実習レポート 国立台湾大学産婦人科 医学部医学科5年次 M.F(Female) 実習の目的 台湾は日本より南方に位置する国であり、日本統治時代の影響の色濃く残る国である。そ の一方で、台湾固有の文化も混ざって独自の文化が育っている。この台湾という国で実習 を行うことにより、日本と台湾の医療の違いや共通点を見出し、豊かな視野を得ることに つながると考える。また、産婦人科は非常に奥深い分野であり、六回生のポリクリに加え て4週間実習してもまだまだ学ぶことの多い科であると考えるので、ぜひこの機会に実習 したいと考えた。さらには台湾の医学生と交流する中で、医師やコメディカル、医学生の 在り方についても学び、英語力の向上も目指したいと考えている。 実習内容 ・カンファレンス 月、水、金の昼 13:00 から ・クルズス 分娩の介助方法、婦人科手術における侵襲の低減について、産科における麻酔、産婦人科 における画像診断、産褥出血、水中でのお産方法について、羊水穿刺、産科手術について、 子宮頸癌ワクチン、婦人科腹腔鏡手術、 ・正常出産見学 ・正常出産分娩介助経験 ・検査 産科エコー検査見学 ・手術見学 癒着胎盤における帝王切開、双胎妊娠における帝王切開、感染における帝王切開、子宮内 膜症・チョコレート嚢胞における子宮・卵巣摘出術 ・手術参加 双胎妊娠における帝王切開 ・外来見学 婦人科、産科 ・手技経験 妊婦健診における触診、エコー検査、GBS 検査、骨盤内検査 ・生殖補助医療見学 ET、IVF、IUI 成果 ●産婦人科実習として 実習内容にある通り、産科、婦人科、生殖補助医療分野それぞれにわたって、クルズス・ レクチャーを通して知識を深めた。分娩や手術では見学だけでなく実際に手洗いで参加し て経験させていただいた。さらに外来見学では、妊婦健診でのエコー検査・触知検査、骨 盤内検査など多岐にわたって実際に経験させていただき、非常に良い経験となった。カン ファレンスでは珍しい症例などについての議論や論文抄読の様子などを見学した。 ●台湾の医療について学んだこと 全般 ・日本の方式を取り入れているところが非常に多く、全体的に日本と似ていた。器具も日 本から輸入していたり、処置の手順も日本の病院から学び入れたものが多かった。 ・病院は旧棟、新棟、母子棟にわかれており、旧棟は日本統制時代に建てられたものを未 だ使っていた。建物の雰囲気は、日本の病院と似ている。母子棟は小さい子供を意識して、 可愛らしい装飾や動物の写真などが多く取り入れられていた。 ・カルテは英語で書かれていた。これは英語に慣れるためではなく、医療英語を中国語に 翻訳するシステムが整備されていないから、ということである。医療英語を中国語に翻訳 したとき、統一した翻訳語がなく、意思疎通に困るため、英語のままで使う、と教わった。 その結果、医療英語には親しむことができるが、カルテを書くのに苦労する、と不満を持 っているようであった。カルテは英語で書くがみんな文法は滅茶苦茶だ、と言っている生 徒もいた。確かに、患者には読めないし、コメディカルスタッフが読むのも苦労を伴うだ ろうと思う。患者の訴えを患者の言葉通りに書くなどはできない。カルテを英語で書くか 中国語で書くかは常に議論されているということであった。カルテシステムは電子カルテ 化されているが、場合に応じて紙カルテも使っていた。自由に携帯電話を使っている印象 であった。先生が患者との写真を Facebook にアップしたりしていて、個人情報管理も緩い のか、日本では考えられないくらい自由であった。 外来 ・日本と似た雰囲気で行われる。カルテは紙カルテにペンで書き込んでいくが、毎回スキ ャンされて取り込まれるようで、過去のカルテはパソコンで参照していた。また、検査結 果などは全てパソコンで確認していた。外来診察室の奥に通路はなかった。医師と患者の コミュニケーションも日本と概ね同じであった。 手術 ・手術室も、日本とかなり似た雰囲気である。手洗いの仕方は、まずブラシを使って手を しっかり洗い、二度目は洗い流さずに石鹸のついたまま手術室に入る。そして清潔なタオ ルで手を拭き、清潔ガウンを着て清潔手袋をつける。清潔ガウンは使い捨てでない布製で あり、手術室着と清潔ガウンと普通の布と清潔な布が全て同じ緑色の布であるため、非常 にややこしいと感じた。 ・産婦人科全体カンファレンスは月水金の昼にあった。プレゼンターは、主に PGY が行う ようであり、主な患者について発表し、議論していた。 学生実習 ・医学生は、7 年生まで。一回生で一般教養があり、四回生までは座学、五六回生でクラー クシップがあり、七年生ではインターンを行う。卒後 1 年は PGY(post graduated y)と呼ば れ、研修医的な身分である。七年生のインターンは給料をもらい医師のように働くが、処 方などはできない。制度が変わるそうで、数年後には日本のように六年制+卒後研修二年 になるそうである。私は留学生として6回生、7回生、PGY のいずれのクルズスにも参加 したが、6回生の実習の雰囲気は日本の臨床実習とほぼ同じであり、クルズスがあったり、 カルテを取る練習をしたりして、先生のハンコを集めていた。実習態度も日本と同じよう な感じで、真面目な学生もいれば不真面目な学生もいた。日本より時間にルーズで、クル ズスに遅れてくる生徒が多く、また朝一番のクルズスには朝食を持ってくる生徒が少なか らず居たのは文化の違いだと感じた。また、携帯電話が使用禁止でないため、クルズス中 にいじる生徒や、かかってきた電話をクルズス中に取る生徒も何度かみかけた。