平成26年度の外部評価実施状況 - 公益財団法人 神奈川芸術文化財団

平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
パイプオルガン・プロムナード・コンサート
開催日:4月26日(金)、5月25日(土)、6月2日(日)、6月28日(金)、7月19日(金)
会場:県民ホール小ホール
事業概要
概要:開館以来年間継続して開催されており、「原則毎月一回のパイプオルガンコンサート」とし
て県内・近隣の音楽愛好家から好評を博している入門コンサート。
公演名
パイプオルガン・プロムナード・コンサートVol.324
開催日
4月26日(金)
「パイプオルガン プロムナード・コンサート」、この企画はパイプオルガンにあまり馴染みの
ない日本人にとってとても意義深いものだと思います。無料というのも魅力です。また「すべて
の道は バッハに通ず」という全体的なテーマは私にとっては大変興味をそそられるものでし
た。若い頃夢中になって読んだり聴いたりしたA.シュバイツァーの著作や演奏を思い出しまし
評価内容 た。
今回はイタリア音楽とバッハの結びつきをフレスコバルディとヴィヴァルディから浮き彫りにす
①
るという演奏会でしたが、短い時間だったにもかかわらず、バッハがイタリアの息吹をいかに自
分の音楽に生かしていたかを具体的に知り、感じることができました。永見亜矢子さんもフレス
コバルディとバッハのそれぞれの特徴に気を配り、丁寧に演奏していたように思います。5月にも
伺わせて頂きますがとても楽しみにしています。
公演名
パイプオルガン・プロムナード・コンサートVol.325
開催日
5月24日(金)
今回の「パイプオルガン プロムナード・コンサート」は「ルイ王朝 フランス宮廷音楽への憧
憬」ということで、グリニーという作曲家の作品を初めて聴くことができました。レチタチー
評価内容
ヴォの動きを対話風にポリフォニックに組み立てていく手法はとても新鮮なイメージを持ちまし
②
た。また新しいバッハへの流れを発見できたという気持ちでした。その流れを受けてのバッハの
作品の演奏はやはり聴きごたえがありました。
公演名
パイプオルガン・プロムナード・コンサートVol.326
開催日
6月2日(日)
今回のプロムナードコンサートは0歳児からが対象とのことで、趣旨を理解していただくための
お客様ご案内や、ベビーカーを置ける場所を作るなど心配りがあった。実際オルガンの音に驚い
たりぐずって泣き出す幼児もいたが、会場係員がスムーズに案内していてまったく問題ない。選
曲はバッハ「前奏曲とフーガハ長調」のように足ペダルを駆使した曲や、誰でも聴いたことのあ
る「主よ人の望みの喜びよ」など短いながらバラエティに富んでいた。演奏者の野田美香さんが
「動物の謝肉祭」から「カメ」を演奏します、とアナウンスをなさったときに、地味な動物であ
評価内容
るせいか近くにいた子供が「えー、カメー?」と残念そうな声をあげていたのには笑ってしまっ
③
た。最後はボエルマン「ゴシック組曲」よりトッカータだったが、技巧的で派手な曲でもあるせ
いか大きな拍手。こうした充実感を味合わせる曲順の工夫は、一般に解放した演奏会では大変良
いと思う。演奏後のオルガン見学説明も丁寧で良い。オルガンの構造を模型であらわし実演で音
を出してみせるなど、見学者の興味をそそる。良い楽器も弾かれなければ意味がないので、こう
した試みが市民の楽器への愛着、ホールへの誇りにつながるのではないかと思った。無料にして
おくのがもったいない企画である。
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乳幼児も可、という画期的な企画。赤ちゃんを抱いたお父さんの姿が目立つのは、それだけ乳幼
児を連れて参加できる文化企画が少ないことの表れなのだろう。子供プログラムと銘うちながら
も、家族全員が一緒にいられる配慮は、プログラム構成の中で意外と見過ごされがちなものだ
が、今回のオープンシアターはその点うまく機能していたように思う。パイプオルガンの音に驚
いてか、泣き出す子ももちろんおり、事前アナウンスにあった外のモニターに移動する姿もあっ
評価内容 たが、多くの子どもたちは気持ちよく夢の世界に入る子も含めて、短い時間ながらそれなりに演
奏を楽しんでいたように見えた。特に最後の曲は非常に華やかでお祭り気分にふさわしいと感じ
④
た。
両側の壁にオルガン奏者の手元足元の映像が大写しになり、演奏する様を見せていた点は、後
半の楽器紹介につながる関心を引き出すきっかけになったように思う。模型を使って音の出る仕
組みを説明したり、実際にパイプから空気が出ているのを吹き流しで視覚的にわかるようにした
りと、子供にわかるように工夫された丁寧な説明は、大人にとっても理解しやすいものだった。
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事業名
オープンシアター2013
サン=サーンス 音楽物語「動物の謝肉祭」&生演奏で聴いてみたい、あの曲!!Part2
開催日
6月2日(日)
会場:県民ホール大ホール
事業概要 概要:前半は絵本作家による動物の絵・オリジナルの台本・ダンスと管弦楽で魅せる「動物の謝
肉祭」、後半は、開場のお客様からのリクエストで演奏曲が決まる、参加型演奏会。
会場に足を踏み入れた瞬間に、期待感をそそる舞台。大きな絵画パネル(あべ弘士)に、ダン
サーの踊るスペース、二台並んだピアノなど。会場は見学が出来るようになっていたようで、子
供たちには(大人も)楽しい経験になっただろうと推察する。休憩なしだが、永井美奈子さんの
さすがの話術で子供たちも飽きずに聴き通せていたように思う。シンプルな衣装だが身体表現だ
けですべての動物を表現したダンス(今津雅晴、森実友紀)は面白い試み。森実さんは表情が豊
かで、さすが海千山千のテーマパーク、四季でも活躍なさっていた方だと思った。藤岡幸夫さん
指揮の神奈川フィルは雰囲気も良く、誠実な演奏をしていたが、どうしても演出に気をとられて
耳がおろそかになりがち。その点後半はピリッと音楽に集中できる環境で面白く聴いた。騒音測
評価内容
定器が登場したり、オケがせり上がったり、楽しい演出。ビゼー「カルメン」前奏曲での気合い
①
の入り具合、音響の派手なジョン・ウィリアムズ「スターウォーズ」など胸がすくものも良かっ
たが、意外にもスメタナの「我が祖国」モルダウが上位に入っていたのも興味深い。今後も続け
る企画になると思うが、少しずつ時代やスタイルの違う作品を忍び込ませて、聴き手の耳を啓発
していけたら楽しいのではないか。いずれにせよ親子連れ、孫と同伴の方々など、幅広い年齢層
が楽しめる企画だったと思う。ところで全くの蛇足だが、美術のあべ弘士さんを紹介する際に、
永井さんが「絵を描いてくださったあべひろしさん」と言っているにもかかわらず、周囲にいた
大人たちが「阿部寛」さんと勘違いして一瞬色めき立っていた。別人とわかった瞬間の態度が態
度だったので、聞こえてしまってはあべ弘士さんに失礼ではないかとハラハラしてしまった。
内容がとても充実した、聴きごたえ・見ごたえたっぷりの公演だったと思います。「動物の謝肉
祭」では、あべ弘士さんが描かれた動物の絵のパネルが生きていました。また、ダンサーのお二
人が素晴らしかったです。鍛えぬかれた身体は、それだけで充分「動物的」で、とても美しかっ
たです。動物園で観察して、動きを考えられたとのことでしたが、カンガルーが特にその特徴が
うまく捉えられていたと思います。見ていて楽しかったです。
「生演奏で聴いてみたい、あの曲!! Part 2」は、何とも贅沢なコーナーだと思います。ちゃん
と10曲全部のさわりを聴かせていただけるところがすごいです。神奈川フィルの力量が何よりも
そこで示されていると思います。拍手の大きさを「(騒音)測定器」でちゃんと測るという試み
評価内容
にも感心いたしました。これでしたら、自分が聴きたい曲が選ばれなくても、納得できます。観
②
客の心理がよく分かって頂けているように感じます。最終的に選ばれた5曲の演奏は、どれも素晴
らしく、「モルダウ」を聴いた時には、思わず涙がこぼれそうになりました。そして、何より
も、どの曲にも素早く対応し、完璧に演奏した楽団の皆様の姿に感激いたしました。オーケスト
ラの良さを堪能させていただきました。
惜しかったのは、上演時間です。90分(予定では70分となっていましたが、終了したのは15時30
分でした)休憩なしというのは、子供でなくとも厳しいように思います。実際、途中で出てしま
う人もいました。「動物の謝肉祭」と「生演奏で聴いてみたい、あの曲!!」の間に休憩を入れた
方がよかったのではないでしょうか。内容がとても充実していただけに残念です。
サン=サーンスの描く動物たちの様子を、オーケストラで、美術で、ダンスで展開する。音楽はも
ちろんのこと、美術もダンスもいわゆる子供向けではなく、かなり抽象度の高い大人が観ても満
足できるレベルであり、総合芸術としての舞台芸術の真骨頂をいくような企画にもかかわらず、
その敷居は低く目線は優しい。短い曲ごとに入る司会は客席の子どもたちの心をつかみ、演奏へ
の集中と発散を上手に引き出していた。
ダンスと舞台美術といった視覚情報に目が行きがちな前半に対し、後半はオーケストラが主
役。オーケストラ団員を乗せながらのピットごとの迫出しは、子供ならずとも驚く光景である。
評価内容 県民ホールオープンシアターとして「劇場」を体験する本企画の目的を考えると、舞台が可動式
であることの意味がよくわかる実例だったと思う。
③
来場者の拍手でその場で演奏される曲が決まる手法は、参加者意識を高めるのに有効に働いた
だけではなく、選択という行為を真面目に考える子供たちにとって、10曲のさわりの部分をより
真剣に聞く契機になり、彼らの醸し出す雰囲気につられるように聴衆全体それぞれの演奏をかな
り真剣に聞いていたように感じた。前半に比べ、後半は司会の段取りが若干もたついていたよう
に見えたが、それはその場での選曲に対応して、オーケストラが演奏する準備時間を捻出するた
めだったのだろう。予定の70分を20分も押してもメインの聴衆である子供たちがついてきたの
は、それだけ演奏にひきつける力があったのだと思う。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
県民ホール恒例の家族のためのオーケストラシリーズ。今回のテーマは「動物の謝肉祭」。魅力
ある舞台美術で、会場に入った時から期待膨らむコンサートで子供だけではなく大人も十分に楽
しめたのではと思います。司会の巧みさと親しみやすさもあって会場全体が温かい空気で満ちた
のは嬉しい成果だと思います。よくあるこの種の音楽会とは違って観客を大切にしている丁寧さ
を強く感じました。
第2部の「生演奏で聴いてみたい」は子供たちも積極的に参加して盛り上がりをみせました。子供
評価内容
たちが主体だから「スターウォーズ」は予想通りでしたが、「カヴァレリア」が入ったのは嬉し
④
い驚きでした(もっとも司会の前ふりが効いたのかもしれませんが)。こういう試みから本当に
小さな聴衆が何を求めているのかを知る意味でも素晴らしい企画でした。私は14時の部に参加し
たのですが、大ホールがほぼ満員の客席、ロビーにも趣向がこらされていて主催者の丁寧さが伺
われました。
ただ、ひとつ残念なのは(こういうコンサートではよくあることですが)「生演奏で聴いてみた
い」がテーマですからマイクロフォンを使う司会者の声のボリューム(PA)にはもう少しセンシ
ティブになってほしかったと思います。
・6月2日のオープンシアターという親子向けに設定された企画内でメーンをなすプログラムとし
て、当日は親子連れで活況を呈していました。
・演目の設定、開場時間よりステージ見学の時間が設けられていた点、事前に当該企画の舞台美
術家によるワークショップの開催、同美術家デザインによるバッジの配布、それとA3判のパンフ
レットもそうかと思いましたが、県民ホールでの親子参加型の企画において、できうる限りの事
評価内容
前・当日の工夫が組み込まれた企画であったと思われました。
⑤
・上演内容に関しても、客席の集中力にと対応すべく、司会者により観客側へと準参加型(子供
たちが声を発することのできる時間の確保)を取る工夫がなされていたかと思います。
こうした皆さんの御努力が将来のホールを支える力にと着実につながる事をお祈り申し上げま
す。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
神奈川県民ホール リニューアル&開館40周年記念
マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」
開催日
10月5日(日)
事業概要
会場:県民ホール大ホール
概要:総勢400~500名の一般公募の合唱団による大規模合唱付きオーケストラコンサート。
神奈川県民ホール・リニューアルと開館40周年を祝うのにふさわしいプログラムだった。県知事
のあいさつの中で合唱隊とオーケストラから構成される数百名の演者を指して、あたかも壇上が
客席ではないかと錯覚してしまうという話が出た。舞台は社会をうつす鏡と言われることもある
が、そのことを思い出した瞬間だった。マーラーの交響曲第8番が今回ふさわしく感じられたの
は、楽曲が祝祭性にあふれているためだけではなく、県民が中心となって舞台をつくりあげると
いう行為にこそある。劇場と地域文化をもり立てようとする熱意は客席にも共有されていたよう
評価内容 に感じた。ゆえに当日は劇場全体が祝祭的な雰囲気に包まれていたのだろう。今後もこの熱がさ
めることなく、県民ホールから文化が発信されていくことを期待する。
①
公演とは直接関係ないが、県民参加型のプログラムとしては大変素晴らしい取り組みであるた
め、どのようなプロセスを経て本番に至ったのか、練習風景等をレポートするような機会が広報
にあってもよかったのではないだろうか。そうすれば、今回は劇場へ行けない方でも興味をもっ
てもらえれば次回公演に足を運んでもらえる可能性が出るのではないだろうか。建物がリニュー
アルしただけではなく、プログラムを含めた劇場の取り組みに新しさが加わったなど、劇場の動
きが伝わるような広報戦略があってもいいように思った。
千人の交響曲という大規模なステージが神奈川県民ホールで行われるという話題は神奈川県外で
も随分と以前から持ち上がっていた。そして文字通りの満席で開演した。会館40周年記念、リ
ニューアルオープンというイベントに相応しい演奏会となった。奇しくも、この千人の交響曲は
神奈川フィルハーモニー交響楽団の桂冠指揮者である故山田一雄氏が65年前に日本での初演を
評価内容 行った作品でもある。40周年、リニューアルということで関係者の皆さんは何をやるべきかと熟
考を重ねられたことと想像しますが、500人に及ぶ神奈川県民による大合唱団と神奈川フィルの大
②
演奏会は、神奈川が県内にとどまらず広くその文化的事業の質の高さを知らせしめたコンサート
となった。なお、手元に配られたプログラムの内容も初演までのドキュメントをつづった興味深
いものになり、一般的な通り一遍の曲目解説に終わらないもので楽しめた。神奈川国際フェス
ティバルに相応しい企画となった。
神奈川県民ホールのリニューアル&開館40周年記念にふさわしい、華やかで壮大な演奏会であっ
たと思います。舞台をギッシリと埋め尽くした歌い手と演奏者たちにまず圧倒され、この人数の
スケジュール調整をして、これだけの舞台に仕上げるのはどれほど大変であっただろうかと、上
演に関わった方々のご苦労をねぎらってさし上げたいような気持ちになりました。
質においては、どうしても、すべてプロで構成されている演奏会には及ばないところがありま
したが、それよりも、それぞれ異なるバックグラウンドを持った、神奈川に縁のある人々が大勢
評価内容
集まり、こうして一つの舞台を作り上げて、自分たちのホールのリニューアルと開館40周年を
③
祝ったことに意義があると思います。指揮者の現田茂夫氏にうながされ、最後に聴衆だけでなく
出演者も舞台上から拍手をしましたが、その時、まさにホール全体が一体となったように思いま
す。深く感動いたしました。
新しくなった絨毯や塗り替えられた壁も、ホールの新たな出発にふさわしいヴィヴィッドな色
が選ばれていて、印象がとても良かったです。また、配布されたプログラムも、無料でいただく
のが申し訳ないような充実ぶり(デザイン・内容共に)であったと思います。
・館のリニューアルオープンや開館40周年、芸術祭と複数の記念を一つに兼ねるに似つかわしく
賑々しい上演企画となり、これに応えるべく、観衆が詰めかけておいででした。その点に於いて
評価内容
も一つの成功をなす企画となったかと思われます。
④
上演に於いても700名近い出演者の一致団結した演奏には安定感と重厚さがよく現れていたかと思
います。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
まず、神奈川県民ホールリニューアル、40周年おめでとうございます。
祝祭的な場にふさわしい巨大な編成の作品で、これを鑑賞できる機会は貴重である。舞台からこ
ぼれ落ちんばかりの合唱とオーケストラにバンダ。見た目にもたいへんなインパクトがある。現
田茂夫さん率いる神奈川フィルの演奏も熱がこもっているし、合唱団も(見た目の年齢層には似
合わぬ程?)大迫力。児童のみならず大人の方でも暗譜している方が見えて、その熱意に感心し
評価内容 た。ただ、ソリストには凹凸がある。アルトの竹本節子さんの滋味あふれる表現力、横山恵子さ
んの突き抜ける声、宮本益光さんの集中力には目を見はったが、テノールの水口聡さんだけはい
⑤
ただけない。声量はあるが喉が詰まった声質と、がなるばかりの歌には閉口した。しかも指揮者
が指示を細かく出しているにもかかわらず歌い損ねたり、出を間違えたり、落ちたりと散々な出
来で、せっかくの演奏に水を差してしまう。まずは最低限の準備をする誠実な歌い手の演奏を聴
きたかった。当日は台風接近にもかかわらず、会場は賑わっており、ロビーにも楽しい雰囲気が
みなぎっていた。これまで以上に人々に愛されるホールになることを願ってやまない。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
オルガン・プロムナード・コンサート
開催日:10月24日(金)、11月21日(金)、12月12日(金)、1月30日(金)、2月27日(金)、3
月27日(金)
事業概要 会場:県民ホール小ホール
概要:開館以来年間継続して開催されており、「原則毎月一回のパイプオルガンコンサート」とし
て県内・近隣の音楽愛好家から好評を博している入門コンサート。
公演名
パイプオルガン・プロムナード・コンサートVol.334
開催日
12月12日(金)
今回、オルガニストの吉村怜子さんが演奏されたのは、今までに聴いたことのない曲ばかりだっ
たのですが、心から楽しむことができました。ちょうど吉村さんの真後ろに当たる席に座る形に
なったので、演奏の様子が良く拝見できたのですが、オルガンの演奏には、まさに「全身」を使
う必要があるのですね。感服いたしました。
オルガンの音色は清らかで柔らかく暖かく、何かそっと内省をうながすようなところがあるよう
に感じます(もちろん、礼拝用に発達したという歴史とも無関係ではないと思いますが。)眼を
評価内容 つむって、静かに頭を垂れている方が多く、わたくしも、演奏を味わいながら、この1年の自分
を振り返りました。サン=サーンス作曲「幻想曲 変ホ長調」は、吉村さんご自身も解説なさって
①
いたように、神奈川県民ホール開館40周年を祝うにふさわしい、明るく華やかな曲で、ラストの
曲としてぴったりでした。
「もう少し聴きたいな」というところで終わる演奏時間も丁度よく、会場には、年配のご夫婦だ
けでなく、お昼の途中にちょっと寄った、という感じのサラリーマンの方もいらして、このよう
に、気軽に(しかもなんと無料で!)芸術に触れることができる横浜在住の方々を、心からうら
やましく思います。わたくしも横浜に住みたいです。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
「Jewels from MIZUKA」
開催日
11月29日(土)
会場:県民ホール大ホール
事業概要 概要:東京バレエ団プリンシパル・ダンサーの上野水香による、本邦初となるプロデュース公
演。
紗幕に窓を映し出し、出演者を紹介するオープニングがとても洒落ていました。趣の異なる演目
が上手く組み合わされていて、バレエを観るのは初めてという人に勧めたい舞台でした。この舞
台を観て知った作品を、今度は通して観ようと思った方もいらしたのではないでしょうか。バレ
エの普及に貢献する企画であると思います。
どの作品も素晴らしかったのですが、やはりウラジーミル・マラーホフ氏の「瀕死の白鳥」が
圧巻でした。幕が開いた時から惹きつけられ、彼の周りにゆらめくオーラが見えるようでした。
時に全身で、時に身体の一部で表現される白鳥は、それが人によって演じられているものである
評価内容
ことを、忘れさせるほどのものでした。死に臨んでさえ気品と優雅さを失わない白鳥の最後の時
①
を、舞台の上に見たような気がしました。
ラストの『チーク・トゥ・チーク』も、とても素敵な作品でしたが、ルイジ・ボニーノ氏の
「シャルロ」が観られなかったのは残念です。ですが、体調や、観客に最高のものを見せたいと
いうプロ意識からの演目変更なのではないかと推察します。いずれにしろ、上野水香さんのプロ
グラム構成とダンサーの選定は確かであったと思います。「Jewels from MIZUKA」という公演名
にふさわしい、まさに宝石のようにキラキラした舞台でした。
タイトルのとおり、まさに宝石をちりばめたような豪華な舞台である。出演者もマラーホフや吉
岡美佳さんをはじめ、プリマ、ソリストとして活躍している方たちで、よくこれだけのダンサー
を集められたとまず驚いた。演目もソロあり、群舞あり、古典中の古典あり、コンテンポラリー
あり、とバラエティに富んでいてまさに眼福である。開演直後の出演者紹介からしてプロジェク
ションマッピングなどを駆使した凝った作りで、隅々までのこだわりが感じられた。上野水香さ
評価内容 んと進境著しい柄本弾さんのコンビをコンテンポラリーと古典双方でみられたのも収穫。上野さ
んは恵まれた体型はもちろん、相変わらず体のラインが美しい。足先がまったく素晴らしい。床
②
をしっかりつかむ足さばき、お辞儀の時でもしっかり甲が出ている。足首の柔軟性が日本人離れ
していると感心した。またエンターテーンメント性にも事欠かない。一見見逃してしまいそうな
パでもしっかり間をとって、印象的な場面を作り出す。とりわけドン・キホーテでの技巧の正確
さと華やかさの共存、コンテンポラリーでのコケットリーなど、何を踊っていても彼女に目が
いってしまう。こういうものがスター性というものなのかと感じ入った。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
オルガン・ガラ・コンサートⅠ
開催日
12月20日(土)
会場:県民ホール小ホール
事業概要 概要:開館40周年を記念し、これまで県民ホールのオルガン事業に深く関わってきた演奏者たち
を招き、オルガンのガラコンサートを開催。
いいなと思ったのは、プログラムで演奏者が曲を解説している点。何を思ってこの曲を選んだり
弾いたりしているのか、人による説明の仕方の違いも含めておもしろかったです。
感じもよかったです。特に今井さんは、声が聞きやすく、また、ホールに関する個人的なエピ
ソードもちゃんと事前に考えていらした様子で、「ホールとのゆかりの深い」人を選んだという
企画意図にも応えるお話でした。逆に言うと、ほかのお二人は、どうゆかりが深いのか、あまり
よくわからなかったような…。ただ、全体的に作り込みすぎずに、なんとなくざっくりトークを
いれながら進めるという展開の仕方もリラックスできました。パイプオルガンと小型オルガンの
共演も、それぞれの音色の違いを堪能できておもしろかったですし、広野氏も足裁きも、見て楽
しめました。
評価内容 でも、全体的に何がしたかったのかは、よくわかりませんでした。特に通底するコンセプトが
あったわけではなさそうですし、ガラコンサートというと祝祭的で華やか、賑やか、いろいろな
①
種類の石の詰まった宝石箱といった印象ですが、その割には地味な印象を受けました。3人3様と
いうにしても、もっと思い切って違う方向性を出した方がおもしろかったかなあ、と。オルガン
だけでガラコンサートということ自体が難しいのかもしれませんが、現代曲も少なかったです
し、オルガンの多様な魅力を引き出すような構成にしていただけるとよかったな、と思いまし
た。
客席は高齢者の方が多かったです。若いお客さんはオルガンを習っている感じの人たちで、後
