総論 :薬剤性精神障害

I
総論 :薬 剤性精神障害
217
総論 :薬 剤性精神障害
本稿 では薬剤性精神障害 を発現 しやす い 向精神薬 (抗 精神病薬 ,抗 うつ薬,抗 不安
薬 ,抗 パー キ ンソン病薬,抗 てんかん薬 など)の 薬効群 と副腎皮質ホ ルモ ン薬 につい
て述べ る。
1.向 精神薬 の分類
精神科で用 い られる向精神業は中枢神経系 に作用す る薬剤が中心である ])。 向精神
薬 の分類 を表 1に 示す。
2.中 枢神経系薬斉Jの 副作用発生頻度
向精神薬 の副作用頻度 を多医療機関で正 確 に調査 した市販後調査
(PMS)は ない
のが現状 である。 したがって,個 々の医療機関で調査 された副作用報告 と新薬治験時
の調査 を参 考 に して判断す る以外 にない。 ここで紹介するのは入院患者の副作用調査
であるため,外 来 を合めた副作用頻度がみ られない欠点 もあるが,ア メ リカで実施 さ
表 」 向精神 薬の分類
①抗精神病薬*
②抗うつ薬*
③抗躁薬*
④抗不安葉
⑤精神刺激薬 (党 醒剤など)*
⑥睡眠導入薬
⑦抗てんかん薬
③抗パーキンソン病薬
⑨その他 (抗 酒薬,脳 代謝改善業)
*:狭 義の向精神薬
林輝男 他 :精 神科の薬剤がもたらす副作用 治療,77(8):
〔
2210,1995を 改変〕
第 3章
218
症状別副作用判定の実際―薬剤性精神障害
表 2 中枢神経系薬剤の副作用発生頻度 (BCDSP)
一
雲
ゼ ■0ま却奮
1摯
'ラ
眠気
ニト
ラ■バム (:を 2例 )
1‐
'華
2.3%
0.7%
0.2%
0.2%
0.1%
錯乱
運動失調 ,眩 量
悪夢 ,幻 覚 ,不 眠,興 奮
過敏症
3.5%
合計発 生頻 度
副作用
ー
nJ.イ ア
‐
ゼ言議ンド
言_│タ ー
‐
に086響
:‐
).‐
眠気
=7.2%
見 当識障害
1.0%
運動 失調 ,眩 量 ,眼 振 ,構 音 障害
0.6%
0.4%
0.3%
0.2%
倦怠 感
中枢神経系興奮 (不 眠 ,興 奮 ,幻 覚等 )
抑 うつ
呼吸抑制
過敏症 (発 疹 ,発 熱 )
低血圧
0.05%
0.2%
昏睡
その他
副作用
0.2%
0.2%
0.2%
合計発生頻度
│ア
10.6%
眠気
悪夢
反動反応 (興 奮,幻 覚,不 眠)
過敏反応
副作用
合計発 生頻度
2.5%
眠気
4.5%
見当識障害,錯 乱
運動失調,眩 量 ,構 音障害
抑 うつ
0.8%
0.6%
0.3%
0.3%
0.3%
過敏症 (発 疹,癌 痒,発 熱)
低血圧
呼吸抑制
0.3%
0.2%
0.2%
昏睡
中枢神経系興奮 (興 奮,悪 夢等)
その他
0.1%
0.2%
0.1%
胃腸障害
頭痛
副作用
合計発 生頻度
7.9%
′││││イ │││ツ ン│=5561例 )
65%
中枢神経系興奮
(興 奮,幻 覚,不 安,不 随運動)
抗 コ リン性作用
(頻 脈,日 渇,尿 閉,霧 視)
頭痛 ,耳 鳴 り
心臓血管系作用 (不 整脈,低 血圧)
3.6%
1.6%
Q6%
0.6%
眠気,運 動失調,錯 乱
低血圧
呼吸抑制
肝毒性疑 い
5.8%
2.2%
過敏症 (発 疹)
錐体外路症状
昏睡
頻脈
心停止
血液障害
0.5%
0.5%
てんかん発作
その他
合計発 生頻度
0.5%
0.4%
■ 12.623倒 )│=■ .