7回生、 PGY は6回生と比べると比較的真面目に実習を行っていた。試験はあるらしいが、日本の 国試のような関門ではないため、比較的ゆったりしており、気を抜きすぎている学生もい る、という話であった。 ・前述の通り、翻訳システムが乏しく、医学書の中国語訳も整備されていないため、医学 生は英語の教科書や参考書を使っているということであった。学習には苦労を伴うが、講 義ノートを取る役割分担や試験対策委員、過去問研究など、日本の医学生と似たような方 法をさらに発達させて乗り切っているようであった。日本のようなイラストや写真の多い 簡単教科書の類がないため、非常に羨ましそうであった。 ・台湾だけでなく中華圏全体に言えることかもしれないが、英語圏への志向が高く、英語 圏への留学生も非常に多い。国立台湾大学に来ている留学生の中には、もともと中華圏の 血筋だが両親とともに、あるいは一人で英語圏に住んで英語圏の大学へ通っており、臨床 実習を利用して台湾へ留学しに来ている生徒が少なからず居た。国立台湾大学の学生も留 学志向が強く、学年の半数は六年生時に臨床実習留学へ行くそうである。その中には日本 へ留学する生徒も多い。ちょうど私が台湾にいた頃意識の高い英語に自信のある学生はア メリカの有名大学へ、それ以外も世界各地を目指して飛び立っていった。また、台湾では 今、医学生に限らず大学生や若者が日本へ留学、ワーキングホリデーで来ることが非常に 流行っている、と街で偶然会った日本語の話せる女性が言っていた。 ・台湾では、マイナー科が人気で、優秀な生徒がこぞって皮膚科や眼科を選ぶそうである。 今後の抱負 今回の実習では、産婦人科を非常に実践的に学習させていただき、素晴らしい経験ができ た。さらには台湾の医療を体験し、日本との違いや、日本の医療の優れている点なども考 えることができた。さらに、友好的な台湾の医学生と接して、たくさんの友人を得ること ができたのも今回の実習での成果だと思う。台湾の医学生とともに実習を行い、観光をし、 旧正月を過ごしたなかで、単なる実習でも、単なる旅行でも得ることのできないたくさん の経験をすることができたと感じている。さらにはその交流を通して英語によるコミュニ ケーション力を向上させることができた。これからも今回できた友人関係を継続し、豊か な視野を持った医療者となっていきたいと思う。 最後に 今回の実習にあたって、交換留学を準備してくださった阪大の先生方、実習させてくだ さった国立台湾大学の先生方、経済的な面で大きく支援してくださった岸本先生に本当に 感謝しています。私自身が今回の経験を生かして将来につなげることに加え、後輩たちが 今後も後に続けるようにサポートしていきたいと思います。本当にありがとうございまし た。 実習スケジュール 国立台湾大学 産婦人科 ・2/9(月) 9:00 教務に集合、事務手続き等 10 時頃 産婦人科でオリエンテーション 13:00-14:00 カンファレンス 14:00-15:00 クルズス(分娩の介助方法・児の抱き方等、母子の人形を使用して練習) 16 時頃 正常出産の分娩介助経験 18 時頃 正常出産見学×2 ・2/10(火) 8:15-9:15 クルズス(婦人科手術における侵襲の低減について) 10:00-12:00 クルズス(産科における麻酔) 14:00-16:00 クルズス(産婦人科における画像診断) ・2/11(水) 9:00-10:30 クルズス(産褥出血) 11:00-12:30 クルズス(水中でのお産方法について) 13:00-14:00 カンファレンス 14:30-16:30 教授面談 ・2/12(木) 9:00-10:30 クルズス(羊水穿刺) 10:30-12:30 クルズス(産科手術) 14:00-15:30 産科エコー検査見学 ・2/13(金) 産科の先生と病院を案内していただき、周辺を散策 ・2/16(月) 11:00-15:00 癒着胎盤手術見学 ・2/17(火) 旧正月休み ・2/18(水) 旧正月休み(-23 日まで学生さんの家にホームステイ) ・2/19(木) 旧正月休み ・2/20(金) 旧正月休み ・2/23(月) 旧正月休み ・2/24(火) 10:00-12:00 双胎妊娠の帝王切開見学 ・2/25(水) 9:00-10:00 感染における帝王切開見学 10:00-11:30 双胎妊娠の帝王切開術(手洗で参加) 13:00-14:00 IVF-ET 患者向け説明会見学 ・2/26(木) 9:00-12:00 子宮内膜症・チョコレート嚢胞における子宮・卵巣摘出術見学 17:30-19:00 インターン学生終了会 ・2/27(金) 2.28 和平記念日振替休日 ・3/2(月) 10:00-12-00 癒着胎盤における帝王切開見学 13:00-14:00 カンファレンス、魚鱗癬について 14:00-15:00 クルズス(分娩介助) 16:00-17:30 クルズス(子宮頸癌ワクチン) ・3/3(火) 9:00-12:30 外来見学(連先生、婦人科) 13:00-16:00 外来見学(陳先生、産科) 16:00-17:30 クルズス(婦人科腹腔鏡手術) ・3/4(水) 8:00-11:30 ET、IUI 見学 13:00-14:00 カンファレンス 16:00-17:00 ・3/5(木) 8:00-12:00 ET、IVF、IUI 見学 ・3/6(金) 事務手続き等
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