有明海異変に関する諸説 - NPO法人 有明海再生機構

有明海再生機構主催 平成27年7月8日(水)
有明海市民講座
第10回
有明海異変に関する諸説
第1回
有明海再生機構
顧問 荒牧 軍治
「有明海異変の原因」と主張されている諸説について
これまで検討してきた要因
人間の活動に起因するもの ●干拓 1950年代までの干拓(主として有明海湾奥部)
有明海湾奥部の貧酸素を引き起こした
1997年の諫早湾干拓締切
諫早湾の貧酸素・赤潮の増加・底質の悪化・アオコの発生
稚仔魚の養育場の喪失
●富栄養化
工業・生活排水の流入増加・し尿投棄等
●海砂採取
窒素の増加→プランクトンの増加→二枚貝の増加 →底質の悪化
砂干潟上に浮泥堆積・底質の泥化
二枚貝の減少・底質の嫌気化
自然の変化に起因するもの
●18.6年周期による潮流速の低下・外海潮位差の減少
有明海全体の潮流速の低下
1
他に「有明海異変の原因」と主張されている諸説
人間の活動に起因するもの ●諫早干拓調整池汚悪水説
調整池に汚悪水(何か分から
ないが悪い水質の水)が排出
有明海湾奥部まで到達し、 赤潮→ノリ漁獲量減少 二枚貝等の水産資源が減少
●諫早湾締切により流れのパターンが変化し、湾奥部に物質が堆積し やすくなった
筑後川から流入した物質が湾奥部に堆積する量が増えた 2次元流れ解析(粒子追跡法)で証明されている
3次元解析ではどうなるか シミュレーションモデルでその効果も織り込まれている
2
●酸処理剤・施肥
藤原書店刊「有明海はなぜ荒廃したのか」(2003) 江刺洋司(東北大学名誉教授)
藤原書店刊「よみがえれ宝の海有明海」(2001) 広松 伝(第1回日本水大賞「市民活動賞」1999)
林重徳(佐賀大学名誉教授)
2015年3月5日
有明海4県の漁業者200人(10万円/人) →損害賠償を求めて熊本地裁に提訴 →5月追加提訴原告734人に
自然の変化に起因する生産活動の変化による
●冬期の水温上昇→秋芽網の遅れ→終了時期の遅れ
アサリの生活史
有明海におけるアサリの産卵は、4〜5 4月から漁獲、5月が漁獲のピーク、9月でアサリ漁
月ごろの春季と、10〜 11 月ごろの秋
資源量の98%がこの時期に漁獲されていたと推定
季の年 2 回の最盛が見られる
菊池泰二先生講演論文
産卵の備えて体力をつけている時期にえさ不足になっているのでは
3
環境省有明海・八代海等総合調査評価委員会 生物・水産資源・環境問題検討作業小委員会
第4回委員会資料2(2) 有明海における赤潮発生と水質との関連
有明海湾奥海域である国営干拓沖において、1980年代後半からの水温上昇が認められ、
特に冬期に顕著である。本傾向は瀬戸内海など他海域でも同様な傾向が観察されている
本当か?