ィ千輩 ヽ
ヽ│■ ●│プ チリ│,塩酸塩l13o9例
眠気,倦 怠,錯 乱
副作用
1.2%
0.4%
12.9%
冨1作 用
合計発生頻度
0.7%
0.7%
0.4%
0.2%
0.2%
0.2%
0.2%
0.5%
12.1%
Russell RM, et al:Drug EIfects in Hospitalized Patien協 , pp 171-203. 319-334, 1976, John Wiley&Sons.〕
〔
れ た 1966∼ 1975年 の 広 域 副 作 用 調 査 で あ るBCDSP(Boston collaborative Drug
Surveillance Prograln)3.0の デー タが もっとも正確 に頻度を反映 していると思われ
る。年代が古 いが,本 調査で報告 された中枢神経系薬剤 の副作用発生率について表 2
に示す。
I
総論 :薬 剤性精神障害
1 219
表 3 肝機能所見 における 10年 間の変化
鍮 誘見由場著数11・
/。 )
2%
4%
5%
4%
1973年
1983年
50 (47.2)
38(35.8)
血清 コ レステ ロール
7 (66)
12 (11.3)
ALP
4 (3.8)
21 (19.8)**中
何 らかの異常所見
AST(GO丁
%
%
%%
%%
﹄
協協協協協3
2
1
2
3
2
・
・
・
・
・
・
︲
ALT(GP丁
)
)
ZTT
20 (18.9)
10 (9.4)*
20 (18.9)
26 (24.5)
6
CCLF
(5.7)
(4.7)
18(17.0)・
6 (5。 7)
n=106, *:p<005, **:p<001, ***:p<0.001
小椋力 :向 精神薬の副作用.薬 理と治療,23(1):37.1995〕
〔
:3.向 精神薬の長期使用 による副作用
向精神薬 の長期使用 による副作用調査 は全 国的な レベ ルでの検討 が行 われて い な
い。精神科単科病院で の報告 があるので表 3に 紹介す る。投与 開始後 10年 後,20年
後 の患者 の異常検査値 につ いて検討 されて い る。ただ し,20年 後 につい ては解析 さ
れた一 部についての報告 となっている。
%%
%2
%
%
%
%
%%
蘭2
協%
5
2
5
4
7
7
8
2
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
︲
︲
︲
︲
︲
︲
,
,
,
,
ALP,ZTTで
は有意 に10年 後 に異常 頻 度上昇 が み られたが,逆 にAST(GOT)
異常が減少 して い た。 向精神薬 の種類 ・ 量 との相関 に差は見出せ なかった と報告 して
いる。
次 に,心 電図異常 について表 4に 示 した。心電図上の異常 は有意 に増加 し,そ の内
容 として軸変化 ,ST変 化 ,T波 変化 (平 低 ),QTc延 長 ,U波 が有意に増加 してい た。
これ らの心電図の変化か ら心 機能 の抑制傾向が推察 される。 しか し,各 種薬剤 との相
関は見出せ なか った と報告 してい る。
眼科 的所見 につい て表 5,6に 示 した。 この結果か らは向精神薬 の長期使用 によ り
水 晶体混濁 は高 くな っている。 眼科所見異常 と向精神薬 との特定 の相関 はみ られな
かった と報告 されてい る。各異常所見 と薬物 との相関が認 め られない理由 として多種
類 の薬剤 を長期間にわた り投与 された ことが原因 と報告 して い る。
抗精神病薬 の副作用
フェノチアジ ン系 ,ブ チ ロ フェノン系 ,ベ ンザ ミ ド系薬剤すべ てに共通す る薬理学
Drug
、
われ
〔表 2
的な特性 は ドパ ミン受容体 (D2)遮 断作用 であ り,D2受 容体 に対す る結合性 ,親 和
い
性 の程度 によ り抗精神病薬 としての強 さに相関がある とされている 。 また,近 年
,
セロ トニ ン受容体 (5-HT2)遮 断作用 など従来 と異 なる薬理作用 を有する薬剤が開発
されて い る。以下 に主な抗精神病薬 の副作用 について述 べ る。