ろの方は空席がかなりありました。クリスチャンも少なくなってきているようですし、普段なか
なかパイプオルガンになじむ機会はないのかもしれません。そう考えると余計、パイプオルガン
の魅力が良く伝わる工夫を凝らした企画が必要なのかな、と思いました。
・演奏家それ自体の魅力はもとより、当日の客席の反応などを見て、月例のプロムナードコン
サート企画とも通じて、貴館の歴史的ともいえるオルガンが、一つの名物として愛好されている
のだろうということが伺える会でもあったかと思われます。
評価内容
ホール修復を終えてのリニューアルに相応しく、館のオルガン演奏会が開催されたことは、こう
②
いった点に於いてもこのホールがあるべき意味を何らかの形で体感的に市民の方々と再確認する
場にもなっているであろうと希うところです。1月末の企画や月例の企画ともあわせ、オルガンの
継続的活用には異論に出る余地はないように思われました。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
八木良太展「サイエンス / フィクション」
開催日
12月21日(日)~2015年01月17日(土) 会場:県民ホールギャラリー
事業概要 概要:アメリカ、アジアなど国内外で活躍する若手インスタレーション作家による展覧会。ギャ
ラリーの空間を活かし、最新の現代芸術を発信する。
その卒業生の多くが注目を浴びる京都造形出身の若手八木良太の個展の初日に足を運んだ。昨年
の「日常/オフレコ」でも拝見した作家である。さまざまな作品が展示されていたせいか、印象と
しては「挑戦とか動」というよりどちらかというと「安定とか静」の世界で、作品も一貫性のあ
る個展というより個々の作品それぞれが主張するものであった。あれだけの空間を独占して個展
を開ける作家は恵まれている。県民ホール2回目の個展だけにアートホールを知り尽くしている
評価内容
と思うので、あの空間そのものを取りこんだ作品創りがあってもよかったのではなかったかとい
①
う印象を受けた。一言でいうと、アートホールそのものが生き物のようなアーティスティックな
空間創りに挑戦して欲しかったという印象をもちました。
パフォーマンスとのコラボを拝見したかったのですが日程的に無理だったので失礼してしまいま
した。音楽やパフォーマンスを想定した展示だとしたら上記の私の印象は大きく変わったのかも
しれません。
よい年をした大人がまるで子供のように楽しめる、レベルの高い充実した展示であったと思いま
す。神奈川県民ホールギャラリーの空間が非常に上手く生かされており、同じ場所が、展示内容
によってこれだけ雰囲気が変わるのかと感心しました。星空に浮かんでははかなく消えてゆく星
の王子さまの美しい言葉、眼鏡をかけるとこちらにグッと迫ってくる鮮やかなスーパーボールの
オブジェ、心と身体が癒されるような水の映像と音、暗くて居心地のよいプラネタリウム、どれ
評価内容 も楽しかったのですが、もっとも興味深かったのは、「大判の本の上に映像をプロジェクション
する装置」です。誰もが夢中になってそこから動かなくなり、なかなか自分の番が廻って来なく
②
てやきもきしました。この装置だけで、30分は楽しめるのではないでしょうか。おかげさまでと
ても充実した時を過ごすことができました。結局2時間近く滞在してしまいました。
少々残念だったのが、「砂時計の音を聞くための装置」で、これを生かすためには、やはりそれ
なりの静けさが必要で、入り口に近い最もザワザワしている場所に配置したのは、まずかったよ
うに思います。砂が落ち切って音がなくなる瞬間を味わいたかったです。
・地下階では展示作品の異なる性格にあわせて照明に段階を作っていた点は、わかりやすい工夫
としてあげられたかとおもいます。同階の広い空間は贅沢な使い方をしておいででしたが、展示
作品間での性格の差異などがコンセプトを共有できないままに併存するような印象もうけ、これ
がどのような積極性をもとに構築された空間であったのかと言う点で、いささか悩ましく思われ
ました。
評価内容 開館40周年を迎えたホールの展示空間を、これまでの近代の歩みの中で形成されようとしてきた
芸術空間の一つの典型として、あらためてこれを一つの日常性にと措定することで、この空間を
③
解体・再構築してゆくその方向性や可能性を今回、作家に期待されていたように思われました。
この期待感が今回の展示の最大の見どころであったかと思います。それは既にこれまでも試みら
れてきていることではあろうかとおもいますが、こうした新たな作家を取り上げる展示企画を通
して今後も継続的に考察される課題でもあることでしょう。そういった点でも、当ギャラリーで
のこうした企画は期待させられる所があるように思った次第です。
知覚に対して敏感かつ、多方面から観察を行っている興味深いアーティスト。一人でこれだけバ
ラエティに富んだ実験的な作品を揃えることができる、柔軟性に驚いた。聴覚ではイヤホンの先
に種類の異なるセミの声が聞こえるしかけになっている「in secret」が面白い。真冬にセミの声
を聞くことになるとは。また、暗闇の中で星空が投影される「planetary Folklore」ではプラネ
タリウムの趣をしばし味わった。球体にカセットテープを巻き付けて音を発生させる装置「sound
sphere」は、以前別の作家の作品で見たことがあるように思うが、媒体として作家の心をくすぐ
評価内容
るものがあるのだろう。視覚の作品の中では、クロマデプス眼鏡をかけて色とりどりのスーパー
④
ボールを見る「Chroma Depth」に惹かれた。光と知覚の差で、現実味のないポップさが立ち現れ
てくるのが面白い。たこ焼き器の上に配置したボールをリアルタイム解析し音に変換する作品、
「t a k o y a k i
sequencer」も放っておけばいつまでもいじって遊んでいたくなる。アイディアを技術に置き換え
られる能力もこれからのアーティストには必要になってくるのかもしれないと、この作品をみな
がら思った。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
八木良太展「サイエンス / フィクション」×アート・コンプレックス2014
開催日
12月23日(火祝) 会場:県民ホールギャラリー
事業概要 概要:企画展作家・八木良太と振付家・ダンサー岩渕貞太によるパフォーマンス。音楽は蓮沼執
太。
とても長い1時間10分(休憩を入れて1時間半)でした。たとえどのように優れたパフォーマーで
も、たった一人でこれだけの時間を持たせるのは難しいのではないでしょうか。第2部での映像が
もう一人の出演者だといえるのかもしれませんが、やはりあそこまで長々と繰り返す必要はない
評価内容 と思います。最初は感心した映像も、やがて見飽きてしまいました。「過ぎたるは猶及ばざるが
如し」という言葉、まさにその通りだと思います。1・2部合わせて30分くらいにまとめた方が、
①
映像も生きたのではないでしょうか(機材の準備に時間がかかるのかもしれませんが。)展覧会
会場もうまく生かされていたようには見えませんでした。展示がとても良かっただけに、残念で
なりません。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
ファンタスティック・ガラコンサート2014
祝宴 オペラ&バレエ 40th Anniversary
開催日
12月28日(日)
会場:県民ホール大ホール
事業概要 概要:恒例の年末コンサート。オペラ、バレエ、オーケストラの名曲、名シーンを集めて魅力あ
ふれるステージを構成。
いつもながら楽しい会でした。常連の方も多そうで、常連の方がお友達を誘って…というのも
多いように見受けました。誰でも楽しめる恒例のお祭り、といったところでしょうか。クラシッ
クが、こうした身近さの中にあることがすばらしいと思います。
もちろん、バレエもオペラもヨーロッパの一流の人たちと比較すると、体格、声量とも見劣り
します。だから、本音を言えば、バレエやオペラを日本人のもので一曲丸々見たくはありませ
ん。が、この企画のように、手軽な料金で、有名な曲を少しずつ、オペラ・バレエ・オーケスト
ラと組み合わせながら見聞きできるのは、やはり楽しい。日本人だらけというのもあるかもしれ
ませんが、日本人の見劣り云々ということをあまり感じずに鑑賞できるのもありがたいです。し
かも、若手を多く起用しているのも好印象。まだ名前が売れているわけではないけれど、「これ
評価内容 から」を感じさせる人たちの舞台を拝見できるのは、うれしいです。また、高岸さん振り付けの
曲なども、毎回二人とも楽しそうに踊られていて、バレエの楽しさが伝わってきます。そして今
①
回は特に、クラシックのサクソフォンというのをあまり聞いたことがなかったので、その点でも
楽しめました。よく知られているナンバーを中心にしながら、しかし、少しずつ、何かしら、毎
回変えた趣向、スパイスを入れてくる…、これが、リピーターをつかんでいる企画力かなと。司
会の宮本さん、そんなに来年のことおっしゃらなくても…とも思いましたが、なんとなく愛敬と
生活感があって、こなれすぎていない感じも、こうした企画にはかえっていいように思いまし
た。
一点だけ、もちろんよく知られている曲が多いのですが、それでも、オペラの歌の意味がわ
かった方がより楽しめる気がします。できれば字幕で、それが無理でもプログラムに入れていた
だけるとありがたいなと思いました。
神奈川県民ホール会館40周年記念の年のファンタスティックは例年通りオペラやバレエそれに
オーケストラの名曲が並んだ。年越しスペシャルということで28日の年末ぎりぎりに行われた
にもかかわらず大勢の観客で賑わった。年を重ねて行ってきた努力が伝統となって根付いている
ように感じた。こうした努力はホール運営にとって大切なことでチャレンジングな企画の一方で
いつも同じ時期に今年も観えるという観客の心理を狙った繰り返しも必要である。ただ、かと
いって「いつも同じ出演者じゃないか」と観客に思われることは避けて、常にマイナーチェンジ
評価内容 に努力するという刷新のコンセプトも忘れてはならない気がする。そうでないとやがて客離れが
みられ、また新しい伝統を一から作らなければならない。今年は私自身が3回目ということも
②
あってそういう「またか」という印象を少し持ったことも事実である。ひとことでいうとスペ
シャル感があまり感じられなかった。歌手が変わってもプレゼンテーションの仕方が同じだった
り、バレエのシーンもスペシャル感に欠ける気がした。このままだとそろそろ新旧交代を考えて
も良い時期なのかもしれないと少し感じました。あとバレエのためにオーケストラが後ろに下
がった分、どうしてもオーケストラの音の迫力に欠けてしまうのも今後の課題の一つではないで
しょうか。
・9回目を迎えるガラコンサート、来場者は例年通りの賑わいの程が伺われました。また、内容も
館の40周年に合わせた選定を試みられたりと工夫のほどが十分伺えるかと思います。また、新人
評価内容 演奏家の起用、バレエとの共演など、定番化する中にも新規の試みを挟みこむ工夫も例年に同じ
く伺われる所がありました。安定的な点から、いかに飽きられないようにするかという課題をお
③
抱えになってもおいでかと思いますが、こうした細やかな工夫が一つの機微を演出しているうち
は、近代欧化教養の再確認に陥らない企画でありつづけるか、とも思われました。
出演者の上野水香さんがおっしゃっていたのと同じように、この舞台を観て1年の終わりを感
じ、来年への想いを新たにするお客さんも多いことと思います。「続ける」ということの強みと
重要さをしみじみと感じます。神奈川県民ホール開館40周年にちなんで、作曲家が40歳の時の作
品を選んだとのことでしたが、プログラムに悲しい曲が多く、少々華やかさに欠けるようにも思
評価内容 いました。「祝宴」なのですから、文字通り、お祝いのシーンなどに使われる曲や、おめでたい
曲を集めた方が良かったのではないでしょうか。やはり『くるみ割り人形』と、ラストの『椿
④
姫』の「乾杯の歌」が(この時期にも)ふさわしいものとして楽しめました。ミヨーの曲に合わ
せたバレエもすばらしかったです。このガラコンサートが、わたくしにとって今年最後の舞台に
なるのですが、「観劇納め」にふさわしい公演でした。来年もより良い舞台に巡り合えるよう
願っております。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
毎年恒例となった本公演は、9回目を迎えたようであり、観客はリピーターが少なくないように見
受けられた。年末の恒例行事として定着したことで多くの観客を獲得しており、事業の継続性を
評価したい。内容は、アーティストの単なる腕比べガラコンサートではなく、毎回テーマを決め
て纏まりをもたせている。今回はホール開館40周年に因んで、オーケストラ、声楽曲は作曲家40
歳の作品が集められており、企画としてユニークである。そこに、バレエが加わることで、一段
と華やかさ、芸術の多様な豊かさが表現されている。 今年の司会者は、オペラ歌手の宮本益光
評価内容 であり、歌いながらの司会は難しいかと思われたが、楽しみながら、またその他の歌手、音楽
家、舞踊家に対しては親密さとユーモアをもって接していた。喋りがうまい専門の司会者もよい
⑤
が、このような音楽家独自の視点と知識を持った司会も、観客にアピールするにはよいだろう。
公演の最後に、音楽、芸術全般に対する観客からの支援と感謝について述べていたのが印象深
かった。
指揮者の松尾葉子による毎回趣向を凝らした公演プログラムから、比較的若いオペラ歌手、新
進の器楽奏者、バレエの古典と創作という、本事業の独自性を今後も大切に守りながら、地元に
定着し、地元から愛される公演として継続してほしい。
年の瀬に楽しいイベントがあるというのは素敵なことだと思う。とりわけクリスマスが終わって
お正月前の時期に恒例の行事があるのにはワクワクする。ファンタスティック・ガラコンサート
はバレエとオペラの良いとこ取りで華やかな企画。司会の宮本益光さんはお話に慣れていて上手
だが、来年の仕事ゲットへの鼻息が荒くて(半分冗談だろうし面白いけれど)見苦しいところも
あったが、演奏会全体は充実していた。とくに岡田昌子さんの声のマテリアルは素晴らしい。た
だ衣装のテイストについては小林沙羅さんときちんと相談すべきだったのでは。海外からの帰国
評価内容 だとドレスの運搬の問題はあるだろうが、女性陣どうしであまりに差があるのは違和感があっ
た。山本耕平さんはこれから期待のテノールで、まだ伸びしろがありそうなところが良い。サキ
⑥
ソフォンの上野耕平さんは初々しいが、楽器が楽器だけにもっと自らアピールする力を身につけ
て欲しいと思った。ダンスでは、ベテランの高岸直樹さんを拝めたのはありがたかった。(心の
中でバレエ界の阿部寛と呼んでいる。)上背があり踊りが大きいので、上野さんのようにダイナ
ミックな踊りができる女性舞踊手をしっかり受け止められる稀有な日本人ダンサーだと思う。た
だこの日の上野水香さんは、少し体が重く、動きにキレがなかったように見えたのは気のせいだ
ろうか。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
菅原淳とパーカッション・ギャラリー
開催日
2015年1月10日(土)
会場:県民ホール小ホール
概要:元読売日本交響楽団首席ティンパニ奏者、打楽器奏者の第一人者であり、これまでもパー
事業概要
カッション・ミュージアム他打楽器を使った企画性あふれるコンサートを開催してきた菅原淳に
よるリサイタル。
プログラミング、出演者のエネルギーと高いテクニック、そして菅原淳の人柄がにじみ出るMC…
どれをとっても楽しい、そして質の高いものでホール開館40周年記念のさまざまな企画の中で
も特筆すべきコンサートとなった。
小ホールを埋め尽くした観客からは演奏によって鼓舞されたエネルギーがステージに伝わり、そ
れがまた観客席に帰ってくるという素晴らしい循環運動がおこった。
評価内容
ジョン・ケージのアモーレスと一柳慧の風の軌跡の高い芸術性。一方ボールパーカッションのコ
①
ミカルなパフォーマンス。そして後半を飾った「カルメン」は菅原淳自身の見事なアレンジで息
つく暇もないメロディーと音の洪水。アンコールも素晴らしかった。こういう演奏家の息吹や人
間性が直接伝わるのは小ホールならではの魅力で、これからも是非こうした企画の登場が望まれ
る。優れた演奏は必ず観客を巻き込んでホールの空間全体でひとつの芸術を創りあげていく…こ
うしたことを久しぶりに実感できたコンサートでした。
かつて読響でティンパニを担当する名手として、菅原さんの姿は幾度となく見ていたが、今回は
じめてティンパニ以外の打楽器演奏姿に触れることができた。腕前はもちろん健在。趣向をこら
した選曲、名手ぞろいのお弟子さんたちで、打楽器の喚起する根源的な喜びのようなものを感じ
取れた。お弟子さんだけのライフェニーダー「ボール・パーカッション」は初めて聞いた作品だ
が 、コンセプトが面白いだけでなくきちんと音楽に反映されているのがすばらしい。演奏者たち
評価内容
の芸達者ぶりも好感をもった。また、この日はジョン・ケージ「アモーレス」で、ケージ直伝の
②
プリペアドピアノを一柳さんのピアノで聴くことができたのはとりわけ収穫であった。トイピア
ノのような可愛らしい音色、ガムランのような安定しないエキゾチックな音色と、多彩な響きを
楽しむことができた。後半の菅原さんによる「カルメン」編曲はエキサイティングとしか言いよ
うがない。とくにマリンバ1の岩見玲奈さんの弾き演じるカルメンが素晴らしい。マリンバで
ねっとりとからみつくようなポルタメントを聞くことができるとは!新鮮な驚きだった。
40周年記念コンサートのひとつとして打楽器アンサンブルをフューチュアーしたことに少しだけ
違和感を感じていましたが、私の予想とは全くの逆でお恥ずかしい限りです。とにかく素直に
「感動しました」の一言で40周年に相応しい演奏会でした。N響のパーカッショングループと一緒
に何回か家族向けのパーカッション・コンサートを企画しました。しかし今回のものは、それを
はるかに超えるものでした。最後の「カルメン」はたまたま隣席にいらした一柳慧さんが「これ
は僕がどうしてもと言ってリクエストしたもの」と仰っていましたが、息もつかせぬその編曲の
評価内容 素晴らしとステージングの魅力にすっかり心を奪われました。
また、プログラミングがよかった。パーカッションといえばコンテンポラリーですが、それらの
③
代表作をきちんと並べながら、かつその中に遊び心も入るという心憎いプログラム。感服いたし
ました。
小ホールという空間が良い距離感をもって聴衆に音楽が伝わり居心地のよい時間となりました。
ただ、こんなに素晴らしいコンサートをこれだけの観客数では勿体ないというのも正直な感想で
した。県民ホールではどうなのだろうと考えながら帰路につきました。
関係者のみなさまありがとうございました。
平成26年度外部評価報告(別紙)
事業名
神奈川県民ホール開館40周年記念
オペラ「水炎伝説」1幕3場<改訂版初演>
開催日
2015年1月17日(土)~18日(日)
会場:県民ホール小ホール
事業概要 概要:大岡信台本、一柳慧作曲により2005年に発表された〈混声合唱とピアノのための「水炎伝
説」〉を管弦楽版として編曲、〈オペラ「水炎伝説」〉として改訂初演。
「ハーメルンの笛吹き男」以来の県民ホール小ホールでの一柳慧作品のオペラ公演で、公演前か
ら東京でのさまざまな音楽会のロビー談義で話題になっていた。「どうやったらチケットが手に
入るの」と高名な評論家の何人かに尋ねられました。
一柳作品の場合はいつもそうですが、今度はどんなことを仕掛けてくるのだろうという期待も少
なくないようです。こういうことは神奈川芸術文化財団発信の公演にはとても大切なことだと思
います。新しい神奈川からの発信が音楽界を揺るがすことは私にとってはとても愉快なことです
評価内容 し、もっとも大切なことのひとつだと思っています。
出演者だけでも30名を数える本格的な規模。象徴的な舞台セットが出演者たちの躍動感によっ
①
てさまざまに変化していく。やがて気が付くとステージと我々聴衆の間には仕切りがなく一体感
を感じる。これが一柳慧さんのいう「今日的舞台芸術」だとするとこの言葉の意味は限りなく重
く、未来の音楽総合芸術の道を示唆している気がする。
最後になりましたが、音楽が美しかった。時には優しさをもって我々を包んでくれる。音楽が創
りだす空間に身を置く幸せを強く感じる時間となりました。
再演がおこなわれることを強く希望しています。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
第90回舞台芸術講座
チェンバロの魅力 Ⅲ Toccare トッカーレ ~ 触れる
開催日
2月11日(水祝)
会場:県民ホール小ホール
事業概要 概要:神奈川県民ホール所蔵のチェンバロを使い、大塚直哉の演奏とお話でその魅力を紹介する
シリーズの3回目。
チェンバロという楽器の演奏会自体、今回初めてでしたので、その美しく優しい音色を心から楽
しみました。どの曲の演奏も素晴らしかったのですが、短調の曲が続く中、明るい気持ちにさせ
てくれたJ.S. バッハのトッカータ 二長調と、ドゥ・フリースによる現代曲のトッカータ・アメ
リカーナが最も楽しめました。演奏者の大塚直哉さんによる解説や、カメラによるチェンバロ内
部構造紹介も、チェンバロという楽器を理解するのにとても有益でした。こうした知識があるの
評価内容 とないのとでは、演奏を聴く楽しみ方がかなり違ってくるのではないでしょうか。
演奏後のチェンバロ見学にも参加したのですが、こちらの方は少しやり方を変えた方が良いよ
①
うに思います。会場に残った人たちが、3組に分けられて舞台に上がる形を取ったのですが、人が
多過ぎてほとんど何も見えませんでしたし、調律の方の説明もよく聞こえませんでした。こう
いったやり方は、ごく少人数向きなのではないかと思います。順番に舞台に上がって、チェンバ
ロを近くで見て去る、質問がある人は調律の方に個人的に聞く、という形で良かったのではない
でしょうか。
平成26年度外部評価報告(別紙)
事業名
神奈川県民ホール開館40周年記念神奈川県民ホール・びわ湖ホール・iichiko総合文化センター・
東京二期会・神奈川フィルハーモニー管弦楽団・京都市交響楽団 共同制作公演
ヴェルディ 歌劇「オテロ」全4幕
開催日
2015年3月21日(土)~22日(日)
事業概要
会場:県民ホール大ホール
概要:びわ湖ホールとの共同制作オペラ第8弾。
大変レベルの高い良い公演であったと思う。
特にこの日のオテロ役のアントネッロ・パロンビの歌唱と演技に心を奪われた。
この入場料金でこれだけ素晴らしいオペラを提供できたことは本当にスタッフの方々のご努力の
賜物であろうと思う。
時代に即応したオーソドックスな演出はやはり観ていて安心感がある。内面描写に力点をおいた
ことに非常に好感をもつ。オテロはそのようにした場合に一層音楽がひきたつオペラであると思
うからである。
評価内容
欲を言わせていただくとすると、オーケストラの音色が単一に聴こえたことが残念に思われる。
①
もっと内面の機微をオケの音で表出して、むしろ声を引き立たせて欲しかった。振り返るとオー
ルメゾフォルテ以上かと思う場面もあった。本当はオケの音をそのようにあまり振り返るという
ことはしたくないものである。力量は充分にあると思うので、個人的な研究に加え、会場での響
きや歌手とのやりとり、全体の調節等に時間を費やすことで解決するであろうか。児童合唱の発
声に少し難があると感じた。
全体的には非常に難しいオペラを大変満足を持って鑑賞することができたことは、神奈川県民と
しても嬉しい限りである。周りにいた一般の聴衆も満足を持っていらしたように思う。
シェイクスピアの『オセロー』はこれまで舞台を観た事があるのですが、歌劇『オテロ』は初め
てで、その違いが興味深かったです。
デズデモナは、死の床で、エミーリアに誰がこのようなことをしたのか(彼女を殺そうとしたの
か)と尋ねられても、オテロの名前は出さず、自分のせいだと言って息絶えますが、これは原作
の『オセロー』でもその通りです。ですが、『オセロー』の場合、一幕で、デズデモナが結婚を
評価内容
反対する父に、自分はオセローを主人として彼に仕えると宣言する場面があるので、シェイクス
②
ピアは、心優しいだけでなく「自分が彼(オセロー)を選んだことによってこうなった」と最後
に認める勇気のある、強さも合わせ持った女性としてデズデモナを描いていると言えるでしょ
う。そのシーンがない歌劇『オテロ』においてのデズデモナは、もう少しか弱い女性として表現
されているようですが、今回デズデモナ役を演じた安藤赴美子さんは素晴らしかったです。第4幕
の「柳の歌」は哀切に響きました。
大変素晴らしい舞台。まずもって演出の粟国淳さんのセンスがずば抜けている。少ない素材で舞