それ程大きく
変化していな
いと考えて良
いか
4
ノリの養殖作業が
全体的に遅れ気
味になっている
表7 ノリ養殖作業概要
プランクトンに回るべ
き栄養をノリ養殖が取
りすぎているのではな
いか
5
すべての定点で1970年代中頃から1980年代中頃まで、クロロフィル濃
度が極めて高い期間が認められた。近年はプランクト ン沈殿量が低
めに推移し、特に2005年以降は極めて低位で推移して いる。
冬期のクロロフィル濃度とプランクトン
沈殿量の相関が強いことが証明され
ている(福岡水産センター)
資料: 福岡県水産海洋技術センター有明海研究所「昭和4 1~平成23年度浅海定線調査事業」より
資料: 福岡県水産海洋技術センター有明海研究所「昭和4
6
酸処理剤主因説
「のり酸処理試験研究成果の概要」 平成7年3月 水産庁を参考に 酸処理剤とは
スサビノリとアオノリの酸耐性の違いを利用
昭和52年頃
コーラ液につけるとアオノリの成育阻害がヒント
千葉県水試: 珪藻駆除、赤腐れ病、付着細菌への効果確認(昭和56年頃)
昭和59年 水産庁次長通達
(前文省略) 下記の事項を厳守するよう関係漁業者を指導されたい
1. 雑藻除去等の使用する物質としては、食品添加物として認められ ている酸のうち、天然の食品に含まれる有機酸で、使用後海洋中の 微生物等の作用により速やかに分解され、摘採される海苔には残留 しないものに限ること 2. 使用後の残液の処理・処分については、付近の浅海等にそのまま 投棄することなく、十分な中和処理等を行ったうえで、下水等を通じ 排出させる等、適切な処理・処分を行うこと。 3. 酸処理剤を使用する場合には、都道府県の試験研究機関に事前 に相談するとともに、その指導に従うこと
有機酸だけが認められている 残液は投棄しないこと
ノリ養殖の活性剤が付加されている(事実) ほぼ全量が投棄されている(想像)
7
病害等の発生
ノリ容態が緑色に
変色、白く脱色し
て網から脱落
穴があいたり、色
が赤くなる
淡い赤色を呈す
る→製品加工す
る過程で表目が
墨を塗ったように
黒くなり艶が無く
なる
壺状菌病: 毎年発生 平成5〜8年は10月下旬に確認 それ以後は11月以降
近年は秋芽網期、冷凍網期ともに大被害になることはない
アカグサレ病: 毎年発生 甚大な被害は平成8,15,23年
スミノリ病: 活性処理が導入された平成5年度以降では平成14年度のみ
色落ち: 毎年発生 平成5,9,18,19、24年度はほとんど被害無し
冷凍網期 西・南部での頻度が高い 20〜23年度は被害著しい 酸処理剤の効果
のり酸処理試験研究成果の概要 (水産庁:平成3年(1991年))pp.3
表−3 酸処理の効果としてあげられたもの
害敵対策
疾病対策
付着藻類、 アオノリ、 ワレカラの駆除 トビムシの駆除
アカグサレ病の蔓延防止 穴あき症、ろうそく症等細菌性病害の防除 しろぐされ病、 糸状細菌付着症の防除 橙色病の蔓延防止 緑班病の被害軽減 壺状菌病拡大に伴う二次的な細菌着生の抑制 細菌付着及びスミノリの防除
8
酸処理剤犯人説
基本認識 有明海は悪い環境にある
江刺洋司東北大学名誉教授 「有明海はなぜ荒廃したか―諫早干拓かノリ養殖か―」
酸処理剤(リンゴ酸、クエン酸、酢酸、乳酸等) +栄養剤(塩化アンモニウム、リン酸ナトリウム、アミノ酸水溶液等)
使用後投棄
植物プランクトン
増加
ノリ葉体
取り出し
色落ちの真犯人は酸処理剤
ノリ養殖が始まると赤潮が発生する(衛星写真)
沈下・堆積
バクテリアの活動で酸素消費
栄養増加につながらない希塩酸を提案
嫌気状態で硫化水素の溶出
二枚貝等の減少
基本メカニズム
記述の大部分は酸処理剤が植物プ
ランクトンの栄養になることの証明
その他の栄養塩との寄与
度の割合は?
