( 2) 1 我が国における健康をめぐる施策の変遷 1 国民皆保険の実現 我が国の社会保障制度は,第一次世界大戦後の a 年に制定された 健康保険法をはじめ,他の先進諸国と同様に,まず労働者(被用者)を対 象として発足したが,労働者以外の者にも医療保険の適用範囲を拡大する ため, ② 年に旧国民健康保険法が制定され,戦後の ③ 制度の 展開の基礎が作られた。 しかし,医療保険制度の未適用者が,昭和 31 年 3 月末時点で零細企業労 働者や農林水産業従事者,自営業者を中心に約 2,871 万人(総人口の約 32 %)存在し,大企業労働者と零細企業労働者間,国民健康保険を設立して いる市町村とそれ以外の市町村住民間の「二重構造」が問題視されていた。 このような課題に対応する観点から,政府は, ③ の基盤を確立す るため,国民健康保険制度を強化すべく昭和 33 年 3 月に, ①昭和 36 年 4 月から全市町村に国民健康保険の実施を義務づけること ②給付の範囲を健康保険と同等以上とすること ③国の助成を拡充すること 等を内容とする「新国民健康保険法」案を提出し,昭和 33 年 12 月に国会 を通過した。 この法案は,翌昭和 34 年 1 月から施行され,当初の予定どおり,昭和 36 年 4 月に ③ の体制が実現した。 これにより,我が国では,「誰もが安心して医療を受けることができる医 療制度」が確立され,世界最高水準の平均寿命や高い保健医療水準の達成 に向けて大きく前進することとなった。 2 老人保健対策 一般に有病率の高い老人に対する保健医療対策については, ④ 年 に制定された老人福祉法で,65 歳以上の人を対象に,疾病予防,早期発見, 早期治療を目的として老人健康診査を実施していた。 ⑤ 年に老人福祉法改正により実施された老人医療費支給制度(無 料化)は,老人受療率の上昇及び医療費の増大を招き,各医療保険制度間 の負担の不均衡を拡大させた。さらに,疾病構造が成人病中心に変化して きている中で,高齢者の健康という観点からは,壮年期からの予防や早期 発見のための対策が重要であり,こうした高齢化社会を取り巻く様々な問 題に対処するため,昭和 57 年に ⑥ が制定された。 ⑥ では,老人医療費支給制度を廃止し,高齢者にも一部負担金を 求めることとし,また各医療保険制度間の公平を図るため,拠出金を負担 する仕組みが導入された。 a 大正 11 ② ③ 昭和 13 国 民 皆 保険 ④ 昭和 38 ⑤ 昭和 48 ⑥ 老 人 保 健法 ( 3) また,同法では,医療以外の保健事業について「国民は,年齢,心身の 状況に応じ,職域又は地域において,老後における健康の保持を図るため の適切な保健サービスを受ける機会を与えられるものとする」と定め,壮 年期からの健康づくりと成人病の予防,早期発見,早期治療を図ることと した。 事業の実施に当たっては,成人病の発生が急増する傾向にある 40 歳以上 の者を対象に,(イ)健康手帳の交付,(ロ)健康教育,(ハ)健康相談,(ニ)健康 診査,(ホ)機能訓練,(ヘ)訪問指導を市町村において実施することとした。 3 介護保険制度と介護予防 (1)介護保険制度の創設 21 世紀の本格的な高齢社会を控え,要介護高齢者の増加や介護期間の長 期化など,介護ニーズはますます増大することが見込まれるようになって きた。その一方で,核家族化の進行や,介護する家族の高齢化など,要介 護高齢者を支えてきた家族をめぐる状況も変化してきた。 そのため,高齢者の介護を個人の問題としてとらえるのではなく,高齢 者を全ての国民で支え合う仕組み(介護保険制度)が, a 年に施行 された。 (2)介護予防に関わる制度の見直し i)介護保険制度施行後の問題点 介護保険制度の開始以降,サービス提供基盤は急速に整備され,サービ ス受給者数についても,制度開始時の平成 12 年度は 184 万人であったが, 平成 17 年度には 337 万人と約 1.8 倍となり,介護保険制度は国民の老後の 安心を支える仕組みとして定着してきた。 一方で,介護保険施行後の問題の一つとして,軽度者(要支援,要介護 1) が大幅に増加したことがあげられた。平成 12 年 4 月末時点では,要介護認 定者全体に対する軽度の者の割合が 38.6 %であったものが,平成 16 年 4 月末時点では 48.8 %と全体の約半数を占めるに至った。 要介護度別に介護が必要となった原因を見てみると,要介護度が高い人 の多くは,「脳卒中モデル」に該当する一方で,増加する軽度者の多くは, 「廃用症候群モデル」に該当していた。 しかしながら,従前の制度における予防給付は,死亡の原因となる「脳 卒中モデル」を中心としたものであり,軽度者に対するサービスが,介護 予防につながっていないとの指摘がなされていた。 