台芸術に必要な想像力をかきたてる美的感覚、人物の動かし方が秀逸。音楽とともに衝撃的に始
まる海のシーンから美しいし、舞台全体を暗くしたのも正解。装置も壁を回転させてさまざな形
に組み合わせるだけなのに、非常によく考えられている。特に壁に浮き上がるマリアは素晴らし
いアイディアで、第一幕のつかの間の二重唱と終幕がリンクする効果がある。岩のようにも見え
る壁は、死を予感するデズデモナの言葉「乙女の姿に岩も泣く」とこだまする。また、破局の瞬
評価内容
間に壁が四つに分かれるのだが、妙に残酷さが出ていたように思う。歌い手もおしなべて高レ
③
ヴェル。とりわけアントネッロ・パロンビは世界的に貴重なオテロ歌いの声を持っている。安定
して力づよく、感情表現も心がこもっている。デズデモナの安藤赴美子さんは舞台姿が美しく、
声もくせがなく繊細。とりわけ絶命寸前の絹糸のような声はギリギリのところで闘う歌い手の矜
持を感じた。堀内康雄さんもいつもながら良い声。一見西洋人かと見紛う容姿。音程が不安定な
ところもなくはないが、存在感がそれらを帳消しにする。沼尻さんの指揮もツボをおさえたも
の。「効果」というものをよくわきまえたものだと思った。
恒例となった、神奈川県民ホール、びわ湖ホールなどとの共催によるオペラの共同制作公演で
ある。多額の費用を要するオペラの新制作を複数の劇場、芸術団体との共同により行うことが、
まず評価できる。本年度は大分のいいちこ総合文化センターも加わり、地域に芸術文化を広げる
役割も果たしている。前回の「ワルキューレ」よりも劇場には空席が目立った気がするが、演
評価内容
目、出演者により集客に差が生じることはやむを得ないし、集客のよいポピュラーな演目ばかり
④
では、観客の質と量を長期的に育てることは難しい。妥当な選曲であり、比較的オーソドックス
な演出でじっくり歌を聴くことができたのか、観客の拍手の大きさと長さが、彼らの満足をよく
示していた。外国人キャストと日本人キャストをバランスよく組み合わせており、声量とオケの
バランスには違いがあったが、十分に観客へ訴える力を持っていた。
平成26年度外部評価報告(別紙)
事業名
第92回舞台芸術講座
オルガンの魅力- 音色七変化 -
開催日
2015年3月28日(土)
事業概要
会場:県民ホール小ホール
概要:県民ホールオルガンアドバイザー荻野由美子による、参加型のレクチャーコンサート。
タイトルにたがわずしっかりとオルガンの魅力を味わうことのできる好企画。実演を交えた荻野
さんの明快な説明で、オルガンの機構についてよく学ぶことができる。パイプ一本一本の音色の
違い、ストップの種類などここまで丁寧に触れられる機会はそうそうない。また、レジストレー
ション案を複数用意して観客に選ばせるというのもイベント性がある。Wacht auf では荻野さん
自身が難しいほうのレジストレーション案であると言って挑んでいたが、出演者を身近に感じら
れた。後半ドイツロマン派の作品とフランスの作曲家で、伝統的に音色指定がなかったりあった
評価内容 りという話も興味深く聞いた。また体勢や機構の問題で無理な音を、アシスタントさんが弾いて
いたというのもいかにもオルガンらしい。演奏自体はところどころミスタッチもあったが、こう
①
した企画ではあらゆることを同時にこなす必要があり出演者は大変だろうと察したが、プログラ
ムも有名どころを差し入れつつバッハから近代までをざっと俯瞰できる工夫があり、総体として
は大変満足感のある会であった。プロジェクターを使用して手元や楽譜を映し出す工夫も親切、
資料も大変充実している。説明されればされるほどオルガンという楽器が工夫に満ちて、それゆ
えに複雑であると感じ入った。オルガン一台一台の音色や鍵盤数など個体差についても触れてい
て、知るほどに興味がつきない。これこそタイトルの狙い通りということだろう。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
ブロードウェイ・ミュージカル「イン・ザ・ハイツ」
開催日
5月10日(土)~11日(日)
会場:KAAT ホール
事業概要 概要:「家族、友人との絆」と「自分の居場所探し」を舞台を通して広く伝えていくタイムリー
な作品。
こういった英語ミュージカルの日本版を観る時にいつも気になるのは、歌詞がちゃんとメロ
ディーにのっているかということです。特にラップは難しいだろうと思っていました。実際、最
初は何を言っているか分からない部分もありましたが、段々聴きやすくなり、歌詞が英語からの
翻訳だということが気にならなくなりました。役者さんたちも「のって」きたのだと思います。
評価内容 テーマも移民の問題だとすると、日本人には理解が難しい部分もあるでしょうが、「自分の居場
所」はどこなのかという話だったので、入っていきやすかったです。
①
ひとつだけ残念だったのは、会場が満席ではなかったことです。チケット代金は妥当だと思い
ますが、舞台が観にくい(見切れてしまう)席を少し安めに設定して販売してはどうでしょう
か。チケットの種類が増えると手間もかかってしまうでしょうが、やはりこういった舞台は、会
場いっぱいの観客で盛り上げてあげたいものです。
これまでのミュージカルと少し違って、ヒップホップを中心とした音楽だけに観客の反応に興味
を持って会場に伺ったが、当日は老若男女の観客で超満員。2008年のトニー賞を受賞した作品だ
が、私は、受賞直後に、たまたまニューヨークでオリジナルキャストによるステージを観る幸運
に恵まれた。マンハッタン北部の貧しい人たちが多く住むワシントンハイツが舞台であり、人種
の坩堝の大都会らしく、様々な国からの移民によるキャスティングは観客から大きな歓声と拍手
で迎えられていました。ドミニカなどのラテン系、アフリカンアメリカンの若者たちの生き様を
描いたカラフルなミュージカル。それだけに今回のKAATで拝見した公演では日本人だけによ
評価内容
るキャスティングですから、どうしてもワシントンハイツの舞台イメージとしては違和感が拭え
②
ないまま終幕まで行ったというのが正直な感想ですが、それでも、ラテン系の雰囲気を持つマル
シアやアメリカやブラジルの血を引く前田美波里やエリアーナが舞台をインザハイツらしく盛り
上げてくれました。ただ、ダンシングのスピード感とキレ、そして少し引きずったようなリズム
感の音楽…世界に肩を並べるにはまだ時間がかかるのかもしれません。
東京以外では、大阪4回、名古屋2回、福岡1回の公演回数に比してKAATが3回公演を主催して
どれも満席とか。シアターの領域では横浜は西に発展する文化の拠点になりつつあることがうか
がえます。
ブロードウェイ・ミュージカルと銘打っているだけあって、はじめから終わりまで観客を飽きさ
せることがない。人種の坩堝という設定にふさわしく音楽はラップからカリブ風など、ありとあ
らゆるスタイルがごちゃまぜに入り組んでいるが、役者陣がみごとに対応してゆくのに感心し
た。群舞には若干レヴェルの差はあったものの、ソロダンサーではグラフィティ・ビート役の大
野幸人さんが、指先足先まで神経の行き届いた美しい踊りで一頭地を抜く。それでいてアクロバ
評価内容 ティックな動きやブレイクダンスまで悠々とこなす身体能力の高さにうなった。群像劇だけに、
人物それぞれの背景が複雑にからみあってゆくのがみどころだが、役者陣は適材適所で、それぞ
③
れに独自色を出す工夫をしている点も、上演を引き締めた要因であると思う。大団円での前田美
波里リスペクトも、若い世代の先輩世代への敬意表明と言う点でなかなか悪くないものだ、と
思った。なおカーテンコールでおもな役者の生の声が聞けたのはいいのだが、翌日の千秋楽のこ
とばかり強調して話すのはどうかと思った。翌日がツアーの最後であろうが、あくまでもその日
その場に来てくれている、目の前の観客のために、話をするべきであるのだから。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
劇場体験型ナゾ解きゲーム KAAT the ツアー
『消えた衣裳を探せ!』
開催日
5月30日(金)~6月1日(日)
会場:KAAT ホール
事業概要 概要:参加者自らが劇場中に隠されたヒントを見つけ出して謎を解き、「何か」を探す劇場体験
型ナゾ解きゲーム。
・当企画は、通常の劇場見学とも、また公演とも異なる性格のもので、謎解きゲームを介して
バックステージをめぐるものとしてどのような参加者層があるのかと興味をもって参加しまし
た。その目的は様々であったかと思いますが、参加者は年齢層も幅広く、かつまた青年層の参加
も多くみられた点も興味深く思われました。そのことから音楽堂のような歴史的建造物を見学す
る性格を持つ劇場ツアーとはことなり、商業的側面を持たせながら、まだ新しい劇場の舞台機構
評価内容
を見学するツアーがどのように市民に親しみをもった形で開かれる企画を持てるかと言う課題へ
①
の、一つの応答・事例として見る事のできるツアーではなかったかと思います。
ゲームも難易度があり、これ自体が達成感の持てる企画となっていた点も、通常のバックステー
ジツアーへ参加する機会を持ちえずにいた層へも足を運んでもらい、また参加の満足度をもたら
す結果と上手くつながっているようにも推察されました。
今年のKAAT the ツアーは昨年より難易度が上がっていた。今回も劇場内をくまなく歩き回らせ、
照明、音響など舞台機構も楽しく学べる工夫がなされていて感心した。よくあれほど手の込んだ
問題をつくれるものだと思う。終始、スタッフが常駐していてよく会場に目配りし、困っている
と声もかけてくれるのが印象的だった。また舞台上でスタッフ係を演じている方々について、近
評価内容
くにいた観客が「本当のスタッフさんにしては堂々としているし、役者さんにしてはあまりに自
②
然。どっちだろう…?」と話していたのが聞こえてきた。みなさんすごいですね。今回は最後ま
でたどり着けた中に親子連れがいなかったが、大人向けとのことで納得。全国他の場所でも再演
の予定がおありだそうで、マンパワーをフルに生かした楽しい試みが広がるのは非常に喜ばしい
限りだと思う。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
KAAT×五大路子 新作
『ニッポニアニッポン~横浜・長谷川伸・瞼の母~』
開催日
5月30日(金)~6月8日(日)
事業概要
評価内容
①
評価内容
②
評価内容
③
会場:KAAT 大スタジオ
概要:横浜を拠点に活動を続けている女優・五大路子を迎え、6月2日の開港祭にあわせ、神奈川
(横浜)を舞台とした新しい作品創作を行う。横浜ゆかりの劇作家・長谷川伸の作品に新しい切
り口で挑む。
横浜を代表する劇場といえるKAATが、横浜出身の劇作家を取り上げ、横浜を中心に活躍している
女優が出演する―企画内容はとても興味深く、高く評価できると思います。
長谷川伸の作品は、改装前の歌舞伎座で『一本刀土俵入』を観ており、科白が非常に耳に心地良
かったことを覚えています。また、演出の松本修さんもプログラムに書かれているように、小劇
場ブーム時の劇作家たちが作中で長谷川作品の科白を引用したり、長谷川へのオマージュのよう
な戯曲を書いたりしていたので、長谷川伸はずっと気になる作家の一人でした。そのようなわけ
で、かなり期待して観劇に臨んだのですが、あらゆる意味で中途半端な舞台だったなというのが
その感想です。
主としては、脚本に問題があったように思います。長谷川の人生を伝えるか、長谷川作品の魅力
を伝えるか、両方をやろうとして、どちらもうまくいっていなかったように感じます。長谷川の
芝居を知らない観客には、その一部を見せなければという気持ちは分かりますが、そのようなこ
とをしなくても、作家の人生やキャラクターを伝えることはできるのではないでしょうか。例え
ば、井上ひさしの『頭痛肩こり樋口一葉』などは、一葉の作品を引用することなく、一葉的な世
界を舞台に表現しています。恐らく、長谷川が無名の庶民を描き続けたということが、最も伝え
たかった部分であると想像しますが、庶民の出てくるシーンがほとんどなく、科白でそのように
説明されただけでしたので、あまり心に響きませんでした。新聞を懸命に読もうとする女の子を
優しく励ますシーンが、最も長谷川の人となりを伝えていたようで、印象に残っております。
・生誕130年の長谷川伸を題材に横浜ゆかりの上演作品として行われた劇場タイアップ型の上演と
しては妥当な企画であったかと思われ、またそれは、横浜の近代史のある部分に接する形でまと
め上げられた点、公共劇場としての当劇場での上演の必然性を思わせる企画内容でもあったかと
思われます。
拝見した回の客席は、長谷川伸に何らかのイメージをもった世代として比較的高齢であったかと
みうけられました。舞踊作品などへも出演の多い俳優の起用も、作品への関心が比較的自然に促
されるであろう若年の客層へのアピールとも察せられるなど、上演とその作品の意義を問うてい
く対象を広げる苦心も窺われるように思われました。
また、いかに長谷川伸に関する解釈を改めていけるだろうかといった腐心も、今回の戯曲からは
伺われるように思われました。こんごこうした長谷川伸解釈における試みがどのように演劇に於
いて展開可能なのかという議論が、劇場を中心に行われるというのも、また一つの話題作りには
なるのかなと、 個人的に想像を膨らませた次第です。
副題に「横浜・長谷川伸・瞼の母」とつけられているが、主演の五大路子をはじめスタッフも制
作のKAATも徹底的に上記のキーワード(副題)に拘った作品だけに、その思いは確実に客席に
届いた気がします。
脚本、演出、主演がそれぞれ演劇界の異なる分野からの出身であることから創りだされるエネル
ギーを感じる舞台、また進行、特に照明と音響はその奇をてらわない手法が舞台に効果的な緊張
を走らせた。実験的な一面もありながら、どこか明治座の客席に身を沈めているような心地よさ
が感じられて素晴らしい出来の作品に仕上がった。
ステージものの意欲作には制作者の思い込みのせいか、どこか観客を居心地悪くさせる一面をも
つものが少なからずあるが、「ニッポニアニッポン」にはそれがなく久しぶりに充実した時間を
楽しむことが出来ました。次回のKAAT主催の作品に大きな期待を感じます。
冒頭にも書きましたが、長谷川伸に拘ったからこそ、横浜に拘ったからこそ、横浜の外にも通じ
る作品に仕上がったのではと考えます。横浜のKAATも常に開かれた、外に向かったエネル
ギーの発信基地であってほしいものと期待しています。
俳優陣の演技力の高さによって芝居全体に安定感があり、劇中劇が入れ子上になっている部分も
評価内容 明確に演じられていたのでストーリーに入り込みやすかった。
芝居の中で訴えられている「日本人」観はやや懐古主義に偏っているところも感じましたが、現
④
在の社会情勢とも呼応する部分もあり意義のある公演だったと思います。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
瞼の母ということばに聞き覚えはあっても長谷川伸については恥ずかしながらこれまで知らな
かった。今回作品をとおして彼の生涯をたどることができて非常に良かったと思っている。作品
は見応え十分。脚本と演出のおかげか、劇中劇で実際の作品を織り交ぜても、混乱するようなこ
とはないし、役者も優れているため一人何役もこなしているのに異なる人物であることがはっき
りわかる。とくに八面六臂の活躍をみせた五大路子がすばらしい。女郎あがりの若い娘から伸の
評価内容 年老いた生母までを瞬時に切り替えて、登場した瞬間に別の人物としての空気をまとっている。
シン役、原康義のどこか情をそそる雰囲気も、生涯あらゆる女性たちと縁を結んだ男にふさわし
⑤
い。大沢健の型くずれしない演技、吉野美紗のけなげで庶民的な風情も良い。客席の平均年齢が
高めであったが、長谷川伸になじみのある方々らしく、なつかしそうな声がずいぶん聞こえてき
た。実際にこの時代を知らない私にとっても、思わずグッとくるものがあった。ニッポニアニッ
ポン、絶滅の危機に瀕しているトキの学名だそうで、どこか暗示的に響く。古き佳き日本人の心
も、どうか守られていくようにと願わずにはいられない。
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事業名
ダンスシンポジウム
『ダンスは何だ?』
開催日
6月15日(日)
会場:KAAT 大スタジオ
事業概要 概要:それぞれの分野の先駆者たちが、お互いのダンスの違いを出発点に、「一億総ダンサー
化」へむけての秘策を語り合うシンポジウム。(登壇者:SAM、森山開次、近藤良平)
SAM、近藤良平、森山開次という各ジャンルで先頭を走っている面々を揃えたシンポジウムという
ことで、非常に興味を持って出かけた。まずはこの内容で無料公開ということに驚くが、映像を
交えながら彼ら各々の活躍ぶりをあらためて辿り、その上で話を聞けるという流れは大変良いと
思う。司会は素人的で、ハラハラするところもあったが、出演者の当意即妙な受け答えなどもあ
り、会場は沸いていた。とくにSAMさんの話ぶりはおだやかで、丁寧。説明も明確。一口にスト
リートダンスといっても、あれほど多くのジャンルに分かれているということを知らなかったの
評価内容 で、大変勉強になった。近藤良平さんのエネルギッシュな人間性、森山さんの芸術家肌のたたず
まいも、なるほどと思うものがあった。特にコンテンポラリーダンスが、本来の先鋭的、同時代
①
的な意味合いではなく、ある時期に確立した1ジャンルになりつつあるという近藤さんの指摘は
非常に強く印象に残った。また、来る高齢化社会に向け、ダンスが担う役割について、やがて真
剣に考えざるをえなくなるだろうという意見にも共感した。テーマこそゆるい束ね方だったが、
話された内容はダンサー一個人から社会的役割について敷衍することもできるようなもので、意
義は深い。なお会場からの質問者の選定は難しいものではあるが、自分の意見を長々と開陳する
場合には、司会者の裁量で若干の抑制もする必要があるかも知れないと思った。
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事業名
Noism設立10周年記念企画 Noism1 & Noism2合同公演
劇的舞踊『カルメン』
開催日
6月20日(金)~6月22日(日)
事業概要
会場:KAAT ホール
概要:新潟のりゅーとぴあを拠点に活動を続けているレジデント舞踊団「Noism」との共同事業。
舞台の使い方がシンプルできれいでした。特に、影絵の使い方が美しかった。けれど、全体的に
印象が薄い感じがしました。
まず、この作品には「演劇的」である必要性をあまり感じませんでした。むしろ、舞踊だけの方
がきれいにまとまったんじゃないかな、と。学者の存在がとってつけたようで、この存在がある
ことで、物語の新たな何かが立ち上がってくるというようなものではなかったように思いまし
た。
また、ダンサーの声の質や声量の問題もあるかもしれませんが、声の使い方が今一つ。かえって
全体が貧弱に見える気がしました。ずっとビゼーの曲が流れているので、いわゆるカルメンのイ
メージが私から離れなかったということもありますが、カルメンのダンサーに迫力、オーラがな
評価内容
い。日本人の体格による部分もあるかもしれませんが、性悪にも、蠱惑的、情熱的、破壊的にも
①
見えないので、彼女の良さの引き出し方、もっと違う形でのカルメンの提示の仕方はなかったの
だろうかと、その点がもっとも残念に思いました。よく知られている作品を再話化することの難
しさもあるかもしれませんが、もっと思い切った変化に踏み出した方が面白かったのではないか
という気がします。
なお、金曜夜の設定を7時半からと、仕事帰りでも駆けつけやすいように遅めにしてくださってい
ることが大変ありがたかったです。が、さすがに直前に駆け込む人が多いのか、当日受付(関係
者受付?)のところだけ舞台開始10分前になっても長い列ができていたので、こういうときは、
他の受付担当の人にも応援を頼める体制を作るなど、臨機応変にしていただけるともっとありが
たいなと思いました。
大変レベルの高い公演であったと思います。舞台装置や照明、音響、そしてダンス、すべてスタ
イリッシュで素晴らしかったです。鍛え上げられた身体を持つダンサーたちが行なっていたから
でしょうが、あのように美しくスムーズな転換は初めて見ました。KAATのホールや設備によく
マッチした、センスの良い舞台でした。
今までも、カルメンを主人公とした映画やフラメンコの公演などを観ているのですが、どれも
しっくりせず、『カルメン』は視覚化するのが難しい作品だと感じていました。カルメンが単な
る気性の激しい、我儘な女性に見えるものが多かったのです。今回のカルメンがこれまで見たも
評価内容
ののなかで、最も魅力的な描かれ方をしていました。ただ、舞台自体はもう少し刈り込めると思
②
います。ダンスとは元々そういうものだとは思いますが、重複が多過ぎました。ホセもカルメン
も、本当に死ぬまでに2、3度死んだかと勘違いしてしまったくらいです(死ぬような振り付け
が繰り返されたので。)恐らく、あと20分は短くできるように感じましたし、その方が、舞台が
締まると思います。
しかし、大変実力のあるカンパニーであることは確かです。皆さん、難しい動きを何気なくこな
していましたが、想像を絶する練習量が舞台を支えているのが分かります。今後の活動にも注目
していきたいです。
まさに傑出した公演である。ビゼーのオペラとしてこれほど手あかのついた作品を、金森がいか
に料理するかと注視していたが、期待をはるかに上回るものであった。まず演出振付が素晴らし
い。クラシカルからモダン寄りまで体の使い方、重心の取り方を自在に変えて、登場人物のキャ
ラクターを明確にするのもすばらしいが、それを音楽性豊かなダンサーたちが見事にこなしてゆ
くのに見ほれた。とりわけ井関佐和子のカルメンは筆舌に尽くしがたい壮絶さである。足指を扇
評価内容 のように開いて踵から着地し、地面をつかむ野性味あふれる歩き方、蠱惑的な表情と身体。ス
ペースパターンが広く、オーラにあふれている。悪の華としてこれほど魅力的なカルメン像には
③
そうめぐりあえないのではないか。また、ミカエラ役真下恵には古典的な足さばきが要求され、
美しくこなしていたのもよいが、群舞もラテンのエネルギーに満ちあふれ、緊張感のゆるむとこ
ろがなく圧倒された。違和感があったとすれば、オペラでの楽曲構成と曲順や場面内容が変わっ
ていたこと。影絵のアイディアは興味深いが、その謎解きに気をとられてしまい、観客としては
一瞬ダンサーへの注意が逸れてしまったことくらいだろう。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
新潟市民芸術文化会館所属のNoismの制作によるカルメンは、地元新潟では1回公演、KAATが
3回公演を行っている。横浜のシアター人口の裾野を拡げるのにKAATは確実に重要な役割を担
いつつある証でもある。主にベジャールの下で研鑽を積んだ金森穣のコリオグラフによるダンス
のためのカルメン。開演直前から下手ステージに陣取る人物が予想通りの物語の進行役を担う。
ダンスだから物語の説明役が必要なのは理解できるが、殆どの観客が内容を知っているカルメン
だけに、進行役の存在は正直に言って「あーまたか」と感じたのは私だけだろうか。もう少し台
詞や役者の演出に工夫があっても良かったのでは。音楽はビゼーの原曲をもとにしたシチェドリ
評価内容
ンが妻で名ダンサーのプリセツカヤのために編曲したバージョンとグールド編曲版が使われてい
④
た。一見質素な布をシルエットスクリーンとして使う効果は全体の構成の上で興味深いもので
あった。ちなみにビゼーのこの名作もオペラ初演では今回のように音楽を台詞でつなぐ形で行わ
れさんざんな悪評となったので、ビゼーの死後になって台詞をレシタティーヴォの形に改編して
大成功したことはよく知られている。今回の演出家はダンシングということで初演版に近い形を
とったのかもしれない。カルメンのバレエ・ダンス化の試みはこれまで多く行われてきたがいず
れもビゼーのオペラの持つドラマティックなエネルギーを超えるものはシルビーギエム(M/
エック振付)やローランプティでもなかなか難しいらしい。
私自身としては今回が初めてNoismの作品を観る機会であり、またオペラに関しても浅い知識しか
ないため、一見本公演は敷居が高いように思われた。だが、オペラ『カルメン』自体はストー
リー、楽曲ともに大変有名な作品であり、本作がそのあらすじを忠実になぞっていること、フラ
メンコ風で耳に慣れた、ダンスと相性のいい楽曲によって舞台が構成されていることで、予備知
識なく楽しめ、コンテンポラリーダンス、オペラへの導入となる作品になっていたのではないだ
ろうか。
脚本のベースにメリメ版を使用し語り部役を置き、それに伴いSPACの奥野晃士氏をキャスティ