酸処理剤の使用をすべて止めたときの
状況はシミュレーション可能
何を指標にするか
クロロフィル 貧酸素容積
9
酸処理剤説
諫早干拓かノリ養殖か
有明海はなぜ荒廃した 江刺洋司著 藤原書店(2003年)
pp.26
図2に示されたようにな諫早干拓の本格工
事が始まる10年以上前から有明海の自然
環境が荒廃し始めていた
有明海環境破壊の元凶となったのはノリ養
殖業者による有機酸使用の普及に関わる
ことを明示している。
なぜ水圏環境悪化の指標となっている
COD(化学的酸素要求量)を高めるよう
な有機酸使用を本格的に始めることに
なったのか、その理由の解明が鍵を握
ることになる。
とにかく諫早干拓は有明海荒廃の主犯でない
ことだけは図−2から完全に読み取れて確信で
きていたので
荒廃
二枚貝の減少
10
国際海洋汚染防止法で明確な規制対象物質である
水産省通達は明確に国際海洋法に違反しており、破棄すべきものなのである
有機酸は100倍にも希釈して使用するし、それらは弱酸で海に戻しても海水の大きな緩衝能の
ために急速に海水のpH8付近に戻ってしまい、海産動物やその幼生(動物性プランクトン)には
ほとんど影響しないから問題にする必要はないというのであるが、これは当然に予測されること
で、そんなことが有明海荒廃に関わりようもないのは当然である
酸は中和するので荒廃とは無関係
pp.54
自然な栄養塩類の流入と食品としての排出の均衡を「有機酸+栄養塩+アミノ酸等」からなるノ
リ活性剤を賦与することで均衡を破ってしまった。それは植物プランクトンの異常発生、つまり赤
潮発生を惹起することは必至である。
pp.99
水分の制限に付きまとわれるこの方法(干出法)で養殖している限りは、色落ちに遭遇する機会
は理論的にないと言って良い。(略)したがって、色落ちによって甚大な被害を与えることになる
のは「浮き流し法」によるノリ養殖の場合に限られると推察できる。
11
pp.104
2001年宇宙開発事業団 11月赤潮無し、12月ノリ養殖本格化→諫早湾と八代海で赤潮 1月有明海全体、3月終息する
有明海の荒廃の象徴である赤潮が有機酸使用量と完全に連動していること、ノリ色
落ちが諫早干拓とは全く無縁であることを科学的に完全に証明している。
2000年度 大規模なノリの色落ち
が発生した年
他の年も連動しているのか
12
水産庁通達昭和59年(1984年)
「有機酸処理が公的に認められて以降、
発生頻度も継続期間も増大する傾向」
有明海全域
1~3月
発生件数 [件]
朝日新聞の記事
指摘は正しいが
酸処理剤で赤
潮が増大したの
か?
その他
珪藻
ラフィド藻
渦鞭毛藻
14
12
10
8
6
4
2
0
1960
4~6月
発生件数 [件]
1997年までは 1500トン程度 1999年 2900トン 2001年 2358トン 他の資料
2003年 3061トン 1965
1975
1980
1985
年
1990
1995
2000
2005
2010
1980
1985
年
1990
1995
2000
2005
2010
1980
1985
年
1990
1995
2000
2005
2010
1980
1985
年
1990
1995
2000
2005
2010
その他
珪藻
ラフィド藻
渦鞭毛藻
14
12
10
8
6
4
2
0
1960
1965
7~9月
1970
1975
その他
珪藻
ラフィド藻
渦鞭毛藻
25
発生件数 [件]
1970
20
15
10
5
0
1960
発生件数 [件]
10~12月
1965
1970
1975
その他
珪藻
ラフィド藻
渦鞭毛藻
14
12
10
8
6
4
2
0
1960
1965
1970
1975
注)赤潮の構成種は「種類1」として示されている種を示し,「その他」はクリプト藻類、ミドリムシ類、微細藻類、繊毛虫類及び不明を含む.
