2015年の経済動向 ~上期は回復

エコノミストの眼
2015年の経済動向
∼上期は回復、試練は米利上げ∼
熊野 英生
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト
2014年は消費税率が8%に引き上げられた年と
だったと分析している。
して長く記憶されることだろう。そして、きっと「あ
ただし、春から夏にかけて、景気を下押しした
のときの経済は、増税後、景気後退期に入った」と
悪化要因は、秋になって徐々に改善してきており、
解説されるだろう。
景気後退期間を抜けたとみられる。その改善の流れ
景気判定の基礎データになる内閣府「景気動向
指数」は、CI一致指数が2014年1月と3月をピー
は、2015年前半にかけて継続すると、筆者はみてい
る。
クにして下落に転じている。つまり、これが消費税
ひとつの根拠は、外需と生産が上向き始めてい
増税前の駆け込み需要のピークを指す。それから
ることである。輸出数量も6月が大底になって、9・
2014年8月がボトムになり、9・10月と回復する動
10月と連続して伸びが目立っている。一頃、円安に
きになっている(図表1)。
なっても、なかなか輸出数量に結び付かないことが
問題視されていたのを思い出す。
「Jカーブ効果が
(図表1)生産統計と景気動向指数
116.0
現れなくなった」という議論である。おそらく、そ
季節調整値
8月9月
景気後退期
112.0
10月
一致指数
うが、今回は米国やNIES諸国の景気拡大を受けて
生産指数
108.0
うした貿易構造の問題点は今も変わらないのだろ
11・12月
生産予測指数
104.0
輸出数量が増えた。米国やアジア向けの輸出拡大
は、少なくとも2015年前半まで見込めると予想され
100.0
る。
96.0
2014.11
2014.01
2012.01
2011.01
2013.01
(この景気後退期シャドーは筆者が仮置き)
92.0
出所:内閣府、経済産業省
海外から吹いてくる追い風には、原油安の恩恵
もある。ニューヨーク原油先物市場では、原油市況
が6月のピークから12月初旬までの半年間に、実に
45%も価格が下落している(図表2)
。2013年度の
筆者は、9・10月の回復が一時的な変動ではな
日本の鉱物性燃料輸入は年間28.4兆円だったので、
く、輸出・生産拡大を背景にした新しい局面になる
と考えている。そうすると、消費税増税の反動減に
(図表2)原油価格WTIの推移
115
ドル / バレル
よって日本経済が停滞した期間、すなわち景気後退
期は、2014年2月から8月までの7か月間となる。
(日次)
2014/6/13 ピーク106.91ドル
100
また、筆者は、この景気後退が単なる消費税の
85
反動減ではなく、本来、駆け込みと関係がないはず
のサービス消費にまで悪化したところに注目して
70
いる。これは、消費税増税に加えて、輸入物価の上
が悪化して需要が減退したことによる景気後退
出所:日経 QUICK
’
15.1
34
2014/12/8
2014/9/9
2014/6/1
2014/3/3
候不順が追い討ちをかけた作用である。消費者心理
2014/1/2
55
昇圧力を受けた生活コストの高騰、さらに夏場の天
熊野 英生(くまの ひでお)
1967年7月 山口県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。1990年に日本銀行入行。2000年に第一生
命経済研究所へ入社。2008年に日本FP協会評議員。2011年4月より首席エコノミスト。2013年
10月に参議院第二特別調査室客員調査員。2014年6月より日本FP協会理事。
著書「バブルは別の顔をしてやってくる」
(日本経済新聞出版社)、
「本当はどうなの?日本経済̶
俗説を覆す64の視点」(日本経済新聞出版社)など。専門は、金融政策、財政政策、為替市場、
経済統計。
それが半減すれば、約14兆円のコスト軽減になる
うになっている。2014年11月の雇用増加は前月比32
(GDP比3%相当)。ただし、この間、円安が2割
万人と大きく伸びた。また、小売売上高の前月比
近く進んでいるので、円建ての燃料輸入コストが安
も、10月は0.3%増、11月は0.7%増となっており、
くなる恩恵は約半分に目減りしている計算になる。