ングし、劇中劇となるダンスと、全体の枠組みとなる演劇的なシーンとが好対照となっていた。
ラストにかけて死神的な存在が音楽の力とともに、物語を語り記述する学者へ憑りついてしまう
評価内容
という展開は、ダンスの持つ力を顕在化させる場面であった。
⑤
しかし、『カルメン』の原作それ自体のストーリーや登場人物の造形が極めてシンプルである
ために、特に有名歌曲で踊るシーンでは、ダンスのエンターテイメント性は強く出ていたが、一
方でストーリーの意味に即しすぎており、抽象性に欠ける部分があったように思う。このわかり
やすさに対して私は多少否定的だが、例えば舞台に親しみのない観客へのアプローチとしては、
有効な側面もあるのではないかと思う。
歌曲が重要とされるオペラ作品を、あえて既成の演奏を使い、曲構成に大きく手を入れないま
ま、ダンス作品として作り直すという試みは、オペラの翻案作品として評価されるべきだろう。
パンフレットやアフタートーク等の形で、オペラの演出家や研究者からみて本作がどのように評
価されるのか知る機会があればより鑑賞経験が深まったのではないかと思う。
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事業名
子供のためのシェイクスピア『ハムレット』
開催日
7月2日(水)~7月6日(日)
会場:KAAT 大スタジオ
事業概要 概要:「子供のためのシェイクスピア」シリーズが20周年を迎えるにあたり、シェイクスピア四
大悲劇のひとつ『ハムレット』を上演する。
今まで様々なバージョンの『ハムレット』を観てきた中で、最も楽しめた舞台でした。コロスの
ような黒コート集団の存在が非常に生きていました。ハムレットがオフィーリアを前にして悩む
シーンなど、ハムレットの衝動を邪魔する黒コート集団によって、ハムレットの内面の葛藤が見
事に視覚化されたように思います。
悲劇とされている『ハムレット』ですが、シェイクスピアの時代の役者は、真面目にストー
リー・ラインを演じるだけでなく、当意即妙にお客を笑わせていたのではないかと想像します。
そうした部分や、舞台装置や小道具をほとんど使わないことなどにおいて、そして何よりも、
評価内容 「遊び心」があることにおいて、当時の上演にかなり近いところがある舞台なのではないかと思
います。ハムレットと仲間たちの挨拶(「ウッス!」)、秀逸でした。
①
『ハムレット』は、テーマや台詞など、子供にはかなり難しいと思われる作品ですが、だからと
いって原作の骨格を崩したり、子供が好みそうな(本当に子供が好むかは別として)構成にした
りしていない点に感心いたしました。たとえ理解できない部分があったとしても、良いものは良
いと子供には(子供にこそ)分かると思います。ただ、上演時間が休憩なしの2時間というのは、
小さいお子さんには少々きついのではないでしょうか。実際、時々、「もう終わり?」「これで
終わり?」とお子さんがお母さんに確かめる声が聞こえてきました。短くても休憩を入れれば、
小さいお子さんの集中力も持つのではないかと思います。
「子供のための」と銘打ってあるが大人にも手応え充分な上演。このカンパニーには固定客がい
るようで、開演前からいろいろと予備知識が聞こえてきた。拍手でリズムをとるアイディアはス
ティーブ・ライヒの「クラッピングミュージック」を髣髴とさせるが、劇の進行にうまく楔を打
つ役割を果たしていた。客席にいた子供が、拍手のたびにつられて自分も拍手をしていたのが微
笑ましい。簡素な舞台だが練り上げられた演出、役者の動きにより間然としてゆるむところな
評価内容 し。とくに先王役山崎清介のたたずまい、台詞回しには味わいがある。手に持った人形に言葉を
語らせる時の声色、間の取り方もよい。二役演じた伊沢磨紀は小さなミスはあったものの持って
②
いる声質、間合いに特徴があり、存在感がある。一方若い役者もみずみずしい。ハムレット役若
松力の純粋な役作りにも好感を持ったし、ホレーシオ斉藤悠ら周りをかためる役者も良い。ただ
オフィーリア役宮下今日子は姿がよく、狂気に陥ったあとの裸足の姿なども情をそそるものの、
台詞回しはいまひとつ固い。情感の変化に細やかさを増せば、さらに劇全体が引き締まることだ
ろうと思う。
生誕450年の節目の年に1995年にスタートした「子供のためのシェイクスピアシリーズ」は20周年
を迎える。その目玉として「ハムレット」を全国展開、KAATでは6回公演を主催した。私の計
算が正しければ、全国の公演でも最多の公演回数をKAATが主催したことになる。回数に拘る
ようだが、全国的なKAATの知名度と裾野拡大のための嬉しい数字である。
「子供のための」の理由を制作者のパンフレットから探した…「観客の想像力をかきたてるシン
プルな舞台装置、遊び心あふれる演出で、何よりも年齢を問わず一緒に観られるというシリー
評価内容 ズ。観劇後の親子、友人との会話のきっかけともなる作品です。」こうした明確な意図を持って
いる舞台だけに成功したステージとなった。
③
内容的には簡素化された舞台を巧みに使ったもので、奇をてらわず、独りよがりの意気込みもな
く、シェイクスピアの魅力をシンプルに伝えてくれた素晴らしい舞台だったと感じました。私の
前の席にいた小学校低学年の子供さん2人とお父さんの親子連れが騒ぎもせずにじっとシェイクス
ピアに見入っていたのが印象的でした。少し余談ですが、休憩なしの2時間を超えるステージをあ
の劇場の薄いクッションの上で我慢するのはいかがなものでしょう。途中に休憩を入れるとか何
らかの改善を期待します。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
ブロードウェイミュージカル「ピーターパン」
開催日
7月13日(日)
事業概要
会場:KAAT ホール
概要:子どもから大人まで楽しめるメガヒットミュージカル作品。
今回KAATに向かう道々、お父さんやお母さんに連れられた、おめかしをしたお子さんたちを目に
して、微笑ましく思うと共に、いつしか自分の子供時代のエピソードを思い出していました。中
学校で演劇部に入った私は、演劇コンクールで他校が上演した『ウエストサイド・ストーリー』
に夢中になり、ちょうど劇団四季が上演することを新聞で知って、観に行きたいと両親にねだっ
たのです。実家は茅ケ崎でしたので、中学生が一人で東京まで行くなんてとんでもないというの
が、両親の返答でした。その時、四季は日生劇場で公演を打っていたのです。しょんぼりと過ご
していたある日、学校から家に帰ると、両親が何やらニコニコしていました。不審に思いながら
も自室に入ると、机の上に、何と「劇団四季『ウエストサイド・ストーリー』横浜公演」という
新聞広告とチケットが置いてありました。狂喜乱舞している私に、両親は笑いながら言いました
評価内容 ―「横浜だったら行っていいよ」と。
今回もきっと、当時の私と同じように「横浜だったらいいよ」ということで、公演に連れて
①
行ってもらえることになった子供たちがいっぱいいたに違いありません。東京ほど観客が動員で
きないにしても、東京の公演を横浜に持ってくる意義は計り知れないと思います。公演の内容に
関しては、「?」という部分も少々あるのですが(例えば、お父さんとフック船長を同じ俳優が
演じるということには意味があり、欧米でもそのように演じられているのですが、お母さんとタ
イガー・リリーを同じ女優が演じるのはどうでしょうか。)そういった細かいことよりも、客席
でお祖母さんがお孫さんに、「お母さんが初めて観たのも『ピーターパン』だったのよ。」と
言っていたことに意味があると思います。ウェンディからジェーンへとネバーランド行きが続い
たように、観客もお母さんから娘・息子へ、そしてその娘・息子へと継がれていっているのだと
いうことに感動を覚えました。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
ドキュメンタリー映画
ピーター・ブルックのザ・タイトロープ(原題)
『Peter Brook: The Tightrope』
開催日
7月13日(日)
会場:KAAT 大スタジオ
概要:演劇史に名を残す偉大な演出家ピーター・ブルック。その秘められた創作現場をドキュメ
事業概要 ンタリー映画として映像化。上映にあわせてサイモンブルック(監督)、笈田ヨシ(俳優)と白
井晃(KAATアーティスティック・スーパーバイザー/演出家・俳優)によるトークショーを実
施。
これは非常に価値のある、奇跡的な映画―記録―だと思います。ピーター・ブルックの稽古場を
覗く―どのような形であれ、演劇に関わっている人間でしたら、きっと熱望することでしょう。
しかし、外部の人間が稽古場にいると、俳優が集中できなくなってしまう、だから入れたくな
い、というのは当然のことで、サイモンさん本人も認めていましたが、「息子」という特別な立
場にあったからこそ、入れてもらえた稽古場であり、撮らせてもらえた映画であったと思いま
す。
アフター・トークでご本人が言っていたように、サイモンさんとピーター・ブルックは、心か
らお互いを信頼し合っている、本当に仲の良い親子なのだと思います。それは、作品を観れば明
らかで、サイモンさんが、俳優が上手く課題をこなしている部分よりも、むしろ、奮闘している
評価内容 部分を中心にフィルムを編集していることからも良く分かります。サイモンさんは、演出家がど
のような時に喜びを感じるのかということを、ピーター・ブルック以上に理解しているのです。
①
そして、その喜びとは、俳優が苦しみながらも、想像力で真実を生み出す瞬間に立ち会うことで
す。この作品にテーマのようなものがあるとしましたら、それは「俳優に必要なのは、常に己を
高めようとする努力である」となるのではないかと思います。たとえ、タイトロープの課題が上
手くいったとしても、舞台ではその真実の瞬間が、2時間、3時間と続かなければなりません。映
画の中でピーター・ブルックが「本当に良い舞台は、終わった後に沈黙があり、それから拍手と
なる」と言っていましたが、私も、ごく僅かですが、そういう舞台に巡り合っています。まさに
すべてが奇跡的に上手くいき、虚構が真実になった時、観客は大きな感動で満たされて動けなく
なるのです。演劇に携わる人たちは、観客にそういう感動を与えたくて、日々努力を重ねている
(重ねる必要がある)のだと思います。
・今回の先行上映では、観客席も年齢層に幅があり、内容への期待と関心の度合いが伺われたよ
うに思われます。
企画内容に関しては、近年のビデオダンスの必然性とは重ねて語る事は出来ないまでも、演劇に
関する映像作品(劇映画をこの場合どの程度意識して取り上げていけるかも問題になるかとも思
いますが)を劇場で観賞する企画は、向後独立した企画としても通常の上演作品始め、演劇とい
評価内容 う事象に対しある程度の検証も含めた客観性を観衆とともに培う企画として成長させていけるの
ではないか、という期待感がありました。もちろんトークがセットになっていた点がよりその期
②
待感をあおる所があったわけですが。
また、年間の公演演目を総体的に鑑みるとりもなお、新任となったアーティスティック・スー
パーバイザーの話す姿に直接的に触れることのできる機会があると言う事は、これがたとえ直接
的に、そして早急に結果を示すようなことにはならなくとも、何らかの親しみやすさが利用者に
かもしだされる面はあろうかと思いました。
演劇に関するドキュメンタリー作品の先行上映を、劇場が実施することのメリットが大きく表れ
ていた企画だったように思う。
デメリットを先に上げれば、全国公開がすでに決まっている作品であるため、同作品を鑑賞す
ること自体に対する観客のモチベーションはそれほど高くなかったのではないだろうか。チケッ
ト代が安価とはいえ、上映日が一日しかなく、特に東京都心から訪れる観客にとっては、秋の公
開を待つという判断をした人も少なくないだろうと推測する。また、ピーター・ブルックに関す
るある程度の知識(演出法、演劇論など)が求められる種類の作品だったため、パンフレットや
トークイベントの中でブルックの(特に)欧米の演劇における影響力等についてのフォローが少
評価内容 なかった点は、観客に対する敷居を多少上げた部分があるように思う。
だが、映画館では開催が難しいトークイベントを取り入れたこと、そのゲストに監督のサイモ
③
ン・ブルック、出演者の笈田ヨシを迎えたことは、先行上映ならではの企画だった。演劇の稽古
場のみを捉えたドキュメンタリー作品がそもそも少ない中、いかにブルック氏が撮影を交渉し、
製作へ至ったかというエピソードや、笈田氏から見たピーター・ブルックの演出のユニークさに
ついてじっくりと話を聞くことができたのは大変貴重だった。俳優、または俳優志望の観客が少
なからず客席にいたようだが、演劇製作に直接携わる層の人々にとって、今回のドキュメンタ
リーやトークイベントは強く響いたのではないだろうか。(その意味では、観客に一定程度の知
識を期待するのも、イベントの質を上げる役割を果たしたように思う。)
細かいことだが、パンフレットに誤植や表記の不統一が目立ったことは気になった。
評価内容
上映前の監督の挨拶も映画内容も、その後のトーク内容も素晴らしかったと思います。
④
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
KAATキッズ・プログラム2014 こどもとおとなのためのお芝居
暗いところからやってくる
開催日
7月18日(金)~21日(月祝)
事業概要
会場:KAAT 中スタジオ
概要:24年度に製作した、作・前川知大、演出・小川絵梨子による作品の再演。
マイナーチェンジがあったのか、2012年に観たときと少々印象が変わったように思う。開演前、
前回は舞台の小道具を観客の子供たちが見て歩いていたように記憶しているが、今回はそれがな
かった。会場整備は苦労がたえないだろうが、子供たちにとっては舞台の中をよく見られてわく
わくする体験だったと思う。本編について。また暗闇に住む者が何者であるのか、今回は台詞で
それを示唆するようなところはあるにしても前回のほうがより明確だったように思うのは筆者の
思い込みだろうか。あきらかに会場の笑いを取るシーンが追加されたようにも思うが、前回のど
ことなく生まれる諧謔味というスタンスの方が、「なにか得体の知れないもの」が醸し出す真面
評価内容
目でおかしな世界観を表現していたように思う。また再演ということでこちらに心の準備ができ
①
ていたせいか、はじめてみた時ほどのインパクトは薄れた。とはいえ、内容そのものは非常に充
実している。とくに照明、音響効果は絶大。肝心かなめの役者陣もあいかわらず良い。とくに天
野輝夫役大窪人衛は、今回も良い意味で年齢不詳。見た目はもちろん、ふとした仕草の中に、い
かにも思春期の中学生の風情を醸し出していた。それにしても全方向から見られている場合役者
の負担は少なからずあるだろう。だがいずれも集中力が高く、よい緊張感があったように思う。
なお前回見たときとあえて異なる角度から観劇したが、場所によっては演技や仕掛けが見えにく
いところがあった。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
オックスフォード大学演劇協会(OUDS)来日公演
『十二夜』The Twelfth Night
開催日
7月30日(水)
会場:KAAT 大スタジオ
事業概要 概要:シェイクスピア演劇の本場であるイギリスで、最も歴史ある学生劇団とされるオックス
フォード大学演劇協会(OUDS)による公演。
簡素な、しかし、整理されすぎていない、時代や国など特定のものを感じさせない舞台装置や衣
装に、ハープの生演奏が、なにか生き生きとした立体感を与えてくれていたように思います。特
別斬新とか、ものすごい!というのではなかったけれど、質は総じて高いと思いました。
海外の学生劇団の演劇を見る・・・という機会自体が新鮮で、しかも、オックスフォードのシェイク
スピア、というのは、どんなものかなあと思って興味を抱いたのが見にいったきっかけです。日
本でも学生の演劇はたくさんありますが、役者も演劇そのものも知的で豊かなエンターテイメン
トとして育っていない気がして、学卒の役者の多い、しかも、魅力的な俳優の多いイギリスなど
ではどうなっているのか、というのが最大の関心事でした。個人的な興味に過ぎるかもしれませ
評価内容 んが、彼らの話を聞く機会があったらよかったな、と思いました。彼らが演劇を始めたのはなぜ
か、なぜ、あえてシェィクスピアを選んでいるのか、など。プログラムの人物紹介に、どこのカ
①
レッジで何を専攻しているのかということが書かれていて、これも日本ではあまりないような気
がして面白かったので、そういう専門と演劇との関係も知りたかったです。
それから、プログラムにキャメロン・マッキントッシュ氏の言葉が掲載されていましたが、一瞬
これって誰?と思い、略歴や裏を見て、助成をしてくれた人なのかな、と気づきました。学生劇
団の海外公演に助成をする人がいるのだなあということ自体に、イギリスにおける演劇文化の根
深さを見た思いで、そういうことも、こうした演劇を日本で行うことの意味であるように思いま
した。
そして、こういう企画もほぼ満席ということ自体に、非常に感心しました。
OUDSの活動にはずっと興味を持っておりましたので、今回こうして観る事ができて良かったで
す。開演前に流れていた英語の天気予報は、芝居への期待を高めてくれました。
ただ、正直申しまして、出演者のレベルは想像していた程ではなかったです。プロではないので
すから、当たり前なのかもしれませんが、学生らしい若さや初々しさがなかったのが残念でし
た。唯一、学生らしいエネルギーを感じたのは、決闘の場面で、芝居全体があれぐらい弾けても
良かったのではないかと思います。演出のマックス・ギル氏がイリリアを「死後の世界、黄泉の
国にしたかった」とパンフレットに書いていましたが、それが、舞台に何となく生気が感じられ
評価内容 なかった理由かもしれません。オリヴィアの衣装なども「海外に打ち上げられた人工物」で作ら
れているということなのでしょうが、出演者中で一番ボロボロ(ただのゴミ?)に見えて、せっ
②
かくきれいな方が演じているのに残念でなりませんでした。基本的に、一般観客は、パンフレッ
ト等を読んで演出のコンセプトを呑み込んでから舞台を観るわけではない、ということを理解し
て欲しいです。演出のアイデア倒れの舞台であったような気がします。
ですが、ローワン・アトキンソンもジュディ・デンチも最初から注目を浴びていたわけではない
でしょうし、OUDSのメンバーは、卒業後にさらなる厳しい訓練を重ねて演技を上達させていくの
でしょう。学生時にこうして海外の舞台を踏むことは、非常に意義のある経験であり、また、日
本の観客にとっても、今回は得がたい機会であったと思います。
オックスフォード大学演劇協会の来日公演の「十二夜」は字幕があったこともあり、古典作品の
来日公演では珍しく客席との一体感もあって成功を収めた。2014年が生誕450年という記念する年
でもあって、KAATで行ったもうひとつのシェイクスピア公演、「こどものためのハムレッ
ト」も好評であった。以前に英国でドラマを制作する関係でオーディションをシェイクスピアカ
ンパニーの劇団員10人ほどで行ったことがあるが、その時には、彼らの発声法の素晴らしさと即
評価内容 興での演技力の凄さを目の当たりにして感動したことがある。会場となった小さなホテルの書斎
の窓ガラスが役者たちの発声の度に強く反響する音に驚いたことを覚えている。そのカンパニー
③
に将来は所属する可能性の濃い学生たちの演技は新鮮さの中に伝統を強く感じさせるものであっ
た。特に演出面での工夫が偉大な古典の品位を汚すことなく、それでも若者らしく大胆に切り込
んでいく様は軽快でもあった。特に音楽の扱い巧みさ(ボリュームも含めて)にはさすがと感じ
させられた。
若い観客が多く、KAATの招聘公演としても成功したと強く感じた。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
曽谷朝絵 パブリックビューイング
「浮かぶ」
開催日
8月1日(金)~11月3日(月祝)
会場:KAATアトリウム
概要:2013年に横浜、神奈川の文化振興に尽力した個人・団体に贈呈する『第62回横浜文化賞』
事業概要
文化・芸術奨励賞および『第62回神奈川文化賞』未来賞を受賞した曽谷朝絵の作品を芸術劇場の
アトリウムで展示。
・昨年度のアニュアル点に続き、神奈川の文化振興に尽力され表彰された美術作家の作品展示を
KAATのエントランスを活用するという基本姿勢に関しては、今後も継続され、その折々の展示の
工夫を楽しみにいたしたいと思います。
今回の受賞者は、映像投影を方法とする作業をされておいでですので、その点、この空間への
対応力が高かったかと思われます。それと、さりげなくこの空間を通り過ぎるなどした方が、や
はりなにげなく美術作品に触れられると云う事が、うまいぐあいに、こうしたインスタレーショ
ンを支える思想や、現在的表現意識・動向と云った事にと関心を持たれるてがかりになれば、と
評価内容 も思います。
個人的には、ポンペイの屋内壁画であるとか、さまざまな墳墓内壁の画像、あるいは中世以降
①
の障屏画など、おおよそ、画像イメージによって特定空間のイメージに変化を加えるということ
がらのもつ今日的展開の可能性と言うのは、なかなかなやましいところです。各種メディアにお
けるイメージとその意味あいに関する共有の細分化が進む中で、はたして公共空間内での体感的
観賞ともなりうるイメージの共有には、どのような意味合い、もしくはどのような方向性を考慮
すべきなのか、あるいはそれらをなるべく放棄した、無意味・無方向に極力ちかいことへと可能
性を担保し続けるのか、そういったなげかけも、ささやかながらされているのかな、と、積極的
にこれを見たいところもありました。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
「Lost Memory Theatre」
開催日
8月21日(木)~31日(日)
会場:KAAT ホール
概要:白井晃 アーティスティック・スーパーバイザー就任 第一作。作品のモチーフは、劇場
事業概要
(theatre)そのものと、音楽。世界で活躍する音楽家・三宅純が2013 年にリリースしたアルバム
「Lost Memory Theatre」を舞台化する挑戦的な試み。
まさに白井晃さんのKAATアーティスティック・スーパーバイザー就任第一作にふさわしい、すば
らしい作品であったと思います。最初はわけが分からず舞台を眺めていたのですが、いつの間に
か自分もその世界に入り込み、さまざまな記憶が喚起されていました。たとえば、今まで観てき
た舞台や映画―『オペラ座の怪人』や『ガラスの動物園』『赤い靴』『クラウド9』、寺山修司
の天井桟敷の舞台(生で観たことはありませんが)などが思い起こされ、時にはドガの「踊り
子」の絵が脳裏に浮かんだりしました。また、幼いころふと感じた悲しみの気持ちや、両親への
評価内容 想いなどが心に沸き上がってくることもありました。このような体験をしたのは私だけではな
く、きっとまさにあの時、劇場は、人々の様々な記憶で満たされていたのでしょう。もしかし
①
て、客席がもっと舞台のように使われて(飾られて)いれば、もう少しスムーズにこの忘れられ
た記憶の世界に入っていけたかもしれません。
最も興味深かったのは、子供と老婆「二人のミリアム」のシーンで、過去と未来が重なり合う、
不思議な瞬間を目にしたような気持ちになりました。『オペラ座の怪人』や『ガラスの動物園』
が思い起こされたのは、それらがどちらも「追憶の劇」であったからかもしれません。何とも美
しく、そしてちょっと哀しい舞台でした。私にとって「忘れられない」作品となりそうです。
始めにテキストをおかず、イメージや音楽からシーンやその断片を創って全体を構築していくの
は、ダンスという芸術様式の得意とするところである。演劇は通常、その逆を進むのだが、本作
ではあえて前者の方法を採り、諸ジャンルの越境を試みた。よって公演が始まって暫く、作品の
前半は、その手法に対して戸惑うような反応が客席に見られた。筆者はダンスを専門とする立場
から見て、ダンスの扱い方に少々物足りなさを感じたこともあり(各ジャンルの専門家ら見ると
物足りない、というのがコラボレーションの難しさだ)、なかなか作品に入り込めずにいた。し
かし、休憩を挟んで後半になると、作品が醸し出す迷宮のような非日常の世界へ徐々に入り込
評価内容
み、その夢と現の狭間のけだるい領域を心地よく楽しむことができた。客席の反応と集中力も、
②
後半に向かって高まっていったように感じられた。
公立劇場の演目として、「コンセプトや意図・内容」の分かりやすさばかりが求められること
は、時に危険である。わかりにくいと、曖昧なことを享受し、自らの解釈する力を磨くような作
品が、年間プログラムの中に入っていることは評価できる。芸術文化による創造力を用いた観客