有明海における季節別赤潮発生件数
13
第3章 生物の生きる仕組みから考える有明海問題 pp125 −有明海を死に追いやる硫化水素−
有明海の自然環境の荒廃の最初のシグナル→底生生物を対象とする漁民の悲鳴 熊本のアサリのピーク1977年→酸処理が普及し始めた直前→漁獲量減少 タイラギ、甲殻類も酸処理の開始と同時期に減少開始 ガザミは85年まで増え続け→公的に酸処理が認められた翌年ピーク→減少 クチゾコも86年以降は漁獲量を減らした 時期の違いがヒントになっている→底質悪化→硫化水素→二枚貝減少 「見通しのついた一刻も早く国民に示すべきと考えて環境省閉鎖性海域対策室
を訪ね、微量なH2Sを分析定量するための標準法を各県に流すよう」要請
「私自身は分析定量した経験はなかった」→定年の身で他の仕事もあったので
承諾できない
硫化水素の発生量に対する酸処理剤の寄与率はどの程度なのか
14
AVS
底質に注目
硫化水素濃度の代わりに酸揮発性硫化物(AVS)を使用
林重徳佐賀大学名誉教授
酸処理剤に含まれる乳酸が底質に及ぼす影響
土木学会西部支部研究発表会(2010.3)
2.0
AVS
(
10cm)
1.8
AVS (mg/g dry-mud)
1.6
1
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
水産用水基準0.20mg/gdry
0.4
0.2
0.0
1
19
1
AVS
15
第3章 生物の生きる仕組みから考える有明海問題
pp125
<干潟底質(10cm)におけるAVSの経年変化(H14〜H18)と酸処理剤
−有明海を死に追いやる硫化水素
(海苔活性剤)におけるリン含有率の推移>(林重徳教授のスライドより)
有明海荒廃の最初のシグナル→底生生物を対象とする漁民の悲鳴 松永信博九大教授発表原稿より
アサリ生産のピーク 1977年→酸処理が普及し始めた直前 その後急激に減少→諫早干拓とは無関係 深度10cmにおけるAVS値
酸処理剤の開始1978年→急激にアサリ、タイラギ、甲殻類が減少 ガザミ、クチゾコは85年まで増え続け→酸処理が公的に認められてから減少 時期がずれるのが原因究明の鍵→硫化水素が激減の原因 硫化水素濃度を測るように環境省に申し入れた→全硫黄量しか計測していない 硫黄の大部分は黄鉄鉱になる→バクテリアで酸化され硫酸イオン 溶存酸素が減少すると硫酸還元菌が働き硫化水素が発生する 硫化水素を多量に含んだ有毒の海水団を形づくってしまうことがあり得る
硫化水素の発生に酸処理剤がどの程度寄与したのか
底質に着目した酸処理剤説
平成14年
平成15年
水産用水基準0.20mg/gdry
平成16年
平成17年
平成18年
経 時
林重徳佐賀大学名誉教授
〜平成13年度
(月)
リン含有率:10%〜14% 【海苔業関係者による自主規制】
酸揮発性硫化物(AVS)
平成18年度
平成15年度
平成16年度〜17年度
年間使用酸処理剤の
平成14年度
12月頃より
リン含有率≦3%
リン含有率≦5% リン含有率≦4%
総量:2,800〜2,900t
底質悪化の指標として利用
リンの全投棄量
(年間):330〜380t
新酸処理剤
登場
140〜145t
112〜116t 林重徳佐賀大学名誉教授 講演資料集
82〜84t
16
1 3 5
7 10 AVS
12 14
3
4
(0
AVS
2
pH
ORP
2
)
19
1
AVS
19 1
酸処理剤・乳酸の底質に及ぼす実験
ORP
(0
8
10
2
)
ORP
300
10
pH ORP
200
ORP(mV)
pH
〇1リットルのメスシリンダーに乾燥質量で65gの底質
ORP
〇有機酸または酸処理剤を1リットルの海水に対して
ORP
0.05%になるよう調整し、撹拌する
1
〇25℃あるいは10℃に保持し、静置 AVS
65g
1
〇静置期間は1,3.5,7.10,12,14日間
0.05 10
AVS
〇2cm毎にとりわけ含水比、pH、ORP、AVS、塩濃度
AVS
10
0.5(mg/g dry-mud)
0.5(mg/g dry-mud)
25
10
を測定
10
pH
pH
7.5
7
2) AVS
AVS
-200
6
-300
300
25
ORP(mV)
pH
7
6
0
AVS
100
0
-200
1
2
3
4
5
6
7
8