こうした状況を踏まえ,「予防重視型システムへの転換」を大きな柱の一 つとして掲げて,平成 17 年 6 月に介護保険法が改正され,平成 18 年 4 月 より施行された。 a 平成 12 ( 4) ⅱ)予防重視型システムへの転換 平成 17 年の介護保険法の改正により,軽度者の状態像を踏まえ,できる 限り要支援・要介護状態にならない,あるいは,重度化しないよう「介護 予防」を重視したシステムへの転換が図られた。 具体的には, (1)従来の要支援と要介護 1 の人を対象に,新たに要支援 1 及び要支援 2 という区分を設定し,要支援者には介護予防に力点を置いた a を a 予防給付 ② 地 域 支 援事 業 提供することとし, (2)また,要支援・要介護状態になる前からの介護予防を推進するとともに, 地域における包括的・継続的なマネジメント機能を強化する観点から, 市町村が実施する「 ② 」が創設された。 1)予防給付 平成 17 年改正で創設された ① 制度は,「要支援状態にあってもそ の悪化をできる限り防ぐこと」を目的として実施されるものであり,対象 者は要支援 1 及び要支援 2 と判定された人である。 軽度者の人は,転倒・骨折,関節疾患などにより徐々に生活機能が低下 していく「廃用症候群(生活不活発病)」の状態にある人や,その可能性の 高い人が多いのが特徴で,適切なサービス利用により「状態の維持・改善」 が期待された。 2)地域支援事業の創設 ② は,被保険者が要介護状態になることを予防するとともに,要 介護状態となった場合においても,可能な限り地域において自立した日常 生活を送れるよう支援するために創設された事業で,それ以前に実施して いた「介護予防・地域支え合い事業」や老人保健事業等を再編したもので ある。 ② は,各市町村における介護給付費の 3 %以内で実施することと され,平成 17 年改正において,「介護予防事業」,「包括的支援事業」及び 「任意事業」の 3 事業を創設し,さらに,平成 24 年の介護保険法の改正で は新たに「介護予防・日常生活支援総合事業」を創設し,要支援者・介護 予防事業対象者向けの介護予防・日常生活支援のためのサービスを総合的 に実施できる体制としている。 ( 5) 4 特定健康診査・特定保健指導 (1)特定健康診査・特定保健指導の導入 我が国では, 「第 1 次国民健康づくり対策」 , 「第 2 次国民健康づくり対策」 を経て,平成 12 年からは「21 世紀における国民健康づくり運動(健康日 本 21)」として,健康づくり施策を推進してきた。 それとともに,健康診断,健康診査(健診)については,医療保険各法 に基づき医療保険者が行う一般健診や,労働安全衛生法に基づき事業者が 行う健診,老人保健法に基づき市町村が行う健診として実施されてきた。 しかしながら,「健康日本 21」の中間評価では,糖尿病有病者・予備群 の増加,肥満者の増加(20 ~ 60 歳代男性)や野菜摂取量の不足,日常生 活における歩数の減少のように健康状態及び生活習慣の改善が見られない, もしくは悪化しているという状況であった。 このような状況を踏まえ,平成 20 年 4 月から「高齢者の医療の確保に 関する法律」に基づき,メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に 着目した「特定健康診査・特定保健指導」が新たに導入されることとなっ た。 特定健康診査の導入に伴い,それまで市町村が実施してきた 40 歳以上の 人を対象とした老人保健事業に基づく基本健康診査については, ・40 ~ 74 歳の人は,各医療保険者(国保・各被用者保険)が実施主体と して, a (被保険者・被扶養者)を対象に特定健康診査を実施 a 加入者 ・75 歳以上の人(一定の障害がある 65 歳以上の人で,後期高齢者医療制 度の被保険者の人を含む)は,各都道府県に設置された後期高齢者医療 広域連合が実施主体として,後期高齢者健診を実施することとされた。 (2)特定健康診査 特定健康診査とは,医療保険者(国保・被用者保険)が実施主体となり,40 ~ 74 歳の ① (被保険者・被扶養者)を対象として,メタボリック シンドロームに着目して行われる健診である。 それまでの老人保健事業に基づく基本健康診査は,個々の病気の「早期 発見・早期治療」を目的にしたものであったが,特定健康診査は, の発症や重症化の「予防」を目的としたものであり, ② ② の発症前の 段階であるメタボリックシンドロームの該当者やその予備群を発見するた めの健診である。 健診項目については,メタボリックシンドロームの概念を踏まえつつ, 科学的根拠に基づき,内臓脂肪の蓄積状態を見るために腹囲の計測が追加 されるなど,特定保健指導の対象者を的確に抽出するための検査項目が導 入されている。 ② 生 活 習 慣病 ( 6) (3)特定保健指導 特定保健指導は,特定健診の結果により 生活習慣の改善による ① a の発症リスクが高く, a 生活習慣病 の予防効果が多く期待できる人に対して, 医師,保健師,管理栄養士等の専門家が対象者ごとの身体状況に合わせた 生活習慣を見直すためのサポートを実施するものである。 特定保健指導の対象者は,内臓脂肪蓄積の程度とリスクの要因の数に着 目し,リスクの高さや年齢に応じて, ② の結果から「動機付け支援」 ② 特定健康診査 と「積極的支援」の 2 段階に分類される。「動機付け支援」に比べ「積極的 支援」は,より ① のリスクが高い人に対し行われる支援である。 2 健康をめぐる状況と意識 1 健康を取り巻く社会状況の変化と健康意識 (1)高齢化の進展と人口構成の変化 近年,晩婚化や非婚化の進展によって我が国の合計特殊出生率は低下し, 平成 17 年に 1.26 を記録して以降,わずかながら回復したものの低水準で 推移するなど,少子化の傾向が続いている。 少子化が進展する一方で,医療水準の向上などにより平均寿命が延びた ことで,65 歳以上の人口も増加し,平成 25 年には 3,190 万人となり,過 去最高となった(このうち 75 歳以上の人口は 1,560 万人。)。総人口に占め る高齢者の人口の割合は 25.1 %となり,国民の 4 人に 1 人が高齢者となっ ている。 65 歳以上の高齢者数は,平成 37 年には 3,657 万人となり,人口の 3 割 を超えることが予測されている。また,75 歳以上の高齢者が全人口に占め る割合も増加していき,平成 67 年には,25 %を超える見込みとなってい る。 (2)国民医療費等の状況 1 人当たりの医療費も年齢とともに高くなることから, ③ の進展 などによって国民医療費は年々伸び続け,平成 23 年度の医療費は,前年度 比で約 1.2 兆円増の 38.6 兆円となった。また,今後,高齢者(特に 75 歳 以上の高齢者)の増加に伴い,将来の医療費は更に増大していくことが予 想される。 ③ の進展に伴い,要介護高齢者の増加,介護期間の長期化など, 介護ニーズはますます増大している。例えば,要介護(要支援)の認定者 数は,平成 24 年 4 月現在で 533 万人で,介護保険制度が開始されてからの 12 年間で 2 倍以上となっている。 ③ 高齢化 ( 7) 2 生活習慣病を予防するために~健診と検診 (1)特定健診 現在, a の急速な進展に伴い,疾病全体に占めるがん,心疾患, a 高齢化 ② 特 定 健 康診 査 ③ ④ 高く 低く ⑤ 被扶養者 脳血管疾患,糖尿病等の生活習慣病の割合が増加傾向にあり,死亡原因で も生活習慣病が約 6 割を占めている。 このような中で,国民の生活の質を生涯にわたって維持・向上させるた めに,糖尿病,高血圧症,脂質異常症等の発症,あるいは重症化や合併症 への進行の予防に重点を置いた取組みが重要となることから,厚生労働省 は,平成 20 年から,40 歳から 74 歳の人を対象として「 ② 」を開始 した。また,健診の結果,メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群) 等の生活習慣病の発症リスクの高い人に対して,生活習慣の改善に向けた サポート(特定保健指導)を実施している。 平成 23 年度における ② の対象者数は約 5,253 万人,受診者数は 2,347 万人で,実施率は 44.7 %となっている。実施率は,年々上昇しては いるものの,全国目標は平成 29 年度までに 70 %となっており,その向上 のための一層の取組みが必要である。 ② は,医療保険者が加入者に実施することなっているため,実施 率は,保険者の種類別で大きく異なり,健康保険組合や共済組合において ③ ,市町村国保や国保組合,全国健康保険協会,船員保険において ④ なっている。 被用者保険の保険者の の実施率と比較して ⑤ ② の実施率の内訳を見ると,被保険者本人 の実施率が低い状況にあるため,受診勧奨を 行うなど,その向上のための取組みが必要である。 なお, ② の結果,メタボリックシンドロームの該当者の年間平均 医療費は,非該当者よりも約 9 万円高いという結果も報告されており,医 療費適正化の観点からも,該当者の割合を減らしていくことが重要である。 (2)特定保健指導 ② の結果,生活習慣病の発症リスクが高い人をサポートし,対象 者が生活習慣を見直すことで発症を予防するとともに,重症化を防ぐため, 特定保健指導が行われており,腹囲が男性 85 ㎝,女性が 90 ㎝以上など一 定の基準に該当する人を対象としている。 