透明材料を用いた超高速衝突による応力波伝播 及び損傷過程の可視化

透明材料を用いた超高速衝突による応力波伝播
及び損傷過程の可視化
○座間俊右(法大・院),川合伸明(熊大・IPPS),竹本航(法大・学),
長谷川直(ISAS/JAXA),新井和吉(法大),佐藤英一(ISAS/JAXA)
Abstract
Hypervelocity impact experiments were performed on fused silica glass and polycarbonate to
investigate the effect of impact velocity and stress wave interference. In order to observe the damage and
stress wave propagation process in the impact axial direction, a technique called Edge On Impact (EOI)
was used. The damage and stress wave propagation induced by EOI was observed using ultra high-speed
video camera. The effect of the stress wave on the impact damage in transparent materials were
experimentally analyzed, and the damage mechanism subjected to a hypervelocity impact was discussed.
Key Words : Hypervelocity impact, Ultra high-speed video camera, Edge On Impact
1. 緒論
mm の SUS304 球を用いた.実験は試験片の側面中央に
大小様々なスペースデブリが宇宙空間に満ち溢れて
飛翔体を衝突させる Edge On Impact と呼ばれる手法によ
おり,低軌道上では秒速 7~8 km と非常に高速で周回し
り行った.衝突ターゲットである石英ガラスの形状は
ている.宇宙機の運用,安全利用の観点から,スペース
60×60×15 mm の平板を用いた.実験の模式図を Fig. 2 に
デブリによる宇宙機用構造材料の超高速衝突損傷機構を
示す.内部の損傷と外部の損傷をそれぞれ区別するため,
明らかにすることが今後の重要な課題となっている.
反射光での撮影を行った.反射光で撮影を行うには,反
本研究では,スペースデブリによる衝突を模擬した超
射率が不足していたため,試料の片面(60×60 mm 面)
高速衝突実験を行い,材料の損傷挙動について研究を行
に白金パラジウム蒸着を施した.蒸着装置には,イオン
った.従来のスペースデブリの研究は,損傷予測式やデ
スパッタ E-1020(Hitachi 製)を使用した.
ブリシールドの貫通限界曲線の構築など、超高速衝突後
の損傷形状評価を中心とした研究[1,2]が多くを占めてお
り,損傷進展過程についての研究は少ない.このような
背景から,本研究では超高速度ビデオカメラを用いた超
高速衝突による損傷挙動の直接観察を行い,損傷機構の
解明を目指した.可視光による観測を行うため,試料に
は透明材料を選定した.透明材料の中でも,実際に ISS
で窓ガラスとして使用されている石英ガラスと宇宙服の
バイザー等に使用されているポリカーボネイトを用いた.
透明材であるため,内部の損傷進展観察が可能であり,
超高速度カメラを用いることで,衝突損傷の進展過程,
応力波伝播を観察することが可能である.観察結果から
Fig.1 A two-stage light gas gun
超高速衝突での損傷は衝突点から進展する損傷のみでな
く,伝播する応力波同士が干渉することでも生じること
が確認された.そこで,応力波による損傷の発生機構を
明らかにするため,Edge On Impact 手法を用いて,透明
材料に対する超高速衝突実験を行った.さらに,ポリカ
ーボネイトについては,2 方向撮影を行い,どの応力成
分が損傷に影響を与えるのか調査を行った.
2. 実験方法
(1)石英ガラス
超高速衝突実験は ISAS/JAXA 所有の二段式軽ガス銃
を用いて実施した.Fig.1 に二段式軽ガス銃の外観を示す.
