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ミスターエフピー東灘オフィス
∼プランニング業こそFP業務の王道∼
独立FPの収入源は、プランニング業務の対価と
して得る報酬や手数料と、講師業や原稿料などの
付随的な業務から得る報酬とに大別されるが、前
者のみで生計を立てている者はほんの一握りとい
ったところが実情ではないだろうか。本稿では、
純粋なFP業にこだわりを持ち続け、開業4年目に
して一定の成功を収めている大西啓介氏に、その
想いとFP業務の要諦を聞いた。
▲第2オフィス(FP相談室)
事務所データ
事 務 所 名:ミスターエフピー東灘オフィス
所 在 地:(第1オフィス)兵庫県神戸市東灘区岡本2―5―9 リモージュ岡本308
(第2オフィス)兵庫県神戸市中央区北長狭通り5―2―19 コフィオ神戸元町101
U R L:http://www.fp-kobe.com
代 表 者:大西啓介(CFP、DCアドバイザー、やすらぎ福祉コンシェルジュ)
設 立:2004年6月
手数料体系:〔図表〕参照
年 商:1400万円
業 務 内 容:FPコンサルティング業務(①生活設計・老後設計、②保険活用、③金融資産運用、④不動産活用、
⑤年金相談、⑥相続・事業承継)
五十にして“FP”を知る
課せられ、とにかく靴底を減らす毎日でした」。
銀行どうしの合併、急速な業績拡大、バブル崩
独立FP事務所開業から4年目にして、年間受
壊に伴う貸出債権の不良債権化、経営破綻と激
託件数60余り、年商1400万円。成功を収めてい
動の真っ只中を過ごしたが、米国発祥のFPが日
るといって差し支えない実績といえるだろう。
本に本格的に導入されたのは1980年代後半と、
しかし、これまでの道程は決して平坦なもので
もう少し先のことであり、行員時代にはまだFP
はなかった。
と出会っていない。
「自分の看板を掲げる仕事を興してみたい」と
1986年には、大手外食産業関係会社に活躍の
初めて独立を志したのは地元大学に通った学生
場を移した。既存店舗の改装、新規店舗の出店
時代にさかのぼる。しかし、1975年に大学を卒
など、地域動向・店舗分析を通じて利益体質を
業した後入行した地元銀行において、その漠然
向上させる店舗戦略を立案し、経営者へ提案す
とした独立志向の意識は徐々に薄れていった。
ることを主とする営業推進業務に従事。
「この間
「預金量、貸出量を拡大せよとの大号令のもと、
の店舗開発で身に付けた『分析・戦略・提案』
個人預金とローン獲得に非常に厳しいノルマが
スキルが、現在のコンサルティング業務の大き
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な強みになっている」という。
2001年、節目の50歳を迎えたときに、1つの
転機が訪れた。直接的な要因は両親の介護であ
った。
「介護をしていくうちに肉体的な大変さを
実感し、精神的にも大きな負担を感じました。
さらに、介護には、年金保険、医療保険、介護
保険などの周辺知識が必要となります。そこで、
身近なアドバイザーの存在の必要性を痛感し、
また同様な悩みを抱えている人が多くいること
も知りました。そのようなことから、私自身で
何か役に立てることはないのか、何らかの形で
社会に貢献できないものかとの思いが募り、FP
資格取得に至ったわけです」。
▲大西啓介氏
「自分」を知ってもらう
大西氏は、
「顧客に対する相談やプランニング
“FP”という存在を知ったのは、
「何気ない妻
の提供の対価として報酬を得る業務が、FP業務
の一言」であったという。
「地域密着型のサービ
の王道」と断言する。
「私自身で何か役に立てる
スを提供したいという思いは日増しに強くなっ
ことはないのか」との開業当初の思いを実現す
てきましたが、恥ずかしながら“FP”の存在は
ることがFPのあるべき姿ということだ。実際、
まったく知りませんでした。ある日、妻が見つ
年商1400万円のほとんどをコンサルティングフ
けた大手予備校のFP資格取得講座の案内から、
ィーが占めている。
『これだ』と即決し、すぐに申込みの手続きをし
ました」。
20∼30歳代の者に囲まれ、50歳を迎えた氏が
