わかりやすい悪性腫瘍の話 喉頭がん 喉頭がんの治療

わかりやすい悪性腫瘍の話 喉頭がん
2015.8.4
喉頭がんの治療
喉頭がんの治療では、がんを治すことに加えて、最近では声を出す機能を温存したり、咀嚼
や嚥下機能の低下が少ないことが重視されるようになっています。
早期の小さい声門がんと声門上がんには、喉頭の機能を維持することを考えて、まず放射線
治療が選ばれます。進行がんでは、手術が選択されることが多いですが、喉頭温存を目的に
放射線治療を単独で、または、抗がん剤治療を併用した化学放射線療法が選ばれることもあ
ります。がんが残存、または再発したときには、手術が行われます。日本放射線腫瘍学会の
ホームページでは、「Ⅰ期の声門がん(もっとも早期)は 9 割程度の確率で治すことができ、
Ⅱ期でも放射線治療で 7~8 割は治ると紹介されています。Ⅲ~Ⅳ期の場合は、放射線治療で
治癒する割合が低くなるので、手術が行われる場合が多いのですが、まずはじめは、しばら
く放射線治療を続けてみて、効き具合を見てから手術するかどうか決めることもあります。
また、放射線治療で声帯を残せる場合であっても、首にできたリンパ節転移は手術で取り除
くのが原則です。
」と書かれています。
<国立がん研究センター~がんの冊子
喉頭がん~>
臨床病期
Ⅰ期
Ⅲ期
Ⅱ期
Ⅳ期
放射線治療
放射線治療
手術
(+化学療法)
(+化学療法)
(全摘手術、部分切除*)
手術
手術
(+化学療法、+術後補助療法)
(部分切除*)
(部分切除
放射線治療+化学療法
(+頸部郭清術)
術 s 術術術
全摘手術*)
(+手術(全摘手術、部分切除*)
)
(+頸部郭清術)
(+頸部郭清術)
(+術後補助療法)
(+術後補助療法)
*喉頭微細手術(レーザー手術)、喉頭垂直/水平部分切除などを含む
1. 放射線治療
放射線治療は、腫瘍に放射線を当てて、がん細胞の分裂を抑えることで腫瘍を縮小、消失さ
せる目的で行われます。
また、手術単独では治療が難しい場合に放射線治療が加えられることがあります。
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さらに、抗がん剤による治療が追加されることもあります。
放射線治療では、病巣周辺の正常組織の被ばくが問題になりますが、最近は、画像診断の
進歩とコンピュータを用いた治療計画の発達によって、腫瘍にだけ放射線を集中して当て
る技術が飛躍的に進歩してきています。
頭頸科(耳鼻咽喉科)医、放射線治療医による診察を行い、原発巣に関しては、間接喉頭鏡
や、内視鏡などを用いて腫瘍の範囲を特定し、CT や MRI の画像とあわせて治療計画に反
映します。実際にどの範囲に放射線治療を行うのか
のシミュレーションを行いますが、治療計画のとき
に、首や顔が動かないようにシェルと呼ばれる
お面のようなものを作ります。このお面は熱を
加えると柔らかくなり、冷却すると固くなる素材
でできていますので、患者さんが CT の台にリラッ
クスした状態で仰向けに寝て、このシェルを柔ら
かい状態で顔面に当てて型を取ります。
図 1 日本頭頸部癌学会ホームページより
やけどになる程の熱ではありません。5~10 分すると、この素材は冷えて硬くなっていきお
面が完成します。
このようにして、首や顔の位置を固定するため、放射線を照射するときに当たる部位がずれ
てしまう危険を最小限にします。また、身体へもマーキングを行い、体幹部もずれない工夫
をします。
治療台に乗り、照射範囲を実際の治療に用いる放射線を使った写真で確認します。
治療計画のコンピューター画像と照合し、ずれている場合は、修正して治療を始めます。
患者さんは、治療台の上に乗り、シェルを装着してじっとしていれば治療は完了します。
患者さんが寝台に横になり、位置がずれないようにレーザービームで、縦、横、高さの位置
を毎回確認し、治療中の誤差を最小限にします。
頭頸部の治療ガイドラインでは、60~70 グレイを 30~35 回、6~7 週にわたって照射する
と記載されています。
<放射線治療の副作用について>
副作用は、治療した部位に起こることがほとんどで、治療している期間や終了してすぐの