11月は2014年中で3月以来の大きな伸びになって
なお、原油安のメリットは、直接的に日本企業
いる。冬のクリスマス商戦の好調を予感させる消費
や家計が受ける部分のほかに、新興国や欧米経済が
増加である。こうした米経済の拡大は、NIESなど
原油安によって景気拡大を遂げることを通じた輸
アジア諸国へと拡大していくと予想される。まさし
出増のメリットもある。つまり、原油安が世界経済
く米経済がパワーを発揮することが、世界経済の牽
を成長させる効果を生み出し、そうした経路から日
引役になると期待されている。
本経済の追い風になることが考えられる。
もっとも、米経済の動向については、2015年央
加えて、円安も総体として日本経済にプラスに
までは好調さが継続するという見通しを立てるこ
作用するだろう。第一は、企業収益の増加である。
とはできるが、その先には不確実性が潜んでいる。
例えば、2013年度のドル円レートは月平均ベースで
なぜならば、2015年半ばには、FRBの利上げが控え
約20%の円安が進んだ。財務省「法人企業統計」で
ていると予想されるからである。利上げは、金融政
の経常利益は、前年比23.6%の増加となっている。
策を正常化していく対応である。正常化なのだから
円安によって後押しされた企業収益の増加を基
それほどネガティブに評価する必要はないという
に、2014年度の賃上げは行われた。為替レートは、
見方もあろうが、久方ぶりの利上げだけに不透明な
2014年9月頃から再び円安に向かっており、2015年
部分がある。
前半もこの円安の流れが継続すると予想される。仮
米国の利上げが行われた経験は、前回は2004年
に、2014年度の月平均ベースのドル円レートが前年
6月から2006年6月までである。この期間には17回
度比10%程度の円安進行になったとすると、輸出企
(政策金利は1.00%→5.25%)も引き上げが行われて
業には同様の収益拡大の恩恵をもたらすだろう。
いる。仮に2015年央に利上げが行われるとすれば、
まとめると、2015年の景気は、⑴海外経済の拡
リーマンショックを挟んで米国では2004年6月以
大、⑵原油安、⑶さらなる円安、の3つの要因によ
来約10年ぶりのことになる。実は、現在の米経済
り緩やかな拡大が見込まれる。2015年度の経済成長
は、この2004年6月前後の状況によく似ている。例
率は1.8%(実質GDP)と、2014年度のマイナス成
えば、2004年前半は、消費者物価(除く食品・エネ
長(見通し:▲0.7%)からプラス成長に転じるだ
ルギー)の前年比が1.1%増から1.9%増へと伸びた
ろう。
時期である(2014年10月は前年比1.9%増)
。完全失
業率は2004年前半に5.8%から5.5%へと低下してい
米経済の正念場
次に、2015年度の景気を引っ張る要因、すなわ
ち海外経済の動向についてみてみたい。
米経済は、次第に雇用面で強い数字が目立つよ
る(2014年11月は5.8%)。当時は、労働需給が逼迫
し て イ ン フ レ 懸 念 が 表 れ 始 め た タ イ ミ ン グ で、
1.00%の政策金利は低すぎるということで、予防的
な引き締めに動いた。
’
15.1
35
翻って、現在の米国はインフレ懸念こそ表れな
先行きを考えることもできる。
いが、景気拡大ペースが早まればどこかでインフレ
2013・2014年の日米株価は、不思議なことに、
懸念は浮上してくるだろう。インフレ懸念が表れる
ダウの水準が天井になるかたちで、日経平均株価が
とすれば、ゼロ金利解除を急いでもおかしくはな
上昇しても、その水準を抜けなかった(図表3)。
い。すでに、2014年10月に、FRBは量的緩和第三弾
この期間に、3回ほど日経平均株価がダウを上回り
(QE3)を終了させている。これは、長く続いた超
そうな勢いで上昇したが、3度とも継続的には上回
金融緩和の局面を中立的に戻そうとしている行動
ることはできなかった。日本の株価は、米株価など
にみえる。可能性としては、2015年6・7月という
海外金融市場の影響を強く受けながら変動すると
タイミングが、利上げの時期になろう。その頃にな
みられる。
ると、FRBはどこまで政策金利を上げそうなのかと
いう話題が台頭して、長期金利もそれに反応してく
ると考えられる。
反面、現時点では、こうした利上げ観測に対し
て、FRBはまだ引き締めには慎重だという見方も根