-300
0
9 10 11 12 13 14
AVS: 酸揮発性硫化物
( )
AVS
ORP: 酸化還元電位
(+酸化状態 −還元状態)
(0 2 )
pH
AVS
25
-100
6.5
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11
( )
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
200
7.5
10
0
-100
8
AVS
100
6.5
10
1.4
AVS(mg/g dry-mud)
pH
8.5
AVS(mg/g dry-mud)
1) pH
ORP
pH
12 13 14
AVS
25
1.2
1
0.8
%
mV
0.6
0.4
0.2
0
0
1
2
3
4
5
6
(mg/g dry-mud)
%
AVS
ORP
7
8
(
210
203
7.69
9 10 11
) 0.009
2.4
12 13 14
5
Oxidation-reduction Potential; ORP)
-351300
200
7.5
ORP(mV)
8
pH
1)
7
2)
AVS
-200
25
AVS
ORP(mV)
200
pH
7.5
7
25
AVS(mg/g dry-mud)
3)
8
100
0
-100
6.5
-200
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14
( )
pH
1)
-300
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14
0.8
0.6
0.4
0.2
25
1.2
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
0.8
10
15
0.6
20
(
0.4
14
0.2
1 2
2003
ORP
水産用水基準
1
0
0
( )
2)
1.6
1.2
0
-300
300
6
5
AVS
-100
6.5
6
0
100
0
10
1.4
AVS(mg/g dry-mud)
8.5
10
AVS(mg/g dry-mud)
10
3
4
5
6
7
8
9
25
)
AVS
10 11 12 13 14
( )
AVS
20
海域では乾泥としてCODOH(アルカリ性法)は20mg/g乾泥以下、硫化物は
-3520.2mg/g乾泥以下、ノルマルヘキサン抽出物質0.1%以下であること。
1)
2)
底質
AVS
AVS
VS(mg/g dry-mud)
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
17
国立環境研究所研究プロジェクト報告106号 「都市沿岸海域の底質環境劣化の機構とその底生生物影響評価に関する研究」
酸揮発性硫化物
(AVS: Acid Volatile sulfides)
硫黄が嫌気性細菌によって還元され
硫化水素が発生する
遊離硫化水素→高い反応性・強毒
二価鉄と結合して無害な硫化鉄となる
酸揮発性硫化物(AVS)はその両方を
測定している
東京湾での計測例
東京湾奥部の底質中の硫化水素の濃度は泥
深3 ~ 5 cm 周辺で最大となり、季節変化で
は夏季から秋季にかけて最も増大し(最高で
700mg-S/L- 間隙水)、冬季には大幅に減少
一方、AVS には明確な季節変化は見られない。
18
底生生物現存量と諸因子(底層DO、底泥中の硫化水素、AVS)との関係
東京湾奥部3定点における底生生物現存量と諸因子(底層DO、底泥中の硫化水素、AVS)との関係
図12 に直上水DO、AVS、底泥間隙水中の硫化水素濃度と大型底生動物の個体数と重量との関係を示す。
直上水DO と大型底生動物の関係においては、千葉灯標、東京灯標東方でDO が3 mg/L 以下の時に大型底生動物が全く存
在しない場合も有るが、その一方、三枚洲ではDO が0 mg/L 近くても大型底生動物の減少は見られていない。
AVS と大型底生動物の現存量との関係では、AVS の変動幅が大きい三枚洲、変動幅の小さい千葉灯標、東京灯標東方共に
大型底生動物の現存量の変化との関係は見られなかった。他方、底泥間隙水中の硫化水素濃度との関係では、おおよそ80 ~ 100 mg-S/L を境に大型底生動物の生息密度が100 個体/675 cm2 を下回り、個体数が0 である場合も相当あり、大型底生動
