生産知識のモデル化に基く高品質工程の計画手法の提案

溶接構造シンポジウム 2006 講演論文集(2006 年 11 月)
生産知識のモデル化に基く高品質工程の計画手法の提案
東京大学大学院工学系研究科 ○古賀
東京大学大学院工学系研究科
青山
毅
和浩
Process Planning Support System for Quality based on Production Knowledge Model
by Tsuyoshi KOGA,Kazuhiro AOYAMA
1.緒
言
1.1 背景
設計・生産において、設計不具合や品質問題によるロスコストが発生・増加している。特に生産段階にお
ける不具合は、全体の約半数を占め 1)、重要である。本論文では、製造システムの設計において、不具合の
発生を低減する計算機手法に関して取り組む。
不具合低減のためには、発生する品質不良を予見し、これを回避するように製造システムの情報を決定す
ることが必要である。しかしながら、これは一般に困難である。製造の上流段階における作業や製品の要因
が、製造の下流工程で発露したり、ある品質問題を解決するために施した工程の変更が、別の隠れていた品
質問題を表面化させたりすることが起こりうるからである。
計算機の力を有効に活用することでこの困難性を解決するためには、製造のノウハウやナレッジのデジタ
ライズが必要である。しかしながら、製造工程の不具合は可視化しにくく、表現が困難であると指摘されて
いる。製造プロセスと一口に言っても様々な種類が存在し、非常に複雑であるからである。どのように製品
が形成されていくのか、また、どのような不良・不具合・品質問題が存在するのかといった現象を、計算機
に記述できることが求められる。現状では、製造工程自体のモデルが明白に定められておらず、不具合や欠
陥・品質問題を、表現し共有する一貫した方法が存在していない。そのため、PFMEA(Process Failure Modes
and Effects Analysis)、QC 工程表(Quality Control)などといった形で大量の製造ノウハウを各組織体で保持して
いるものの、有効に設計へと活かされていない状況にある。そこで、計算機によるデジタル化を実現化し、
膨大な製造ノウハウ・ナレッジを適切に表現・蓄積・共有することが必要であると言える。このために、製
造における品質不良の発生をモデル化し、計算機上に記述し、記述された情報を用いて設計に活かす手法が
望まれている。
製造工程における品質不良とは、製造によって生成された製品の状態が、設計で意図した機能を実現でき
ない状態を意味する。本論文では、製造システムの設計とは、工程作業と作業順序を決定する問題と換言す
る。そして、品質不良を発生させないように、計算機によって、工程作業と作業順序を決定する問題を解く
ことを支援する手法を検討する。
1.2 関連研究
製造工程の品質に関連するノウハウをデジタル化し、共有し、活用するための研究は多く取り組まれてい
る。知識構造はどうあるべきか、という問題は、大変難しい問題である。このため、工程計画の現場に浸透
している技術は、対象の複雑性に関わらず、ごく簡単なものしか存在しない。本論文では、有用な工程知識
とは、工程の計画段階で使える知識であると考える。つまり、工程計画で活用できる知識の構造が、正しい
知識の構造ではないかと考える。そこで、設計で使えるためには品質に関連する製造工程のノウハウはどう
あるべきかを提案する。
知識の構造化の観点から、失敗まんだらやオントロジーが著名である 2)3)4)。しかし、純粋な知識化のみの
視点だけでは、設計へと直接活かせる知識表現とはなりにくいという問題点がある。このため、製造工程自
身を表現し、その上で品質や不具合に関わる情報を表現し、活用する必要性が指摘されている 5)。
本論文では、計算機によって製造ノウハウをデジタル化し共有することで、設計において活用する手法を
取り組む。このためには、品質問題を表現可能な製造工程自身のモデルが必要であるが、これは既存研究で
は提案されていないため、本論文で新しく取り組む必要がある。
Matrapragada は、旅客機の尾翼を題材に、平面度という製品の機能に関わる属性を考慮して、製造工程を
設計する手法を示した 6)。本論文は、Mantrapragada らが示した製造工程のモデルを、田村や今井の取り組み
で代表されるような品質情報の表現 7)と統合することで、製品品質と製造プロセスの双方を扱うことが可能
なモデルへと拡張する。
Clausing は、製品の仕様や品質目標を、各工程まで落とし込む手法を示している 8)9)。しかし、属性と属性
