担子菌 Coprinopsis cinerea におけるセシウムの吸収•蓄積に カリウムおよびカルシウムが与える影響 ○新倉 舞,渡井 千絵,梅澤 究,半 智史, 渡邉 泉, 吉田 誠(農工大・農) ● Introduction ● Conclusion 2011年に発生した福島原発事故後、我が国における重要な特用林産 物であるきのこにおいて高濃度の放射性セシウムが検出され、きのこ生 産農家は大きな影響を受けている。したがって、放射性セシウムを蓄積 させないきのこ類の栽培法の確立が重要となり、そのためには細胞内へ のCs+蓄積メカニズムを詳細に把握する必要がある。 既往の研究により、きのこにおけるCs+の蓄積は、植物と同様、K+ の存在下で低減することが報告されている。また、近年、きのこと同じ 真菌類に属す酵母においては、シグナル伝達に関わるCa2+もCs+蓄積に 影響することが報告された。 本研究では、モデル担子菌Coprinopsis cinerea を対象とし、K+およ びCa2+がCs+の取り込みに与える影響を調査した。さらに、K+輸送体 遺伝子の発現解析を行い、Cs+蓄積メカニズムに関する知見を得ること を試みた。 1. K+, Ca2+の蓄積挙動 菌糸 : 培地中の各元素濃度の増加に伴い、蓄積量が有意に増加 子実体 : 一定量以上は輸送されない 2. K+ および Ca2+ が Cs+の蓄積に与える影響 菌糸 : K+と競合する傾向 子実体 : K+および Ca2+の影響を受ける 3. Cs+の取り込みに関与するK+輸送体 菌糸 : PAT 子実体 : 既知のK+輸送体とは別の輸送体 ● Methods • 菌株 ・・・ Coprinopsis cinerea #326株 • 培養条件 ・・・ 安定同位体セシウム(50μM) + カリウムイオン(5mM,15mM,50mM) / カルシウムイオン(50μM,150μM, 500μM) を含む液体YMS培地 37℃暗期 2日間 , 25 ℃明暗12時間サイクル 6日間 静置培養 • 菌体回収 ・・・ 各培地で子実体形成したサンプルを傘、柄、菌糸に分画し、さらに各々を2等分にした • 元素分析 ・・・ 2等分にした試料のうち片方をICP-MSに供し、サンプル中のK+, Ca2+, Cs+濃度を測定 • 遺伝子発現解析 ・・・ 2等分にしたもう一方のサンプルからRNAを抽出し、定量RT-PCRによりC. cinereaが保持するK+輸送体遺伝子の発現挙動を解析 + K の蓄積挙動 2+ Ca の蓄積挙動 70000 柄 60000 菌糸 ** 50000 40000 30000 70000 60000 1600 かさ K+ 1600 かさ 柄 1400 柄 1400 菌糸 1200 菌糸 1200 Ca2+濃度(μg/g) かさ 80000 K+濃度(μg/g) 80000 Ca2+ Ca2+濃度(μg/g) K+ K+濃度(μg/g) 1 800 40000 600 30000 400 400 10000 10000 200 200 0 0 0 0 50 mM K50mM 50 μM 150 μM 500 μM 図1,2. 培地中の K+, Ca2+濃度の増加に伴う菌体中K+濃度の変化 2+ Ca が K+ かさ 柄 菌糸 Cs+濃度(μg/g) 500 400 300 * 200 ** 100 0 600 Ca2+ 50 mM mM 50 400 300 200 * * 0 + + Cs の取り込みに関与するK 輸送体 PAT K5mM 8000 K15mM 7000 K50mM 6000 5000 4000 3000 2000 * 1000 50 μM 150 μM 500 μM 図5,6. 培地中の K+, Ca2+濃度の増加に伴う菌体中Cs+濃度の変化 図中の*はK5mM,Ca50μMの子実体中セシウムイオン濃度と比較して有意な差 が あることを示す. (Tukey ’s test : *p<0.05, **p<0.01) 50 μM 150 μM 500 μM 図中の*はCa50μMの菌糸中カルシウムイオン濃度と比較して有意な差が あることを示す. (Tukey ’s test : *p<0.05, **p<0.01) 9000 100 5 15 mM K50mM 50 mM K mM 5 mM K15mM 15 mM 10000 500 菌糸 図3,4. 培地中の K+, Ca2+濃度の増加に伴う菌体中Ca2+濃度の変化 3 + Cs の蓄積に与える影響 55mM mM DNAコピー数(相対量) 600 + K , Cs+濃度(μg/g) 2 図中の**はK5mMの菌糸中カリウムイオン濃度と比較して有意な差が あることを示す. (Tukey ’s test : *p<0.05, **p<0.01) * 600 20000 15 mM K15mM 柄 800 20000 5K5mM mM かさ 1000 1000 50000 Ca2+ 0 菌糸 傘 柄 図7. K+輸送体遺伝子(PAT)の発現変動 図中の*はK5mMにおける菌糸中のPAT発現量と比較して 有意な差があることを示す. (Tukey ’s test : *p<0.05, **p<0.01)
© Copyright 2024 ExpyDoc