では、いったいどのように年間60件余りの顧
客を獲得しているのか気になるところだ。
「開業
当初、ビラ配りや地元新聞への広告の掲載など、
必死の形相で資格取得に取り組むさまは、他の
営業の原点ともいうべき手法をいくつか試して
者を圧倒する凄みがあったことだろう。
「快く背
みました。しかし、現在は費用対効果の点でこ
中を後押ししてくれた妻の助力」もあり、2004
れらの宣伝活動はほとんど行っていません」
。一
年6月、晴れて「ミスターエフピー東灘オフィ
見すると、数万部を発行している地元新聞への
ス」の開設にこぎつけた。
広告の掲載などは、マス層への一定の宣伝効果
大西氏は、銀行員時代に金融業務経験はある
が見込めると思われるが、大西氏はその効果を
ものの、50歳当時はFP業務に必要なさまざまな
きっぱりと否定する。実際、30万円を超す費用
分野に関してほぼ初見であった。そこから一念
をかけ広告を打っても、照会件数は1件あるか
発起してFP資格を取得し、FP事務所を開設した
どうかだったとか。
うえで経営を軌道に乗せることに成功した。
「五
「FP業務は、詰まるところ、『私(FP)』とい
十にして天命を知る、とは大げさですが、学生
う商品に価値を見いだして、購入してもらうこ
時代、漠然と思い描いていた理想像が、50歳を
とで成立します。ですので、非対面の宣伝には、
迎えてようやく結実した感があります。だいぶ
たいした効果は望めません」
。
遠回りをしたような気もいたしますが」と苦笑
そこで、氏が精力的に取り組んでいるのがセ
いする氏は、開業5年目をさらなる飛躍の年と
ミナーでの講演活動。自分という商品を知って
位置づける。
もらう一手段と割り切り、公民館での年金セミ
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〔図表〕手数料体系
コース
人顧客を相手にするからには開業当初3年間は
内 容
価 格
生涯生活設計プランを
ライフ・リタ 作成し、顧客の夢・希望
イヤメントプ を達成すべく、マネープ
7万3
5
0
0円∼
ラン(年間顧 ランを中心に資産運用、
*コンサルティングの負
問)
保険の見直し、住宅ロー
荷によって変動あり
< 生 活 設 計、 ンの選択、貯蓄のあり方
老後設計>
等、年間を通じて総合的
サービスを提供
資産運用設計
生命保険の見直し
個別テーマ相
相続
談コース
不動産
面談相談のみ
3万1
5
0
0円∼
2万1
0
0
0円
要相談
要相談
住宅ローン関係
3万1
5
0
0円∼
面談相談
1万5
0
0円/時間
やすらぎ福祉 多方面からのアドバイ 5万2
5
0
0円∼
コース
スを提供
*内容に応じて変動あり
我慢のときと妻にも言い聞かせていました。も
ちろん焦りは募りましたが」
実際、開業当初は、年間受託件数10件、年商
は200万円にも届かず、前職に比べ、大幅な収入
減となり、蓄えを取り崩す日々。それでも、当
初3年間は事業基盤を固める時期と割り切り、
ネットワークの構築と自分の商品価値を高める
(自己研鑽)ことに多くの時間を費やした。
相当な覚悟を持ったうえで、さらに求められ
るものとして、
「対人営業力」を挙げた。
「FPに
は、広範囲な知識や実行力もさることながら、
ナー、婦人会での資産運用セミナーなど、交通
質問力や聞取り力など、コミュニケーション能
費等の実費程度の報酬であっても数多くこなす。
力が不可欠です。私は幸いにも前職時代、多く
また、社会保険労務士、税理士、行政書士など
の経営者と相対する機会を得られ、当時培った
と協働し、毎月第1日曜日には無料相談会も開
経験が今活かされていると思います」
催している。
さらに、
「他力本願にもなりますが、顧客獲得
は知人、友人の力によるところが非常に大きい」
演出家兼脚本家
大西氏がプランニングの対象とするのは、①
という。開業当初は特に地元銀行、大手外食産
生活設計・老後設計、②保険活用、③金融資産
業関係会社での元同僚に助けられた。FPは、そ
運用、④不動産活用、⑤年金相談、⑥相続・事
の業務遂行上、専門家との協働が不可欠であり、
業承継の6つに大別される。
各種専門家とネットワークを構築し、いつでも
ただし、
「金融商品の損得や一過性の税金の軽
相談・協働できる体制を保つことが必須である