ころに起こります。まれに終了して数か月~数年経ってから起こることがあります。
副作用(有害事象)としては、主に以下のものがあります。腫瘍が神経等重要な臓器に近
接している場合に、以前はこれらの有害事象を避けることが困難でしたが、強度変調放射
線治療や粒子線治療などの最新技術を用いれば、これらの副作用を回避することが可能に
なってきています。
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1) 粘膜・皮膚の炎症
治療期間中は、放射線が照射された部分の皮膚や粘膜に炎症に伴う「ただれ」
「疼痛」
がありますが、放射線の当たっていない部分の皮膚には炎症が起こりません。
この炎症反応は、抗がん剤による化学療法が併用される場合などでは強くなることが
あり、治療前~治療後にかけての栄養管理や疼痛管理が重要です。
皮膚炎は、治療期間中の副作用なので、適切に処置すれば回復しますが、色素沈着な
ど照射痕が残ることもあります。
他には、放射線による被ばくの問題もあります。もちろん深刻な影響は起こらないレ
ベルでの照射ですが、同じ部位に何度も放射線療法を行うことはできません。そのた
め、治療後に再発、転移した場合は、手術が選択されることになります。
2) 唾液分泌障害
大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)、小唾液腺(口腔咽頭粘膜に存在)が照射され
た場合に生じます。どのステージでどの範囲にどのくらい照射されたかによりますが、
一般的にⅠ期、Ⅱ期の喉頭がんの場合にはそれほど心配がありません。唾液が出ない
とむし歯が悪化し、骨髄炎にや骨壊死になる場合もあります。口腔内を清潔に保ち、
適切な感染予防とケアを行えば骨壊死は確実に予防できます。
3)味覚障害
舌に放射線が照射された場合に生じます。照射範囲が狭ければ、半年~1 年後に味覚
はほぼ回復しますが、範囲が広いと長年にわたり味覚低下が持続することがあります。
3) 嚥下困難、誤嚥
個人差があります。手術と併用した場合に強く出る傾向があります。治療前後の喫煙
は酒は、症状を悪化させる原因になります。
2.手術療法について
手術は喉頭部分切除と、喉頭全摘出に分けられます。
一般に前者は、早期がんが、後者は進行がんが対象
になります。小さな早期がんにはレーザー手術が行
われることもあります。
喉頭部分切除は、発声機能を保つには有用です。
<喉頭部分切除術>
図 2 日本頭頸部癌学会ホームページより
初期の喉頭がんでは、発声機能を残すため、喉頭部分切除が行われることがあります。
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腫瘍の大きさや部位によってさまざまな術式が選択されます。代表的な術式は「喉頭垂直
部分切除術」というものです。のど仏の軟骨(甲状軟骨)の中に声帯がありますが、その
軟骨を切り開き、声帯とその周囲の組織を切除します。(図 2)両端矢印が切除範囲、*
は腫瘍です。切除された部分には、皮膚や筋肉などが置換されることがあります。
<喉頭全摘術>
頸部の切開を行い、喉頭を摘出します。(図 3)喉頭は咽頭の前方
に位置するため、喉
頭を摘出すると咽頭の前壁に穴が開いたようになります。
(図 4)それを縫合して閉じ、
食事の通り道を作ります。
(図 5)
図3
図4
図5
白矢印が呼吸の通り道、黒矢印が食事の通り道となります。喉頭を摘出すると失声状態(身
体障害者 3 級認定)術後は気道と食道が分離されます。
左右の鎖骨の間近くに気管孔が開いています。気道と食道はそれぞれ独立した別々の管と
なるため、鼻や口を空気が通らなくなるため、鼻をかんだり、
匂いを嗅いだりすることはできなくなります。気管孔があるた
め、入浴は胸までなど日常生活に不自由が生じます。声を出す
ためには、食道発声法や、人工喉頭の使用、気管食道瘻形成術
などを行います。
図6
参考:日本頭頸部癌学会ホームページ、日本放射線腫瘍学会ホームページ、
国立がん研究センターがん対策情報センターの冊子『喉頭がん』
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