千種先生担当分(PDF:12KB)

ライフサイクルシミュレーションレポート(千種担当分)
SIM4年 30777 梅城 崇師
保全技術者の知識、能力の構造と形成メカニズム、それら技術力を有効に伝承していくた
めの技術的方策について学んだところを述べよ。
システムの導入初期から、高度化し普及していく過程においては、様々なトラブルがシ
ステムに生じ、当然その対処にあたる人間はそれらのトラブルに対する対処方法も自然に
身についてくるものである。しかしながら、システムが成熟し機器の信頼性が向上してく
るとトラブル件数も減少してくるため、管理者がトラブルに遭遇する経験も減少すること
になる。管理者の世代交代により多数のトラブルを経験して実務を重ねてきた世代が抜け、
新しいトラブルをあまり経験していない世代が増えることは、管理者のトラブル対処技術
の不足を招くだけでなく、トラブルを予知し未然に防ぐ直感とも言える能力を持つ管理者
がいなくなり、トラブル抑止効果の衰退にもつながるのである。経験に恵まれた熟練者が
持っている膨大な知識やノウハウを、新人や若手といった経験の少ないものに上手に継承
していく手段や、そのような訓練を的確に行える訓練センターなどの教育施設の整備が必
要となるのである。
また、トラブルというものは、単にその要因や結果などを知識として知っているだけで
は役に立たないことが多い。トラブル経験を通して体得される知識技術や、そのトラブル
発生のメカニズムに至るバックグラウンドの知識が重要なのである。単なるマニュアル知
識だけでなく、それらが伝承・共有されることこそ、つまり、形式知だけでなく暗黙知ま
でもが共有されることこそが重要なのである。しかしバックグラウンドの知識こそ、個々
人の中にのみ存在しており、体系化されていなく、形式知化が非常に難しい種類の情報な
のである。特に最近のような巨大で複雑なシステムでは、バックグラウンドとなるべき個々
の機器設備の仕組みや、互いのネットワーク構成等の情報量が膨大であるという性質を持
ち、それらの構築や発展に直接関わることでバックグラウンド知識を習得してきた熟練者
と違い、新人は完成物を見て学ぶことしかできないため埋めることのできない知識差とい
うものが存在してしまうのも事実なのである。
これらの問題を解決する方法として、講義の中では熟練者の知識をデータベースにまと
め、それを手軽に利用できる環境の整備事例が紹介された。
これらの技術伝承システムを構築する上で重要な点はいくつかある。
まずは、誰が作成するかという点である。熟練者に知識があるのだから熟練者がそのよ
うなシステムのためになるデータを作成すればよいと考えるかもしれないが、実際はそう
はいかない。熟練者はそれ相応のタスクを持っているわけで、それに加えてデータ作成の
ようなタスクを増やすことは熟練者にとっては到底受け入れることはできないし、記録を
とりながら作業をすることが困難な場合も存在する。この場合にはデータ作成要員を熟練
者の傍に付けることで、熟練者が作業に集中できる環境を構築することになる。また、熟
練者が自分で持っている暗黙知というものは自分ではなかなか気づきにくいため、このよ
うな第三者的なデータ作成要員を付けることで、暗黙知の形式知化が進むことも考えられ
る。
熟練者の作業データだけでなく、バックグラウンドとなる機器特性や、システム設計段
階での設計仮定といった知識、一般的な科学技術情報といった各種知識も収集されること
が望ましい。また各事例について、それに関係する事故事例などの情報も当然収集すべき
である。
次に、収集したデータの体系化が重要である。つまり、データ利用者にとって使いやす
いシステムの構築である。個別に収集した事例や作業工程を適当に並べただけでは、意味
のある情報を取り出したり、効率的に学習したりすることは難しい。データが有機的に結
合し、系統順に並べられて至り、ホームページのリンク様に互いのデータを参照しあった
りすることで、目的とする情報を簡単に検索し、参照し合えるデータ環境が必要なのであ
る。これらのデータ体系化という作業は、非常に難しくホットな分野である。これに対す
る最善策は見つかっていないが、部品名や使用環境などをキーワード付与したり、時系列
や作業手順順に並び替えたりすることで、一定の効果は期待できる。
更に、そのシステムが保持するデータというのも、マニュアル的な文字情報だけに留め
ることは避けるべきである。人間に一番重要なものは直感であり、人間の感覚に一番大き
く作用するものは視覚である。よって、映像やコンピュータグラフィックス、シミュレー
ション等を効果的に用いたデータ作成が求められる。特に実際の現場の映像というものは、
文書からは確認することが難しい、誰がどのようなタイミングで何をするのかといった、
各人の時系列に沿った時間の流れをリアルタイムに把握できる臨場感が得られるため、そ
の効果は非常に大きい。
最後に、データ提供者にとっても使いやすいシステムの構築が挙げられる。そのような
データ提供システムは一度作ったからといってそれで終わるわけではない。新しい技術や
知識が習得されるたびに、それを更新していかなければ意味が無い。また、熟練者と若手
を結ぶコミュニケーションツールなども必要になる場合があるかもしれない。いずれにし
ろ、情報提供者が簡単で気軽に情報を提供できるシステムが求められる。情報の提供に手
間がかかるとなると、情報の提供が面倒で更新が滞りがちになる。
情報の送受信双方が自発的に行動したくなるようなシステムが必要なのである。