の対応関係を中心とした関連付けであり、工程上の伝播や連鎖は取り扱うことができない。そこで、Gero が
示した「状態」の概念 10)を導入し、品質問題の伝播や連鎖を表現可能な製造工程のモデルを提案する。更に、
希望する品質状態を導く製造プロセス設計手法の提案のために、Gero が示した製品状態とプロセス双方の設
計手法を、製造工程へと適用する。以上により、製造工程の知識の構造化を、モデルベースで行えるよう拡
張する 11)。
1.3 目的
製造工程の品質設計を計算機が支援するためには、製造のノウハウ、ナレッジのデジタライズが必要であ
る。このためには、製造工程自体のモデルが必要と言える。更にこの製造工程のモデルを用いて、明示的に
品質問題を表現することが必要である。品質を記述可能な製造工程モデルを用いて、製造システムの設計段
階で、不具合を予見し、これを回避することが可能な手法が必要といえる。
そこで、本論文の大目的として、製造のノウハウ・ナレッジのデジタル化に基づく品質設計手法の提案を
検討する。このために、品質問題を検討可能な製造システムのモデル化によって、計算機上に製造工程の品
質問題を記述する。つぎに、記述された品質問題を用いて、設計へと活用可能な手法を提案する。最後に、
以上の提案をプロトタイプ・システムへと実装し、実際の製造工程へと適用することで検証する。詳細目的
として、以下3点を検討する:
(1)品質問題を表現可能な製造システムのモデルの提案
(2)製造工程の品質設計手法を提案し、情報処理手順を定式化
(3)プロトタイプ・システムの構築と実際の工程計画の適用による有効性検証
2.生産における不具合のモデル化
2.1 生産システムのモデル
ものはどのように「つくられる」とモデル化できるのであろうか?本論文では、作業が素材や部品の形態
を変化させ、一連の作業によって形成される状態遷移によって製品が作られると考える。つまり、作業者や
工作機械によって行われた「作業」が、製品へと「作用」し、製品の「状態」を変化させ、最終的に原材料
から製品が「つくられる」とモデル化する。つまり、製造システムを作業レベルで分解し、作業を更に形態
変換を行う主体と、作業対象の製品へと分解して表現する。
製造システムのモデルを、Fig. 1 に示す。製造システムは、製造対象のモデル[A]、製造工程のモデル[B]お
よび対象と工程の相互作用[C]から構成される。工程作業が、製造対象に作用し、製造対象の品質状態を変化
させる、とモデル化する。製造システムは、工程作業の連鎖によってモデル化する。つまり、工程作業の連
鎖によって、原材料に形態変換が施され、最終的な製品がつくり出されるとモデル化する。
[B] Sequence of
Operations
[C]
[A] Product in Process
Entity in
Process
Output
Part
Quality State
Quality State
Quality
in Process State Change in Process
Operation
Condition
Attribute in
Process
Value of
Attribute
Fig.1
Value of
Attribute
Input
Part
Production Process Model
製造システム・モデルの各情報素の定義と表記を、Table 1 に示す。工程作業は、処理主体である作業者や
設備の情報を持つ。品質状態を変化させるために必要な、作業者や設備の属性を、Condition として記述する。
また、工程作業は、入力となる中間部品と、出力となる中間部品によって identify される。製造対象は、構造
情報と品質情報によってモデル化される。製造対象の構造情報は、要素を表す Entity と、その接続である
Interface によってモデル化する。Entity および Interface は、製造途上に現れる状態と、状態間の遷移の情報を
持つ。
製造対象は作りこまれるべき属性(値)を持ち、製造状態によって属性が決定される。また、時間軸上で
製造のプロセスがどこまで実行されているのかを表す、動的概念であるトークンを導入する。品質トークン
(Quality Token)は、ある時刻における製造対象の品質状態を表す。製造プロセストークン(Production Token)
は、製造プロセスの進行度合いを表す。
Table 1 Definition of Symbols
Symbol
Name
Definition
Components and Parts
that are not finished yet
Operation
Work of worker and machine
that can operate product