衝突物である飛翔体には,微小デブリを模擬した直径 1.0
Fig.2 Schematic view of Edge On Impact
(2)ポリカーボネイト
2 方向での撮影を行うため,実験装置には縦型銃を用
3. 実験結果と考察
(1)石英ガラス
いた.Fig.3 に縦型銃の外観写真を示す.現在はサボを使
直径 1.0 mm の SUS304 球を衝突速度 6.03 km/s で衝突
用していないため,発射口径の 4.7 mm 球,飛翔体材質は
させた.衝突後の画像を Fig.5 に示す.衝突点から進展
ポリカーボネイト,ナイロンの 2 種類のみ使用可能であ
している暗い領域が損傷領域であり,その前方にある暗
る.衝突軸方向の損傷伝播や応力波伝播の観察を行うた
い曲線が応力波である.衝突後 9μs 付近で,試験片中央
め,石英ガラスでの実験と同様に試料の側面中央に飛翔
に損傷が形成されているのが見える.この損傷は,衝突
体を衝突させる Edge On Impact と呼ばれる手法により実
時のクレーターから連続的に進展している損傷領域とは
験を行った.撮影は透過光で行った.衝突物である飛翔
異なり,応力波同士の干渉によって生じた損傷であると
体には直径 4.7 mm のポリカーボネイト球を用いており,
考えられる.Fig.5 のように一方向からの撮影画像では,
衝突ターゲットであるポリカーボネイトの形状は
奥行方向の応力波の伝播を観察することが困難なため,
80×80×30 mm の平板と 80×40×30 の平板の 2 種類を用
衝撃解析コード,Autodyn を用いて,応力波伝播の解析
いた.縦型銃を使用することで 2 方向撮影は可能になっ
を行った.解析結果を Fig.6 に示す.Fig.6(a)には超高速
たが,飛翔体に制限がある.そのため,従来から使用し
度カメラで撮影した実験画像,Fig.6(b)には衝突軸方向,
ている横型銃でも 2 方向撮影ができるように,鏡を用い
奥行方向の Stress XX での応力分布(衝突軸方向を X と
て実験を行った.実験の様子を Fig.4 に示す.従来のカ
した)をそれぞれ示している.Fig.6(b)から衝突時に発生
メラ設置では青く囲った部分の 1 方向のみの撮影であっ
した球面波が奥行方向(衝突軸に対して 90°方向)に伝
たが,鏡を用いることで 2 方向での撮影を可能にした.
播し,自由面である側面(60×60 mm 面)でそれぞれ反
赤く囲った部分が鏡を用いており,撮影映像と光源をそ
射され,膨張波となった波同士が干渉していることが判
れぞれ鏡で反射させている.
明した. また,9μs 付近で発生した損傷位置と解析に
より求めた膨張波の干渉位置がほぼ一致していた.さら
に,損傷が半円状に形成されているのに対応して,解析
での応力分布も同様の形状を示していることが fig.6(b)
から明らかになった.また,反射した膨張波が衝突軸上
に最初に干渉する時間が,衝突後 6μs 付近であることが
分かった.しかし,実験画像では 6μs では,明確な損傷
は見られず,9μs 付近で観察することができた.これは,
最初に干渉する 6μs 付近で損傷の起点となるクラック
が生成され,再び膨張波が干渉する 9μs 付近でクラック
が急激に成長したためだと考えられる.
Fig.3 A two-stage vertical light gas gun
Fig.4 A photographic set up
Fig.5 Successive pictures of stress wave propagation and failure
propagation by 1.0 mm aluminum sphere at 6.03 km/s
伝播の時間変化は,実験画像で観察された圧縮波と,解
析により求めた膨張波の 2 つの波をプロットしている.
奥行方向で膨張波が強く干渉する 6 μs 付近での進展距離
と 9 μs 付近で生じる損傷は共に衝突点から約 25 mm の距
離に発生している.
Fig.7 Failure propagation and stress wave propagation on fused
silica glass by1.0 mm SUS304 sphere at 6.03 km/s
(2)ポリカーボネイト
実験装置に縦型銃を用いて,直径 4.7 mm のポリカー
ボネイト球を衝突速度 6.23 km/s で衝突させた.試験片
には 80×80×30 mm のポリカーボネイト板を用いた.
