ,柿,いちごなどに多く存在しま す。加熱による分解や水にさらすことによる流出で含量は低下し,ほうれん草やブロッコ リーでは茹でることでアスコルビン酸がほぼ半減してしまいます 3)。 ま た 他 の 水 溶 性 ビ タ ミンとは異なり,食品中では他の物質と結合せず,遊離型で存在しています。 過剰症 ヒ ト は 主 に 小 腸 か ら ア ス コ ル ビ ン 酸 を 吸 収 し ま す 。吸 収 率 は 200 mg/日 程 度 ま で は 約 90% , 1 g/日 以 上 に な る と 50% 以 下 と な り , 吸 収 さ れ な か っ た 分 は 尿 中 に 排 出 さ れ ま す 1) 。その た め 通 常 の 食 品 の 過 剰 摂 取 に よ る 健 康 障 害 が 発 生 し た と い う 報 告 は あ り ま せ ん 。し か し ,1 日に数 g といった大量のアスコルビン酸を摂取することで吐き気,下痢,腹痛などの消化 器 官 の 異 常 が 報 告 さ れ て い る こ と か ら ,サ プ リ メ ン ト に よ る 過 剰 摂 取 に は 注 意 が 必 要 で す 。 欠乏症 前述のとおり欠乏症は壊血病です。初期段階の症状は,脱力感,貧血,皮膚の乾燥,う つ状態,点状出血などであり,進行すると歯肉,皮下,粘膜からの出血が発生し,最終的 に消化管や尿管から出血して死に至ります。アスコルビン酸の発見まで,長年に渡り人類 を 悩 ま せ て い た 病 気 で し た が ,発 症 す る に は ア ス コ ル ビ ン 酸 を 全 く 含 ま な い 食 事 を 60~ 90 日も続ける必要があるため,現在の日本での発症例はほんのわずかとなっています。しか しながら,近年の糖尿病,腎疾患患者の増加により,食事コントロールを受けている患者 が知らず知らずのうちに欠乏症になる可能性が考えられます 1) 。 摂取量 成 人 で は , ア ス コ ル ビ ン 酸 を 1日 あ た り 6~ 12 mg 摂 取 し て い れ ば 壊 血 病 は 発 症 し な い と い う 報 告 が あ り ま す 4 ) 。 し か し 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 ( 2015年 版 ) で は , ア ス コ ル ビ ン 酸 の推奨量を壊血病の予防ではなく心臓血管系の疾病予防効果および抗酸化作用効果から算 定 し て い ま す 。83.4 mg/日 の 摂 取 量 を 成 人 の 推 定 平 均 必 要 量 と し ,推 奨 量 算 定 係 数 1.2を 乗 じ た 値 を 推 奨 量 と し ,小 児 は 各 年 代 の 平 均 体 重 と 成 長 因 子 か ら 年 代 別 に 計 算 し て い ま す( 表 - 1) 。 ま た , 妊 婦 , 授 乳 婦 に は 付 加 量 を , 乳 児 に は 目 安 量 を そ れ ぞ れ 設 定 し て い ま す が , 男女差は考慮されていません。 Copyright (c) 2015 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved. ビタミン C について 3/4 日 本 人 の 成 人 に お け る 食 品 か ら の ア ス コ ル ビ ン 酸 の 平 均 摂 取 量 は ,個 人 差 と 季 節( 野 菜 , 果物の旬)による変動がありますが,加熱調理損失分等を加味して総合的に考えると,お よ そ 60 mg/日 と 推 測 さ れ て お り , 推 奨 量 の 100 mg/日 に 対 し て 大 幅 に 不 足 し て い る と 考 え ら れ て い ま す 1)。 表-1 年齢等 ビ タ ミ ン C の 食 事 摂 取 基 準 ( mg/日 ) 推定平均必要量 推奨量 目安量 0~ 5 (月) - - 40 6~ 11 (月) - - 40 1~ 2 (歳) 30 35 - 3~ 5 (歳) 35 40 - 6~ 7 (歳) 45 55 - 8~ 9 (歳) 50 60 - 10~ 11 (歳) 60 75 - 12~ 14 (歳) 80 95 - 15~ 17 (歳) 85 100 - 18~ 29 (歳) 85 100 - 30~ 49 (歳) 85 100 - 50~ 69 (歳) 85 100 - 70 以 上 (歳) 85 100 - 妊婦 (付加量) +10 +10 - 授乳婦 (付加量) +40 +45 4) 厚 生 労 働 省 策 定 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 ( 2015 年 版 ) よ り 抜 粋 誘導体 アスコルビン酸には,その作用を効率よく発現させることを目的に多くの誘導体が開発 されています。