実験用スタンダード電源設計実例集

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Introduction 動作を理解すれば自分一人で推奨回路から必要な回路を作れる
実験用スタンダード電源設計実例集
大貫 徹
はじめに
実際の電子機器の電源設計は
どうなっているか
トランジスタ技術 SPECIAL No.132 として電源デバ
イスと電源回路設計の特集をお贈りします.
目的の回路を動かすためには,絶対に電源回路が必
要です.分業がされている大手メーカなどでなければ,
ハードウェア設計者が電源回路も設計する必要があり
ます.
私はフィールド・エンジニアとしてお客様の所に行
きます.そこで,基本的なことを何も知らないまま,
メーカ推奨の回路をそのまま流用している事例をよく
見かけます.確かに,推奨回路とすべて同じ部品でま
ったく同じような基板設計を行えば,電源は動作する
かもしれません.しかし,実際に量産を目的とする設
計では,抵抗やコンデンサ,トランジスタなどを変更
する必要が生じたり,設計するハードウェアに応じて
さまざな変更を加えます.使用している回路動作や各
部品の役割を理解せずに部品を変えれば大きな落とし
穴にはまる可能性があります.
本書は,自分一人の力で電源回路を設計するために
必要な基礎知識から,実際の回路設計方法,そして検
証評価方法を解説します.
すべての電子回路を動かすエネルギー源は,電源回
路から供給されます.
普段,安定化された電圧が供給されることが当たり
前と考えて設計している電子回路ですが,大元の壁コ
ンセントからの商用交流電圧にもゆらぎがあり,電池
で動作する機器であれば,電池の放電とともに電圧が
低下していきます.電子回路は使っている部品が決ま
った電圧範囲でのみ動作が保証されているため,供給
元や使う電力が変動しても安定した電圧を供給しなく
てはなりません.縁の下の力持ちのように思われてい
る電源ですが,とても重要な存在です.
本書で取り上げるのは,出力電圧が常に一定になる
ように制御される安定化電源回路です.図 1 に,一般
的 な 電 源 の 構 成 例 を 示 し ま す. 商 用 交 流 電 源 は
AC100 V から海外では AC220 V などとさまざまです.
アプリケーション・ボードは商用電源からは絶縁され
た直流を受けるように作られます.アプリケーショ
ン・ボードに搭載された電源回路がオンボード電源で
す.図 1
(a)は,12 V や 5 V を受けて 3.3 V などに変換
しています.直流(DC)から直流に変換するので DC−
アプリケーション・ボード
オンボード電源
100∼240V
AC
AC-DCコンバータ・ DC
モジュール
12V
or
5V
DC-DC
3.3V出力
周辺I/O
DC-DC
2.5V出力
DC-DC
1.2V出力
LDO
1.8V出力
高速通信系
ディジタル・コア
(a)本書で取り上げる一般的な電源構成例
オンボード電源
ACアダプタ
5V
充電
回路
Li-lon
3.2∼4.2V
多チャネル
PMI Cなど
(b)リチウム・イオン・バッテリ動作機器の電源構成例
図 1 オンボード電源のイメージ
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実験用スタンダード電源設計実例集
0.9∼5V
DC コンバータと呼ばれます.商用交流から直流 12 V
た PMIC
(電源管理 IC)からさまざまな用途に向けた複
を作る AC-DC コンバータは別モジュールですが,こ
数電圧を作り出している例です.小型携帯機器でも多
のモジュールから出てくる 12 V は既に安定化されて
チャネル IC を使わず超小型の IC を分散配置して作る
います.オンボード電源は ON/OFF 時の不安定時間
場合もあります.図 1
(a)のような分散配置の電源を
帯を除けば 10% や 5% 誤差の範囲で安定した電圧が供
給される前提で,ボード内で必要とされる 3.3 V 以下
などの電圧を作り出します.
電源が商用交流ではなく,
リチウム・イオン蓄電池の
ような電池動作機器でもオンボード電源は活躍してい
ます.
図1
(b)
は複数個の電源が一つの IC 内にまとまっ
POL
(Point Of Load)
電源と呼び,
負荷に接近配置して
配線抵抗の悪影響を最小化できるメリットがあります.
入出力の電源電圧が大きく異なる場合は効率を重視
してスイッチング電源
(DC−DC コンバータ)が利用さ
れ,負荷回路がノイズを嫌う場合はリニア・レギュレ
ータ(LDO)
を負荷回路との間に入れます.
2.9mm
2.8
mm
(b)降圧型 DC−DC
コントローラ
XC9221A095MR−G
(a)リニア・レギュレータの基本…3 端子レギュレータ
(c)降圧型 DC−DC コンバータ
LM2675M
写真 1 本書で取り上げた IC
(一部)
■ 本書の構成
第 1 章は回路構成が比較的シンプルなリニア・レ
ギュレータから回路の動きを見ていきます.
第 2 章から第 6 章までは効率重視に力点を置いた
スイッチング・レギュレータの動作と設計を扱いま
す.第 2 章ではスイッチング電源の基本的な動作と
設計例を解説します.
第 3 章ではメインのサプライである AC−DC 電源
の構造と設計例を解説します.多くの読者が,AC
−DC 部分を自らは設計せず,モジュールを外部か
ら購入していることと思いますが,仕様検討時には
内部情報の知識も必要です.
第 4 章からは近年特に重要視されている高効率,
高性能,高機能を目指した電源に関するトピックで
す.第 4 章で取り扱うのは電源に組み込まれた負帰
還制御の方式です.最近の代表例を解説し,負帰還
制御の問題や新しい制御方式も紹介し,実験例によ
って特徴を説明しています.
第 5 章ではスイッチング電源を軽負荷でも効率を
落とさないようにする PFM 制御を具体例とともに
解説しています.
第 6 章では電池動作機器向けの電源を取り扱いま
す.放電とともに端子電圧が低下していく電池から
安定した電圧を得るためのシステム構成方法を解説
します.
第 7 章では効率が悪いと考えられていたリニア・
レギュレータのロスを低くできる使い方を解説しま
す.リニア・レギュレータにはスイッチング・ノイ
ズがないというメリットがありますが,熱ロスを最
小限にしたい場合の使い方の例を出しています.
簡単な電源であっても,ソフトウェアと同様にそ
の動きを確認しトラブルが出ないかを検証する必要
があります.
第 8 章からはトラブル対応や,検証方法について
まとめました.動作検証ではボード線図による安定
性検証が一般的です.第 9 章では簡単なアダプタの
製作だけでボード線図が描ける安価な検証ツールと,
付属ソフトウェアを使った電源の調整例も紹介しま
す.
第 10 章ではリニア・レギュレータを使うときの
ノイズと周辺部品の関係を調べた結果を解説してい
ます.
電源設計では回路を構成する周辺部品の選定も重
要です.耐圧や容量などで簡単に選択しているダイ
オードやコンデンサ,コイルなども選択次第では最
終性能に大きな違いが出てきます.また選択ミスか
らトラブルが発生することさえあります.第 11 章
から第 13 章は,これら部品の無視できない特性を
解説しています.
実験用スタンダード電源設計実例集
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