人間の経験知を反映した輸送運賃計算システムの

平成 26 年度 静岡理工科大学 総合情報学部 人間情報デザイン学科 卒業論文概要
学籍番号
氏 名
岩田 力
指導教員
工藤 司
1118022
テーマ
人間の経験知を反映した輸送運賃計算システムの構築と評価
(提出日: 平成 27 年 2 月 2 日)
1. 研究の背景
現在、全国の中小運送会社では手作業による業務が多く行われていることから、IT 化の必要性が
指摘されている。一方、業務のロジックは経験知として蓄積されているため、業務システムの導入に
は、これを明示知であるシステムの要件に変換しなければならない。そこで、本研究では段階的に、
経営者からのヒヤリングと検証を繰り返すアプローチにより、運賃計算システムを構築、評価した。
2. システムの方式
本研究の対象とした中小運送会社に対し業務分析を行った結果、以下の方式が必要であることが分
かった。第 1 に運賃計算にはノウハウやこれまでの経緯などの経験知が必要であるため、経験知を
持った経営者が不在の際には業務が滞ってしまう。よって、経営者不在の際にも運賃計算を実行でき
る必要がある。運賃計算は式(1)で行っていたが、実績と比較した結果、取引先ごとに単価が異なっ
ていることが分かった。そこで、本研究では式(2)に示すように運賃実績から取引先倍率𝑀 を求め、
式(1)に適用し、評価実験を行った。結果を図 1 の①に示す。実験の結果、特例データを排除するこ
とで図 1 の②、③のように運賃精度が向上し、システムの要件として計算用データの蓄積が必要で
あることが分かった。さらに、本システムで計算した運賃と人間が計算した運賃の差異を検知、修正
する機能が必要である。第 2 に紙の帳簿を利用しているため運賃の履歴参照などの各種業務が非効
率的であることから、紙の帳簿を検索システム化する。第 3 にシステムの導入に関しては操作や運
用への不安感が大きいため、初心者でもわかりやすい画面設計を行う。
2
6
𝐾𝑟𝑄 𝑟
𝑈 =𝐵∗𝐶∗
𝑟=1
𝑈:運賃
+
𝐽𝑠 ∗ 𝑄 𝑠
(1)
𝑠=3
Q は特徴関数
𝑀=
Q(s)=0 使用しない
Q(s)=1 使用する
誤差率平均
𝑛
𝐴𝑖 /𝐵𝑖 ∗ 𝐶 /𝑛 (2)
𝑖=1
:取引 運賃
:輸送距離 𝐶:1km 単価
𝐾𝑟 , 𝐽𝑠 :特例(乗算,加算項目)
: 取引 輸送距離
𝐶:1km 単価
:取引件数
図 1 単価の誤差率改善
3. 実装と評価
本システムでは運賃の実績データと計算用データの蓄積をし、後者を使用した取引先倍率計算機能
を実装した(図 2)。さらに、システムが自動計算した運賃を人間が算定した運賃と比較、修正する機
能を実装した(図 3)。この時、運賃の根拠となる履歴の調査を行うため、日付、取引先などによる検
索機能を実装した(図 3)。本研究ではシステムの画面を初心者でも使いやすいよう Java の SWT を使
用して実装し、データベースとして MySQL を使用した。
システムの評価として、第 1 に新規取引に対するシステムの運賃計算結果を評価した結果、平均
誤差率が±15.7%となった。これは計算用データの中に分離不可能な特例データが混在していたこと
が原因であった。第 2 に手作業とシステムでの帳簿参照時間の比較を行った結果、手作業に比べ約 3
分の 1 に短縮することができた(図 4)。第 3 にユーザの試使用により、画面の評価を行った結果、ボ
タンやリストがあるため操作がわかりやすいとの意見を頂いた。さらに、図 4 に示すよう初心者で
も効率的な作業が行えた。ただし、導入に関しては入力ミス等の運用面での不安が指摘された。
4. 考察とまとめ
本稿では、運送会社を対象として、人間の経験知に基づく運賃計算をシステム化し、評価した。実
際の構築を通じて標準データを蓄積することで精度が向上できること、および画面の支援機能により、
容易に計算用のデータの蓄積が可能であることが分かった。今後は計算用運賃を蓄積することで、運
賃計算の精度向上が改善していくと予想され、本研究のアプローチは有効であると考える。また、業
務の効率化の観点でも、参照業務で本システムは有効であることが分かった。
一方で、操作性や効率性のよいシステムを提案したとしても、実際の導入にあたっては十分な試使
用期間を設けて検証、慣熟するなど、ユーザの不安を払拭するプロセスが重要であることが分かった。
誤差確認画面
図 2 取引先倍率計算機能のデータフロー
参照画面
図 3 見積入力画面の構成
図 4 実績運賃の参照時間