層の拡大は、分かりやすさによって底辺を広げるだけでなく、常にレベルの向上を目指すことが
必要である。
新しい芸術参与の挑戦を、今後も楽しみにしたい。
三宅純率いるバンドの生演奏や舞台装置の豪華さに圧倒される贅沢な舞台だった。演奏者や出演
者、ダンサーのクオリティーも高く、それぞれが音楽の魅力を引き出そうと健闘していた。しか
しながら、それゆえ残念だったのはテクストの存在であった。本作品ではモチーフとなった「記
憶」を巧みな空間構成によってあらわしていた。大げさすぎるほど豪華なプロセニアムアーチを
設置することで上演空間を異化し、前後に大きく空間を仕切る。後方にはバンドを配し、照明等
の効果でそれより奥に空間が続いているように見せる。前方の舞台についても中央と両サイド、
さらに客席とそれぞれの空間に異なる性格が付与されている。このように空間を細分化すること
で、過去や過去に思い出された記憶、現在といった複数の時間が層状に空間化されていた。空間
の規則性から考えるに、中心に配されたバンドは記憶の核にあたるとも言え、劇中盤にバンドが
評価内容
乗ったステージが前方にせり出してくる様は、あたかも失われた記憶が一気に溢れ出てくるよう
③
に感じられ圧巻だった。このように演出についてはモチーフに対し繊細にアプローチしている印
象を受けたが、それに対し、台詞を通じて語られる記憶はやや浅薄であり、舞台が誘おうとして
いる記憶の深奥に素直に向かえなかった。その結果、舞台の豪華さだけが一人歩きしているよう
に見え、出演者の個性の強さが際立ってしまった感がいなめなかった。とはいうものの、本作品
は演劇というものが総合芸術であることの醍醐味を感じさせる舞台だったことに違いはない。簡
素なつくりの舞台が主流となった昨今において、音楽や美術といった舞台を構成する様々な要素
を大胆に取り入れる演出は多いとは言えない。そんな状況下において本作品は意欲的であり、舞
台芸術の制作現場を志す、または携わっている20代、30代の若手に多く見てほしいと感じ
た。それゆえ入場料金はやや高いとさせていただいた。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
・音楽をメインに据えた上演作品として、その具体性への興味関心をはじめ、アーティスティッ
ク・スーパーバイザー就任第一作ということと、広い関心に訴えかけるキャストの選出などの考
慮が伺えるなど、広い客層の関心をうながす努力がなされた舞台ではなかったかと思います。
これまでの公共劇場のありかたを考える上では、神奈川での取り組みは、長きにわたり芸術表現
における時代の先鋭性ということへも積極性を以て目を向けて来たとの印象も有るものですか
ら、今回のような、舞台作品として音楽を視覚化する実験的性格に主眼きつつ上演作品として特
定のジャンルにとどまらないような上演の試みが示す意義の展開に期待が持てました。こういっ
評価内容
た試みを提示するところから始められたアーティスティック・スーパーバイザーの示して行くで
④
あろう舞台企画の今後の方向性について、ひいては文化発信拠点としての劇場の在り方を、これ
を活用する市民自身が考え、さらなる活用の足掛かりとしてその意義を膨らましていける刺激と
なれば意義深いであろう、と思う次第です。
観覧日は、中入り中の場外での上演継続をはじめ、音楽や美術への関心・感動を示された観客が
多々おいでのようで、場内外で、そうした感嘆を耳にとした次第です。かつまた、横浜トリエン
ナーレでやはり記憶がテーマとして取り上げられている点にもなにか陽気なたくらみが伺えるよ
うで、面白く思われた次第です。
三宅純氏の新作アルバムから着想を得た「劇場」のイメージに基づき、白井晃氏の演出のもと舞
台作品を作るという、通常の音楽劇とは逆のプロセスによって作品製作を行うというコンセプト
は極めて斬新だった。だが、音楽、ダンス、演劇という各要素がかみ合っていないという場面が
見受けられたように思う。特に、メモリーカードなどSF風の世界観の設定や、その説明的な台詞
の扱いは、情報過多のように感じられた。言葉だけではなく、ダンスや舞台美術による視覚的イ
メージや、三宅氏の音楽に頼り切ることがあってもよかったのではないか。「先進性」の項目を
「普通」と評価しているのは、コンセプトの持つ独自性が成就しきれなかったという点において
である。
評価内容
ただし、ダンス、音楽、演劇の個々の要素のレベルは十分なクオリティを保っていた。三宅氏の
⑤
音楽、森山開次氏の振付とダンス、白井氏の演出と出演、それぞれのアーティストのファンやそ
のジャンルの観客が、異なるジャンルのアーティストの仕事と出会う機会となったと言えるだろ
う。その意味でも、複合的な要素を持つ作品を作る意義は大きいと言える。
スタッフ、キャストの充実ぶりや、生のバンド演奏、大ホールでの上演ということを考えれば、
7800円(S席)のチケット代は決して高いものではない。ただ、チャレンジングなコンセプトだった
からこそ、(特に私のような20代半ばの客層にとっては)「試しに観に行く」には若干高額に感
じられる価格設定のように思う。このような企画だからこそ、U24や高校生割引の価格帯が設定さ
れていることは大変重要な点である。
KAATのアーティスティック・スーパーバイザーの白井晃氏のお披露目をかねた公演がKAA
Tの主催・企画製作で行われた。Lost Memory Theatreという新作で構成・演出・出演を白井氏が
担当した。いわゆる新作の舞台としてはかなり予算もかかったであろうと想像出来るもので、こ
うした機会に恵まれた白井氏は幸せな舞台人である。音楽とダンシングが主要な要素を占める。
ダンスの世界は世界的には相当なスピードで発展しているのでダンサーのテクニックもなかなか
厳しい目にさらされることになると思う。また神奈川芸術劇場が主催するものだけに一流以外は
評価内容
許されない。音楽も当然そういう耳にさらされるわけで世界の舞台と見比べられるのかもしれな
⑥
い。でもそうだからこそ更にKAATの主催するものが発信者としての高いレベルと力を発揮し
ていくものだと考える。日本の高いレベルの人たちが結集して創りあげたステージの評価はどう
だったのだろうか。
兵庫県立芸術センターも参加した。KAATが地方と手を結んだ共同制作で高いレベルの公演を
発信していくことの意味は大きい。将来的には国内にとどまらず世界のステージとの新しい共同
制作も期待される。
世にも美しい悪夢としか言いようのない舞台。ヨーロッパの古い洋館の中のような装置、鏡、踊
り子たち。すべてが現実と夢の狭間で起こる幻想的なシーンの連続である。俳優陣はきわめて充
実している。足を引きずるいわくありげな風情の白井晃さんは登場早々、水の中でテープを遅く
回転させたような声を発し(音響効果も良い)観客を驚かせ、江波杏子さんはどこかの未亡人の
ような出で立ちで、記憶の混濁した会話を続ける。台詞だけで混沌とした世界観を表出してしま
評価内容
うのだから流石である。美波さんの可憐さも印象的だったが、森山開次さんの異様なバランスを
⑦
保つ身体表現にも瞠目した。ミュージシャンも独特な雰囲気をもつ個性豊かな人選で、気が利い
ている。新しい総合エンターテインメントとしても鑑賞に堪えうる大人のための上質なショウで
あった。なお、クラシックバレエダンサーはオーディションで選ばれたとのこと。適応力も評価
された人たちだとは思うのだが、場面によって足のポジションが曖昧なまま舞っているところが
少々気になった。床の状態や特殊な振付け、劇中での着替え等忙しいのだろうとは思うが…。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
SPAC-静岡県舞台芸術センター
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』
開催日
9月12日(金)~9月13日(土)
会場:KAAT ホール
概要:もしも『マハーバーラタ』が日本にも伝播していたら…という仮定から着想さ、舞台を平
事業概要
安時代の日本に移し繰り広げられる祝祭劇。静岡県舞台芸術センター(SPAC)芸術総監督宮城聰
による演出。
舞台の内容もさることながら、KAATとSPACという二つの公共劇場が共同制作を行い、アヴィニョ
ン演劇祭に臨むという企画自体が大変意欲的で意義のあるものであると感じた。筆者は静岡とア
ヴィニョンでの公演を見ていないため、比較はできないものの、出演者、スタッフ共にアヴィ
ニョンで確実に手応えを得たことを舞台の高揚感と力強さが物語っていた。これは強力な共同体
制があってこそ実現できることなのではないだろうか。公共劇場による共同制作のモデルと呼ぶ
にふさわしい作品であり、二作目、三作目が期待される。
舞台はほぼ白一色を基調としてまとめられており、それゆえ一層、俳優の存在が際立った。身
体という最低限の道具でマハーバーラタという壮大な物語にある意味では捨て身で取り組んだと
言える。とはいえ、実は様々な小道具が用いられている。しかもそれらは紙細工のようで、象や
評価内容
蛇、虎といったように次から次へとあらわれる様子は、まるで一枚の白い紙を自在に操る細工師
①
の技を見せられているようで童心にかえったかのような素朴な楽しさがあった。荘厳な物語を身
近なものに感じさせていたのは、この小道具だけでなく、笑いの要素がふんだんに取り入れられ
ていたためもあるだろう。格調高さがある一方で、すぐそばで物語を語り聴かせてもらっている
ようなあたたかみも感じさせる舞台だった。観劇日は中高生の姿も目立ったが、こういった作品
こそより多くの学生に見てほしい。
このように企画、内容ともに申し分のない作品だったと思うが、一点気になったのはステージ
の高さである。筆者は前よりの席だったため、終始見上げる形になってしまい特に気になってし
まった。アヴィニョンの上演空間を再現したためにこのような形になったことは理解できるが、
再現されたステージがはたして存分にいかされていたかどうかは疑問に感じた。
・客席は満員、上演後の歓声もすなおにこの上演とひいてはこの企画を喜ぶものとして受け取る
事が出来る会ではなかったかと思います。アフタートークにおいて遠方よりの来場者が多数あっ
たことが確認され、ク・ナウカファンを加味したとしてもこの企画への観客としての期待の大き
さのあらわれであると見る事が出来るかと思われました。
・この日の上演はそれがアビニョンよりの凱旋公演であるというような経緯を抜きにしても非常
に興味深く、祝祭における上演物の持つ性格でもあるであろう、あっけらかんと楽しめる上演で
評価内容
あったかとおもいます。それは舞台空間の形状はさておくとしても、それを形作る要素として、
②
美術・衣装、筋立て、音楽など、いずれもその最終的な形態をシンプルに見せる工夫がなされて
いたと思われる点で、観客が語りにいざなわれるようにして物語世界を体感するような仕組みの
今日的完成形の一つを提示しているようにも見受けられました。
・また、観覧日のアフタートークはSPACの活動との比較から、横浜での公共劇場の活動における
あるべき姿の模索といった対話もほのかになされたりと、興味深い内容であったかと思われま
す。
日本からは20年ぶりのアヴィニョン演劇祭招聘公演となった本作を、まさに「凱旋公演」という
形でみせることが叶った公演だった。KAATと静岡舞台芸術センターという東京外の大劇場による
共同製作公演であったこと、演劇関係者の多くが注目していたこの夏のアンテルミタンのストラ
イキのニュース、またその余波で『マハーバーラタ』は公演中止を余儀なくされたこと、(パン
フレットにも記載があったが)それを受けて宮城氏初めSPACが特別公演を決断したこと、など、
本作を取り巻く状況がまさに「ナラ王の冒険」のようで、祝祭的な、と評される本作に一層力を
与えていたのではないか。
評価内容 とりわけ感動的だったのは、アヴィニョンの石切り場を模した舞台美術であり、また客席と舞
台を入れ替える装置の作りは、SPACが静岡舞台芸術センターの野外劇場、有度でしばしば試みる
③
手法でもある。KAATの屋内のホールの中に、異なる二つの野外劇場の空間が見事に再現されてお
り、この舞台設計は、本作をKAATでやる意義を決定づけるクオリティであったと言える。
本作の内容自体に対しては、私は比較的批判的な立場である。インド叙事詩を、ステレオタイ
プ化した日本古典芸能の手法で編み直すことに、オリエンタリズム的な側面見出さずにはいられ
ないからである。「お祭り」的雰囲気の中で作品に没入すべきか、理論的な批判をどこまで保持
すべきかは、私自身まだ迷うところではあるが、少なくとも本作に関しては、スペクタクルに没
入させるほどのエネルギーや、出演者、スタッフの力があっただろうと思う。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
KAATとSPACが共同製作し、アヴィニョン演劇祭での上演を経てのKAAT公演。レジデンスのカンパ
ニーを持たない神奈川県及びKAATが、地方の優れた劇場レジデントカンパニーと共同して行われ
たプロジェクトであることが、まず高く評価できる。
次に作品については、まず空間の壮大な使用方法に圧倒された。スケールの大きい構想力がなけ
れば計画できない作品であり、それらを構想し、かつ実現させた演出家、美術家、さらに舞台ス
評価内容 タッフに敬意を表したい。内容は、クナウカ以来の文楽スタイルを基に、広い空間を演者が走り
回り、踊ることでダイナミズムを与え、音楽の響きと視覚的効果も加わって、神話世界を空間的
④
に構築することに成功したと言えるだろう。ストーリーはわかりやすく、時に客いじりやギャグ
を含めて、幅広い観客層にアピールしていた。
また、公演後に行われた宮城總と白井晃のトークも興味深く、公立劇場を背負って立つ二人の率
直な意見は、観客にも共感を呼んだと思う。“地域”の公立劇場として、今後も優れた企画と創
作、発信を継続してほしい。
予備知識なしで伺ったが、開始早々に度肝を抜かれ、その驚きと興奮は最後まで冷めることがな
かった。アビニヨンの石切り場を念頭に置いた舞台設置、そのために楽屋口を通らせる会場側の
心意気にもまず感心したが、演者たちが暗闇の中から整然と、美しい影をなして入場して来る姿
の幻想的な雰囲気、完全な統率のもとにおこなわれる集団身体表現の祝祭感に強いインパクトを
受けた。非日常の世界にひきこまれざるを得ない。王妃ダマヤンティ役美加理さんの、繊細にし
て芯の強い美しさ、ナラ王役大高浩一さんやプシュカラ役牧山祐大さんをはじめとした男性陣
評価内容 の、鍛えられた身体能力などが次々に目を捉える。だが、この公演でもうひとつの主役と言って
良いのは棚川寛子さん監修の音楽である。ありとあらゆるものを楽器として使い、根源的な力に
⑤
満ちあふれたパー
カッションアンサンブルは、プロフェッショナルな音楽家にも出せないような味わいがある。そ
の最たるものが、寺内亜矢子さんの物語の空気を読む力で、演者の声色や間をきわめて的確に拾
い上げてゆくセンスの良さに感激した。音楽劇としてもきわめて感動的な演奏を繰り広げていた
のである。先日のNOISMのカルメンもそうだったが、宮城聰率いるSPACがこれほど高度な作品を
作っていると知る機会を持たせてくれたKAATに感謝したい。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
森山威男JAZZ Night2014
開催日
10月4日(土)
会場:KAAT ホール
事業概要 概要:ジャズドラマー森山威男が岐阜県可児市と共同企画で行っているジャズコンサートをジャ
ズの街横浜で展開。可児市文化創造センターとの共同制作。
前半、トークが陰気で演歌調なのと、老体にむち打ってがんばっているのを見せつけられている
ような気もして、ちょっとどうかな・・・と思いましたが、後半は圧巻でした。後半のこの盛り上が
りを予想して、前半押さえていたのかもと思い直したほど。板橋文夫さんの参加がメンバー全員
の志気を高めたような感じで、パワフル、エネルギッシュな演奏が炸裂、演奏者自身も楽しそう
で、元気をもらいました。
ジャズはやっぱりジャズハウスで、親密にお酒を飲んだりしながら聞くのがいいようにも思いま
すが、たまにはこうして大きな舞台で聞くのもいいな、と思いました。比較的大人数のグループ
でしたし、パワフル系でしたし、空間にそれぞれの音が映えました。ただ、舞台で演奏するとき
は舞台用の服装の方がいいのではないか、まちまちな感じがとても目立つな・・・という気もしたの
評価内容
ですが、ライブハウスで聞いているような感じは、ああいう服装の方が出るのかもしれません。
①
板橋さんなどは、赤いTシャツしかない!!!というくらい似合ってらっしゃいましたし・・・。
それから、横浜は、日本の中でもジャズのレベル、というか、ジャズを聴く人のレベルがとても
高い場所のように思います。ジャズハウスに行って、若い女の人が一人でお酒を飲みながらジャ
ズを聞きに来ていて、休憩時間に文庫本をよみふけっている・・・というような光景は、東京などで
はほとんど見かけません。千草もあった(復活している)場所ですし、横浜で、定期的に、いろ
いろなタイプのジャズが聴けるのもいいのではないか、と思いました。しっとり系、正統で折り
目正しい感じのジャズも、こうした場所で聴いてみたい。何かシリーズになったりすると、もう
少しお客さんも来やすいのではないかと思いました。客席に空きがあったのはもったいないな、
と感じました。
森山威男のドラムを中心とした総勢9人のメンバーによるジャズコンサート。山下洋輔氏らの70
年台のジャズを2014年の今に受け継ぐ音楽姿勢には敬意を払いたい。かつての新宿ピットインを
懐かしく思い出していたが、客の中にはその年代の人も多く見受けられた。ただ、20歳代や30歳
代の女性客も目立ちジャズが今も元気であってほしいと願う者としては心強かった。ジャズ音楽
が多様化する中で、今もスゥイングジャズや、こうした日本(新宿?)独自の70年台ジャズにア
コーディオンをプラスする進化したジャズを聴けるのは今の文化の在り方なのかもしれない。横
浜が日本におけるジャズの発祥の地という議論は別にしても横浜を中心に神奈川では大小さまざ
まなジャズフェスティバルやコンサートが開かれているように思われる。ジャズの氷河期と言わ
れて久しいが芸術劇場はサイズといい会場の雰囲気からもビッグバンドから今回のように音源の
多いコンボにも適して会場で楽しめた。これかれもジャズ・インKAATの企画に期待します。芸術
劇場はその堅苦しい名称とは少し違って県民ホールよりは身近な存在で、オペラ、演劇、ジャズ
評価内容
とその多様に展開するステージとして、これからもいろんな可能性を持つ空間である。
②
最後に、ジャズのPAの在り方にはもう少し研ぎ澄まされた耳をもって対処してほしいと希望しま
す。
(後日の追伸より)
PAにつきましては、決してレベルが低いとか経験不足とかではなく、日本のPAの担当者には多い
形です。
外国のアーティストは我が国のPAに関しては信頼が薄く、私の経験でもPAのスーパーバイザー同
行の予算を要求してくる例が多かったように思います。
KAATのように質の高いものを、しかもさまざまなジャンルが行われる会場のPAのご担当は大変だ
と思いますがそれだけに内容に沿った遠近感のあるPAが必要なのかもしれません。ただ、演出家
が要求することも多いので私の指摘は決してPA担当の方々に向けたものではないことをご確認い
ただけると幸いです。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
・出演者は恐らく申し分なく、各々の信条を貫いて、その生涯をかけた行いの一環として公演を
務められていたこと、そしてこれによく共鳴する観客がおいでだったことは、上演および客席の
盛り上がりなどからよく察することのできるものでした。
一方で、当企画は、通常仕様の舞台・客席配置のままでよかったのかどうかと言う疑問をいくら
か抱いたのも事実です。それは来場者数と空間の収容可能人数との関係というよりも、こうした
スタイルで行われるジャズの演奏者と観客との関係性を、たんなる演奏者とそのファンという構
評価内容
図に落とし込まない形での客席と舞台の関係を再構築・再提示していける工夫がもう一つ加わる
③
事によって、こうしたコンサート形式の企画に関してのあらたな提案等が出来るようになりはし
ないかな、という期待もあってのことでもあるわけですが。現状でも悪い事はないんですが、何
かしらの目新しい工夫や、関係性の提示の様なことがらがひとつ加わるだけでも、見え方が違っ
てくるのではないかなぁ、と、ふと思いました。
(とはいえ、演奏者・観客がいまだ望まない事をあえて強要する事も出来ない、という面もあろ
うかと思いますが。)
長きにわたりわが国のジャズドラマーの第一人者として活躍してきた森山威男さんの現在を観る
ことができる好企画。腕も健在、山下洋輔さんとのエピソード、大学受験から中退に至るエピ
ソードもまじえた話は興味深い。おだやかな話しぶりに歩んで来た人生やこれまでの経験を彷彿
とさせるものがあり、長年のファンにはたまらないだろうと思う。類家心平(tp)ら、自由闊達
な奏者ぞろい。一人一人に見せ場を作っているのも森山さんを休ませるという意味でも上手く
評価内容 いっている。若手は元気でノリがあり、その後ろで森山さんが嬉しそうに腕をふるっているのも
気持ちがよい。ただ、ピアニストを二人置いているのはどうなのだろうか。とくに板橋文夫
④
(pf)さんが登場してからというもの、森山さんもますます力を増していたのが手に取るよう
だったし、森山さん自身も板橋さんには特別なシンパシーを抱いているのがわかった。それだけ
に、田中信正さんが少し気の毒。全編板橋さんにピアノを弾いてもらえば良いのではないかと外
野ながら感じるところがあった。当人がたにしかわからない事情があるのでしょうけれども。と
はいえ全体をとおし熱がこもった公演だったことはまちがいない。
開演前は客席に空席が目立ったため演奏への影響を心配したが、はじまったとたんにそのよう
な不安は吹き飛んだ。森山威男だけでなくバンドメンバーすべての演奏が力強く一曲目からすぐ
に引き込まれた。途中、MCが入ったり観客参加のプレゼントコーナーがあったりして場内は一体
感と熱気に包まれた。評価者は一時ジャズをよく聴いていた程度で森山のライブは初めてだった
が、すっかり魅了されてしまった。板橋文夫の「グッドバイ」も素晴らしく、総じて充実したス
テージだった。個人的には田中信正の端正なピアノ演奏が印象的だった。それゆえにやはり空席
が多かったのは残念だった。観客の大半はジャズ全盛期を知る年齢層で、おそらく多くのジャ
評価内容 ズ・イベントを支えているのはこうした中高年の観客だが、せっかくKAATでやるのであるから、
森山ライブに来た観客が地点や悪魔のしるしにも行き、またその逆に演劇目当てで来た若年層が
⑤
今回のライブや他の演奏会に足を運ぶような観客の行き来が生まれると動員につながるのではな
いか。横浜ジャズ・プロムナードや阿佐ヶ谷ジャズ・ストリートなど、街を上げてジャズ文化を
もり立てようとする取り組みによって、ジャズは一昔よりも敷居が低くなりカジュアルに楽しめ
るようになってきた。とはいえ、若者には馴染みが薄い。ちなみに大学の授業で本ライブを紹介
したが、受講生のほとんどがジャズを聴いたことがなかった。経験がないからといって興味がな
いわけではなく、きちんと紹介すれば関心を持つはずである。森山威男という名前で押す以外
に、ライブの魅力を伝える方法が取られてもよかったのではないだろうか。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
悪魔のしるし×KAAT「わが父、ジャコメッティ」
開催日
10月11日(土)~10月13日(月祝) 会場:KAAT中スタジオ
概要:これからのパフォーミングアーツ界を担う若手アーティストやカンパニーと連携し創作活
事業概要
動を行う。今回は、2012年KAFE9で上演した『倒木図鑑』の構成・演出:危口統之と共に新作を創
る。
公演のチラシを見て、これはもしかして理解不能なタイプの舞台かもしれないと勝手に想像して
いたのですが、とんでもない勘違いでした。非常に魅力的な公演で、アッという間の1時間でし
た。父親と自分の話―さじ加減一つ間違えれば、全く私的な、ある意味で鼻につくような舞台に
なってしまう可能性が十分あったと思います。それが、画家としてパリに留学したことのある父
親とジャコメッティを重ね合わせたことで、虚構から真実が生まれ出たように感じられました。
気負わず自然体でやっているように見えて、その実、危口統之さんは、非常に緻密な計算をして
丁寧に舞台を創り上げていると思います。
ただ、もし、登場人物が危口さんとお父さんだけでしたら、さすがにそのあまりの親密度に少し
評価内容