円 / ドル
18,000
(図表3)日米株価の推移
17,000
16,000
15,000
14,000
13,000
12,000
11,000
を示す「期待インフレ率」
(=名目長期金利−物価
10,000
連動債利回り)は、原油下落を受けるかたちで、
2014年8月以降は低下傾向を辿っている。筆者の予
NY ダウ
日経平均株価
2014/12/15
ような格好にはなっていない。また、インフレ予想
2013/12/23
エネルギー価格の上昇がインフレ予想を刺激する
2013/1/1
強い。今は原油市況が異様なほどに下がっていて、
出所:日経 QUICK
想では、原油下落は新興国経済などの刺激効果を持
つので、世界経済が2015年前半のどこかで拡大ペー
もうひとつ、日本の株価と密接な関係にある為
スを上げてくれば、原油市況も反転上昇して、間接
替レートについても展望を述べておきたい。2014年
的に米経済のインフレ予想を高めるのではないか
の為替相場は、10月31日の日銀の追加緩和によって
と考えられる。
劇的な円安が起こった。この緩和の前後で、1ドル
この米利上げが実体経済に対し過度にマイナス
109円 か ら115円 ま で 6 円 も の 円 安 が 一 気 に 進 ん
の影響を及ぼさなければ、2015年の米経済成長率は
だ。ただ、仔細にみると、日銀の追加緩和の直前に
2.9%(実質GDP)と、ここ数年でも高い成長率に
FRBがQE3を縮小させるという行動があった。米
なると予想できる。米経済は、雇用拡大を背景にし
国では、金融緩和の解除というドル高要因があり、
て消費の勢いが強まってきている。そう簡単に景気
その反対側で日銀は円安要因となる追加緩和をぶ
腰折れが警戒されるようにはならないはずだ。2004
つけてきたということである。ドル円レートが9月
年の利上げのときは、それまでの株価上昇のペース
以降に円安に動かされたのは、米経済好調と米金融
は鈍化してしまった。最近の米株価は上昇基調が強
緩和の解除というドル高要因にシンクロして、日銀
いだけに、マネタリーな環境変化に対して敏感に動
が円安を後押ししたことが大きいとみられる。
く可能性がある点で注意したい。
この流れは、米利上げが2015年央に行われるま
では、ドル高観測を強めて、さらにドル高円安を推
マーケット動向の見通し
日本の株価については、米株価との対応関係で
し進めると予想する。ドル円レートの想定レンジ
は、2015年内は1ドル115 ∼ 130円という幅広いレ
’
15.1
36
ンジになるだろう。最も円安が進みやすいのは、米
法人企業統計の調査対象は、資本金1千万円以
利上げの直前から直後という予想である。いずれに
上と、毎月勤労統計の事業所規模5人以上の範囲よ
しても、2015年前半から年央には円安が進みやす
りもカバレッジは狭いという相違はあるものの、月
く、利上げが開始されてからは逆にドル高が進みに
例給与の伸びは毎月勤労統計と重なっている部分
くくなるのではないかと考える。それは、年前半こ
は大きいと考えられる。つまり、法人企業統計の結
そ原油安の恩恵が、インフレ懸念を抑えてくれる
果は、毎月勤労統計と一致させて考えても問題はな
が、世界経済の拡大を背景に原油価格が上昇してく
さそうだ。
れば、それが米経済の成長支援になりにくく、かつ
次に、筆者の問題意識に基づいて、企業財務の
インフレ懸念を刺激することになるからだ。2015年
分析を進めてみたい。巷間、企業がキャッシュを貯
後半は、原油価格の上昇が進んで、利上げ予想がよ
めこんでいると言われ、そうした部分は賃金に分配
り強まって、ドル高は進みにくくなり、円安の動き
してしかるべきだという意見を聞く。反対に、あま
も一服するのではないかとみている。
り過度に賃上げをすると、今度は固定費負担を増や
し、企業収益の圧迫要因になると危惧する声もあ
再び賃上げに挑戦
視点をマーケットから再び実体経済に戻し、内
る。この相反する見解のいずれが正しいのだろう
か。
需動向をみていきたい。
法人企業統計を使って、労働分配率を計算する
2014年は、消費税増税が行われるタイミングに
と、61.9%(2013年10月∼ 2014年9月)と、2007年
合わせて、賃上げを進めようという機運が高まっ
に並ぶほどの低位まで下がっている(図表4)。さ
た。政府は、経団連と連合を交えた政労使会議を開