平成 20 年度に特定保健指導を受けて平成 21 年度の ② も受診した 約 23 万人のうち,メタボリックシンドロームの該当者又は予備群と判定さ れた人は平成 20 年度の約 18 万人から,特定保健指導終了後の平成 21 年度 には約 12 万人と約 3 割も減少しており,特定保健指導は成果を出しつつあ る。 ( 8) 3 健康寿命の延伸に向けた最近の取組み 高齢者の健康については,就労や社会参加を促進するとともに,虚弱化 を予防し,先送りすることが重要である。介護保険サービスの利用者数の 増加傾向は続くと推測されるが,生活習慣の改善,介護予防の取組みの推 進により, a となる時期を遅らせることができると期待される。こ うした観点から,介護保険サービスの利用者の増加の抑制を目標とすると ともに,運動器の障害のために自立度が低下し,介護が必要となる危険性 の高い状態と定義される「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」を 認知している国民の割合を増加させることを目標とした。 このほか,少子高齢化を背景として,高齢者が労働力となることへの期 待が高まっていることなどから,高齢者の社会参加の促進等を目標とした。 1 「国民の健康寿命が延伸する社会」に向けた予防・健康管理に関 する取組の推進 厚生労働省では,日本再興戦略等を踏まえ,平成 25 年 8 月,いわゆる団 塊の世代が 75 歳となる平成 37 年に向けて,「 「国民の健康寿命が延伸する 社会」に向けた予防・健康管理に関する取組の推進」を取りまとめ,公表 した。 ここでは,(1)高齢者への介護予防等の推進,(2)現役世代からの健康づ くり対策の推進,(3)医療資源の有効活用に向けた取組の推進により,5 兆 円規模の医療費・介護費の効果額を目標としている。 これら施策の実施に当たっての特徴としては,(イ)レセプト・健診情報等 のデータを最大限活用した効果的な取組みの推進,(ロ)先に述べた健康づく り推進本部を中心に厚生労働省内で横断的な体制で推進すること,(ハ)推計 が可能な取組みは,それぞれの取組みの目標としての効果額を提示したこ とがあげられ,具体的には,以下の施策を実施することとした。 (ⅰ)「高齢者への介護予防等の推進」として,介護・医療情報の「見える 化」等を通じた介護予防等の更なる推進,認知症早期支援体制の強化, 高齢者の肺炎予防の推進等 (ⅱ)「現役世代からの健康づくり対策の推進」として,レセプト・健診情 報等を活用したデータヘルスの推進,特定健診・特定保健指導等を通じ た生活習慣病予防の推進,たばこをやめたい人を支援するたばこ対策の 推進,日本人の長寿を支える「健康な食事」の推進等 (ⅲ)「医療資源の有効活用に向けた取組の推進」として,後発医薬品の使 用促進,ICT 活用による重複受診・重複検査等の防止等 a 要介護状態 ( 9) 2 「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関す る法律」の成立等 (1)「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関す る法律」の成立 社会保障と税の一体改革の中では,平成 24 年 8 月に成立した「社会保障 制度改革推進法」において,政府は,「健康の維持増進,疾病の予防及び早 期発見等を積極的に促進する」こととされた。また,この法律に基づいて 設置された a は,平成 25 年 8 月に報告書を取りまとめた。その報告 書では,社会保障の機能充実と給付の重点化・効率化,負担増大の抑制が 述べられるとともに,QOL(Quality of Life)を高め,社会の支え手を 増やす観点から,国民の健康の維持増進,疾病の予防,早期発見等を積極 的に促進する必要性が指摘された。 この報告書の考え方に基づき,平成 25 年の臨時国会で「持続可能な社会 保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」が成立した。この 法律の中で,健康に関しては, ○「人口の高齢化が急速に進展する中で,(中略)健康寿命の延伸により長 寿を実現することが重要であることに鑑み,(中略)高齢者も若者も, 健康で年齢等にかかわりなく働くことができ,持てる力を最大限に発揮 して生きることができる環境の整備等に努める」こと(第 2 条第 1 項), ○「個人の選択を尊重しつつ,個人の健康管理,疾病の予防等の自助努力 が喚起される仕組みの検討等を行い,個人の主体的な健康の維持増進へ の取組を奨励する」こと(第 4 条第 2 項), ○「健康の維持増進,疾病の予防及び早期発見等を積極的に促進すること」 (同条第 3 項), ○「個人の選択を尊重しつつ,介護予防等の自助努力が喚起される仕組み の検討等を行い,個人の主体的な介護予防等への取組を奨励する」こと (第 5 条第 1 項) とされている。 