辟易してしまっていたかもしれません。大谷ひかるさんがそこに加わり、芸術に人生を捧げるこ
①
とを決意した人間の、若く生き生きとした姿を見せてくれたことで、「父と息子の話」が「芸術
に携わる人間の話」にまで深まり、舞台の色調も明るくなったように思います。
とは言っても、恐らくこの作品が危口さんの、父への愛情と感謝の気持ちを形にしたものであ
ることは確かでしょう。「自分がその姿を思い描くことができる限り、その人は亡くならない」
といったようなくだりには、いつかは必ず訪れる父との別れに対する恐れの気持ちが感じられ
て、胸を打たれました。多くの観客を呼び寄せることができるタイプの公演ではないかもしれま
せんが、演劇としての魅力に満ち溢れた舞台で、ぜひ次回の公演も観たい、また、友人などにも
勧めたいです。
主催事業として、極めて実験的な作品を製作したことは高く評価されるべきである。悪魔のし
るしという近年の小劇場演劇の中でも異色な経歴と作風を持つカンパニーをとりあげたことは、
若い観客層へ事業をアピールする一方で、コアな演劇ファンでない客層にとっては良い意味での
驚きを与えただろう。また、演出家危口紀之氏が自身の両親と作品製作をするという試みは、悪
魔のしるしにとっても挑戦的であり、事前に試演会という発表の場が持たれたことも(私は観ら
れなかったものの)とても興味深かった。そのような機会をカンパニーに提供したことは今回の
事業において最も評価される点だろう。
本作は、京都エクスペリメントにおいても上演されたが、こちらは国内外の先鋭的なカンパ
評価内容 ニーを集めた演劇祭である。客層や評価軸がKAATでの上演とは異なるだろうことも含め、他の演
劇祭や劇場との共同製作の試みは、観客の間口を広げていくものであり、今後もそうした企画を
②
期待したい。
私の観劇した10/12は「ハシゴ企画」により本作と、青年団『変身』、地点『光のない』が同日
に観ることが出来た。体力的、金銭的に限界はあるが、比較的遠方から訪れる観客にとっては、
話題作が続く時期に、まとめて観劇ができるタイムスケジュールが組まれていることは大変あり
がたい。また、一日に複数作品観劇する、ということ自体がちょっとした演劇祭のようで、作品
から得る経験とはまた別の楽しさを覚えた。折しも、NHKのラジオ番組の公開収録を行っていた日
でもあったので、KAATの建物全体がフェスティバルのような雰囲気を帯びていたのではないかと
思う。
広告宣伝を観ても、この演劇のコンセプトがはっきりわからなかったが、舞台を見てもにわかに
はつかめなかった。結局のところ実際に画家の父を持つ代表者木口統之が、父をジャコメッティ
になぞらえて父への愛を演劇仕立てにしたということだと思うが、大勢の観客を前にずいぶんと
壮大な親孝行だ。役者の演技はさらりとしていて、いかにも日常の一こまを切り取ったかのよう
評価内容 だが、画家木口敬三の本人役が飄々として混乱を来して行くのはなかなか面白い。役者ではない
のに、はっきりしたキャラクターがあり、人前にこのような形で出るのを本人が面白がっている
③
ふしがある。心が柔らかい人だろうと思う。劇中での筆運びは当然ながら迷いがなくさすが本職
である。要介護老人とヘルパー、そして息子という日常的な設定から飛躍した部分をもう少し丁
寧かつダイナミックに描くことができれば、その落差から生まれる違和感に芸術家としての苦悩
や精神の危機といった領域まで話を掘り下げることができただろう。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
以前より先鋭的な作品を発表している危口(木口)統之は、ひろく「表現」とは何かを問おうと
しているアーティストである。今回の舞台についても、これまでの系譜に位置づけられる意欲的
な作品だった。ジャコメッティと木口の実父・敬三という二人の芸術家を取り上げ、絵を描くと
いう表現行為をモチーフにし、描かれる対象と描かれた結果(絵画)、すなわち実体と表象のズ
レを見せる。これはジャコメッティと敬三の関係についても言えることで、演劇における演技、
評価内容
換言すれば代理表象についても問題にしている。敬三の素人性はプロの俳優を目指す(もしくは
④
自認する)大谷ひかるが対置されることで強調され、なぜ敬三が舞台上にいるのか、その必然性
をうばう。それによって見るものは敬三の不思議な存在感の根拠の所以を考えさせられることに
なるが、小難しい押し付けがましさはなく、肩の力の抜けた、ユーモラスな舞台だった。中スタ
ジオの雰囲気ともあっており、ものをつくることのおもしろさを観客と共有できる企画として好
感を持った。
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事業名
レジェンド・オブ・ジプシーブラス「ファンファーレ・チォカリーア」
開催日
10月18日(土)
事業概要
会場:KAATホール
概要:ルーマニア北東部、モルドヴァ地方の小村在住のジプシー・ブラスバンドによるライブ。
徹底的にエンターテインメントを追求しているとともに、自分たちが楽しくて仕方が無いという
風情の演奏者たちに好感を持った。大道芸のような速弾き速吹きは、単純に観客をあっと言わせ
るだけの力がある。第一曲目から熱狂的なスタンディング状態の観客を前にどんどんあおりたて
るステージパフォーマンスも圧巻。それでいて彼らは肩の力が抜けていて、(音は雑だけれど
評価内容
も)すばらしい逞しさを感じる。クイーン・ハリシュの踊りと女性以上の妖艶な姿もインパクト
①
がある。膝でも回転の速さと力強さには仰天した。この日は渋さ知らズの渡部真一さんがゲスト
だったのも嬉しい驚き。曲自体はほとんど知らないものだったが、行きつく暇もなく見せ場を作
るので飽きることはない。PAの音量が私には大きすぎて辛いものがあったが、終わってみればあ
の雑然とした感じも、悪くない。
ファンファーレ・チョカリーアの演奏は、音楽は楽しい!という空気が会場全体を包みこむよう
な元気の出るものだった。それぞれの楽器を軽々と使いこなす力量も見事なもの。クイーン・ハ
リシュの踊りも、女形ということで若干体が硬いように思えたが、見せる踊りとして衣装も考え
られており、何より気品のある振舞で、膝での旋回舞踊はさすがにすばらしかった。舞台終了後
もロビーに出てパワフルな演奏を魅せてくれたのも、さすがジプシー、エンターテイメントのプ
ロと感心した。
残念でならないのは、なぜこの企画にわざわざ日本人の、素人まがいの人達を混ぜたのか、とい
うこと。言葉は悪いが、ちんどん屋が乱入したような違和感を覚えた。日本人がわざわざ混じっ
て歌う理由がまずないし、衣装も品がなく、体つきも貧弱、歌も踊りもレベルが全く違う。自己
表現、自己実現で芸能をしている人達を、プロと一緒に舞台にあげること自体、プロの演奏家に
評価内容
も、お金を払って見に来ている人達にも失礼だと思う。参加型を求めるなら、むしろ作為でな
②
く、純粋に舞台鑑賞に来ていた観客が、普段着で、最後に一緒に舞台で踊れるように展開させれ
ば良かったのではなかろうか。(出演者に日本人が出ていなければ、評価は全て最高につけたい
ところです)
なお、こうした企画は、東京で行うと、その筋の人たち(たとえば、ジプシーダンスを習ってい
るような)ばかりが集う特殊な機会になりがちだが、ここでは、男性の姿や高齢のご夫婦などの
姿も目立っていて(中には完全に勘違いしていた方もあったのかもしれないが)、さまざまな客
層にこうした企画が開かれていること、勘違いでも、なんらかのきっかけで新たなおもしろさを
見つける機会になっていることが素晴らしいと思った。良質な世界の民族芸能、なかなか触れる
機会がなく残念に思っているので、ぜひ継続、開拓して、こうした機会を作っていっていただけ
ればと思います。
とても楽しみにしていた公演で、ワクワクしながら開演を待ちました。「この楽器が、こんな音
を出すのか。」という驚きの連続でした。クラシックとは全く異なった楽器の使い方で、音がま
さに「生きて、動いて、迫ってくる、突き刺さってくる」という感じでした。メロディーを聴く
というよりは、即興で次々に生み出されていく音とリズムを、その場で楽しんだ感じです。
そのように、ファンファーレチォカリーアの方々の演奏はとても楽しめたのですが、途中で日
本の演奏者たちが加わったのは、余計だったように思います。「共演」といえる程のものではあ
りませんでしたし、中途半端でした。チォカリーアのメンバーが醸し出していた折角の雰囲気
評価内容 が、壊されてしまったような印象を受けました。カーテンコールで加わるだけでよかったのでは
ないでしょうか。
③
さらに正直に申し上げますと、ジプシー・ダンサーであるとはいえ、クイーン・ハリシュのダ
ンスも、どうも浮いているように見えました。こちらも「共演」というよりは、種類の違うパ
フォーマンスが一つの舞台で個々に行われているような感じがしました。
ファンファーレチォカリーアの演奏だけでは、観客が飽きてしまうかもしれないという懸念か
ら、クイーン・ハリシュのダンスや日本人演奏者が加わったのではないかと想像しますが、もう
少し小さい会場を選び(本当はKAAT1階アトリウムのような場所が最適かもしれないと思いま
す)、上演時間も短くすれば、チォカリーアの演奏だけで十分お客さんは楽しめたと思います。
平成26年度外部評価報告(別紙)
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ジプシーブラスバンドのファンファーレ・チェカリーオは2000年に初来日。その個性的でまるで
サーカスを見ているような見事なテクニックの演奏と陽気なステージ、そして、どんな曲でも
チャカリーア風にしてしまう演奏で多くのファンを獲得した。少し大げさな表現をさせていただ
くと一種の驚きを観客に与えたのが14年前。今回は男性でありながら妖艶なジプシーダンスを披
評価内容
露するソリストも加わって一層華やかなステージとなった。客席は30台40台の女性を中心に大盛
④
り上がりでスタンディング&ダンシングの華やかな時間となった。ラストにはジプシー風の衣装
を身に着けた観客もステージに上がりいつものチャカリーアらしい興奮でエンディングを迎え
た。この種の公演は理屈なしに楽しめるものであらゆるジャンルに積極的なKAATの色彩をより多
彩なものにした効果は大きい。
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事業名
首藤康之「DEDICATED2014~OTHERS~」
開催日
10月24日(金)~10月26日(日)
会場:KAATホール
事業概要 概要:KAAT開館の2011年に、首藤康之とプロデュースでたちあげたシリーズ「DEDICATED」の第三
弾となる本年は“OTHERS(他者)”をテーマに、2作品をセットで上演。
・文学に材をとる舞踊作品ということで、今回はポエティックとしばしば譬えられる舞踊が、い
かに物語としての文脈を再構築していけるのか、という点が問われ、注目された企画ではなかっ
たかと思われます。前半のソロダンスは安定のテクニックで独自の『ジギル&ハイド』として、
マイムやあて振りに落とし込むことなく、その物語性を紡ごうとする腐心が見受けられ、かつ、
その腐心も気になる事がない、ごく自然に舞踊作品としての消化がなされていた印象でした。
評価内容
一方のより演劇に寄った上演作品の方は、その実験性を先ずは讃えるべきかと思います。首
①
藤・中村両氏のセリフに特別な違和感を覚えなかった所は、この作品への出演者・演出家双方の
取り組みの程が伺われるようでした。今回はちょっと美術の印象が全体的に強く見えたところは
あったかもそれませんが、さらにダンスと演劇との垣根を越える、得体の知れないオリジナリ
ティが、こうした実験の中から生まれることを期待したく思いましたし、なによりそうした何か
が起こりそうな予感というものが、今後企画が連なって行く中でもやはり重要かと思われます。
演劇やダンスの公演を観に行った時、どういった部分を楽しむかは人それぞれでしょうが、私
の場合は、演者同士の様々な「掛け合い」によって、舞台がどのように変わっていくかというこ
とに、最も興味があります。その意味で、「ジキル&ハイド」よりも「出口なし」の方がより楽
しめました。異種混合の公演は、失敗例も少なくありませんが、今回の「出口なし」の場合は、
ダンサーである首藤康之さんと中村恩恵さん、女優であるりょうさん、それぞれが、守りに入ら
評価内容
ず自分の領域から一歩踏み出したことで(それぞれ、演劇とダンスというジャンルに挑戦したこ
②
とで)、緊張感のある魅力的な舞台となっていたと思います。
ただ、どちらの作品もとにかく「暗かった」です。プログラムに掲載されている首籐さんのイ
ンタビューによると、この2作品は対になっているとのことですが、1つは明るく楽しい作品に
しても良かったのではないかと思います。Others(他者)がテーマですと、明るい作品を創るの
は難しかったのでしょうか?
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
KAAT竹本駒之助公演 第三弾『恨鮫鞘』「無筆書置の段」
開催日
10月26日(日)~10月27日(月)
会場:KAAT大スタジオ
概要:女流義太夫・KAAT竹本駒之助公演シリーズ第三弾。上演回数の少ない稀少曲を、また、今
事業概要
の駒之助師だからこそ上演できる難曲を積極的に取り上げ、KAATでしか聴くことのできないライ
ンナップを実現するシリーズ。
義太夫には以前から興味はあったが、観るのは今回がはじめて。人間国宝竹本駒之助さんでこの
演目を観ることができて幸運である。鶴澤津賀寿さんの三味線も落ち着いた風情で、自在。言葉
と渾然一体となるさまに思わず聴き入ってしまう。竹本駒之助さんの芸は流石としかいいようが
ない。長丁場を素晴らしい滑舌と表現で、よどみがない。とりわけ、人物描写があざやか。妻を
評価内容 疑い自滅する野村八郎衛のふがいなさと直情的な性格、娘おはんのあどけなさと、無垢なかわい
らしさ、一途で運命に翻弄される妻おつまの悲劇的な性質を声色ひとつで描き分ける。正直なと
①
ころ耳を澄まして聞いていても馴染みのない言葉があり、理解が容易ではないところもあった
が、事前に作品説明があり大筋を先に把握しておけるように配慮されていて親切。当時の地図
や、3つの本の違いが一目でわかるようになっているなど資料も大変充実している。続けて公演
を見聞きすればだんだんに耳なじみがでてくるだろうという期待を持つことができた。
・前回の折に書きましたこととも重複するかとも思いますが、KAATのような古典芸能へ特化
されていない劇場施設において、古典芸能を扱う上での難しさと言うのは、機構・機材をはじ
め、多々あろうかと思われます。しかし、その中でもこうしたシンプルな義太夫語りは比較的空
間への順応性が高いように思われますし、また、ふだん古典芸能へとなかなか接しえずにきた
方々へ、義太夫のみならず、文楽・歌舞伎などその観賞の間口をひらく役をもち、その面白みを
評価内容
色眼鏡なしで体感できる機会となっているように思われます。
②
三度目と継続しておいでのこの企画は、神奈川県在住の人間国宝・竹本駒太夫その人の人と芸と
はもちろんのこと、セットの工夫および作品解説と、上演を支える要素が既に違和感なく構成さ
れているということも評価を忘れてはならないでしょう。
なにはともあれ、多言を弄する必要のない、すばらしい上演企画です。はやくも二月が決定され
ておいでのようですが、今後も必ずや継続されたい企画であると確信しております。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
7 Fingers『TRACES』(トレーシス)
開催日
10月31日(金)~11月03日(月) 会場:KAATホール
事業概要 概要:2012年2月に、マグカル事業の第一弾としてKAATが独自に招聘を行った、アートシルクカン
パニー「7Fingers」による公演。
・当企画は、非常に幅広く観客を迎え入れる事の出来る上演演目であり、肩肘はらずに観賞でき
るものであったと思います。また、ややソロの連続が目立った前回の上演作品よりも、さらに集
団でのダンス・パフォーマンスが目立ち、全体性をより印象づける舞台作品となっていたかと思
われました。観客席も屈託なく楽しまれている様子で、ハロウィンにあわせてのイベントの工夫
も、いくらか親子連れの目立った事と関係していたかとおもわれた次第です。開演前のアナウン
評価内容
スはややアイロニカルな響きもあって上演マナーについての印象づけに効果があったようにも思
①
われ、かつまたその後に続くエンタテインメントへの良い導入にもなっていたかと思われます。
ひとつ残念なのは、上演中の出演者のセリフについてのフォローに欠いたことでした。それら
はやや、手放しで楽しむ事にどこか水を指す傾向があったかもしれませんので、なんらかの配慮
をされてのことであったかともおもわれますが。まずは、なにより来場の方々がアクロバットを
大いに楽しまれていたことが印象に残りました事を喜ぶことといたしたく思います。
エンターテインメント性と芸術性を兼ね備えたサーカス「7フィンガーズ」の再来日とあって期
待していた。前回同様、おのおのの身体能力はとても人間業とは思えないまでに鍛え上げられて
いて、しかも細部まで動きが美しい。空中につられ振り子のように動くマイクをつかったパ
フォーマンス、一人一人の個性が際立つコメント(台詞?)も趣向をこらしたもの。一歩間違え
ば大けがどころか死んでしまうような動作を恐ろしい集中力でこなしていくさま、それでいて観
評価内容
客へのアピールも忘れない余裕、つねに同じ条件でこれらをこなすことができるためには、並大
②
抵の訓練ではつとまらないだろう。驚嘆と尊敬に値する。後半のクライマックス、輪潜りではア
クロバティックな動作で次々にくぐり抜けて行き、一つ、またひとつと輪を積み上げていく。も
うこれ以上は無理だろうと思う高さをさらに超えたところでのパフォーマンスが彼らの真骨頂。
つねに人間の限界以上、創造以上のところを突いて来る。作品全体が物語性に包まれていること
も、たんなるサーカス以上の付加価値を与えていた。
シルクドソレイユ出身の7名がカナダで立ち上げたグループ7フィンガーズ。その歌い文句には演
劇的でダンス、スポーツ、ドラマそしてコメディを取り入れたという欲張った内容の「トレーシ
ス」とあったが、アスリート的なアクロバットとストリート系のものは感じても演劇的と言われ
るとちょっとその要素を探すのに苦労する。客席からは確かに少しは笑もあったからコメディ的
と言われるとあったのかもしれない。大がかりなシルクドソレイユとは違ったものであるのは当
評価内容 然であるが、私には、むしる上質な大道芸人オンステージという印象が強かったがこれが7フィン
ガーズの目指すところなのかもしれない。チラシの写真等から多少はベジャール的な芸術性のあ
③
るステージも期待して劇場に足を運んだ私の方に偏見があったのかもしれない。17streetといえ
どもブロードウェイで2年ほど公演したのだから、もっとテンポもありエネルギッシュな魅力を
持ち合わせたグループなのかもしれない。
ただ、この直前にあったチョカリーアのように、この公演もKAATの多彩なプロムラミングの魅力
をアップする効果は大きかったと思う。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
KAAT神奈川芸術劇場 新作ミュージカル・トライアウト公演「The Musical 横浜JAM TOWN」
開催日
11月22日(土)~11月23日(日祝) 会場:KAAT中スタジオ
概要:2016年1月、ホールでの本公演を予定している、新作ミュージカルのトライアウト公演。ト
事業概要
ライアウト後は、実際の舞台上での感触や、お客様の反応をもとに、本公演に向けさらに作品を
ブラッシュアップさせていく。
ミュージカルのトライアウト公演を見るのは初めてだったが、ワークインプログレスの作品を観
るのは本番とはまた違った面白さがある。若く個性ある演者たちでそれぞれに得意なダンスも異
なり、一人一人にきちんと見せ場があるのが良い。2万4千人の中から勝ち抜いた人たちだけに歌
とダンスは見応えがあるが、とりわけ女性陣の演技はまだまだ素人レヴェル。本公演で彼女たち
が舞台を踏むなら、一番弱いのはそこだろうと思う。あゆみ役の深瀬友梨さんははじめ演技に首
評価内容 を傾げてしまったが、身体能力を駆使した動きの中で初々しい魅力が出て来た。歌は一本調子だ
が、声質はまっすぐできれい。大いに磨いてほしいと期待する。最も役者としてこなれていたの
①
はマスター役後藤晋彦さん。経験値の差なのかもしれないが。テーマの設定は非常に良い。横浜
という土地柄の魅力をしっかり踏まえ、郷土愛のようなものまで感じる。また人種の坩堝でもあ
り差別の問題が背中合わせになっていることも恐れずに表出しているのは感心した。マスターと
あゆみの再会、マスターとJJの葛藤などがもうひとつ丁寧に描かれれば深みも増すだろう。本公
演も見てみたくなった。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
「ジャンヌ・ダルク」
開催日
11月23日(日祝)~11月24日(月振休) 事業概要
会場:KAATホール
概要:白井晃演出により2010年に赤坂ACTシアターで上演された作品の新演出での上演。
もともとジャンヌ・ダルクには興味があり、彼女を主人公にした映画や舞台も幾つか観ているの
ですが、宗教の部分で日本人には理解が難しい所があると感じていました。そういった意味で、
今回の『ジャンヌ・ダルク』の、ジャンヌだけではなくシャルル7世の「成長」に焦点を当てた
構成は、わたくしも含めた日本の観客にとって、分かりやすいものになっていたと思います。
タイトル・ロールの有村架純さんは、初舞台ということもあって、他の出演者と比べて声が聞
きづらい部分もありましたが、舞台が進むにつれてそういったことは気にならなくなりました。
彼女の舞台に対する真摯な姿勢と、ジャンヌの真っ直ぐな生き方が重なり、滅多にない「俳優と
役がひとつになる瞬間」を目の当たりにすることができました。次に舞台に挑戦される時は、ま
評価内容 た別の大変な事にぶつかるでしょうが、とても才能がある方だと思いますので、有村さんの今後
を応援したいです。
①
そのように、主演の方もとても良かったのですが、今回、最も感動したのは、その周りを固め
る方々の演技です。とくに、アンサンブルの方々が素晴らしかったです。ジャンヌの活躍に説得
力を与えるためには、戦いのすさまじさをある程度伝える必要があると思うのですが、戦闘の
シーンは圧巻でした。奈落が上手く利用され、人数が何倍にも感じられ、迫力満点でした。今ま
で見た芝居の中で、最も見事な戦闘場面であったと思います。舞台が前後左右、上下、奥、そし
て客席に至るまで余すことなく使われ、細かなところまで演出の目の行き届いた、完成度の高い
公演でした。音響や照明もとても良かったです。最後のスタンディングオベーション、この公演
に関わったすべての方々に拍手を送りたい気持ちで、もちろん、わたくしも加わりました。
重厚かつエネルギッシュな素晴らしい舞台。影の美しい照明、場面にマッチした音楽など見どこ
ろの連続で上演時間の長さを全く感じさせなかった。とりわけ驚いたのはジャンヌ・ダルク役の
有村架純さんの演技力である。前半の腹の据わった、感受性のすぐれた台詞回しにも光るものが
あるが、神通力をなくしてからの自信を失った焦燥感に満ちた立ち姿の心もとなさとの落差が胸
を打った。意志薄弱なシャルル王を演じた東山紀之さん、立ち居振る舞いの美しい王妃佐藤藍子
評価内容
さんらも印象に残るが、サントライユの吉田メタルさん、傭兵レイモンの堀部圭亮さんらが味の
②
あるキャラクターでしっかりかためていて、俳優陣だけでも作品の緊張感を持続できるのではな
いかと思うほどだった。舞台構成が素晴らしく、工夫と知恵が詰まっている。敵味方に分かれて
の戦闘シーンでは殺陣が迫力満点。全速力で客席を駆け抜けては戦い倒れ、また駆け抜けてを繰
り返し、限られた人数とは思えない程に舞台を兵士が埋めつくしているのは圧巻だった。飛び散
る汗とともに、観ているこちらにも熱気がひしと伝わる。作り手たちの想いに心揺さぶられた。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
スペイン国立ダンスカンパニー
開催日
12月5日(金)~12月6日(土)
会場:KAATホール
事業概要 概要:元パリ・オペラ座エトワールのジョゼ・マルティネズ芸術監督就任後初の来日公演。世界
中の名作から選りすぐりの5作品を一挙上演。
すばらしかったです。ダンサーたちが活気に満ちていて、一つ一つの完成度も高く、プログラム
構成も実にバラエティに富んでいて、しかも、自閉せず、観客を楽しませようという気持ちにあ
