運動制御解析にむけた 次元視線計測システム

運動制御解析にむけた 次元視線計測システム
電気通信大学大学院 情報システム学研究科 ○遠藤さやか,阪口豊
A 3D Gaze-Point Measurement System Designed for Analyzing Human Motor Control
○Sayaka Endo and Yutaka Sakaguchi
Graduate School of Information Systems, The University of Electro-Communications
Abstract: As a tool to examine the role of gaze direction in human motor control, the authors built a measurement
system which could estimate 3D gaze positions in a real-time manner, without restricting subjects’ head movements.
The present report describes its structure and measurement/calibration algorithms, and shows some results of numerical
simulation for estimating the expected error of the proposed system.
はじめに
IR Markers for
Optotrak System
人間が身体を動かす際に視覚を通じて必要な情報を
獲得していることは疑う余地がない.しかし,脳が視
Eye Link
System
覚を通じていかなる情報を獲得しているのか,また,
その情報をいかにして運動指令に反映させているのか
は必ずしも明らかではない.
本研究では,人の運動制御,特に手の運動における
Optotrak System
視覚の役割を明らかにすることを目的として,被験者
の頭の動きを制約せずに 次元空間内での注視位置を
Fig. 1
System Setup
リアルタイムに計測できるシステムを構築した.
本稿では,この 次元視線計測システムの構成と計
3
3次元注視位置の推定方法
測,較正アルゴリズムを説明し,数値実験による性能
注視位置の推定アルゴリズム
評価の結果を紹介する.
以下では,'# に示した設定の下で,計測データか
ら 次元空間内の注視位置を求める方法を述べる.
システムの構成
本システムは,頭中心座標系における眼球の向きを
測定する眼球運動測定装置 社
と,外界
座標系における頭の位置と向きを測定する位置計測装
置
社,および,これ
目の回転中心を e,視線計測系の座標系を与える基ベ
クトルを(bx, by, bz)(x, y, z はそれぞれ水平,垂直,奥行
方向を表す)
,視線計測装置の出力を M = (Mx, My, Mz)
(Mz は定数)と表すと,注視点 P は,
らの制御とデータ収集のための 台から構成されて
P = eR + tR BR MR
(1a)
いる.前者は赤外線カメラにより眼球を撮影し画像処
P = eL + tL BL ML
(1b)
理により眼球位置を求めるもので,両眼の向きをサン
と表せる.なお,L, R は左右の目を表す記号,t は媒介
プリング周波数 !",分解能 #$ 度で計測できる.
変数,B は三つの基ベクトルを並べてできる行列である.
一方,後者は,赤外線マーカの 次元位置を最 大
$!" の周波数で,分解能 #$%%& 精度 #$%%
で計測できる(上記性能はいずれもカタログ値)
.ここ
では,被験者の頭部に接着した三つのマーカの位置を
Gaze Point p
(MxL, MyL)
IR Markers for
OptoTrak System
系における視線の向きを求めたのち,両眼の視線の交
点から 次元空間内での注視点を求める'#$.
Eyelink Coordinates
bxR
bzR
eL
Head
B = [bx, by, bz]
(MxR, MyR)
z
y
eR
x
External Coordinates
なお,行動実験を行なう際は,手や目標物の位置を
同時に計測し,注視点との関係を分析することになる.
byR
bzL
位置計測装置で計測して頭の位置と向きを求め,それ
をもとに視線計測装置の出力を座標変換して外界座標
byL
Fig. 2
Schematic Configuration
したがって,目の回転中心 e と視線座標系の基ベクト
Table. 1
ル B がわかっていれば,二つの式を連立することによ
り媒介変数 t を定め,P を求めることができる(実際の
(a)
計測では,計測誤差の影響により両眼の視線はねじれ
(b)
の位置にくると考えられるため,二つの視線の共通垂
線の中点をもって P の推定値とする)
.
しかし,e と B は頭の運動により変化するため,頭部
の並進移動量および回転移動量を用いて,(1)式を書き
換える必要がある.ここでは,基準姿勢からの回転移
動を表す行列Θ と並進移動を表すベクトル T を用いて,
注視点の位置ベクトル P を以下のように表すことにし
た(回転移動の中心を外界座標系の原点とした)
.
