国際金融秩序と米・中

2015 年 1 月 13 日
国際金融秩序と米・中
三菱東京 UFJ 銀行 顧問
古澤 満宏
国際政治の世界では、各国がその影響力を維持・拡大するため鎬を削っている。金融
の分野も例外ではない。現在、国際金融機関を巡って 2 つの動きがある。
まずは IMF。2010 年 12 月に合意された増資及び出資比率・投票権の見直しが米議
会の承認が得られないため未だに発効していない。そもそも IMF はその設立協定によ
り定期的に資金規模と各国の出資割合を見直すこととされている。金融危機後の資金需
要に対応するため資金規模を倍増し、併せて加盟国の出資割合とそれに基づく投票権の
比率を各国の経済規模に応じて見直すことが 4 年前に合意された。この合意の発効には、
投票権の 85%及び全加盟国の 5 分の 3 以上の受諾が必要であるが、加盟国数の要件は
満たしたものの、17%の投票権を有する米国の受諾がなされていないため発効しない状
況が続いている。米国政府の度重なる働きかけにもかかわらず、議会承認が得られない。
もともと議会が国際機関への出資には慎重であることに加えて、金融危機後の IMF の
資金の約 9 割が欧州のために使われているといったこともその背景にあると言われて
いる。この合意が発効すれば、中国の出資比率は現在の 6 位から、独・仏・英を抜いて
米・日に次ぐ 3 位となる。同じくインドは 11 位から 8 位へ、ロシアは 10 位から 9 位
へ、ブラジルは 14 位から 10 位へとそれぞれ順位を上げる。先進国の理事の数を減ら
し、新興国・途上国に振り替えることも 2010 年に併せて合意された。世界経済が危機
的状況を脱し、増資が発効しなくとも当面は借り入れ資金により対応可能ではあるもの
の、新興国を中心に最大の出資国に対する不満は強い。かかる状況を踏まえ、IMF で
は次善の策を検討する作業が近々開始される。加えて、米国については理事及び理事代
理の議会承認も遅れていることからこれらが不在の状況が続いている。最大の出資国で
あり、ワシントンにおけるホスト国として、IMF 設立以来、70 年にわたって多大なる貢
献をしてきた米国自身にとっても、これは極めて残念な状況といわざるを得ない。
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もうひとつは、中国が主導する AIIB(アジアインフラ投資銀行)設立の動きである。一
昨年の秋、習近平国家主席が構想を表明してから各国に対する中国当局の働きかけを経て、
昨年 10 月には ASEAN 各国、インド、パキスタン等が MOU(AIIB の枠組みに関する政
府間覚書)に署名し、現段階で 24 ヵ国が創設メンバーとなる見込みである。今後、設立協
定の交渉と署名を行い、本年末までに業務を開始する見通しとなっている。そもそも世界
には膨大なインフラ需要があり、特に成長著しいアジアでは、アジア開発銀行の試算によ
れば 10 年間で 8 兆ドルの需要があるとされている。従ってインフラ投資を促進すること自
体は歓迎されるべきことである。他方、この構想を巡っては、加盟国の出資比率がバラン
スのとれたものとなるのか、実際の融資判断が公正かつ透明性のあるプロセスによってな
されるのかといったガバナンスの面から慎重な検討が必要との声もある。今後の交渉過程
でこれらの点について説得的な説明が望まれる。
およそ国際金融秩序の枠組みは世界経済の変化に応じて絶えず見直されるべきものであ
ろう。その際、出資者にはその貢献に見合った発言力が与えられてしかるべきだが、同時
にその発言力に見合った責任も期待される。特に機関の意思決定に大きな影響力を有する
主要株主に対してはその期待の度合いは高まる。今後の米・中の動向が注目される。
(IIMA メールマガジンへの寄稿)
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