らに、企業の採算ラインを示す損益分岐点売上高比
催して、賃上げを促すこととなった。春闘では、定
率でみると、75.3%と遡及可能な1956年以降で過去
期昇給を含めて、2.07%の賃上げが実現した(定期
最低になっている。企業の収益体質の改善は、賃上
昇給を除き0.38%=ベースアップ率)。現金給与総
げを行った後でもさらに進んでいるということに
額は、4∼6月は前年比0.8%増、7∼9月は同1.5%
なる。2014年度の賃上げによって、企業の収益体質
増と、プラス幅を徐々に拡大させることになった。
が悪化したという見方は誤っていると考えられ
常用雇用者(フルタイム労働者)を対象としたデー
る。また、今後も2014年度以上に賃上げを推し進め
タでは、所定内給与の伸び率はおおむね前年比0.4%
る余地はありそうだ。
のプラスになっていて、奇しくも春闘交渉における
ベースアップ率とほぼ一致している。
次に、企業側の財務データから賃金動向を確認
(%)
73
(図表4)企業の労働分配率の推移
4 四半期移動平均
71
69
67
は、2014年度上期は前年同期比0.7%である。この
65
数字の中には役員報酬や福利厚生費が含まれてお
63
り、かつ従業員数の変化の影響も受ける。それらを
61
除去して1人当たりの従業員の給与水準を計算す
59
与の増加(同0.7%増)が残り半分という構成であっ
2014.1
55
スの増加(前年比4.4%増)の寄与が半分、月例給
2010.1
57
2000.1
ると、前年比1.2%となっていた。ここではボーナ
労働分配率=人件費/(経常利益+人件費+減価償却費
+支払利息等)
1990.1
してみよう。法人企業統計では、総人件費の伸び率
出所:財務省「法人企業統計」
た。
’
15.1
37
では、2015年度について、どのくらいの賃上げ、
プッシュ要因で肩代わりさせて、物価上昇率を高め
ベースアップが進むと予想されるのだろうか。連合
ようとしているに過ぎないとみている。本当に肩代
が、2014年10月に示した2015年春闘方針では、定期
わりをすべきなのは、需要牽引力のはずである。つ
昇給相当額と賃上げ額を加えて4%以上を目指す
まり、日銀の政策の枠外のところで、自律的景気拡
としている(賃上げ・ベースアップ分だけで2%)
。
大のメカニズムが依然として弱いという構造問題
2014年春闘方針は、ベースアップ1%以上を掲げ
を日本経済は引きずっているように思える。この点
て、0.38%の実績になった。この経験則を2015年度
は、アベノミクス全体が抱えている限界であり、深
春闘に当てはめると、2%以上のベースアップ目標
刻な問題でもある。
に対して0.76%という図式になる。民間エコノミス
2015年の物価動向は、原油価格が下押し要因に
トが予想する2015年度の毎月勤労統計ベースの所
なる一方で、円安による輸入物価の上昇が進み、食
定内給与の伸び率は0.7%(2014年度0.4%)という
料品、日用品・雑貨、通信機器などは値上がりする
結果である(2014年12月の日本経済研究センター
品目が増えるであろう。消費者は、こうした生活コ
「ESPフォーキャスト調査」
)。
ストの上昇に対して、短期的には安い品目への購買
筆者も、2015年度の賃金は、所定内給与の伸び
シフトを行いながら生活防衛を図るとみられる。そ
が0.7 ∼ 1.0%、賞与を併せると1.9 ∼ 2.4%の伸び率
のため、小売・卸売業者は、値上げがなかなか難し
になると予想している(2014年度上期は1.1%)。
いと考えて、円安を歓迎しない意思を表明すること
が多くなるだろう。
物価・消費と金融政策
こうした消費の状況が続く限りにおいては、日
これまで日本経済は長期デフレに苦しんできた
銀が望んでいる自律的景気拡大による安定的な物
が、2013年央から消費者物価はプラスに転じ、デフ
価上昇は達成できないだろう。筆者も、2015年中に
レ脱却の機運が高まった。2014年は消費税増税も
すべての企業が、価格転嫁に対して免疫力を持つこ
あって、3%以上のプラス幅になった。物価上昇率
とは難しいとみている。円安によるコストプッシュ
は、消費税要因を除いても、1%前後まで上がって
圧力が高まりにくい体質が変わらずに、消費者物価
いる。
が1%を下回るような状況になると、日銀はまた追