ふれている・・・。コンテンポラリーダンスの楽しさと、古典の技術に立脚した確かさを両方実感で
きるもので、ともかく充実した舞台でした。コンテンポラリーにありがちな冷たさがなく、全体
が温かな空気に包まれていて、ユーモアもあって、何より踊る楽しさにあふれていて、見ている
観客まで元気にさせてくれる舞台でした。観客の巻き込み方も洗練されていて、楽しかった!こ
ういうカンパニーにはどんどんいいダンサーが集まってきそうで、もっともっとわくわくする場
になっていきそうな予感がします。
ジョゼのダンスが見られなかったのはとても残念でしたが、わざわざ手書き・翻訳のプリントを
評価内容 配布し、また、舞台前に、きちんと自分の言葉で、しかも、日本語で観客に語りかける誠実さに
も心打たれました。この人の人柄が(もちろん才能もですが)、このカンパニーの活力や温かさ
①
を支えているのだな、と確信しました。
KAATの企画にしては料金が少々高めかもしれませんが、このレベルのものなら当然。でも、驚
いたのは、こういう料金設定にしても、あいかわらず多様な人たちがKAATに見に来ているという
こと。上の方の空席はもったいなかったですが、しかし、コンテンポラリーのラインナップにも
かかわらず、特に高年齢層のダンス関係者ではない(と思われる)観客が少なくないことに感心
しました。ここにはおもしろいものがある、そういう雰囲気が作られていて、いろいろな人たち
が足を運ぶ場になっているとしたら、本当にすばらしい文化発信の役割を果たしておられると思
います。
ナチョ・デュアトの跡を継いだジョゼ・マルティネズ(本人は「ホセ」と発音していたので、仏
語読みから戻してもよいのでは?)が、いかに故国スペインのカンパニーを率い始めたか、その
方向性と芸術監督としての力量を見たいという観客と、パリ・オペラ座以来のファンとに客層は
大きく分かれたと思われる。マルティネスが出演しなかったことでファン層はがっかりしただろ
うが、誠意ある公演前の挨拶やお詫びの文章から、好意をもって受けとめられたと思われる。チ
ケット代に関しては、神奈川で二回、愛知で一回のみの公演であり、客席数も多くないことから
高額になるのはやむをえまい。それにも拘らず満席だったのは、彼の人気の高さと、プログラム
に選んだコンテンポラリー作品の知名度ゆえだろう。今後も、地域劇場間の連携を広げながら公
演回数を増やし、経費を抑制してチケット代を少しでも廉価に抑える努力を続けてほしい。
評価内容 作品は、キリアン、フォーサイス、ナハリンというコンテンポラリーダンスの最高峰を並べ、
そこにマルティネスと日本ではあまり知られていないガリーリを加えている。マルティネス作品
②
はパリ・オペラ座時代のものであり、まだカンパニーが独自の色を見つけ、作品化する時期では
ないことが伺える。確かに、一般観客やコンテンポラリーダンスにあまりなじみのないバレエ
ファンには、わかりやすく楽しみやすいプログラムであり、公演として成功したと評価できるだ
ろう。ただし、今後のカンパニーの方向性として、ナチョのようにスペインの土着的な音楽や動
きを活かした抒情を特徴としたいのか、グローバル化する(ローカルの特性は抑える)のか、現
段階では不明だった。わかりやすさと適度なミーハーさで、日本観客に向けた公演の成功を担保
しながらも、カンパニーとして成長し、バレエ・ダンス文化そのものの発展に寄与することがで
きるように、公演計画を練る段階からの、招聘元の文化度の広さと深さがさらに必要になるだろ
う。
看板のジョゼ・マルティネズが怪我で降板したのは残念だったが、コンセプトのしっかりした作
品ばかりだったため公演そのものは大変レヴェルの高いものだった。コンテンポラリーのプロ
フェッショナル集団だがクラシックの基礎を持った上でのパフォーマンスであるので、磨き抜か
れた表現と縦横に動く身体能力は美しく力にあふれていて驚いた。とくに女性ダンサーの男性と
見まごう筋力は、古典だけを踊っていては身につかない部分なのではないか。照明が映し出すダ
評価内容
ンサーの影もスタイリッシュで美しい。天井桟敷の人々は代役のベルランガさんが努めたが、内
③
面的な表現も持っていてセ・ユン・キムの叙情的な佇まいと合っていた。他の演目が群舞を縦横
にめぐらせたものだったので、ことさらこの作品の印象が強く感じられるしくみだ。ところで幕
間にも道化役が趣向を凝らしたパォーマンスを行っていたが、筆者が気がついたのは二回目の休
憩時。一回目の休憩時にもこのパフォーマンスがあったのかはわからないが、もしあったら惜し
いことをしたと思う。
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公益財団法人 神奈川芸術文化財団
スペイン国立ダンスカンパニーの公演が拝見できる―特に、ジョゼ・マルティネズの『天井桟敷
の人々』が観られる―ということを、心より楽しみにしていたのですが、「地味」の一言に尽き
る公演でした。暗い照明、黒いレオタード、裸舞台、繰り返される同じステップ、単調な旋律や
音-スタイリッシュというより、むしろ「手抜き」のように感じました。このカンパニーの公演
を何度も見ている観客(特に現地のお客)にとっては、こういったプログラムでも少しは楽しめ
るのかもしれませんが、海外公演でこの構成はないと思います。しかも、肩の故障という理由が
あるにしろ、呼び物であった『天井桟敷』に、マルティネズが出られないことが当日発表された
評価内容 のはひどいです。関係者の方々の負担は大変でしょうが、それだったら観たくないという人に対
しては、払い戻しに応じてもよかったのではないかと思います。また、そういう事態も予期し
④
て、プログラムを決めるべきだと考えます。『天井桟敷』以外にも、観客を魅了できるような演
目をいくつか入れておくべきだったのではないでしょうか。最後に観客(出る人は予め決めて
あったと思いますが)が舞台に上がって、出演者と踊ったのが唯一楽しかったですし、観客の皆
さんが明るい色の服を着ていらしたので、視覚的にも面白かったです。この観客巻き込み型の演
目を最初に持っていったら、もう少し盛り上がったのではないかとも思います。隣に座っていた
年配の男性が「期待外れだったな」とつぶやいていらっしゃいましたが、わたくしも全く同意見
です。
スペイン国立ダンスカンパニー
1979年に設立されたスペイン国立ダンスカンパニーが元パリオペラ座のエトワールでスペイ
ン出身のジョゼ・マアルティネスを2010年末から芸術監督に迎えたニュースは知っていた
が、その後どのような変化したのかを楽しみに観に行った。WEBでチェックする限りでは全作
品がマルティネスの振付によるものではなかったと思うが、よく訓練された世界のトップクラス
評価内容 のダンスカンパニーであることが伺われた。(プログラムを買い損ねて演目が不明なのですが、
資料の無い時は、できれば簡単な演目順だけで結構ですから評価委員には当日コピーを配って頂
⑤
けると助かります。)
ダンスカンパニーは近年、日本でも多く活躍していると聞く。海外の一流のものはもとより日本
の優れたカンパニーも含めて実験的なダンスの場所をKAATが提供したりプロデュースするの
もこの先の重要な活躍のひとつと考えます。KAATの大ホールは客席からステージの動きが観
やすいからダンスを観るのにはその規模や全体の雰囲気も適した空間だと感じます。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
チェルフィッチュ「スーパープレミアムWバニラリッチ」
開催日
12月12日(金)~12月21日(日)
事業概要
会場:KAAT大スタジオ
概要:演劇カンパニー「チェルフィッチュ」のKAATでの創作第4作目となる新作公演。
国内外で実力を認められている岡田利規率いるカンパニーの公演であり、客席は若い観客で溢れ
ていた。逆に、中高年以上は舞台、芸術関係者の顔が多く見られたが、一般観客は比較的少な
かったように見受けられた。
作品としてはチェルフィッチュのスタイルが言葉、身体共に非常に明確になり、諧謔、批評精
神、娯楽性のバランスが取れた、生き生きとした表現に仕上げられていた。まず、題材として日
本人に身近で不可欠なものとして普及しているが、同時にその過剰なまでの効率性、サービス、
拡大方針の追及に疑問と不安を感じざるを得ないコンビニエンスストアを選んだことに、岡田の
社会に対する鋭いセンスが認められる。それをバッハ「平均律クラヴィーア曲集」の抽象的かつ
純粋な構造に嵌め込み、独自の言葉と身体が相互に相対化しあう様式で描くことで、テーマに対
評価内容
する適度な距離を保ちながら描くことに成功した。ドイツで制作され、海外15か所でのツアーを
①
経て日本公演となったこともあり、役者の身振り、位置取りの明瞭さや間の取り方が練られてお
り、舞台表現として高い水準に達していた。(評者は、たまたまメキシコでリハーサル風景を見
学させてもらったが、その時よりも数段磨かれていた)
彼らのように実験を続ける若いカンパニーに委嘱し、新作ツアーを企画した海外の劇場関係者
と並んで、神奈川芸術劇場が共同製作に名を連ねたことは高く評価できる。特徴ある芸術団体と
継続的に信頼関係を築き、単に興行として成功させるだけでなく、日本から発信できる作品を創
造していくことが、地域の中核的な劇場にも求められる。具体的には、字幕スーパー製作などへ
の補助をさらに充実させてほしい。このように創造的な関係を演劇だけでなく、多様なジャンル
やタイプの芸術団体と築くことを今後も期待したい。
正直申しまして、これまで何本か拝見したチェルフィッチュの舞台は、全く面白くありませんで
した。ですが、今回の作品は本当に良かったです。チェルフィッチュの芸風とテーマがぴったり
と合っていた印象を受けました。いわゆるリアリズムの芝居では、コンビニを舞台にして、これ
だけ観客をクスリと笑わせ、ホッコリとさせることはできなかったと思います。
バッハの「平均律クラヴィーア曲集第一巻全48楽章」という選曲が秀逸でした。ある意味少々
安っぽいコンビニと何やら高級っぽいバッハの組み合わせは、なかなか思いつけるものではあり
ません。かといって、決してミスマッチというわけではなく、コンビニの「功罪」とでもいった
ものが、この組み合わせで、よく表わされたと思います。消費社会の象徴としてのコンビニと、
評価内容 必要な存在としてのコンビニを、どちらかに偏ることなく表現した、さじ加減が素晴らしかった
です。
②
ただ、これは日本人としてのわたくしの意見であって、海外でどこまでコンビニの「功」の部
分、必要な存在としての部分が理解されたかは少々疑問です。暗い夜道を歩いてコンビニの明か
りを見付けた時のホッとした気持ち、お気に入りの商品をゲットして食べて、それだけで一日の
疲れが癒されてしまう気持ちに「分かる、分かる。」とうなずいてしまうのは、日本人だけかな
という気もします。けれども、もし、その部分の理解が難しかったとしても、「日本」という国
の一部分を伝えるものとして、充分優れている作品であると思います。きっとこれはチェル
フィッチュの代表作となる作品なのではないでしょうか。もし再演されるとしましたら、ぜひ友
人や学生に観るよう勧めたいです。
チェルフィッチュの新作として、ここ数年で最も良質な作品の一つではないかと思う。日本社会
における後期資本主義をコンビニという舞台設定から描き出す本作は、シビアな社会批評の側面
と、エンターテイメント性やテーマへのアプローチの回路(「コンビニバイト」という存在の身
近さ、わかりやすさ)がバランス良く、良い意味で観客を選ばない作品になっていたのではない
かと思う。
『ゾウガメのソニックライフ』以降、KAATはチェルフィッチュの首都圏公演のホームグラウン
評価内容
ドとして認識されてきている。企画・製作の提携はもちろんのこと、同じ劇団が毎年同じ劇場で
③
公演を行っているというイメージが保たれることで、観客の年間の観劇のサイクルの中に本公演
も組み込まれていくと言えるだろう。それにより、現代演劇以外の客層を取り込みつつ、層が少
しずつ厚みを増すのではないだろうか。
KAATは劇場数も多く、各公演もバリエーションに富んでいるので、特定の劇団との関係が深
まっていくことは、劇場自体の方向性が散漫にならないという点で、重要なアピールの一つであ
ると考えている。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
コンビニエンスストアをめぐる演劇作品ということで、さしてドラマティックなことも起こらな
いのではないかと思っていたが、なかなかどうしてじっくりした起伏に富んだ舞台だった。何気
なく通り過ぎてしまうような日常をするどい視点で切り取った岡田利規さんにまず拍手。キャン
スティングも絶妙である。世の中を斜に構えてみている体温の低い店員、ルーティンワークから
ちいさな喜びを見出そうとする店員、役者をやりながらコンビニでも働く女の子など、どこのコ
ンビニエンスストアにも必ずいそうな顔つき目つき、出で立ち。リアルすぎて笑ってしまった。
評価内容
SVに追い詰められる店長、偏ったこだわりの客、買わないくせにコンビニ店員を見下す男。全員
④
ありきたりなのに、一人一人の性質をここまでクローズアップすると、誰一人として同じではな
く普通ではないことに気づかされる。この作品を観た後、コンビニエンスストアチェーンでの過
酷な発注要請について報道で知った。フランチャイズ店であっても、あまりに儲けが出ると近所
にもう1店舗出して閉店に追い込み、最終的に土地ともども奪い取るという悪質なものである。便
利さだけを享受している客の立場だが、経営者側の経営努力についても、身を以て考えるきっか
けになった。
平成26年度外部評価報告(別紙)
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事業名
KAAT竹本駒之助公演 第四弾
『仮名手本忠臣蔵』九段目切「山科隠家の段」(やましなかくれがのだん)
開催日
2015年2月21日(土)~02月22日(日) 事業概要
会場:KAAT大スタジオ
概要:KAAT竹本駒之助公演の第四弾。
感心したことが二つ。女流義太夫という、義太夫の世界だけでなく、古典芸能の世界でも決して
メジャーではない、しかも、素浄瑠璃という非常に地味な分野の芸を、一回ではなく、シリーズ
化して聴かせるという機会を設け、しかも、満員御礼という観客動員を誇っていること。そし
て、もう一つは舞台の作り方。客席の数も、やや円形の配置も、こうした小規模な芸能を鑑賞す
るのにふさわしく、どこで見聞きしてもOKという環境でしたし、なるほどと思わされたのは、
白木で作ることの多い古典芸能の舞台を、炭でいぶしたような色にして、室内のうす暗い照明の
中で(照明も良かったです)違和感なくとけこめるようにしていたこと。せっかくなので、女流
とは違う、男性の名手たちの素浄瑠璃の会もこういう場所でしてほしいな、と思いましたし、こ
うした環境でなら、舞台公演の難しい民俗芸能や、能でも囃子だけの公演、仕舞、舞囃子などで
も非常に密度高く、おもしろくできそうだという感触を持ちました。客席との緊密さも、「芸が
育つ」環境、と思いました。
また、なーるほど、と思ったのはポスター。一見したところでは、浄瑠璃とか女流義太夫とか、
よくわからない。けれど、どことなく、大正ロマンのような雰囲気もただよっていて、だからと
評価内容 いって赤玉ポートワインとはまったく違う…。これは何だろう?と、義太夫を知らない人にも興
味を持ってもらえそうな点が面白いと思いました。
①
駒之助師匠の年齢を忘れさせる熱演はもちろん良かったですが、若干、三味線の音が強すぎるよ
うに感じました。マイクなどの調整でなんとかなるなら、ぜひ。なんといっても微妙な声の変化
を味わいたい芸ですので。
神津さんの、いつもながらの熱心な解説、公演の解説資料とは思えないぶあつい資料集には感
心しました。が、欲を言えば、人物相関図のようなものがあると、よりわかりやすいかと思いま
した。じっくり、みっちり文章を読み人もいるでしょうが、おそらく、丸本も見ずに十分芸を楽
しむのに必要なのは最低限のストーリー、関係性を頭に入れておくことで、そのためにも、図示
できるものはした方がいいだろうと思いました。
解説の最後の、丸本を見ずに聴こう、見たい人は息を止めて音を立てずにページをめくろう…と
いうアドバイス、志もたいへん良いと思いました。一字一句わからなくても、すばらしい芸を目
の当たりにすること、芸の力とじっくり向き合うこと、が、古典芸能に近づく何よりの方法だと
思うからです。
今後もこうした良心的な企画が続けられることを、願います。
・第四回目となる当企画には前回同様、満席状態の客席も含めすでに安定・定着の様相を呈した
感も伺えました。事前学習の機会も設けられていること、そして上演自体はもちろん、この一連
の流れから申し分ない企画となっていることは言わずもがなかと思われます。客席ではシンプル
評価内容 でかつ長編の上演に観客もくいついていた様子が見て取れました。
竹本駒之助という名人の芸を味わいつつ、初心者へはこれを古典芸能への入り口ともなすような
②
現段階のこの企画は、それ自体継続される事を切に望むものではあります。と同時にやはり今後
この浄瑠璃に着眼された新しい公共劇場での古典芸能企画がどのように展開していくのか、とい
う点もなにか期待を煽られるところでもあります。
駒之助さんの公演はこれが3回目(確か、残念ながら前回の第3弾はうかがえなかったと記憶して
います)ですが、会場に背もたれのある席が用意されていたことに感心しました。年配の方に遠
慮してその席には座らなかったのですが、休憩なしの1時間40分、この背もたれがあるのとないの
とでは、大違いであったことでしょう。以前も同じ事を書きましたが、こうした配慮がリピー
ターを呼び込むことにつながると思います。
今回の公演では、「変わるもの、変わらないもの」について色々と考えさせられたように思い
ます。「変わるもの」とは、物の考え方(倫理観や道徳観ともいえるかもしれません)で、この
「山科隠家の段」で描かれているような、<義>の感覚を、現代の日本人は「分かる」だろうかと
評価内容 考えてしまいました。もしかしたら、同じ日本人でも理解し難い部分があるかもしれませんし、
外国の方でしたら、「分からない」ということもあるかもしれません。ですが、大事なのは、
③
「そういった考え方があった、ある」ということを伝えることなのでしょう。また、「変わらな
いもの」とは、人が人を思いやる気持ちで、親が子を、子が親を、友が友を想う気持ちは、時代
を超えて変わらないのだとしみじみ感じました。そのように、多くのことを考えさせてくれた公
演でした。
こうした<語り>を楽しむのには、普段あまり使っていない能力―集中力と想像力―が要求されま
す。すべて分かりやすく説明されることに慣れ、視覚情報にばかり頼ってしまいがちな私たちに
とって、こうした舞台の持つ意義は計り知れません。この企画は高く評価されてしかるべきもの
だと思います。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
女流義太夫竹本駒之助さんの至芸拝見するのはこれで二回目。これまで歌舞伎には親しんできた
が義太夫の形になると耳からの情報だけですべてを把握せねばならないので、個人的にはテキス
トの予習不足もあってまだまだ理解が追いつかないところがある。たとえていうならば、オペラ
ならばおおよその筋を知っていれば初心者でも楽しめるが、ドイツリートのリサイタルとなると
慣れ親しんでいない人にとっては言葉の隅から隅までは味わいつくすことがなかなかできないよ
評価内容
うなものだろうか。ただ、素人目にも発話、口の動きの柔軟さ、滑舌などがものすごいというこ
④
とはわかるし、三味線との丁々発止、独特の節回しなどみどころ多く面白くみた。神津武男さん
の前説が今回も興味深い。特に、仮名手本忠臣蔵は討ち入りから数えの47年目の初演であり、
初日を赤穂浪士の主君の命日14日にしたのが作者の工夫であり、この点に関しては、ちまたに飛
び交う曖昧な記述を信じては作者が浮かばれないといったお話が非常に心に響いた。まっとうな
研究者ならではの言葉なのだろう。資料が今回も充実していて、大変ありがたい。
平成26年度外部評価報告(別紙)
事業名
KAAT×地点 共同制作作品第5弾
『三人姉妹』
開催日
2015年3月9日(月)~3月22日(日) 事業概要
会場:KAAT中スタジオ
概要:KAAT×地点共同制作作品第5弾。KAAT×地点が満を持しておくるチェーホフ。
これは「チェーホフの『三人姉妹』にインスパイアされた作品」ではあっても、『三人姉妹』の
舞台ではないと思います。『三人姉妹』を読んだことがない観客にとっては、わけが分からな
かったのではないでしょうか。パンフレットにおいて、三浦さんはこれが「真のリアリズム演
劇」だと宣言していますが、わたくしにとっては、芝居の稽古の過程を見ているようでした。役
者としての「訓練」を見せているだけのように思いました。地点がリアリズム演劇を目指してい
るとして(目指しているのですか?)それを勝ち取ったと言うのはまだ早いのではないでしょう
評価内容
か。
①
前回拝見した『悪霊』の方が、まだしも詩的な美しさがありました。原作では複雑で分かりに
くい物語がシンプルな形で表現されており、地点という集団の魅力の一端が分かったように感じ
たのを覚えています。『三人姉妹』の場合、戯曲の中で<時の流れ>が非常に重要な要素となって
いるので、終わりの方の科白を先に語ってしまったり、最初の方の科白に再び戻ったりすると、
その世界自体が成り立たなくなってしまいます。ただ意味のない科白の抜粋を聴いているよう
で、心を動かされませんでした。
チェーホフの三人姉妹のセリフが頭にあったので、セリフのところどころにそれらの断片が出て
きたときはわかったのだが、もしもそれがなければ「チェーホフの三人姉妹」であることが理解
できなかったと思う。原作をもう少し尊重してロシアの空気が欲しいと個人的には思った。しか
しこれが演出家の狙いであったのであろう。
「のどに負担のかかる声」「大きな叫び声」、「物を叩く音」等の「噪音」に非常に抵抗があり
不快に感じる場面も多かった。(「楽音」と「非楽音(噪音)」の大別のうち)
演出の意味がわからないところが多く、なぜそこで「叩く」のか「泣く」のか「這う」のか理解
できなかった。芸術なのであるからすべてわかる必要がないと言われればそうなのかもしれない
評価内容
が、公演中ずっと脳が働いてしまった。表現は激しく表出されすぎるとかえって効果がうせると
②
思う。
「だます」ことが芸術のわざであるとも言えるが、ひざにあてていたサポーターを演技途中で2
人が立ちながら直していたのは、急に現実に戻されたようで、興が覚めた。だまされ続けたいも
のだ。
公演後に演出家の解説があると良いと思った。
私自身もう少し演劇に対して修行を積む必要があると思いました。大変勉強になりました。どう
もありがとうございました。
音節を切れ切れにして発音する独特な台詞回し。今回も言葉ははっきりとわかる。全員がハイハ
イしながら男女問わずくんずほぐれつしているのは、官能性とともに暴力性も描き出す。決して
人と人はわかりあうことができないといわんばかりに他人の言葉を遮るように、競い合うように
して台詞を発する。誰も他人の話を聞いていない。体力の限界に役者を追い込むようにしている
ので、彼らは身体の底から言葉を発せざるを得ない。これがある意味ではリアルな言葉として観
客に届いてくるというわけである。舞台美術もきわめて美しい。すべてが効果的に配されてい
評価内容
る。アクリル板の枠組、白粉、白樺。白粉は役者を雪のように覆い、血のように多い、泥のよう
③
に覆っていくが、幕切れ近く、アクリル板に当たった紅い光が粉を桜色に照らし出す。希望のな
い物語に唯一希望が差し込んだような瞬間である。床に描かれた白粉の数字が崩されていくのも
暗示的だった。役者陣はオリガ役安部聡子さんをはじめ秀逸。今回はイリーナ役河野早紀さんの
無機質なポージングと表情、マーシャ役窪田史恵さんの力強い体と声がとりわけ印象に残った。
男性陣は時に狂言回しのように舞台を這いずり、飛び回る。大変な体力が要求されることだと思
うが、高い集中力を感じた。
平成26年度外部評価報告(別紙)
地点の初期の代表作であるチェーホフの四大悲劇のうち『三人姉妹』をリクリエーションとして
新たに上演した公演である。単なる再演ではなく、今の地点の力量をもって作り直した作品であ
り、同時に『三人姉妹』の翻案作品としても優れ、初期からのファン、新しく地点を知るファン
ともに満足のいくものだったと思う。
三浦氏自身がパンフレットに述べているが、旧作より明らかにわかりやすいことへの評価は分か
れるだろう。(私が「先進性」という評価を普通としたのはこのためである。)旧作では強く分
節化されていた言葉がよりナチュラルに発せられることや、身体的な過剰な接触によって人間関