物の減耗との関係が明確に現れていた。以上のことから直上水DO とAVS、底泥間隙水中の硫化水素の中では、硫化水素濃度
が大型底生動物の減耗状態を最もよく表す指標であると考えられた。
19
底質・底生生物調査定点図
「有明海佐賀県海域の海況と漁業等の現況」 佐賀県有明海水産振興センター 平成25年(2013年)3月
図12 調査定点図(底質・底生生物調査)
20
酸揮発性硫化物(AVS:)の経時変化
有明海水産振興センターの見立て
酸揮発性硫化物(AVS)(図17)
St.2、8、10は、平均値で0.064 mg/g dry以下と変動も小さかった。その他の定点では変動が大きく、
長期的にも傾向はみられず、調査期間の大半が平均値で0.23 mg/g dry以上であった。
水産庁通達に基づく
酸処理剤使用開始
佐賀県酸処理剤使用開始
図17
AVSの地点別経時変化
水産用水基準0.20mg/gdry
21
酸揮発性硫化物(AVS:)の経時変化
水産庁通達に基づく
酸処理剤使用開始
佐賀県酸処理剤使用開始
図17
AVSの地点別経時変化
22
本文pp.70
環境省有明海・八代海総合調査評価委員会 中間報告 2006年
ノリ酸処理剤・施肥の影響については、これらによる負荷よりも養殖ノリによる炭素、窒
素 及び燐の取り上げ量が大きいこと、有明海の流入負荷量(COD、T-N、T-P)に占め
る酸処理剤・ 施肥の負荷の割合は僅かであること、酸処理剤の底質への移行に関す
る調査結果(別添資料 61) 等を考えると、酸処理剤・施肥の適正な使用がなされれば、
有機物・硫化物の増加の要因にな る可能性は少ないと思われる。
別添資料61
・農林水産省水産庁(1995 年)「のり酸処理試験研究成果の概要」のまとめ
『海域に負荷される酸処理剤の成分としては、水素イオン及び有機酸、さらに栄養効
果と pH を下げるための補助剤として添加されているリン酸等があげられる。海域の pH をモニタリ ングしているが、pH7.4 以下は酸処理剤使用前も使用後も検出されて
いない。クエン酸やリンゴ酸等の有機酸のモニタリング例をみても測定結果はすべて
測定限界値以下であった。 このように、酸処理剤の影響は海域のモニタリングでは検
出されていないが、酸処理剤が 海水で希釈された場合にはその有機成分は2〜10 日で分解されるという結果からも頷ける。』
23
酸処理剤の魚類への影響
環境省有明海・八代海総合調査評価委員会 中間報告 2006年 別添資料43
資料:水産庁(1995) 「ノリ酸処理試験研究成果の概要」
まとめpp.44
二枚貝の卵、幼生、甲殻類幼生、魚類卵、
稚魚等総合的に見ると24時間半数致死
濃度は、pH5付近に認められる。二枚貝の
稚貝や成貝では、低pHに対する抵抗背が
高くなり、24〜96時間半数致死濃度はpH
3〜4とかなり低くなるが、これは主に貝が
殻を閉じて外囲環境から自己を保護する
ためと、また、、低pH液中で貝殻の炭酸カ
ルシウムが溶出して中和(緩衝)作用で、
pHを上昇させるためと考えられる。これら
の試験によると生物に致死的な影響を及
ぼさない濃度は、ほぼ、pH7以上で一致し
ていた。
以上のことから、約pH8の海水中に生息
するこれらの生物は、、低pH(酸性)は弱
いことが示された。試験結果は、24時間以
上その濃度(pH)に保持した場合の生物へ
の影響であるが、、実際の海では処理液
を直接投入した場合でも、pH7以下になる
のはわずかの時間で、2分後には、pH7以
上に回復することから、現場の生物はこの
生物試験で設定されたような状況に曝さ
れることはほとんどないと考えられる。
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酸処理剤と施肥
よみがえれ!“宝の海”有明海
異変は今に始まったわけではない
藤原書店
2001年7月
広松 伝著
議論に登場しているすべてのマスコミ・学者・運動家・市民団体は、有明海異変問題をもっぱら公共事業をめ
ぐる議論にすり替えてしまっている。それに国までもが完全に巻き込まれているのが残念で腹立たしい。有明
海でこれまで何がやられてきたかこそが問題だ。