ただし、この物価上昇は、円安に伴う輸入イン
加緩和を余儀なくされるだろう。2015年10月以降に
フレの部分が大きく、旺盛な家計消費を背景にした
前年の円安効果が剥落して、物価上昇率が低下して
需要牽引型インフレではない。賃金が上昇して、消
くると、日銀は次の追加緩和をするのではないかと
費マインドが強気になってこそ、継続的に物価が上
予想している。
昇していく世界になる。2015年もまた「物価上昇の
質」が問題になるだろう。
そうした中、日本銀行の黒田総裁は、2014年10
月末に追加緩和を決定した。黒田総裁は、原油下落
財政運営は厳しくなる
最後に、やや長期的な日本の財政運営について
言及して締めくくりたい。
の影響で、消費税要因を除いた消費者物価上昇率が
安倍首相は、2014年11月18日に突然、衆議院解
1%割れする状況が継続しそうなので、再度の金融
散を宣言した。理由は、消費税再増税の先送りにつ
緩和で円安を促して、1%以上に物価上昇率を高め
いて、国民に信を問うということらしい。景気低迷
るのが狙いだったと説明している。
により、2015年10月に予定していた増税を先送りせ
しかし、筆者は、日銀が原油要因というコスト
プッシュ圧力を単に円安要因という別のコスト
ざるを得ず、もしも増税を予定通りに実施すれば景
気失速のリスクが高まるという説明である。
’
15.1
38
筆者は、その代償はさらなる財政悪化だとみて
のはテクニカルな数字の帳尻合わせよりも、財政健
いる。2015年10月の再増税を見合いに、社会保障関
全化に対する規律の低下が警戒されることである。
係費などの歳出増加が予定されていた。すでに、子
(図表5)国・地方の基礎的財政赤字の
対GDP比の予想
育て支援などは2015年度予算に盛り込まれると報
道されている。もしも、歳入拡大ができないのに、
0
予定通りに歳出増加が実施されれば、財政赤字の拡
-1
大を引き起こす。
-2
エコノミストの中には、自然増収によって税収
消費税増税の 18 か月先送り、
2014 年度の税収上振れ
2014 年度補正予算、
2015 年度以降の
子育て支援予算増を織り込んだ。
-2.2
-2.4
-1.3
-1.1
-1.1
-1.9
-3.2
-3
-2.7
上振れが見込まれるので、2015年度に財政収支が下
方修正される範囲は限定的だという見方を語る者
-1.3
-1.8
-3.3
-4
-3.4
当初計画
-4.8
修正後計画
も少なくない。しかし、過去の政権運営では、税収
-5
増加は時々の景気対策に回されて、財政収支を改善
-6
させる方向には振り向けられてこなかった。
<経済再生シナリオ>
-5.1
2014 年度
15
16
17
18
19
20
注:内閣府資料を用いて、第一生命経済研究所が試算。
政府は、中長期の財政再建計画を立て、2020年
度に基礎的財政収支の黒字化、2015年度に基礎的財
今になって思うと、10月31日に日本銀行が追加
政収支の赤字幅半減を公約している。多くのエコノ
緩和を行ったことが、政府の財政運営に油断を与え
ミストは、2015年度の赤字半減は消費税再増税を先
たかもしれない。日銀の黒田総裁は、消費税増税を
送りしても実現できると語っている。しかし、これ
政府が決断しやすいように、追加緩和によって景気
は本当だろうか。筆者の試算では、2016・17年度の
刺激を強化して来る増税に備える一手を打った。し
基礎的財政収支は赤字幅がより増えてしまう(図表
かし、安倍政権は消費税増税を決断せず、財政再建
5)。また、2015年度内に景気対策のための大型補
の進捗が足踏みすることになった。日銀が長期国債
正予算を組むと、予定されているよりも財政収支は
の購入額を増やすことが、長期金利を安定させる安
悪化する。2015年度は法人税減税が開始される年で
心材料になったばかりではなく、多少財政収支が悪
もある。自然増収をあまりに当てにしすぎると、で
化しても、債券市場が持ちこたえられるだろうとい
きるはずの2015年度の赤字半減さえ手が届かなく
う楽観を生み出した可能性がある。安倍政権には、
なってしまう。要するに、消費税再増税の先送り
今後そうした悲観的な見方が要らぬ気苦労だった
は、政府が財政再建を是が非でも達成しようという
と思わせるような節度ある財政運営を示して欲し
意欲を低下させ、計画の進捗を脅かす。今、重要な
い。
’
15.1
39