2015 年 2 月 10 日 アジア債券市場研修を終えて IIMA 経済調査部長 兼 開発経済調査部長 佐久間 浩司 IIMA は、昨年の 10 月に 2 週間、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの 4 か国の財務省、中銀、証券監督委員会などの債券関係職員向けの研修を実施した。研修 目的は、如何に社債市場を発展させるかであるが、社債の前に国債市場が未発達、ある いは債券以前に銀行システムがまだしっかり出来上がっていない。いや銀行システムど ころか自国通貨の信認が確立していないと、各国金融の発展度合いはバラバラであり、 社債市場が出来るにはまだ相当距離のある国が集まっての研修であった。 債務者の情報開示や市場の透明性やインフラが必要だというオーソドックスな議論 はもちろんあったが、それ以外の、これから市場を作る国ならではの彼らとの議論の一 片を紹介しよう。 ①国内の貯蓄が、タンス預金などの金融システム外にあっていては何も始まらないので、 まずは国民が個人の金融資産を託すに値する信頼ある銀行システムを作ることが何 より大事である。 (当たり前と思うかもしれないが、CLMV の現状はそうではないの である。 ) ②債券市場には、ともかくイールドカーブの基礎になる国債市場がなければならないか ら、貯蓄を銀行システム内に取り込んだら、次は銀行の資産の一部を国債に向かわせ る仕組みが必要だ。インドの法定準備率や中国の預貸比率規制のような、負債総額の 何%は流動性の高い資産を義務付けるという規制があれば、(インドや中国の規制の 目的は別だろうが)結果としてある程度の国内貯蓄が国債保有に向かう。国債は短期 金融市場を育成する上でもコラテラルの役割を果たすので、銀行が保有する仕組みは とても重要。 ③年金基金などの国内の公的な長期投資家を育てていく地道な努力も必要。ゆくゆくは 1 当該通貨の金融市場における長期投資家として頼りがいある存在になる。アジアの先 行事例としては、シンガポールとマレーシアがある。マレーシアの年金ファンドは、 アジア危機の際に資本規制という内外資本取引をシャットダウンする選択を可能に した陰の立役者でもあった。もちろん、資本規制は安易に奨励される政策ではないが、 少なくともアジア危機時の Crisis hit countries の中でマレーシアに資本規制の選択 を可能にしたのは確かである。 ④国債の発行者は、発行のスケジュールを明らかにし定期的な発行を心掛けること。こ れは、投資家にとって、ボリュームゾーンやイールドカーブなどの国債市場の全体像 の把握には不可欠だ。投資家は大きな機関であり、中長期の業務計画や投資計画があ る。国債発行体である政府は、こうした投資家側の Convenience を配慮しなければ ならない。 ⑤社債市場を作るには格付け機関が必要だが、社債市場の全くないところに格付け機関 を作るのは簡単ではない。このニワトリと卵の問題を解決するひとつの案が、バング ラディシュにあった。ここでは、借入れ企業が一定の格付けを取得すると、銀行のリ スク掛け目が軽減されるという国内銀行監督ルールがある。このため銀行は借入企業 に積極的に格付け取得を促している。もし同じ仕掛けを作れば、社債市場ができる前 に格付け機関の商売が成り立つ環境が生まれるのではないだろうか。 ⑥格付け機能や社債流通市場が未発達な国で、どのように債券の発行利回りを決めるか といえば、その国の商業銀行が内部に持つ情報を使うしかないだろう。銀行は債務者 の経営情報や財務情報をもとに何らかの形でクレジットを数値化している。そこから スプレッドを算出するしかないだろう。ベースとなる金利は、国債市場があれば国債 の利回りを使えるが、ない場合は、やはりその国の商業銀行の調達コストを参照する。 銀行の中長期の調達がない場合は、他の通貨のイールドカーブやスワップのコストな どをもとに算出する。もちろんこうした疑似的な方法でプライスを提示する業者は大 きな金利リスクを取ることになるが、マーケットを最初に作る時には、こうしたリス クテイカーが必要だ。 ⑦こうして社債発行の値付けができたら発行と嵌め込みだ。著名な国有企業が発行体な ら話は別だが、客観的なリスクとリターンの関係が固まってない市場での公募は一般 には難しい。従って私募になる。社債の発行体は地場では著名な中堅以上の企業だろ うから、その国に中長期的視野から進出を図り、優良地場企業とのパイプを作りたい 外資系銀行はいい投資家になるのではないだろうか。その際、外銀は自分が唯一の投 資家であるのは避けたがるだろうから、その国の年金ファンドなども投資するのであ れば、外銀の投資しやすさは増すかもしれない。 ⑧外銀は、発行体としても債券市場育成のために有効だ。特にローカルビジネスに進出 2 を図る銀行であれば、地場通貨の調達ニーズがあるはずだ。投資家も、国際的に名前 の通った銀行であればクレジットリスクの点で安心して投資するのではないだろう か。 ともかく市場のないところに市場を作るのは難しいが、その難しさゆえに、創意工夫 の精神で活発に議論した 2 週間であった。 (IIMA メールマガジンへの寄稿) 当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利 用に関しては、すべて御客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できる と思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性を保証するものではありません。内容は予告なしに 変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作権法により保護されてお ります。全文または一部を転載する場合は出所を明記してください。 Copyright 2015 Institute for International Monetary Affairs(公益財団法人 国際通貨研究所) All rights reserved. Except for brief quotations embodied in articles and reviews, no part of this publication may be reproduced in any form or by any means, including photocopy, without permission from the Institute for International Monetary Affairs. Address: 3-2, Nihombashi Hongokucho 1-chome, Chuo-ku, Tokyo 103-0021, Japan Telephone: 81-3-3245-6934, Facsimile: 81-3-3231-5422 〒103-0021 東京都中央区日本橋本石町 1-3-2 電話:03-3245-6934(代)ファックス:03-3231-5422 e-mail: [email protected] URL: http://www.iima.or.jp 3
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