この時の高速度ビデオカメラの様子を Fig.8 に示す.縦
型銃を使用しているため,飛翔体は画像の上から下に向
かって衝突している.衝突軸に対して垂直方向に進展し
ている応力波が試験片側面の自由面で反射し,膨張波と
なった波が試験片の中心部で干渉することで損傷が誘起
されている.2 方向から高速度カメラで撮影することに
より,損傷の原因を直接的に観察することに成功した.
Fig.6 Fused silica glass experiment and simulation at 5
timesteps
この時の損傷進展と応力波伝播の時間変化のグラフを
Fig.7 に示す.縦軸を時間,横軸を進展距離とした.損傷
Fig.8 Successive pictures of stress wave propagation and
進展は実線で,応力波伝播は点線で示している.応力波
failure propagation by 4.7 mm PC sphere at 6.23 km/s
衝突後の光学顕微鏡写真を Fig.9 に示す.衝突点近傍
の損傷に加え,その先に半円状の損傷が薄く進展してい
るのが確認できる.これは球面波である応力波同士が干
渉して形成された損傷である.
Fig.11 Damage of structure of PC (80×40×30 mm)
次に,横型銃での鏡を用いた 2 方向撮影の実験を行っ
た.撮影映像を Fig.12 に示す.横型銃を使用しているた
め,飛翔体は左から右へ向かって衝突している.飛翔体
には直径 7.0 mm のポリカーボネイト球を用い,衝突速度
は 3.2 km/s で行った.試験片寸法は 80×40×30 mm とし
た.鏡を用いることにより,縦型銃の時と同様に 2 方向
Fig.9 Damage of structure of PC (80×80×30 mm)
での同時撮影が可能となった.
応力波の伝播距離による損傷の影響を観察するため,
試験片の寸法を変えて実験を行った.寸法は Fig.8 で用
いた試験片の衝突軸方向の距離を半分にした 80×40×
30 mm のポリカーボネイト板を用いた.飛翔体は同様に
4.7 mm の PC 球,衝突速度は 6.0 km/s で行った.この時
の高速度カメラの連続写真を Fig.10 に示す.Fig.8 の時と
同様に側面から反射した応力波の影響により,損傷が生
じている.さらに,衝突軸方向の距離を半分にしたこと
で,試験片の裏面から反射した応力波による損傷も形成
Fig.12 Still image of stress wave propagation and failure propagation
された.衝突後の試験片の写真を Fig.11 に示す.応力波
by 7.0 mm PC sphere at 3.2 km/s
が側面で反射して生じた損傷と裏面で反射して生じた損
傷が確認できる.距離を短くし,応力波が伝播する体積
を少なくすることで,応力波同士の影響による損傷を生
じさせることができた.
4. 結論
本研究では,透明材料への超高速衝突による損傷機構
の調査するため,石英ガラスとポリカーボネイトを用い
て超高速衝突実験を行った.以下に実験結果を示す.
(1)
超高速度カメラを用いることにより,損傷進展過程
や応力波伝播を観察することができた.
(2)
石英ガラスでは,実験結果と解析から応力波による
損傷機構を明らかにすることができた.
(3)
2 方向撮影を行うことで,ポリカーボネイトの応力
波同士の干渉による損傷過程を直接的に観察するこ
とができた.
(4)
鏡を使用することで縦型銃のみでなく,横型銃でも
2 方向撮影が可能になった.これにより飛翔体選択
に幅ができ,様々な条件での実験が可能となった.
参考文献
1)BurtonG.Cour-Palais, A career in applied physics: Apollo
through
space
station.
Int.J.
Impact
Eng.23,
pp.137-168(1999).
2)N. Kawai et al., Fracture behavior of silicon nitride ceramics
Fig.10 Successive pictures of stress wave propagation and
failure propagation by 4.7 mm PC sphere at 6.00 km/s
subjected to hypervelocity impact, Int. J. Impact Eng. 38,
pp.542-545(2011).