(Transition object)
Product Interface
Assembling Connection
Object in Process
between PEP
(PIP)
Condition
Attribute of worker and
machine on operation
Product Entity
Object in Process
(PEP)
Attribute of Entities and
Interfaces generated by
Production Process
Intermediate
Part
Quality State
in Process
Quality State of
Entities and Interfaces
(Place object)
Quality
Token
Quality
State Change
Change of Quality State
(Transition object)
Attribute in
Process
Production
Token
Intermediate Part or Assembly
Inputs and outputs of Operation
(Place object)
Qualitical state of product at a
given moment
(Token object)
Progression of Production
Process
(Token object)
工程には大きく2種類が存在する。
(1)加工工程
(2)組み立て工程
加工工程は、原材料から部品を作る工程である。工程作業は、主に Entity へと作用し、Entity の品質状態を
変化させる。組立工程は、部品からアッセンブリを作る工程である。組立作業は、Interface へと作用し、Interface
の品質状態を変化させる。
2.2 生産における不具合
以上の製造工程のモデルを用いて、製造工程における不具合の発生過程をモデル化する。
Fig. 2 は、本論文における製造不良の発生プロセスを表現している。題材は、フード(自動車のボンネット
を構成する金属プレート)の製造工程である。
製造工程における不具合の発生要因は、以下に示す2種類が考えられる。
[A] 製造対象起因の不具合
[B] 製造プロセス起因の不具合
製造対象起因の不具合とは、材料や添加剤の不備、あるいは製造途上の製品内部での因果連鎖などといっ
た、製造する対象そのものに起因して発生する不具合である。発生過程のモデル表現を、図2[A]に示す。フ
ードパネルの材料であるシートに、材料不均質がある a1)と、プレス加工 a2)を経てしわが発生する a3)。
製造プロセス起因の不具合とは、作業者や設備の動作不良等による工程作業の不備などといったように、
工程作業に起因して発生する製造不良である。発生過程のモデル表現を、図2[B]に示す。正しい素材 b1)を
用いた場合でも、間違った工程作業 b2)(この場合は、成型プレス加工におけるプレス機のハイト設定が素材
に適合していなかった)を行うと、しわが発生 b3)してしまう。
一般的に、局所的にオペレーションや中間製品に対して良悪を判断することは困難である(Fig. 2 は、理解
を助けるため、オペレーションや中間製品に対して良い悪いと説明した)。悪いとは、最終的に NG 品質(品
質不良を持つ最終製品の状態)を生産することである。それは、製造システムの構造に依存する。良いオペ
レーション、良い素材だけを用いて、製造工程を設計することはできない。全体を見なければ、良いか悪い
かは決められない。例えば、ある工程が悪い要因の回復工程となっている場合が存在する。逃げ代を最後に
上手く吸収する構造を取ったり、洗浄・検査工程の適切な設置を考えることで、効率よく悪い要因を考慮し
た製造工程の設計を支援する必要がある。この意味で、良い要因・悪い要因を含め全体を記述し、製造工程
をひとつのシステムとして設計する手法が必要であると言え、次に示す。
[A] Production failure
caused by Product
[B] Production failure
caused by Process
a1) Bad Material (Stuff)
b1) Good Material (Stuff)
a2) Good Operation
b2) Bad Operation
a3) Bad Product
b3) Bad Product
Example of Hood Production
Product in Process
Completed
Hood
Panel
Uneven
Material
plastic