1970年代→有明鉱で採炭開始→坑内水排水→塩分濃度低下→ノリ養殖に悪影響 1979年~80年→大和干拓地先→2m以上沈下→干潟の大半が失われた
1980年年代→酸処理剤の使用開始→市民団体の反対→84年に福岡県が1漁期4回まで許可 →佐賀県も使用→有明海はドロ沼へ→フジツボの防除塗料で異変に追い打ち→アサリ、タイラ
ギは激減、アゲマキ絶滅
残液をダイレクトに海に排出したのでは、底生生物や微生物は堪ったものではない。これまでや
られてきた酸処理は、底生動物や生態系の循環の立役者である微生物に大きなダメージをも
たらすのは必至だ。その結果、有機栄養塩の無機化が進まず、水質汚濁、ヘドロ化、無機栄養
塩の不足が生じ、結局大量の化学肥料(硫安)が使用される
99年2月7日佐賀県において、大量の硫安がクレーン車で漁船に積み込まれている現場に遭遇
した。翌8日、10日とスズキ釣りに出たが、福岡県の漁場でさえ植物プランクトンが爆発的に発
生。一週間後の15日になると、わずか海面下40センチの船外機のプロペラが見えないほどの
ひどさである。
有明海に下水を注ぐ五県の住民すべてが合成洗剤を使わず、農薬は必要最小限度に。農水
省は川は堀のコンクリート三面張りをやめる。そうすれば再生は直ぐだ。年明け以降酸処理が
なかったのか、わずかに生き残ったアサリが久し振りに身が大きくておいしい。
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1979年~80年→大和干拓地先→2m以上沈下→干潟の大半が失われた
筑後川河口左岸域干潟 現存1956ha 1978年以降消失1181ha 消失率37.6%
(環境省『日本の干潟」をもとに花輪伸一作成 日本野鳥の会筑後支部発会式講演資料)
陥没及び地盤沈下が原因と推定
干潟の重要性→窒素循環の中の重要な機能
有明海の子宮「諫早湾」→あそこで産卵→夏に川をさかのぼる→秋に干潟に戻る →成長して橘湾にも出る→締め切りは諫早湾の生物育成機能をなくした (諫早湾締切も原因の一つ)
筑後大堰→筑後川の自然が後退した→大堰の背後水を利用→リスクの小さなところに
造られている→長良川河口堰と違って海水が遡る最上流部に建設→川が潮汐の干満
で呼吸
酸処理→初期は非常に有効→アゲマキが小さく、アサリも激減→佐賀県が始めたら
(1993年度)アゲマキが絶滅(1992年なので誤解)
フジツボ防除塗布→おびただしい魚が死んだ→中止になった
農薬・除草剤、殺菌剤・化学物質・合成洗剤→微生物・小さい生き物が全部死ぬ
色々と話しましたが、私たちはいろいろな化学物質を使って排出していますが、それ
が有明海に流れ込んで海を駄目にしているんです。ここのところをきちんと認識して
いただきたいと思います。
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声 明
酸処理剤を有機酸から希塩酸へ
2010年12月14日
国際海洋法に違反するクエン酸・リンゴ酸・乳酸を使
用している(酸処理剤) 「海洋汚染防止法」において厳しく規制されているリン
酸・硝酸・アンモニア・硫酸などの塩類添加を許して
いる(施肥) 富栄養化と多様な底棲生物の激減・絶滅を放置して
きた 水道法でも禁止されている有害物質クロロ酢酸の使
用も黙認している 水産庁次官通達は、里海・干潟に過大な環境負荷を
与え、有明海異変の起因になっている。 荒廃の原因になっている 長期開門調査は海生と淡水生の底棲生物の発生と死
滅を繰り返し、海域環境の一層の悪化をもたらすこと
は明らか。 ノリ養殖の安定化・付着雑菌除去のためなら、自然に
優しい希塩酸の使用を普及させ、殺菌処理後には重
曹や薄い苛性ソーダによって中和後に投棄する方法
を指導・推奨すべきである。
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酸処理剤による負荷量
環境省資料 3.11水産資源 (1)ノリ養殖 より
酸処理剤(平成13年度) 2,358トン COD 708トン T-N 30トン T-P 80トン
酸処理剤(平成15年度) 3,061トン COD 957トン T-N 37トン T-P 83トン 陸域からの負荷量
国調費グループ試算(平成13年度) COD 104,89トン T-N 28,624トン T-P 3,841トン 養殖ノリによる取り上げ量 平成13年度 炭素 5,947トン 窒素 937トン T-P 103トン 施肥による負荷