評価内容 係を前景化する演出、アンドレイ、ヴェルシーニンがコミックリリーフ的役割を果たしている点
は、過去の地点のレパートリーと比してというだけでなく、例えば昨秋の『光のない』を観劇し
④
た観客にも驚きを与えたのではないだろうか。だが、評価の良し悪しはあるにせよ、一つのカン
パニーが継続して同じ劇場で上演し、各公演を比較しながら鑑賞できることの強みは、この数年
の地点のKAAT公演で表れているだろう。
制作的なことではあるが、本公演に合わせて配布されているチラシのうち、A4版のものにチ
ケット代や公演日時の詳細が記載されていないことが気になった。(チラシの製作が劇団と財団
とでわかれていたのでしょうか?)公演チラシは、劇場での展示もあり大変美しいデザインであ
るのだが、上演情報はなるべくウェブへの案内ではなく、チラシ上で把握できるとありがたい。
近年評価を増している劇団地点(演出・三浦基)による公演。近代の古典ともいえる、チェーホ
フ作「三人姉妹」を現代の若い彼らがどのように演じるか、再演ではあるが興味を集めたと思わ
れる。3月9日から22日までの長期間、上演を続けられたことに、企画した劇場、出演した役者、
スタッフに対してまずは拍手を送りたい。評者が観劇したのは最終公演であったため、約2週間も
の間コンスタントに集客され、役者がテンションを保ち続けたのかどうかは不明だが、恐らくは
そうであったのだろう。肉体を激しく使った演技、発声、関係性を空間によって視覚化した舞台
評価内容 装置ともに、プロとしての成熟が感じられた。プロセニアムとは異なる、中スタジオの空間のだ
だっぴろさを贅沢に使用しており、この劇団が得意とする空間演出も兼ねた総合的な演出を楽し
⑤
むことができた。ただし、過剰なまでの肉体の酷使を伴う演技については、観客の好みが分かれ
るだろう。舞踊を専門とする評者にとっては、演劇的な饒舌さが少々気にはなったが、一方で、
コンテンポラリーダンサーにも比肩するトレーニングされた身体によって、荒々しい動きにも雑
さが見られず、コントロールされていたことでストレスを感じずに見ることができた。たまたま
当日は、午後にオペラを見て、夜は演劇を見た。このような優れた公演が、同時並行して実現さ
れることに、劇場や制作スタッフの充実ぶりを感じた。
・舞台芸術における同時代の動向をいかに形作りながら劇作家・演出家・劇団と協調し、形作っ
ていくことができるのかと言う事が複数年にわたっての事業の場合にはより明確に問われてくる
事かと思われます。この地点とのとりくみは、劇場専属のカンパニーを持ちえない公共劇場の地
域創造と発信拠点としてのありよう、役割がどのようにあるべきかを考察するうえで、一つの参
評価内容 照項になる事業であると言えるでしょう。
今回の上演作品は、美術がシンプルで、スタジオ空間との兼ね合いも含めて興味深く拝見され
⑥
ました。また、これまで拝見しました走りながらなどのセリフにみられた、どこか運動性によ
る、感情などセリフに介在してくる事柄からの切り離しの作為性が、掴み合ったり転がりあうな
かで曖昧となり、異化・並列が目立ったセリフに身体運動とのなにかしらの親和性を感じさせる
面白みがあったように思い、興味深く拝見しましたこと、添えさせていただきます。
平成26年度外部評価報告(別紙)
事業名
KAAT若手舞踊公演「SUGATA」
新作 清元・長唄「葛城山蜘蛛絲譚」(かつらぎやまちちゅうのよばなし)
~妖怪土蜘蛛退治~
開催日
2015年3月20日(金)~22日(日)
会場:KAAT大スタジオ
事業概要 概要:KAAT次世代への古典芸能プロジェクト。いま、もっともフレッシュな若手歌舞伎俳優たち
による新作舞踊公演。
素踊りにもかかわらず完全な舞台上演と変わらぬ満足感がある。役柄の少なくなる時期の若手に
場を提供するという心意気も良い。シンプルな舞台だが、音楽を両端においた効果、照明などを
うまく利用しているため、十分世界観を堪能することができる。内容が充実していれば大掛かり
な装置がなくても通用するという好例かと思う。若手の踊り手演者も初々しくて好感を持った。
中村鷹之資さんは、顔の作りが大きいので表情が豊かに出る。重心の取り方も低く、所作もダイ
ナミックで役柄にぴったり。中村玉太郎さんは、少し見ないうちにだいぶ背が伸びた。踊りは線
評価内容 が細く少々頼りなげだが、可愛らしい顔つきで人気が出そう。二人ともこれからの歌舞伎界を背
負って立つ人材であるだろうから大切に見守りたい。藤間勘十郎の腹の据わった安定の踊り、素
①
性が知れてからの表情の大きな変化など堂に入っている。花柳流の踊り手女性二人が舞台に華を
添えている。花柳時寿京さんの表情の豊かさと、素早い足さばき、花柳凛さんの妖艶な美しさも
心に残る。血筋が血筋ということもあるのかもしれないが、所作が体に染み込んでいるようなと
ころがあり、安心してみていられる。ところで、ご贔屓筋だと思うのだが音羽屋、天王寺屋、宗
家と、さかんに演者の屋号を叫ぶ観客があった。適度なら場が盛り上がりよいのだが、あまりに
頻繁に叫びすぎて少々うんざりしたところがあった。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
音楽堂ヴィルトゥオーゾ・シリーズ 11
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)&アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
デュオ・リサイタル
開催日
6月27日(金)
会場:音楽堂
概要:洗練された音楽性と第一級の演奏技術で世界的に高く評価されているヴァイオリニスト、
事業概要
イザベル・ファウストと、晩年のリヒテルの薫陶を受けたピアニスト、アレクサンドル・メルニ
コフによるデュオ・リサイタル。
とても良かったです。ファウストの、繊細にやわらかに刻々と表情を変えていく、密度の高い
ヴァイオリンに魅了されました。プログラムも、ヴァイオリンの様々な表情、技術が見られるよ
うに構成されていたようで、アンコール曲も含めて、一つ一つの曲想の違いを堪能できました。
ヴァイオリンに集中してしまいましたが、ピアノも良かったです。
こうしたプログラムが県の財団で行われていること、しかも、木造のあたたかな音響空間で企画
されていること自体、とても贅沢ですてきだなあと思いました。こういうコンサートが近所に、
たとえば毎月、本音を言えば毎週のようにあったら、音楽好きが増えることでしょう。
残念だったのは、だいぶ空席が目立ったこと。いつもの音楽堂のコンサートに比べて割高感が
評価内容 あったのでしょうか?ファウストの名前を知らずとも、聞けばわかるすばらしさだと思いますの
で、もったいないと思いました。内容に対しては決して高くないと思いましたが5000円を超える
①
と厳しいのかな、とも。親子で来ている人も多そうでしたので、そういう割引を設定するとか、
もしかしたら、チラシの作り方などをもう一工夫すると良かったのかもしれません。音楽会のチ
ラシはたいてい演奏者の写真が主ですが、演奏会のイメージがわきにくく、その人の演奏家とし
ての力量もイメージしにくいように思います。顔や名前で誰もがピンとくるような著名人のコン
サートや、音楽通を対象にしたコンサートならそれで十分かもしれませんが、知らないかもしれ
ないけれど、実はこんなにすばらしいんだよ!ということが伝わるように、手に取りたくなるよ
うなチラシを作ってみるといいのかもしれないと思いました。私自身、疎い分野のコンサートに
「行ってみよう!」と思うのは、実はチラシの力に後押しされることもありますので。
イザベル・ファウストとメルニコフを一時に聴けるという豪華な演奏会として楽しみにしてい
た。選曲は穏当だが、ファウストの美点を引き出すにはオーケストラとの共演作品よりはるかに
適している。モーツァルトのイ長調のソナタでは、ヴィブラートを少なめにし音程の正確さ、品
格のある音の選び方が際立っていたし、シューベルトの幻想曲では思い切って音を絞りこんでも
ぶれない。様式感と技術のバランスが優れていることがこのたびの演奏会でも確認できた。たと
えばシューマンのロマンスのように箱庭的な繊細さをみせたと思えばブラームスでは一転、重心
評価内容
の低い3連符と伸びやかな旋律を鮮やかに対比させたりする。県立音楽堂のすぐれた音響も、こ
②
うしたこまやかなな音楽性を確認するのに非常に適合していると思った。一方この日のメルニコ
フは、とくにピアニシモで音が混濁しがちで、指の運びも抜けやすいなど、らしくないところが
見られた。またアンサンブルとして相手と合わせる気持ちは多分にあるのはみてとれるのだが、
音数が多い所ではどうしてもソリスト的な気が出てしまう。音楽的な相性という意味では、必ず
しもしっくりこないところがあるのでは?と思った。とはいえ彼らに対する期待値が高いからこ
そのことであって、演奏会じたいが素晴らしかったことには間違いはない。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
マエストロ聖響の夏休みオーケストラ!(本公演)
開催日
8月16日(土)
会場:音楽堂
概要:次代を担う子ども・青少年に向けて、音楽の体験を届けるための、体験型事業。豊かな音
事業概要
楽表現が可能なオーケストラ公演を軸に関連事業を加えた 4 日間。23 年度から5 年間継続し、
子どもたちが鑑賞の幅を広げ経験を深めることをめざす。
盛り沢山の一連の企画で構成される「マエストロ聖響の夏休みオーケストラ体験」のコンサート
の日を拝見した。この日に先立ち関係者の皆さんのご尽力でオーケストラファンの裾野を拡げる
活動がなされた。アメリカの著名なマネージメント会社のトップとニューヨークフィルの演奏会
に行った時に、彼が洩らした「日本は羨ましい。観客に若い人が大勢いる。見てください、この
会場を埋め尽くしている人の平均年齢は70歳に近い。アメリカのクラシック音楽の将来が本当に
心配だ」という言葉を思い出した。日本では今回のような努力が実を結んでいるのだろう。頼も
しいことだ。最近は音楽大学でもいわゆるマネージメント部門の学科が増えているが、子供たち
評価内容 が舞台裏のスタッフを経験することも将来につながる心強い試みである。
昨年も同様の印象をもったが、コンサートの選曲が秀逸である。感性の豊かな子供たちに藤倉大
①
の「シークレットフォレスト」を聴いてもらう、しかもシューマンとプロコフィエフの間にさり
げなく並べる。こうした努力がこれまでの現代音楽を特別な枠組の中で捉えるプレゼンテーショ
ンよりも大いに進歩した形であり、教育的にも芸術的にも高度な試みである。マエストロを中心
としたこういう努力は必ず将来に結び付くと期待される。
ただ、残念なのは、これで3回目を拝見したことになるが、今回も司会の扱いが気になる。非常に
難しいかじ取りが要求されるが、全体の目的と会場の雰囲気と子供たちの表情からもう少し別の
形が描けるのではと期待します。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
音楽堂アフタヌーンコンサート
山田和樹指揮「東京混声合唱団」特別演奏会~日本の合唱の名曲
開催日
9月25日(木)
会場:音楽堂
概要:横浜出身で2009年ブサンソン国際指揮者コンクールに優勝後、日本及び欧州で活躍する若
事業概要
手指揮者山田和樹を迎え、合唱の古典から現代曲まで幅広いレパートリーを持ち音楽性が高く評
価されている東京混声合唱団のコンサート。
「日本の合唱の名曲」という説明的なタイトルを持つコンサートに行った。まずは客席の熱気に
驚かされた。皆さんお友達を連れだって来ている方々が多く見受けられ、圧倒的に女性の観客が
目立った気がした。タイトル通りに日本の合唱曲の特徴をよく表したプログラミングである。中
でも圧巻は佐藤眞の「大地讃頌」である。山田和樹が客席に向かってタクトを振り始めたとたん
会場中が大合唱団となった。合唱のコンサートにはあまり馴染みのない私も心から感動しまし
た。音楽そのものよりもむしろ歌っている観客の表情が輝いて素晴らしかった。こうした見事な
評価内容 第一部のエンディングの後、第二部の冒頭の柴田南雄の「追分節考」は大変な名演で、大合唱の
「大地讃頌」とは対照的に、充実したシアターピースは山田和樹の見事なディレクションで盛り
①
立てた。そのあとは愛唱歌を選りすぐった小品が並べられたが、どれも東京混声合唱団の実力者
だけが出来る素晴らしい演奏が並んだ。こういう愛唱歌のようなものはやはり演奏の上手い実力
者が演奏すると実に楽しくなるものだということを実感しました。山田氏のMCも無駄がなく要を
得る名進行ぶりで楽しい2時間を演出した。音楽堂企画の傑作で恐れいきましたというのが率直な
印象です。これから、こうした合唱ファンの皆さんのための質の高いコンサートの企画を増やし
てもよいのではと感じました。客席が満席になる企画はやはり嬉しい。
・当企画はなにより中高年層の厚い支持をあつめている企画であった旨、当日の満員状態の客席
などから十分に伺われました。
評価内容 プログラムは一般的に耳にし得る楽曲、混声合唱で愛唱される曲、と同時に、《追分節考》のよ
うな実験的な上演作品を織り込むなど、合唱自体の面白みはもちろんのことながら、音楽の歩む
②
近現代の歩みの一端にも触れうる奥行きをもたせる工夫がなされていたようにも思われ好感を持
ちました。
今をときめく山田和樹とはいえ平日マチネにこれだけの集客ができているということに大変驚い
た。神奈川の合唱人口の多さや、合唱音楽への関心度の高さを身近に感じ、観客層の発掘の面で
勉強になる。選曲されていた團伊玖磨も鎌倉のあたりに居を構えていたと思うが、文化芸術と縁
が深い土地柄でもありそうである。東京混声合唱団のピッチ純度の高さが発揮できる曲で構成さ
れていた。リークや柴田南雄といった現代ものでも、わりととっつきやすい要素を備えた曲だけ
に、観客の反応も上々。緩急つけたプログラミングが上手いものだとおもった。愛唱歌や合唱
評価内容
ピープルの心をわしづかみにする大地讃頌などもおりまぜるあたりも巧みである。山田和樹の人
③
好きする態度、歌手を会場に立たせ観客との一体感を意識した音響デザインなどが楽しい。おし
むらくは、そうした音響デザインも後半になると歌い手にも疲れがみえること。耳元でしわがれ
た声を注ぎ込まれると、少々気の毒に思えてしまった。良い孫のような立ち位置で地域の高齢者
とふれあう演奏会といった風情で、温かい雰囲気だった。ただ個人的には見知らぬ人と手をつな
いだり、一緒に踊ったりということには抵抗がある。知人と参加している方には楽しいのかもし
れないが。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
大野和士のオペラ・レクチャーコンサート
開催日
11月4日(火)
会場:音楽堂
事業概要 概要:世界のオペラ劇場で活躍する大野氏ならではの知識と経験に裏打ちされたレクチャーを、
ユーモア溢れるトークと気鋭の歌手たちの熱唱を交えて展開する独自企画。
一番印象に残ったのは全体の感じの良さ。肩の力を抜いて、けれど漫然とみていただけではわか
らないオペラのおもしろさ深さを垣間見ることができる・・・というのが大変良かったです。オペラ
なんて敷居が高いものと思っている人も多いと思いますし、こういう機会がもっとあるといいの
になあ、と思いました。また、こういう形のレクチャーコンサートだと出演者のレベルが低いと
いうこともよくありますが、かなり高いレベルで揃えていたと思いますし、それぞれ一部ずつで
も手を抜かずきちんと歌ってくれたことが良かった。これは、レクチャーだけれども十分歌を聴
かせる、歌手に十分力量を発揮させる、という大野さんの方針のなせる技かもしれないと思いま
した。
評価内容 ただ、欲を言えば、もう少し大野さんの話が聞きたかった。モーツアルトからベートーヴェンが
引き継いで展開されたフレーズなど、ピアノで聞けばなんとなくはわかるのですが、もう少し
①
しっかりと確かめたかったという感じもあります。また、せっかく対訳の詞章を用意していただ
いたのは良いのですが、どこを取り上げているのか、わかるまでに時間がかかりましたので、プ
ログラムに、章かページかどちらかまで入れていただけるとありがたかったです。それから、人
名というのは特に頭に入りにくいので、ストーリーの概説と共に、人物関係図を入れていただけ
るとよりわかりやすいかと。でも、オペラの「その先」の深さを感じる機会として本当に良い企
画だと思います。
最後に、日本の古典芸能に携わる者として、こういう機会を作れればいいなあ、と勉強になった
ことを申し添えたいと思います。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
60周年記念オーケストラ・コンサート
開催日
11月9日(日)
事業概要
会場:音楽堂
概要:開館60周年を記念としてオーケストラ公演を実施し、新たな門出を県民と共に祝う。
県立音楽堂60周年を寿ぐコンサートとして、地元の子供たちの吹奏楽演奏があり、開演前から華
やかさがあった。(お行儀のよい子たちで驚愕。)県立音楽堂と一緒に育ったというような方々
も客席にいたが、選曲は大衆受けを狙ったものではない。武満しかり、ドビュッシーしかり。20
世紀以降の作品でそろえているが、間にトークを挟んだり、演奏家の、目にも楽しいパフォーマ
ンスもあり、広い層から支持される工夫がなされていたと思う。とりわけ一柳さんの「マリンバ
評価内容
協奏曲」では、ソリスト加藤訓子さんの演奏が秀逸。躍動感のある演奏と、魅せる動きが連動し
①
ている。作曲者本人が驚いていたが、観客もかしこまったクラシックコンサートの枠を超えて、
純粋にわくわくする時間を持てたのではないかと思う。作曲家の言葉通り、本当に、打楽器は女
性の活躍がめざましい。ところで現代音楽と笙の組み合わせといえば宮田まゆみさんの一人勝ち
のような状態が続いているが、もうそろそろ次世代が台頭しても良い頃ではないかと感じた。篠
崎さんの指揮も堅実。
感じのいいコンサートでした。武満や一柳といったやや聴く機会の少ない現代日本作曲家の曲
を、非常にメジャーで愛好者も多いドビュッシーやストラヴィンスキーと合わせて構成している
点がエライと思いました。マニア向けの演奏会ではない、けれど、珍しい新しい曲も聴かせてく
れるという、こういう企画姿勢が観客を育てていくのだと思いました。神奈川に来ていつも思う
のは、客層の幅広さ。とんがった企画なら東京にもありますが、そうではない懐の深さ広さが神
奈川の企画の優れたところだと思います。値段も抑えめで、これなら行ってみようかと思える、
手の届く範囲に現代曲があるところが素晴らしい。指揮者の方も感じがよく、アンコール曲もア
ンコールとは思えない本格的、かつ、60周年にふさわしい祝祭的な演奏。暮らしのそばに音楽が
ある感じのスタンス、改めて大事にしてほしいなと思いました。
評価内容
こういうスタンスの企画に対して、ふさわしくないコメントかもしれませんが、実は、気に
②
なったのはオーケストラメンバーの服装なのです。全身黒ではなく、自由に少しカジュアルに構
成しようという意図は悪くない。けれど、自由でカジュアルにセンス良くというのは、実は日本
人が一番苦手なものの気がします。ドレスコードが実にばらばらな感じがして、会社に行くよう
な格好の人からトラディッショナルなドレスまで、色合いも含め、ちぐはぐな感じがしました。
特に、本日のソリスト二人が極めてシンプル、モダンなスタイルで出ていらっしゃいましたの
で、不調和が目立ったように思います。曲も現代曲でしたし、オーケストラの方々ももう少しモ
ダンなスタイルになさればよかったのに・・・と思います。それか、いっそ黒。司会者の方も、とて
もトラディッショナルなスタイルで、古典曲を聞きに来たような印象でした。でもそれも「身近
さ」なのかなとも。
平成26年度外部評価報告(別紙)
公益財団法人 神奈川芸術文化財団
事業名
ヴィルトゥオーゾ・シリーズ第12弾
ナタリー・シュトゥッツマン コントラルト・リサイタル
(ピアノ:インゲル・ゼーデルグレン)
開催日
11月22日(土)
会場:音楽堂
事業概要 概要:豊かな音楽性が世界的に高く評価されているナタリー・シュトゥッツマンによるリサイタ
ル。
超一流の歌手、しかも世界でも稀少な声質コントラルトのナタリー・シュトゥッツマンを県立音
楽堂で聴けるということで楽しみにしていた。フランスのメロディの中でも今回のようなプログ
ラムはなかなか揃えて聴ける機会も少ない。音楽の表現力は相変わらずだし、深々とした声も健
在。ただ今回は高音をひっかけるだけにしていたのが気になったが、それでも全体のフレーズを
巧みに操り、弱いところをつくらないのはさすがだ。ショーソン、グノー、ドビュッシーは耳当
評価内容 たりこそ良いものの演奏は決して楽ではないはずだが、聞き応えがあった。また、プーランクで
はチャーミングな魅了も織り交ぜ、表現の幅広さをつまびらかにして楽しませてもくれる。彼女
①
がずっとパートナーとしているピアニストインゲル・セーデルグレンは以前のようにうるさい程
旋律を口ずさむことはなくなったが、技量にだいぶ陰りが見えていた。打鍵は弱く、音の粒がそ
ろわないし、コントラルト用に移調しているせいなのか指が迷ったりミスタッチもかなり多い。
とはいえ、影のように歌に寄り添うので歌手がことさらに際立って見えたし、ふとした瞬間、た
とえば三拍子のリズムの取り方などにさりげないセンスはみられた。
平成26年度外部評価報告(別紙)
事業名
音楽堂バロック・オペラ ヴィヴァルディ 「メッセニアの神託」全3幕
開催日
2月28日(土)~3月1日(日)
会場:音楽堂
事業概要 概要:開館 60 周年を記念し、音楽堂の音響・空間を最大限に活用するべくバロック・オペラを
上演する。
日本初演の、滅多に観られない舞台ということで、楽しみにうかがいました。どことなく『ハム
レット』や『オイディプス王』を思い起こさせるストーリーは分かりやすく、歌唱のレベルも非
常に高かったのですが、とにかく長かったです。上演時間が3時間半の予定であったところ、延び
てしまったのは、三幕を通してテンポが同じであったこと(特に二幕が中だるみしていました)
にあったと思います。
能舞台を意識した美術はよかったのですが、「枯山水」で海を表現するとは中々のものだなと感
心していた矢先に、演者がそこに普通に降りて演技をしてしまったのにはがっかりしました。
「枯山水」は砂紋を布に描くことで表現して、演者がそこに降りる時は、その布を外すなどの配
評価内容 慮が必要だったと思います。「そこは水という決め事なんじゃないですか」と叫びたい気持ちで
した。また、一番気になったのは「扇」の扱いで、これが海外の人による演出でしたら、ある程
①
度仕方がないと諦めますが、あまりに適当で見ていて辛いものがありました。まるで、海外の演
出家によるギルバート&サリヴァンの『ミカド』を観ているようでした。
全体として、歌唱は素晴らしかったですが、演技や演出には不満が残りました。例えば、ポリ
フォンテは王なのですから、「わざわざ高いところから降りて」下に居るエピーティデに近寄る
ということはあり得ないと思います。座って歌っていたエルミーラがポリフォンテに手を取られ
て立ち上がるところもありましたが、これも、二人の関係を考えると不自然です。小さなことか
もしれませんが、そうした積み重ねが舞台を嘘っぽく見せることになってしまうのではないで
しょうか。少々手抜きの、徹底していない演出のように感じられました。
まずもって、ビオンディ率いるエウローパ・ガランテの演奏が水際立って素晴らしい。覇気に満
ち、同時に正確な技巧とエレガンスを併せ持っている。格調が高いのにエンターテインメント性
も高いという、稀有な演奏に出会ったという気持ちがあった。舞台上の歌い手陣も素晴らしい。
エピーティデ役のジュノーをはじめ第一人者と言って良い歌手がずらりと並び、しかも揃いも
揃って高レヴェルというのには驚くより他ない。世界にはこれほど傑出した、個性の違うメゾソ
プラノがたくさんいるのだと感じ入った。ジュノーは出だしこそ少々硬さがあったが、主役にふ
評価内容 さわしいしっかりとした声質。アジリタの技術も高く、それでいて恐ろしく広い音域を難なくカ
ヴァーするのに唸った。さらに驚いたのはトラシメーデ役のユリア・レージネヴァである。長く
②
過酷きわまりない技巧的なアリアを、どこにも継ぎ目のないまっすぐな声、鈴の転がるような音
色などを自在に駆使してゆく。技巧に目が向きがちだが、彼女のひたむきな役作りも胸打つもの
だった。聞くところによるとまだ二十代半ばということで、これからの活躍が楽しみである。弥
勒忠史さんの演出は枯山水や屏風を背景に、歌い手も武士のような所作をさせ和のテイストを
持ったものだったが、きわめて控えめ。歌い手が歌に集中できることを考えているところにも、
善意を感じた。