strain
Sequence of Operations
Press Formed
wrinkle
form press
Wrinkled
Wrinkle
wrinkle
Height<6mm
Then true
true
form press
Sheet
Height
8mm
false
Coil Cut
Height
4mm
Fig. 2 Production Failure Model
3.工程品質の設計手法
3.1 設計手法の概要
製造システムの設計において、不具合の発生を低減することを考える。このために設計者は、発生する品
質不良を予見し、これを回避するように製造システムの情報を決定することが求められる。ここで、Fig. 1
及び Fig. 2 に示した計算機上にデジタル化された不具合情報によって、この設計過程を有効に支援すること
を検討する。
製造システムの設計とは、工程作業を決めること、および作業順序を決めることであるとモデル化できる。
ここで、製造システム設計における不具合の低減を実現するためには、品質不良を定義し、これを避ける工
程作業の決定問題、および作業順序の決定問題を解く必要がある。
本論文で提案する設計支援の全体像を、Fig. 3 に示す。Fig. 3 は、製造工程の品質設計手法において、操作
する対象情報の計算機モデルの全体を意味している。大きく分けて以下の3モデルによって構成される:
[1] 製品・生産・品質情報の統合モデル(Fig. 3 [1])、
[2] 品質状態空間(Fig. 3 [2])、
[3] 製造工程(Fig. 3 [3])
設計手法のアルゴリズムは、各モデル間の操作で表現できる。
Fig. 3 の Z 軸方向は、製造工程と製造対象の階層を意味する。Fig. 3 のポンプ ASSY は、バルブとポンプが
接続されて構成されているものとする。このとき、ポンプ ASSY の品質の状態空間は、下位機器であるバル
ブとポンプの品質状態の組み合わせの空間によって表現されることが可能である。製造工程は、一般に複雑
である。この階層表現により、多段階的に品質目標を定め、それを実現する製造工程を設計することが可能
となる。
3.2 設計のフローチャート
製造工程の品質設計手法における、情報処理の詳細な手順を、以下 STEP1~STEP7 に示す。
STEP1 製造対象の構造を詳細化する。
ポンプ ASSY を、バルブとポンプの接続構造へ分解する。
STEP2 可能な工程作業を洗い出す。
工場の設備や作業者によって、可能となる工程作業をリストアップする。例えば、オイルを封入する、エ
アを抜く、バルブを閉める等。更に、各工程作業で可能となる製造対象の品質遷移を記述する。
STEP3 想定可能な不具合を洗い出す。
工程作業や製造対象に関連する不具合情報をリストアップする。例えば、オイルを封入するとエアがかむ、
エア抜きはバルブが閉じていると実行できない、等。
STEP4 構造-品質-不具合統合モデルを計算
以上によって得られた3つのモデル(STEP1, STEP2, STEP3)を結合することによって、統合モデルを生成
する。
STEP5 可達木の計算による品質状態の遷移空間の計算
[B] Intended
Production Scenario
[A] Intended
Final Quality
Closed,
Filled, No Air
[2] Space of
Quality State
Opened,
Opened,
Filled, No Air Filled, Containing
Pump
ASSY
Opened,
Empty
Closed, Filled,
Containing
[1] Integrated Model of
Product-Process-Quality
Closed, Filled,
Containing
Closed
Valve
Closed,
Empty
close
Pump ASSY
Opened
close
Air bleed
No Air
boil
Air Containing
bleed air
Oil filled
Pump
Oil Filled
influx
fill oil
Oil Empty
Assembled
Fig.3
[3] Sequence of Operations
PS Oil
Process Planning Method for high Quality
モデルから、品質状態の遷移空間を計算する。
STEP6 希望する最終品質と、品質シナリオの指定
計算により得られた品質状態の遷移空間の中から、希望する最終品質を選択する。また、最終品質に至る
シナリオを指定する。
STEP7 製造システムの出力