減などを論じることが本質ではなく、顧客のラ
ことはよくいわれるが、氏は顧客獲得段階での
イフデザインに沿ったシナリオを描くことがFP
重要性を力説する。
「自分という商品を売り込む
業務の王道」という。つまり、上記②から⑥ま
対象は顧客ばかりではありません。各種専門家
での各論の解決のみに固執するのではなく、最
や同業者に自分の有用性を知ってもらうことで、
適なライフプラン(上記①)を提供することに
驚くところから仕事が舞い込んでくることがあ
FPの存在意義があるということだ。「生意気か
るのです」
。氏が交流する相手は同県にとどまら
もしれませんが、顧客と理想の人生を語り合う
ず、各種セミナーや懇親会には、労を惜しまず
ことがFP業務のやりがいだと思います」。
参加している。
石の上にも3年
また、適宜各種専門家と協働しながらプラン
ニングを設計していくことになるが、「FPはい
わば演出家兼脚本家です。衣装や照明、設営な
独立に求められるものを聞くと、「相当の覚
どは各種専門家に任せますが、最高の舞台を実
悟」と「不退転の決意」という意外な答えが返
現するにはイニシアチブを常にFPが持つべきで
ってきた。
「資格取得後すぐに軌道に乗るほど甘
す」と持論を語る。
いものではないと覚悟していましたし、特に個
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さらに、氏は社団法人企業福祉・共済総合研
究所が認定する「やすらぎ福祉コンシェルジュ」
の資格も有し、遺言書には書ききれない思いを
したためる「エンディングノート」の普及活動
とともに、老後における医療、介護、後見人な
どの相談を通じて、高齢者が豊かな人生をまっ
とうするための支援を行っている。
プランニングの流れと手数料体系
プランニングに係る手数料体系は〔図表〕の
とおりである。
基本的なプランニングの流れは、まず1時間
▲相談者で溢れる日はくるか
舗。白を基調とした清潔感のある相談スペース
程度の初回面談から始まる。初回面談は無料で、
は、相談者と専門家といった垣根を感じさせず、
顧客の抱える問題点を双方で認識するとともに、
若者から高齢者まで、気軽に訪れて茶飲み話に
今後の提案内容等の方向性を固めることが主眼
花を咲かせることも許されるようなゆったりと
となる。また、料金体系についての説明をし、
した空間となっている。
理解を得る。この時点で双方の理解が得られな
「日本にはサービスに対してフィーを支払うこ
い場合に加え、1時間程度の打合せで解決して
とに抵抗を感じる人がまだまだ多くいることは
しまい無報酬ということもしばしばだ。1回目
否定できません。しかし、資産運用や保険の見
の面談終了時には、顧客に「質問シート」を手
直し、住宅ローンの選択など、さまざまなライ
渡し、次回面談時までにわかる範囲で記入をお
フシーンで、氾濫する情報の中から有益なもの
願いする。通常、次回面談は約1∼2週間後に
を取捨選択する判断を迫られる場面が増えてい
設定する。
ることも事実です。このオフィスをゆくゆくは
2回目の面談では、顧客に持参してもらう
『街のかかり医』のように、ライフプラン上の悩
「質問シート」をベースに、今後のプランニング
みを持った人が気軽に来店して安心を得て笑顔
の細部にわたる内容についての打合せが主とな
で帰っていただく場として定着させたいのです」
る。また、通常はこの段階で顧問契約あるいは
FPのあるべき姿を純粋なプランニング業務の
単独相談契約を締結することになる。
さらに1∼2週間後の3回目の面談では、具
体的なプランニング書類を提供。その後、数回
みで生計を立てることに投影する氏の活動は、
今後の独立系FPの趨勢を占う試金石となりうる
かもしれない。
(本誌:梅原康貴)
の面談を重ね、一般的には1案件に2∼3か月
の期間を要することになる。
第2オフィスの開設
―1階来店型店舗に込めた思い
2007年2月、JR元町駅から徒歩3分の閑静な
場所にミスターエフピー東灘オフィスの第2オ
フィス(FP相談室)を開設した。同オフィスは、
コンサルティング業界では珍しい1階来店型店
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