アスコルビン酸誘導体は水溶性安定型誘導体と脂溶性誘導体の 2 つが中心 となっています 2) 。 水溶性安定型誘導体は,アスコルビン酸の不安定で壊れやすい性質を解消するために開 発 さ れ ,実 用 化 さ れ て い ま す 。主 な も の と し て ア ス コ ル ビ ン 酸 2-リ ン 酸 と ア ス コ ル ビ ン 酸 2-グ ル コ シ ド が 挙 げ ら れ ま す ( 図 - 2)。 こ の 2 つ の 誘 導 体 は ア ス コ ル ビ ン 酸 の 炭 素 2 位 に そ れ ぞ れ リ ン 酸 基 又 は α -グ ル コ ー ス が 結 合 し た 物 質 で ,酸 化 さ れ に く い た め 安 定 性 が 向 上 しています。体内で加水分解酵素によって結合が切断されて,初めてアスコルビン酸とし て の 効 力 が 発 揮 さ れ る よ う に な り ま す 。現 在 ,ア ス コ ル ビ ン 酸 2-リ ン 酸 は ア ス コ ル ビ ン 酸 2-リ ン 酸 エ ス テ ル ナ ト リ ウ ム カ ル シ ウ ム や ア ス コ ル ビ ン 酸 2-リ ン 酸 エ ス テ ル マ グ ネ シ ウ ム と い う 形 で 飼 料 や 化 粧 品 に 利 用 さ れ て お り ,ア ス コ ル ビ ン 酸 2-グ ル コ シ ド は 食 品 や 化 粧 品に利用されています。 Copyright (c) 2015 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved. ビタミン C について 4/4 脂溶性誘導体は,水溶性であるアスコルビン酸を油脂等に添加する目的で,また化粧品 における体内貯留性,吸収性の向上を目的に開発され,主なものとしてアスコルビン酸ス テ ア リ ン 酸 エ ス テ ル と ア ス コ ル ビ ン 酸 パ ル ミ チ ン 酸 エ ス テ ル が 挙 げ ら れ ま す ( 図 - 2)。 こ れらの誘導体はアスコルビン酸の炭素 6 位に脂肪酸が結合したもので,前述の水溶性安定 型誘導体と異なり還元作用を有します。そのため,食品添加物として油脂,バター,アイ スクリームなどの酸化防止の目的に主に利用されています。 誘導体名 ア ス コ ル ビ ン 酸 2-リ ン 酸 ア ス コ ル ビ ン 酸 2-グ ル コ シ ド R1 R2 H 2 PO 3 H C6H11O5 H ( α -グ ル コ ー ス ) アスコルビン酸パルミチン酸エステル H CH 3 (CH 2 ) 1 4 CO アスコルビン酸ステアリン酸エステル H CH 3 (CH 2 ) 1 6 CO 図-2 アスコルビン酸の基本構造と主な誘導体 おわりに アスコルビン酸は酸性で比較的安定であり,定量操作を行う際にはメタリン酸溶液を用 いて抽出します。定量法には,アスコルビン酸の還元作用を利用した滴定法やヒドラジン を用いた比色法などがありますが,現在では分析の感度,選択性,簡便性から高速液体ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー ( HPLC) を 用 い る 方 法 が 一 般 的 に な っ て い ま す 。 弊財団での食品・飼料中のアスコルビン酸の定量は,アスコルビン酸をインドフェノー ル で 酸 化 型 と し ,ヒ ド ラ ジ ン を 加 え て 生 成 し た カ ル ボ ニ ル 誘 導 体( オ サ ゾ ン )を HPLC で 分 析 す る 方 法 を 用 い て い ま す( 分 析 項 目 名 :総 ア ス コ ル ビ ン 酸 )。飲 料 等 で は 酸 化 型 ,還 元 型 の分別定量も可能です。また,図-2 に示した誘導体の分析も行っています。 参考資料 1) 日 本 ビ タ ミ ン 学 会 : ビ タ ミ ン 総 合 辞 典 , 朝 倉 書 店 ( 2010) 2) 糸 川 嘉 則 : ビ タ ミ ン の 科 学 と 最 新 応 用 技 術 , シ ー エ ム シ ー 出 版 ( 2011) 3) 文 部 科 学 省 : 日 本 食 品 標 準 成 分 表 2010 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/houkoku/1298713.htm 4) 厚 生 労 働 省 : 日 本 人 の 食 事 摂 取 基 準 ( 2015 年 版 ) http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000041824.html Copyright (c) 2015 Japan Food Research Laboratories. 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