指定された品質状態の遷移シナリオから、必要な作業情報および作業順序情報を獲得し、製造システム案
として設計者へ提示する。提示された設計システム案は、要求する品質目標を満たす。
4.実行例と有効性検証
4.1 プロトタイプ・システム
以上に示した製造工程の品質設計手法を、計算機上で実現可能なシステムとして実装し、検証した。設計
者は、プロトタイプ・システムを用いて、製品の品質情報と製造工程の情報を追加・削除・評価・選択を行
うことにより、製造システムの設計を行うことが可能である。設計者は設計の際に、製造対象となる製品や
該当する工程作業に関わる知識を生産知識ビューから参照することができる。設計した製造工程において製
品が製造されるプロセス可視化され、懸案すべき品質不良のリストアップや、品質不良の要因系のリストア
ップ、品質不良をなるべく含まない工程案の獲得が可能である。
4.2 ブレーカーの設計例
提案した設計手法の有効性を、実際のブレーカーの構成要素である接点アセンブリの製造ラインに適用す
ることで検証した結果を Fig. 4 に示す。Fig. 4 [A]は、接点アセンブリの構成と、形状およびブレーカーにお
ける配置を示している。ブレーカーは3つのパーツ(Contact, Contact Plate, Arc Hone)から構成され、Contact
Plate が Contact 及び Arc Hone を支持する構造となっている。この接点アセンブリの製造工程の設計問題に対
して、提案する工程計画手法を適用した結果を、Fig. 4 [B] [C]に示す。
Step1 Contact ASSY の詳細化
接点アセンブリは、ブレーカーを構成する1コンポネントであり、電流の導電と切断を行う重要部位であ
る。電流は通常接点板から接点へ流れる。大電流が入ると、接点が物理的に切り離されることにより切断さ
れる。その際に、接点からアークが飛び、電流を伝えてしまう場合があるため、代わりにアークホーンから
アークを飛ばすことによって、迅速な切断を実現している。
この接点アセンブリの製造工程を設計するということは、以下の設計問題を解くことと等しい:
接点アセンブリ製造工程の設計問題=接点アセンブリを構成する3つのコンポネント、接点・接点板・ア
ークホーンを組み立て製造する過程の、作業情報および作業手順を定める問題
Step2 可能な工程作業を洗い出す
可能な作業を3つ設定する。それぞれ、ロウ付け、カシメ、成型プレスであり、詳細を以下(1)-(3)に示す。
(1) ロウ付け
接点と接点台は、ロウ付けによって接続することができる。
(2) カシメ
接点台にアークホーンは、カシメによって取り付けることができる。
(3) 成型プレス
接点台を成型プレスすることにより、形状を形成することができる。
Step3 想定可能な不具合を洗い出す
作業に付随する不具合を、2個設定する。それぞれ、ロウ付けによるそり、成型プレスによる取り付け角
ずれであり、詳細を以下(4)-(5)に示す。
(4) ロウ付けによるそり
ロウ付けによる入熱により、接点板が反る
(5) 成型プレスによる取り付け角ずれ
[A] Design Example
Product Structure of Contact ASSY
Contact ASSY
Auto-Breaker
[C] Production Scenario
[B] Product Failure Model
Quality State Change
G
o
deform
Operation
Quality State Change
B
a
d
o
d
Operation
Mis-alignment
Quality State
Change
Quality State Change
Operation
remedy
NG
OK
NG
NG
Quality State Change by Operation
Fig.4
Process Planning Method for high Quality
接点板を成型プレスにより成型する際に、すでにアークホーンが取り付けられていた場合には、それが条
件となってアークホーンの取り付け角度がずれる
STEP4 構造-品質-不具合統合モデルを計算
計算機上に記述した Product-Process-Failure のモデルを統合化する。STEP1, 2, 3 において生成した情報から、
計算機が各モデルを組み合わせることにより得られる。
STEP5 可達木の計算による品質状態の遷移空間の計算
品質状態遷移の解空間を、計算機が自動的に計算し出力する。STEP4 で獲得した、製品・プロセス・不具
合の統合モデルから、可達木を計算することにより得られる。
STEP6 希望する最終品質と、品質シナリオの指定