この法律は,今後の社会保障改革の全体像と進め方を明示するものであ るが,その中で,健康長寿社会の重要性や個人による健康管理,疾病予防, 介護予防の取組みを支援し進めていくという方向性についても示している。 また,この法律を受けて,平成 26 年常会に社会保障と税の一体改革関連 法案を合計 5 本提出した。 a 社会保障制 度改革国民 会議 ( 10) <「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」の概要> 出典:平成 26 年版厚生労働白書 P162 (2)地域包括ケアの推進と介護予防に関する最近の取組み i)平成 24 年介護保険法改正 平成 24 年介護保険制度改正では,高齢者が住み慣れた地域で安心して暮 らし続けることができるよう,医療,介護,予防,住まい,生活支援サー ビスを切れ目なく提供する「 a 」の構築に向けた体制整備が行われ a 地域包括ケ アシステム ② 地域支援事 業 た。特に介護予防の観点からは,保険者の判断により,要支援認定者と要 介護状態等となるおそれの高い状態にあると認められた高齢者である二次 予防事業対象者を切れ目なく支援する「介護予防・日常生活支援総合事業」 を ② に創設した。 ( 11) ⅱ)地域包括ケアシステムの構築に向けて 社会保障審議会介護保険部会が,平成 25 年 12 月に取りまとめた「介護 保険制度の見直しに関する意見」において,介護予防の推進については, 機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけではなく,地域の中で 生きがいや役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど,高齢 者本人を取り巻く環境へのアプローチが重要であるとされた。このため, 元気高齢者と二次予防事業対象者を分け隔てることなく,住民運営の通い の場を充実させ,人と人とのつながりを通じて,参加者や通いの場が継続 的に拡大していくような地域づくりを推進するなど,機能強化を図る必要 があるとされた。 この意見を踏まえ,そして,「持続可能な社会保障制度の確立を図るため の改革の推進に関する法律」に基づく措置として, a の構築と介護 保険制度の持続可能性の確保等を図る「地域における医療及び介護の総合 的な確保を推進するための関係法律の整備に関する法律案」が第 186 回国 会に提出されている。 この法律案では在宅医療・介護連携の充実と併せ,全国一律の予防給付 (訪問介護・通所介護)を ② に移行することとしている。この見直 しは,高齢者は様々な生活支援サービスのニーズと社会参加のニーズがあ ること等を踏まえ, ③ が中心となって支え合いの体制づくりを推進 し,地域の実情に応じた多様な担い手による多様なサービス提供が行われ ることを目指している。これにより様々なニーズを有する高齢者に対応し た,よりきめ細やかなサービスの提供が期待されるとともに,高齢者が主 体的に参画し,支援が必要な高齢者を支える ④ の仕組みの構築によ り,その担い手となる高齢者が社会的役割を持つことが介護予防につなが ることも期待される。 a 地域包括ケ アシステム ② 地域支援事 業 ③ 市町村 ④ 互助 【コラム:地域包括ケアシステム】 我が国では,諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しており,団塊の世代が全て 75 歳以上となる平成 37 年には,国民の 5.5 人に 1 人が 75 歳以上の高齢者となることから, これまで以上に医療や介護需要の増大が見込まれている。 こうした中,介護が必要になった高齢者も,住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生 の最期まで続けることができるよう,医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提 供される「地域包括ケアシステム」の構築が喫緊の課題となっている。 地域包括ケアシステムの構築に当たっては,医療や介護提供体制の充実を図るだけでな く,高齢者が積極的に地域社会に参加し,生きがいをもって生活できる環境を整備するこ とも重要であることから,各自治体では地域の特性やニーズを踏まえた様々な取組みが行 われている。
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