単焦点両面非球面レンズ フィールド設計

ポスター・機械展示 No.38
単焦点両面非球面レンズ
フィールド設計
福井 慎一
伊藤光学工業株式会社,光学設計・製造部 開発G
Field design of double-sided aspherical lens
Shinichi Fukui
Itoh Optical Industrial Co. Ltd., Optical Design & Manufacturing Department
Research & Development Group
1.はじめに
一般に眼鏡を購入する際に求められること
として、レンズでは見やすさ・掛け心地・厚
さなどが挙げられる。従来の非球面レンズは、
主に見え方または薄さのどちらかを重視した
ものであった。そこで、一枚のレンズに複数
の領域を設け、それぞれ異なる機能を持つ単
焦点両面非球面レンズを開発した。領域の大
きさは、人間の視野特性に基づき設計した。
2.人間の視野特性
1)
図1:人間の視野特性
1)
人間の視野は一般に水平約200度、垂直
約125度とされている。しかし、この領域
の全ての情報を瞬時に識別できるわけではな
3.眼鏡レンズの設計方法
弁別視野と有効視野を合わせた領域は、情
く、視力や色弁別などの機能特性、視線や頭
部運動による注視動作、心理的効果などから、
広い領域を図1のように機能分担している。
視野中心部の視機能が優れている領域は弁
別視野と呼び、中心約5度以内である。また、
眼球運動だけで瞬時に情報受容できる領域を
有効視野と呼び、水平約30度、垂直約20
報を瞬時に識別できるため、この領域に対応
する眼鏡レンズの特性としては、ぼけが少な
く解像度が高いことが要求される。安定注視
野では、眼球と頭部が同時に動いても距離感
を失わないように、ゆがみが少なく安定した
像が求められる。誘導視野と補助視野に対応
する部分は、像の解像度は低くても物の存在
度以内である。
有効視野の外側には、眼球運動あるいは頭
部運動により視線を移動することで効果的な
を確実に認識できることが要求される。
本眼鏡レンズ設計では図2のように、一枚
のレンズに複数の領域を設け、それぞれの領
情報受容ができる領域が存在する。この領域
を安定注視野と呼び、水平約60~90度、
垂直45~70度以内である。
90度以上の領域は、情報識別能力が低い
誘導視野と補助視野と呼ぶ二つの領域がある。
誘導視野は、空間座標系に誘導効果が生じ、
立体感や臨場感を引き起こす領域である。一
方、補助視野は刺激の存在がわかる程度の領
域である。
域に中心から非点収差の軽減(CLEAR-AREA)、
歪みの軽減(FINE-AREA)、薄型化(SLIM-AREA)
の機能を持たせるフィールド設計を行う。レ
ンズ形状は両面非球面形状とし、外面と内面
に機能を分配することで複数の領域・機能を
持たせることを可能とする。領域の大きさは、
人間の視野特性に基づき、CLEAR-AREA は0~
3 0 φ 、 FINE-AREA は 3 0 ~ 5 0 φ 、
SLIM-AREA は50φ 以上として設計する。
3.3
SLIM-AREA の効果
眼鏡レンズの光学性能と薄さは、レンズの
ベースカーブ(BC)によって左右される。一
般的に BC が深いと光学性能が優れているが
レンズは厚くなる。対して、BC が浅いとレン
ズは薄くなるが光学性能は悪化する。フィー
ルド設計は、相反する二つの特徴を
図2:フィールド設計(イメージ)
が低く、刺激の存在がわかる程度である。
SLIM-AREA は眼球の回旋角度100度以上
3.効果
3.1
SLIM-AREA で両立できる。
人間の視野は、90度以上は情報識別能力
CLEAR-AREA の効果
のため、像の解像度を求める必要性が低い。
CLEAR-AREA の 大 き さ を 眼 球 の 回 旋 角 度 で
本眼鏡レンズでは SLIM-AREA でレンズの薄型
表すと、約0~60度となる。そのため、図
化を行うことにより、図5のように、光学性
3のように、弁別視野と有効視野を含む。
CLEAR-AREA は 非 点 収 差 を 抑 え て ボ ケ を 少
能と薄さの両立を提供する。
なくしているため、解像度の高いクリアな視
界を提供する。
図5:非点収差 MAP 図とレンズ縁厚
4.結論
非球面設計技術の発展により、カスタム設
図3:CLEAR-AREA と視野
3.2 FINE-AREA の効果
FINE-AREA の大きさを眼球の回旋角度で表
すと、約60~100度となる。そのため、
計のように複雑な眼鏡レンズ設計が行えるよ
うになってきた。しかしながら、カスタム設
計は様々な装用状態に対して、レンズのぼけ
を最小限にすることを目標にしているに過ぎ
ない。
図4のように安定注視野を含む。
FINE-AREA は歪みを軽減しているため、頭
部を動かしたときに像が大きく変形すること
本眼鏡レンズでは人間の視野特性に注目し
て、より複雑な光学特性を有する設計を試み
た。視野特性に応じた複数の領域を設け、そ
がなく、目標に視線を合わせやすくなってい
る。また、目や頭を動かしても揺れや歪みを
れぞれ異なる機能を持たせるフィールド設計
により、眼鏡レンズに求められる見やすさ・
感じにくく、良好な掛け心地を提供する 。
掛け心地と薄さを両立するレンズを提供でき
る。
【参考文献】
1) 畑 田 豊 彦 ほ か : 眼 ・ 色 ・ 光 よ り 優 れ た
色再現を求めて ; 日本印刷技術協会,
p.9 (2007)
図4:FINE-AREA と視野