設計者は、品質状態の解空間から、希望する最終品質状態を指定する。Fig. 4[C]において、赤色のマーキン
グが、不具合状態を含む品質状態である。品質状態の解空間は、木構造で得られる。木の最もルートとなる
ノードが、製造開始の段階を意味しており、木の最も下流のノードが製造終了段階を意味している。Fig. 4[C]
は、可能な製造のシナリオ 4 通りのうち、不具合を含まない期待する品質を持つ製造のシナリオが唯一通り
(a) Good Production Process (Design Result with this research)
[4] Caulked
(Good Product)
[3] Pressed
[B]
[2] Brazed
Curved
[A]
[1] Material
(b) Bad Production Process (Possible Design Result without this research)
[4] Caulked
(Bad Product)
Curved
[3] Brazed
Curved
[A]
[2] Pressed
[B]
[1] Material
Fig.5
Proposed Production Process
存在することを意味している。
STEP7 製造システムの出力
計算機は、指定された最終品質を実現可能な製造システム情報を自動的に計算し、設計者へと提示する。
STEP6 において指定された遷移シナリオ(Good シナリオ)から、必要な工程作業と工程順序情報を取り出す
ことで、計算機は製造システム情報を生成し、出力する。工程計画システムは、以下の手順によって製造す
るシステムを出力する:
「接点台に対し、接点をロウ付けし、成型プレスを行った後、アークホーンをカシメによって接続する」
4.3 検証
Fig. 5(a)に示した製造プロセスは、計算機が設計者に対して提案した、不良品を発生しない製造システムを
意味している。以上の STEP1-STEP5 によって、本手法が確かに設計者に対して有効な製造システム情報を提
案できることが示されたといえる。
また、本手法を用いない場合に、考えうる悪い設計解を、Fig. 5 (b)に示す。Fig. 5 (b)は、以下の手順によっ
て製造するシステムを意味している:
「接点台に対し、成型プレス[2]を行った後、接点をロウ付け[3]し、アークホーンをカシメによって接続す
る[4]」
この製造工程では、ロウ付けによる熱で接点台が反り、最終製品の NG 品質となっている。
以上に示した不具合発生は、工程の順序を入れ替える(form press -> braze)ことで発生する。成型プレス
加工が、ロウ付けの入熱のそりを回復していることに気づかずに、工程を入れ替えてしまうことで、潜在し
ていた不良が表出化してしまった一例である。これまでの製造工程の知識化手法では、熱を加えると板が反
ることは説明できる。しかし、製造システム自体に対する設計意図、つまり、なぜロウ付け工程が成型プレ
ス加工の前になければならないのかは、説明することはできなかった。Fig. 5 は、この製造システム自体に対
する設計意図を、計算機上に明示することが可能になったことを意味している。この表現によって、生産プ
ロセスをひとつのシステムとして捉え設計することが可能になったと言うことができる。
5.おわりに
5.1 結論
品質不良を表現可能な製造工程の計算機モデルを提案した。提案した製造工程モデルに基づき、効率的に
期待する品質を生成可能な製造工程情報を生成する設計手法を提案した。提案した設計手法を用いることに
よって、部品化・要素化された良い要因と悪い要因を、双方同時に組み立て、製造工程をひとつのシステム
として設計することが可能となる。この結果、より効率よく品質問題の少ない製造工程を設計するために、
品質状態の遷移空間から最も有利な工程計画案を獲得することが可能となる。
今日、コストダウン等の理由により、品質上重要な工程を変更したために発生する不具合が多く報告され
ている。このため、工程の順序の必然性や、重要な工程の情報等といった製造ノウハウのデジタル化手法が
望まれている。本論文で提案したモデルにより、デジタル化された品質問題を用い、工程の変更の影響を網
羅的に計算機が示すことによって、これらの発生を低減できることが期待される
5.2 今後の課題
z 既存の情報技術(PLM、ERP 等)との統合化
z 生産工程の知識のグローバル・データベースの構築
z 高品質工程のモジュール化
z 目線の合った設計と生産の対話によるコンカレント・エンジニアリングの実現
参考文献
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