P =Θ (e0 + T ) + t Θ B0 M
(2)
Error Estimation (unit: mm)
Gaze Error
0.2 deg
0.4 deg
0.1 deg
0.2 deg
x
17
31
25
46
y
58
114
42
133
z
23
38
21
60
abs
70
131
57
172
4. 数値実験
実際の計測に先立ち,実験条件に類似した状況で数
値実験を行ない,どの程度の精度で注視点位置を推定
できるかを評価した.
まず,キャリブレーションが完全である条件下で計
算した平均誤差の例を Table. 1 (a) に示す.表の各列は,
3 軸それぞれの方向の誤差と絶対誤差を示している.こ
ここで,e0, B0 はそれぞれ,基準姿勢における目の回転
こでは,被験者の前方 1m を中心とする一辺 1m の立方
中心と視線座標系の基ベクトルである(これらは次節
体領域内にランダムに注視目標が出現すると仮定して,
で述べるキャリブレーションにより推定する)
.Θ と T
1000 点の注視点を計測した条件での結果を示した.装
は,頭部に装着した三つのマーカの位置から容易に求
置の仕様を考慮して,位置計測装置の出力には 3 軸そ
めることができるので,それらを用いれば両眼に対し
れぞれに標準偏差 0.2mm の正規雑音が,眼球運動計測
てそれぞれ(2)式が得られる.そこで,それらを連立す
装置の出力には標準偏差 0.2 度または 0.4 度の正規雑音
ることにより注視位置を推定する.
が加わるものと仮定した.また,頭部の運動は,3 軸そ
れぞれ最大 50mm の範囲で並進移動,3 軸周りに最大 10
3.2 キャリブレーション
度の範囲の回転移動をランダムに与えた.
キャリブレーション作業においては,まず,眼球運
表からわかるように,注視点の絶対精度は 100mm 程
動測定装置単独でキャリブレーション操作を行ない,
度であることがわかる.また,種々の条件での実験結
相対的な視線方向が正しく出力されるようにする.
果から,奥行方向の推定誤差が大きくなりやすいこと,
次に,四つの参照点を設け,これらを注視したとき
眼球運動計測の出力誤差が推定精度に大きく影響を及
の眼球計測装置の出力,頭部ユニットのマーカ位置を
ぼすことがわかった.
記録する.また,参照点そのものにもマーカを設置し,
また,キャリブレーションアルゴリズムの性能を評
外界座標系における参照点位置も同時に計測する.
価するため,雑音の大きさが上記の半分で頭部運動が
このとき,参照点と眼球計測装置の出力のあいだに
ない条件で(キャリブレーション中の誤差は小さく抑
は,(2)式の関係が成立する.四つの参照点を注視した
えられるため)
,眼球回転中心位置の推定誤差を調べた
ときの頭部の運動は,前節と同様に頭部マーカの位置
(Table 1(b))
.この過程で,計測誤差が反復アルゴリズ
情報に基づいて計算できることから,それらを用いて
ムの収束性に悪影響を及ぼし,結果として推定精度が
注視位置 P に変換を加えることにより,
落ちることが明らかになった.したがって,参照点の
Q = Θ TP – T = e0 + t B0 M
(3)
数を増やすなどして,キャリブレーションの対雑音性
を向上させることが今後の課題として挙げられる.
という形の式が 4 本得らえる.
これらの式を連立して e0 を消去した上で,B0 が直交
4
行列であることを利用して反復解法を用いると,四つ
運動制御における視覚の役割を調べる道具として,
の参照点に対する t をそれぞれ求めることができる.こ
被験者の頭の動きを制約せずに,3 次元空間内の注視位
.
うして得られた t の値を用いて,B0 と e0 を推定できる.
置をリアルタイムに推定できる計測システムを構築し
同じことを左右の眼に適用することにより,基本姿勢
た.本稿では実際の測定データを示すことができなか
における両眼の e0 と B0 をそれぞれ定めることができる.
ったが,数値実験で示した程度の性能は達成できるも
むすび
のを思われる.