佐賀県有明海で実施されている栄養塩添加の現状
川村嘉応・久野勝利・横尾一成
佐有水研報25(81—―87)2011
明治42年出版「浅草海苔」 岡村 「窒素の必要性と河川水の有効性を指摘」
佐賀県の栄養塩添加→尿素複合液肥料・漁場散布法・河川投入法・表層浮動法→効果が少ない
昭和54年「施肥事業連絡協議会」 平成9年西部地区極度の栄養塩不足→平成10年12月から漁場散布法・硫安で実施 平成11年「佐賀県有明海ノリ漁場環境改善事業連絡協議会(栄養塩添加連絡協議会)」(民間)
栄養塩が生物に与える影響
ノリ養殖期間中の栄養塩添加が,硫安や硝安などの栄養塩添加剤を完全に溶解し
て散布した場合(適正使用)には,生物に与える影響は少ないものと考えられた。
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栄養塩添加に使用されている硝安の水産生物に対する影響を調べた
窒素濃度に換算して
5,000μg/ℓ(5ppm) 25,000 μg/ℓ(25ppm),50,000 μg/ℓ(50ppm)
の濃度で約12日間水産生物を飼育し,その生残を調べた。
結果
5,000μg/ℓ(5ppm)→タイラギ,アサリ,アゲマキ,シバエビ,シャコ
は硝安の影響による斃死は見られなかった
25,000 μg/ℓ(25ppm)→タイラギ1才貝で斃死が見られた
50,000 μg/ℓ(50ppm)→タイラギ0,1才貝,アサリ,シバエビでは斃死が見ら れ,硝安の影響が認められたが,アゲマキ,シャコでは 斃死は見られず硝安の影響は認められなかった
○ノリ養殖期間中,湾奥部の海域の窒素濃度は,溶存態無機窒素量(DIN)で300 μg/ℓ以下が通常の濃度であり,ノリ養殖における栄養塩添加は,100 μg/ℓに不足
する量を添加して実施されている。したがって,有明海の潮流,潮汐の特徴から,生物
への影響がないとされた値の最高値5,000 μg/ℓが継続しないと推測されること,栄
養塩添加後の海域調査において,5,000 μg/ℓ(5ppm)の観測事例がないこと,およ
び先述した試験研究結果から,ノリ養殖期間中の栄養塩添加が,硫安や硝安などの栄
養塩添加剤を完全に溶解して散布した場合(適正使用)には,生物に与える影響は少
ないものと考えられた。
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栄養塩添加材が環境に与える影響
ノリ養殖期間中の栄養塩添加が,硫安や硝安などの栄養塩添加剤を完全に溶解し
て散布した場合(適正使用)には,生物に与える影響は少ないものと考えられた。
筑後川からの無機態窒素量の年間流入量は3,690トン(=1g/トン× 10,108,800m3/日× 365 日)
有明海湾奥部への河川からの無機態窒素の流入量は7,380トン(=3,690トン×2倍(筑後川流
入量の2倍))と試算される
河川から流入する窒素量を7,380 トン/年と仮定すると,栄養塩添加量はその約3.2%である
ノリ漁期(11〜3月)の河川流量としては,約40m3/秒であるので,流入推定量は3,456,000m3/日(=40m3/秒
×60秒×60分×24時間),ノリ漁期(151日)中に有明海に流入する窒素量としては,522トンとなり栄養塩添加
量はその45%に相当し,この時期に限って試算すると大きな値を示している。
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2.栄養塩添加の経済効果と損益
分岐点について
栄養塩添加効果を当日+3日間,
入札間隔は入札当日 から次の
入札の2日前(集荷は入札当日か
ら入札日2日 前までに摘採され
た乾海苔であることから)とし,色
落 ちすればすべての乾海苔が3
円になると仮定して,下記 の計算
式を使って各年度の栄養塩添加
による生産の効果 金額を試算し,
表6に示した。
その結果,最大約 35 億円 の
経済効果が試算された。 〇効果試算式
=(支所の平均単価−3円)×生産枚数×効果継続日数)/入札間隔
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